フュージョンの代表作品として
今もなお輝くジョージ・ベンソンの
『ブリージン』

『Breezin'』(’76)/George Benson
ジャズロックとソウルジャズ
アメリカでも60年代にジャズのアーティストたちがブルースやゴスペル、R&B等に影響された泥臭い音楽を演奏するようになり、その代表格がグラント・グリーン、ジミー・スミス、ヤング・ホルト・アンリミテッドらで、ソウルジャズと呼ばれた。ファンキージャズとソウルジャズが一緒だとする記述を時々見かけるが、実は微妙に違う。キャノンボール・アダレーやドナルド・バード、ラムゼイ・ルイスの音楽はファンキージャズで、シャーリー・スコット、ジャック・マクダフ、ビッグ・ジョン・パットンらはソウルジャズである。
イージーリスニング・ジャズ
フュージョンの直系の先祖と言えば、ジャズギターの巨人として知られるウェス・モンゴメリーが66年にリリースした『カリフォルニア・ドリーミング』だろう。このアルバムでは白人ポップスグループのママス&パパスのヒット曲をジャズにアレンジしていて、このアルバム以降ウェスはビートルズナンバーやトラッドなどを手がけ商業的にも成功するのだが、1968年に45歳の若さで急死し、イージーリスニングジャズはこの時点ではまだムード音楽から脱することができずにいた。
ウェスの路線を踏襲した
ジョージ・ベンソンの戦略
プロデューサーは、この後フュージョンの代表的レーベルとなる CTIを創ったクリード・テイラー。テイラーは前述したウェスの『カリフォルニア・ドリーミング』のプロデューサーでもあり、ウェスが録音する予定だったアルバムを、急死したウェスの代役としてベンソンを起用するなど、ベンソンを認めていたのだ。ただ、『The Other Side of Abbey Road』は大袈裟なストリングスアレンジや軽過ぎるサウンドプロデュースが目立ち、イージーリスニング以上でも以下でもないロックスピリットの感じられない作品であることも確かであった。
そんなベンソンに転機が訪れたのは75年のこと。当時ブルーサムレコードのオーナーであり、ベン・シドラン、クルセイダーズ、ポインター・シスターズ、ニック・デカロなど、洗練されたAOR作品をいくつも手がけてきた優れたプロデューサーのトミー・リプーマとの出会いである。リプーマはワーナーブラザーズにプロデューサーとして呼ばれ、同じくワーナーに移籍したばかりのベンソンと運命的な出会いを果たす。そして、ベンソンの新作を手がけることになるのである。
本作『ブリージン』について
1曲目の「ブリージン」はソウルシンガーでギタリストのボビー・ウーマックが書いたインスト曲。アルバムを印象付けるような決定的なナンバーで、ベースとドラムのキレの良さはすごいのひと言。ゆったりとしたテンポとゴージャスなストリングスが都会的だ。当時、この曲のライヴ演奏をテレビで観た(昔はインターネットがないので…)のだが、ベースのスタンリー・バンクスがベースを弾きながら足でタンバリンを軽々と演奏していたのには驚いた。
2曲目のレオン・ラッセル作「マスカレード」は、ベンソンの二刀流が世界中に知れ渡ったナンバー。途中のスキャットに合わせたギターソロは真似をするミュージシャンが激増し、その多くが平均点以下で失笑を買っていたが、本家はさすがに文句なしの職人技を聴かせてくれる。
上記2曲以外(収録曲は6曲)も秀作揃いで、個人的には後半の3曲が大好きである。バックミュージシャン、プロデューサー、エンジニア、アレンジ等、本作に関わった面子が才能豊かなアーティストたちだけに、本作が後世に残る名作となったことは間違いないが、やはり主役はジョージ・ベンソンなわけで、彼の職人技は今後何年経とうが色褪せることはないだろう。エイトビートのリズムにジャズギターを乗せるという難しいことをサラッとやってのけた彼の功績は計り知れない。
もし、ジョージ・ベンソンを聴いたことがないなら、入門としては本作『ブリージン』が最適だと思う。この機会にぜひ聴いてみてください。
TEXT:河崎直人