スザンヌ・ヴェガの
ジャーナリスティックな
視点が光る『孤独(ひとり)』

生誕100周年のピート・シーガー

余談だが、ピート・シーガーのことについて少し触れておく。アメリカのフォーク・リバイバル・ムーブメントで、多くのアーティストにルーツ音楽の大切さを説いたピート・シーガー。今年は、彼の生誕100周年(1919年5月3日生まれ)にあたる。5月3日には日本でも『ピート・シーガー生誕100年祭』が開催されるなど、ポピュラー音楽界に残した彼の偉大な業績は未だに語り継がれている。シーガーは貧困や人種差別問題、反戦といった社会的なテーマを歌にするプロテストシンガーとしてデビューし、ボブ・ディランをはじめ、ザ・バーズ、ブルース・スプリングスティーンなど、フォークだけでなくロックにも多くのフォロワーが存在するアメリカンミュージックの重鎮だ。彼の「花はどこへ行った?」や「天使のハンマー」は日本でもよく知られている名曲である。

本作『孤独(ひとり)』について

1987年、前作のヒットを受けてプレッシャーもあったはずだが、期待を上回る仕上がりの本作『孤独(ひとり)』をリリースした。今でもこの作品は彼女の代表作であり、世界中で愛されるアルバムである。プロデュースは前作に続き、スティーブ・アダボとレニー・ケイのコンビが担当、冷たささえ感じられる彼女の淡々とした歌声を、今回も巧く引き出すことに成功している。

前作同様、本作はイギリスで大ヒット、全英チャートでは2位になっている。全米チャートでも11位となり、文句なしのヒット作となった。内容はもちろん良い。収録曲は全部で11曲、デビュー前の『ファスト・フォーク』時代に書かれた曲が多い。冒頭の印象的な「Tom’s Diner」の初出『ファスト・フォーク』の記念すべき1巻1号(1984年発行)で取り上げられている。この曲も「Luka」と並ぶ彼女の代表曲で、カバーが多い。彼女の最大のヒット曲で代表曲の「ルカ」はシンセも加えたポップなナンバーに仕上げてはいるのだが、歌われているのはショッキングな幼児虐待の内容で、彼女がジャーナリスティックな視点を持っていることがよく分かる。「Gypsy」は彼女が18歳の時に書いたもの。「Night Vision」と「Calypso」はどちらも文学についての解釈である。他にもダウンタウンの街の様子を歌ったものや他人とのコミュニケーションの困難さについてなど、誰しもが日常で感じている身近な題材を文学的な表現で歌っている。

今聴くと、本作で使われているシンセの音にチープさを感じるのは確かだが、そんなことが気にならないぐらい彼女の存在感のある歌声に引き込まれる。もし彼女に音楽を聴いたことがなければ、これを機会に聴いてみてください。きっと新しい発見があると思うよ♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Solitude Standing』1987年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. トムズ・ダイナー/TOM'S DINER
    • 2. ルカ/LUKA
    • 3. 鉄の街/IRON BOUND / FANCY POULTRY
    • 4. 瞳/IN THE EYE
    • 5. 夜の影/NIGHT VISION
    • 6. 孤独(ひとり)/SOLITUDE STANDING
    • 7. カリプソ/CALYPSO
    • 8. ことば/LANGUAGE
    • 9. ジプシー/GYPSY
    • 10.木の馬/WOODEN HORSE (CASPER HAUSER'S SONG)
    • 11. トムズ・ダイナー(リプリーズ)/TOM'S DINER (REPRISE)
『Solitude Standing』(’87)/Suzanne Vega

OKMusic編集部

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