リミックス制作の先駆者として
知られる才人・ニルソンの
傑作『空中バレー』

ニルソンのデビュー

彼の2枚目のアルバムでRCAでのデビュー作『パンディモ二アム・シャドウ・ショウ』は、67年の末にリリースされた。この作品ではすでにヴォーカルの一人多重録音や緻密なソングライティングが見られ、一般には売れなかったがポピュラー音楽業界ではかなりの注目を集めることになる。収録曲の「ウィズアウト・ハー」はBS&Tやハープ・アルバートに、「1941」はビリー・J・クレイマーにカバーされるなど、ソングライターとしての彼の才能は広く認められた。中でもビートルズのカバー「ユー・キャント・ドゥ・ザッツ」では、ビートルズのさまざまな曲のフレーズがコラージュ的に盛り込まれており、一人多重録音は斬新で素晴らしい成果を生んだ。このアルバムを聴いたジョン・レノンは感激し、わざわざニルソンに国際電話で自身の気持ちを伝えている。この後、ビートルズのメンバーとの交友関係が始まり、ビートルズ解散後もジョンとリンゴのソロアルバムにニルソンは参加するなど、関係は続いていく。また、この時期になってようやく銀行を辞め、ミュージシャンの仕事に専念するようになる。

本作『空中バレー』について

68年には3作目となる本作『空中バレー』をリリースし、ニルソンの名前が世界中で知られることになる。まず、60年代のロック界でリーダー的役割を果たしたアル・クーパーがデビューソロアルバム『アイ・スタンド・アローン』で本作に収録された「ワン」をカバー、翌年の69年にはスリー・ドッグ・ナイトも「ワン」をカバーし、シングルカットすると全米5位の大ヒットとなる。しかし、話はこれだけでは終わらない。本作に収録された「うわさの男」(フォークシンガー、フレッド・ニールのカバー)がアメリカン・ニューシネマの秀作『真夜中のカウボーイ』(ジョン・シュレシンジャー監督作品で、アカデミー賞で3つの賞を受賞、日本でも大ヒットした)に起用され、これが全米6位の大ヒットとなる。グラミー賞の最優秀男性ヴォーカルにも選ばれ、ニルソンは「ワン」ではソングライターとして、「うわさの男」ではシンガーとして認められる結果となった。

この2曲だけでなく、本作に収録された楽曲の13曲はどれも高水準で、スタンダード的な雰囲気のものやノスタルジックなものを中心に、どこかブリティッシュポップスの香りも感じさせる。ソングライティングとヴォーカルの両面でニルソンの才人ぶりがよく分かる傑作だと思う。バックを務めるのはロック寄りのミュージシャンも多く、ドラムにはジム・ゴードン(デレク&ザ・ドミノスなど)、キーボードにはラリー・ネクテル(後にブレッド)、サックスにはジム・ホーン(レオン・ラッセル、ジョー・コッカー、ジョージ・ハリソンらのバックで知られる)、ギターにデニス・バディマー(著名なセッション・ミュージシャン)ら、名手たちばかりである。

ニルソンと言えば7thアルバム『ニルソン・シュミルソン』に収められた「ウィズアウト・ユー」(71年リリース。米、英、オーストラリア、カナダなどでチャート1位)が最もよく知られているが、僕はノスタルジックかつ実験的なサウンドで勝負していた初期のニルソンこそが彼の真骨頂だと考えているので、本作『空中バレー』、4作目の『ハリー』(‘69)、5作目の『ニルソン・シングス・ランディ・ニューマン』(’70)あたりがお薦め作品となる。

なお、6作目のアルバム『エアリアル・パンディモニアム・バレー』(‘71)は、『パンディモ二アム・シャドウ・ショウ』と『空中バレー』の2枚のアルバムを再構成し新たにミックスし直した作品で、世界最初期のリミックス作品だと言える。

余談であるが、エアロスミスというグループ名は、ドラマーのジョーイ・クレイマーが本作を聴きながら思いついたそうだ。

TEXT:河崎直人

アルバム『Aerial Ballet』1968年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ダディズ・ソング/Daddy's Song
    • 2. 古い机/Good Old Desk
    • 3. ドント・リーヴ・ミー/Don't Leave Me
    • 4. リッチランド氏の好きな歌/Mr. Richland's Favorite Song
    • 5. リトル・カウボーイ/Little Cowboy
    • 6. トゥゲザー/Together
    • 7. うわさの男/Everybody's Talkin'
    • 8. グッドバイ・トゥ・ミー/I Said Goodbye to Me
    • 9. リトル・カウボーイ/Little Cowboy (Reprise)
    • 10. ミスター・ティンカー/Mr. Tinker
    • 11. ワン/One
    • 12. 柳の嘆き/The Wailing of the Willow
    • 13. バス/Bath
    • 〜ボーナス・トラック〜
    • 14. シスター・マリー/Sister Marie
    • 15. ミス・バターズの嘆き/Miss Butter's Lament
    • 16. ガールフレンド/Girlfriend
『Aerial Ballet』(‘68)/Nilsson

OKMusic編集部

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