アメリカの日常を骨太に表現する
ナンシー・グリフィスの
グラミー賞受賞作『遠い声』

ナンシー・グリフィスのデビュー

1953年生まれのナンシー・グリフィスはテキサス州オースティンで育つ。小さい時から音楽に親しみ、14歳頃から近所のコーヒーハウスでライヴ活動を行なっている。フォークリバイバルの洗礼を受けているので、基本的にはフォークやカントリーの影響を受けているが、文学(特にアメリカ南部の文学)や演劇も好きで、そのことが彼女の音楽を特徴あるものにしている。大学卒業後は幼稚園で教師をしていたが、78年にウルフと同じく自主制作盤『There's a Light Beyond These Woods』でデビューし、当初からツアーやフェスに参加するなど積極的な活動を行なっている。曲を書き溜めて、4年後に2ndアルバム『Poet in My Window』(’82)をリリースすると、フォーク系専門のインディーズレーベルとして知られるフィロレコードから声がかかり契約することになる。

メジャーでの成功と葛藤

フィロレコードはもっと大きいルーツ系レーベルのラウンダーレコードから全米配給されていたから、3rdアルバム『Once in a Very Blue Moon』(’84)をリリースすると、その独特のヴォーカルと内省的かつ文学的な楽曲が評価され、グリフィスの名前は徐々に広まっていく。このアルバムは彼女の資質からすると少しポップな仕上がりではあったが、歌はもちろんオリジナル曲の出来映えも素晴らしい。続く『The Last of the True Believers』(’86)は前作よりも一段とスケールアップした内容となり、初期の代表作と言える作品となった。人気カントリーシンガーのキャシー・マテアが「Love at the Five and Dime」をカバーし、全米カントリーチャートで3位を獲得するなど、このアルバムはグラミー賞にノミネートされる結果となる。このアルバムは業界でも認められ、メジャレーベルのMCAレコードと契約が決まり、彼女はオースティンからカントリーのメッカであるナッシュビルへと移住している。

翌年にリリースされたメジャーデビュー作の『Lone Star State of Mind』(’87)では、3曲のシングルヒットを生む。収録曲の「From a Distance」(ジュリー・ゴールド作)はベット・ミドラーがカバーして全米1位を獲得するなど話題を呼び、大きなセールスとなった(全米カントリーチャート23位)。グリフィス本人は自分の音楽を“フォーカビリー”(フォーク+ヒルビリー:今で言う“アメリカーナ”)と名付けていたのだが、明らかにこのアルバムはナッシュビル産のカントリーであった(もちろん彼女の個性は生かされていたのだが)。

周囲からも彼女はカントリーシンガーとして受け止められていたはずで、皮肉なことに売れるもの以外はダメというナッシュビル的(=商業主義的)な方法論に巻き込まれていく。以降、MCAから『Little Love Affairs』(’88)、『One Fair Summer Evening(Live)』(’88)、『Storms』(’89)、『Late Night Grande Hotel』(’91)など秀作を次々にリリースし、他のアーティストにヒット曲も提供するなど、彼女はナッシュビルでスターとなっていくわけだが、フィロレコード時代のサウンドを愛するファンからすると、ナッシュビル産カントリーは彼女の本来の音楽的資質とは明らかに合わないと感じていた。

おそらく、MCAに所属していたどこかの時点で、彼女自身も自分の立ち位置に違和感を覚えたのだろう。ある日、友人のカントリーロックシンガー、エミルー・ハリスとグリフィスは、亡くなったケイト・ウルフの曲を歌い継いでいくべきだと考え、トリビュートアルバムを作ろうと話し合うのだが、いつの間にか話は大きくなり、ケイト・ウルフだけでなく、何名かの歌い継ぐべきシンガーの曲を取り上げる企画になった。そうすると、いつの間にか大きく変わってしまった自分の音楽の軌道修正をすべきだと考えるようになる。結局、MCAとの再契約はせず、シンガーソングライター系の音楽のことをよく知っているエレクトラレーベルに移籍する。

OKMusic編集部

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