竹内まりやが
アルバムアーティストとしての
ポジションを確立した
『LOVE SONGS』

巧みな構成のアルバムらしい容姿

その「SEPTEMBER」と、それに続くシングル「不思議なピーチパイ」が収録されたアルバムが『LOVE SONGS』である。「不思議なピーチパイ」は化粧品のCMソングとして使用され、自身初のチャートトップ10入り。そんなシングルヒットも確実に後押ししたのだろう。『LOVE SONGS』はこれまた自身初のチャート1位を獲得した。直近のスタッフはシングル向きの曲を忌避していたようだが、シングルヒットがアルバムのセールスにもつながったのだから、賞獲りレースへの参戦もあながち間違った判断ではなかったということだろうか。

ただ、ヒットシングルが出たからといって、スタッフは(おそらく彼女自身も)アルバムアーティストとしてのスタイルを変えようとしなかった。今『LOVE SONGS』を改めて聴いてみると、その意固地とすら思える姿勢には可愛らしさを感じるところでもある。今も昔もヒットシングルはアルバムの頭といった不文律があると思うが、本作は「SEPTEMBER」も「不思議なピーチパイ」も後半に置いている。しかも、M9「SEPTEMBER」とM10「不思議なピーチパイ」とを短い曲間でつなぎ、M9の冒頭に“m-a-r-i-y-a Mariya's Hits Parade”というジングルを入れて、2曲のシングルを別枠扱いにしている。聴く人によっては、この2曲に向けてアルバムが進んでいくようにも思えるし、両曲がボーナストラックのようにも思える、とても巧みな構成と言える。しかも、その2曲でアルバムを終えるのではなく、締め括りはM11「little lullaby」というブラックミュージックテイスト溢れるバラード。M11「little lullaby」はオープニング曲のM1「FLY AWAY」同様オール英語詞で、英語詞のM1「FLY AWAY」、M11「little lullaby」で他の9曲が包まれている構造も、玄人の仕事といった印象を強くする。また、冒頭にシングル曲は置かれていないと指摘したが、シングルを置く定番の位置であるM2には「不思議なピーチパイ」のB面「さよならの夜明け」を持ってきている辺りも心憎い。“よく分かってるなぁ”という感じである。

手慣れた作家陣と共に創り上げた3rd

収録曲を手掛けた顔触れをみても、1st、2ndとそのスタンスが変わっていなかったことがよく分かる。彼女がアマチュア時代に参加していたバンドのリーダーであった杉真理(M3「磁気嵐」)。前述した通り、彼女のデビュー時からアルバム制作に参加しているコンポーザーの林哲司(M4「象牙海岸」)。学生時代、竹内まりや杉真理と同じサークルで活動していた安部恭弘(M5「五線紙」)。それまで彼女を支えてきた作家陣は健在だ。M10「不思議なピーチパイ」の安井かずみ(作詞)&加藤和彦(作曲)のご夫婦にしても、デビューシングル「戻っておいで・私の時間」を手掛けたコンビなので、シングルヒットを狙ってどこかから流行作家を引っ張ってきたわけじゃないし、M6「LONELY WIND」を手掛けた濱田金吾にしても、彼女が得意なロッカバラードを書けるということでの起用だったのだろう。いずれにしても、決して奇を衒うことなく、竹内まりやという素材を最大限に活かせるコンポーザーを配していた。もちろん、今や公私にわたるパートナーとなっている山下達郎の存在感も忘れてはならない。

中でも白眉はM4「象牙海岸」だと思う。間奏のストリングスの壮大さに若干時代を感じなくもないが、このメロディーはどこからどう聴いても竹内まりやでしかない印象だ。1980年発売ということは、制作はおそらく1979年。今から凡そ40年前ということになるが、タイプこそ違うものの、のちに発表された彼女の代表曲「シングル・アゲイン」や「純愛ラプソディ」、「駅」に勝るとも劣らない、ツボを押さえた見事な旋律と言える。竹内まりやのベースはここで作られたのではないかと考えてしまうほど堂に入っているメロディーラインである。

かと思えば、M7「恋の終わりに」ではソウルテイストがありつつもわりとハードなロックを提示したり、M8「待っているわ」ではルーツミュージック色の濃いブルージーなサウンドを露呈したりと、竹内まりや自身が作詞作曲を手掛けた楽曲はあまり彼女のイメージにないナンバーであったりするのも面白い。この辺はアルバムならではチャレンジではあったのだろうし、他の曲で強力コンポーザー陣のバックアップがあればこそのことでもあったのだろう。それもまた竹内まりやがシングル向けのアーティストでないことを示す材料でもあったと思う。

OKMusic編集部

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