『音楽は素晴らしいものだ』で確信!
キンモクセイは素晴らしいバンドだ!

あふれ出ている先達へのオマージュ

M4「ゆびわ (newrecordings)」以下は先達へのリスペクトのオンパレードだ。特にM5「七色の風」とM7「追い風マークII」は、それと分かるようにオマージュが出現している。アルバムに先行して3rdシングルとしてリリースされたM5「七色の風」は明らかな大瀧詠一オマージュ。滑るように滑らかに奏でられるストリングス。Bメロのカスタネット。ウォール・オブ・サウンド。山下達郎っぽい感じも、松田聖子の「風立ちぬ」っぽい感じもあるし、Cメロは笑っちゃうくらいナイアガラである。全体的なベースラインやアウトロ近くのギターの音色にどこかいなたい印象があるけれども、これもメンバーがリスナーとして聴いてきたポップスへの愛情を示しているのだろう。ちなみに「七色の風」のシングルリリース時に[少数配布されたプロモーションCDのジャケットは大滝詠一の『A LONG VACATION』のパロディーになっていたほか、同じく特典で配布されたステッカーは『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』のパロディーとなっていた]そうである([]はWikipediaからの引用)。M7「追い風マークII」はそのサウンドもメロディーもモロにフォーキーで、タイトルの“マークII”からすると吉田拓郎リスペクトであることが分かる。《友よ北へ向かえ》なんて歌詞はいかも70年代フォークシンガーが好んで使っていそうなフレーズだし、スキャットの部分もそうである。「追い風マークII」は「七色の風」のC/Wだったということは、キンモクセイがこれらを完全な確信犯としてやっていたことは間違いないけれども、ここまで徹底してやられると清々しさを感じるほどである。また、M4「ゆびわ (newrecordings)」やM6「しあわせ」辺りはThe Beatlesの匂いもするし、彼ら自身も楽しみながら楽曲を制作したことがうかがえるところである。

M8「僕の行方 (ストリングスは素晴らしいものだVersion)」はアコギのストロークが引っ張るフォークロックでありつつ、ソウルなテイストも感じさせる楽曲。サビのメロディーも力強く、これだけでも十分に推進力があるが、確かにストリングスが入るとその素晴らしさがよく分かる。M9「密室」はブルージーでありつつもハードロックの匂いもあって、そのギターはCream時代のEric Claptonの感じと言ったらいいだろうか。オルガンの鳴りもとてもいい具合で、バンドとしての度量がさらに分かる印象だ。これらに続くのが、フレンチポップスのようなメロディを持つM10「ぽっかぽか」で、さらにアコギのアンサンブルと歌のハーモニーだけのM11「少年の頃の想い出」と続くことでも、キンモクセイの懐の深さを感じられるところでもあると思う。

フィナーレは4thシングルとしてアルバムと同時発売されたM12「さらば」。シンプルでありつつしっかりとした抑揚がある歌メロは、展開するに従ってレンジも広くなるという、これもまたメロディメーカーとしての確かな資質を感じられるナンバーだ。そこにリズム&ブルース的なブラスを絡めているのも面白い。オルガンソロからギターソロへとつながる間奏では、バンドサウンドの矜持を見出すこともできる。アルバムの最後に「さらば」という題名のナンバーを置くことを洒落てると考えるかベタと考えるかは判断を迷うところだが、リピートする《こんにちは ありがとう さよなら また逢いましょう》を聴いているとテンションがほんのり上がっていくことは間違いない(決して爆上がりではないところがポイントだと思う)。そして、本作全体の聴き応えを振り返り、このアルバムが『音楽は素晴らしいものだ』というタイトルであったことを考えると、“本当にその通りですねぇ”と頷かせてしまうような感じがあるのではないかと思う。多幸感とはまた少し違うのだろうけど、何かいいものを聴かせてもらった…というような気分になる。フィナーレとしてはベストではなかろうか。

煌びやかな時代にマッチしなかった不幸

デビュー作にして文字通り、音楽が素晴らしいものであることを示したキンモクセイではあったが、以降は作品を発売する毎にセールスは下降していった。彼らがデビューした2001年から2002年にかけてシーンを席巻していたのは浜崎あゆみ、宇多田ヒカル、MISIA、倉木麻衣ら、所謂ディーヴァたち。2003年頃からはEXILEも台頭してきたし、2005年の年間トップセールスはORANGE RANGEだった。シーンが煌びやかなエンタテインメント傾向にシフトしていく中、メンバーのキャラクターが極めて個性的というわけでもないキンモクセイがなかなかアドバンテージを見出せなかったことは想像するに難くない。音楽性は雑多ではあるものの、俗に言うミクスチャーロックと比べたら明らかに派手さが薄いことも否めないであろう。スタッフも売り方に苦心したと思う。デュエットソング(8thシングル「二人のムラサキ東京」)も作ったし、カバー曲やカバーアルバム(11thシングル「夢で逢えたら」とアルバム『さくら』)も制作しているが、これらは苦労の跡と見て取れる。筆者は一度だけキンモクセイに取材したことがあって、それは「二人のムラサキ東京」リリース前のことだったのだが、伊藤が“コツコツやっていきたい”というようなことを言っていたことが思い出される。今になって思えばメンバーにもプレッシャーがあったのだろう。最新のインタビューでも活動休止の理由としてそんなことを語っている。冒頭でこのバンドが邦楽シーンのメインストリームに居続けられなかったのは不思議だとは言ったものの、こうして理屈を後付けすれば、それも止む無しであったとも理解できる。なかなか思うようにならない状況下で伊藤は体調を壊したとも聞くから、2008年に活動を止めたことも仕方がなかったのだろう。

以後、2011年の東日本大震災被災地支援コンピレーションアルバム『HOPE nau!』収録曲のレコーディング、2016年の熊本地震支援イベントへの出演を経て、2018年に彼らの地元である相模原市でのライヴを披露。2019年には11年振りにワンマンライヴを開催し、この度5thアルバム『ジャパニーズポップス』を発表して本格的にシーンへと復帰した。メジャーデビュー時とは比べものにならないほどに緩やかなペースだが、それでいいのであろう。“ブレイクしてほしいと願う”と言った筆者の気持ちに嘘はないが、それはあくまでも彼ら自身が楽しんで活動した上でのこと。病んでまで音楽をやる必要はないし、マイペースで末永くいい作品を作り続けてくれることが何よりもいいに決まっている。
■OKMusic:キンモクセイ インタビュー
https://okmusic.jp/news/367487

TEXT:帆苅智之

アルバム『音楽は素晴らしいものだ』2002年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.手の鳴る方へ
    • 2.目隠しの街
    • 3.二人のアカボシ
    • 4.ゆびわ (newrecordings)
    • 5.七色の風
    • 6.しあわせ
    • 7.追い風マークII
    • 8.僕の行方 (ストリングスは素晴らしいものだVersion)
    • 9.密室
    • 10.ぽっかぽか
    • 11.少年の頃の想い出
    • 12.さらば
『音楽は素晴らしいものだ』('02)/キンモクセイ

OKMusic編集部

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