完全再現!ピンク・フロイドのトリビ
ュートバンド、ブリット・フロイド来
日!

トリビュートバンドとは、不思議な存在だ。
欧米では昔から存在し、広くその存在は認知されている。
もちろん、本物ではない。ライブに出かけても、本人たちは出演しない。そのバンドのファンで埋め尽くされた会場では、本家に勝るとも劣らないテクニカルなミュージシャンが驚くような再現をして見せたりする。
まだ日本ではトリビュートバンドなどという存在を知られていなかった30年ほど前に、オーストラリアン・ビートルズをオーストラリアで観た。当時は、トリビュートバンドなどという言葉も一般的ではなく、単なるコピーバンドがライブをするというくらいの気持ちで会場に足を運んだ。
果たしてそのライブは、ビートルズのデビューから解散期までキャリアを順に追っていく、壮大で非常に緻密なパフォーマンスが繰り広げられるものだった。バンドの歴史を忠実になぞるため、ルックスや衣装の変遷も可能な限り再現をし、ビートルズはライブ活動をやめてしまった時期もあるのだが、その時期にもしもライブを行っていたらこうなっていたであろうというパフォーマンスにまでも果敢に挑むというライブだった。もちろん、居合わせたオーディエンスも大盛り上がりで、非常に満足度の高いライブだったことをよく覚えている。
正直、なめていた。そして、そうか!と思った。コピーバンドとトリビュートバンドとの違いを思い知らされた気がした。ありか、なしかといわれたら、大いにありだと思った。
世界各国で行われた公演は1000回を超え、音楽、映像、光の一大スペクタクルショーは200万人以上を魅了するPink Floyd(ピンク・フロイド)のトリビュートバンド、Brit Floyd(ブリット・フロイド)が遂に初来日する。
そう聞かされて、まずそのスケールの大きさに驚きを禁じ得ない。世界で1,000公演以上行い、200万人も動員できるバンドは、そうそういない。もちろんオリジナルのバンドであってもだ。そんなスケールの大きなトリビュートバンド、ブリット・フロイドとは何者なのか、その本家であるピンク・フロイドとはどんな存在だったのかを探りつつ、このブリット・フロイド初来日公演とはここ日本のファンにとってどんな意味を持ちうるのかを、考えてみたい。
ピンク・フロイドとは、言わずと知れたロック史に燦然と輝くモンスター・バンドだ。英国から出てきたプログレッシブ・ロックの先駆けとして知られ、その緻密なサウンドと機知にとんだコンセプトは唯一無二といえる。全世界でのアルバムのトータルの売り上げは2億5,000万枚以上で、歴史的名盤といわれる『The Daerk Side Of The Moon(狂気)』は全米チャートに741週連続でランクインする記録を持つなど、桁違いの成功を収めている。
さらにピンク・フロイドは、ライブの上でも語るべき要素が多い。まず、一目見ればピンク・フロイドだとわかる代表的な存在として円形のスクリーンがある。レーザーの照明が周囲に埋め込まれたこの円形スクリーンは、各楽曲が持つ世界観を示す映像を驚異的なスケールで映し出し、彼らのその芸術的且つ先進的な世界観を創り上げることに成功している。
そして、ライティングとレーザーによる壮大な演出も、映像と相まって唯一無二のライブを創り上げる要素となっている。
また、緻密なコンセプトによって編み上げられているアルバムの世界観をひも解く際にヒントともなりうる多くのアイコンがあるのもピンク・フロイドのライブの特徴の一つだ。アルバム『The Wall(ザ・ウォール)」なら、ヒットラーを思わせる軍服、思想をコントロールしようとする教師を表した巨大な操り人形、会場後方から飛んできてステージの壁にぶち当たり炎上する戦闘機など、アルバム『Animals(アニマルズ)』なら資本家を表す巨大な空飛ぶ豚などだ。これらは、いまだに元メンバーのRoger Waters(ロジャー・ウォーターズ)のライブでも繰り返し登場するほどのお馴染みのアイコンとして、ライブに欠かせないものとして存在している。
これらの要素と卓越した演奏が紡ぎあげる革新的なピンク・フロイドのライブは、その芸術性の高さはもちろんのこと、音楽と映像と光の一大スペクタクルショーとして誰にでも楽しむことのできるエンタテイメント性をも持ち得たという奇跡として語り継がれ、多くの伝説を生みだしてきた。
対してブリット・フロイドのライブは、再現される音楽性の高さはもちろんだが、前述の照明、スクリーン、飛ぶ豚など、ピンク・フロイドのステージには欠かすことのできない要素も含めて、完全再現がなされるという。今までの世界ツアーの多くの映像を彼らのオフィシャルサイトで見ることができるが、その再現度の高さと壮大さには一瞬言葉を失う。音楽そのものや演奏だけを再現するのではなく、ピンク・フロイドをピンク・フロイドたらしめる数々の要素を適所に散りばめたブリット・フロイドのライブは、まさにピンク・フロイドの世界観を追体験することと言っていいだろう。
また、ブリット・フロイドは単なるトリビュートバンドとは言いがたいほどの規模でワールドツアーを行っている。彼らのサイトで過去やこの際のツアースケジュールを見ることができるのだが、例えばアメリカのRed RockAmphitheatre(レッドロック野外劇場)などの一流アーティストがライブを行う会場ばかりを繋いで大規模なアメリカ・ツアーや、ヨーロッパ・ツアーを何度も敢行している。この規模感はもはや一介のトリビュートバンドの域をこえている。これには素直に驚いた。
ピンク・フロイドというバンドはここ日本にいては分からないほど欧米では本当に人気が高く、ライブに出かけても驚くほど老若男女が集う姿が見られる。その下地を理解したうえでも、ブリット・フロイドの受け入れられ方には驚異的なものがある。
また、今回のブリット・フロイドの初来日ライブは日本にとってどのように受け止めるべきかを考えたい。
まず、いまだに現役としてワールド・ツアーを敢行する元ピンク・フロイドの頭脳であるRoger Waters(ロジャー・ウォーターズ)は2002年の来日公演(東京国際フォーラムで来日公演を行っている)を最後に、来日を果たしていない。
その間に、2年間続いた「The Dark Side of the Moon Live」や、3年にわたり世界を回り続けた「The Wall Tour」、25年ぶりに発表されたオリジナル・アルバム『Is This The Life We Really Want?(イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?)』を引提げての「US+THEM Tour」と、ロック史に残るであろう大規模なツアーを3回も行っているが、ことごとく日本はスルーされている。そして、今年の夏にも最新ツアーとして「THIS IS NOT A DRILL」を北米で行うと発表しており、ここまでくると日本のピンク・フロイド・ファンは歯噛みをする思いだろう。
ピンク・フロイドのもう一人のフロントマンといえるDavid Gilmour(デヴィッド・ギルモア)も、2006年と2015年に大規模なワールド・ツアーを敢行したが、日本公演は組み込まれずに、もう大きなツアーを行う気配はない。
ピンク・フロイドのドラマーであるNick Mason(ニック・メイソン)は現在、バンドの後期サポートメンバーらと共に、Nick Mason's Saucerful of Secretsというバンドを結成し、ピンク・フロイドの特に初期サイケデリック時代の楽曲をプレイするという活動を行ってはいるが、これはそのコンセプトが物語っているように、ピンク・フロイドといってすぐに想像するような中期~後期のライブとはかけ離れた内容のライブを行っているため、これは別物だと考えるべきだろう。
そして、本体のピンク・フロイドは、2008年にキーボードのRichard Wright(リチャード・ライト)が死去しており、2014年に20年ぶりとなるアルバム『The Endless River(永遠/TOWA)』のリリースをもってバンドの活動は終了したということになっている。ちなみにピンク・フロイドの来日公演は1988年が最後に実現に至っていない。それまでには1971年の初来日で伝説の箱根アフロディーテでのライブをおこない、翌1972年には東京、大阪、京都、札幌をツアーしている。
以上、現在のメンバーたちの活動状況をまとめてみたが、このことからピンク・フロイド自体やその面々がどれだけ日本公演から遠ざかっているかはわかってもらえると思う。
バンドとしては88年以降、ソロとしても02年以降ライブが行われていない日本では、ピンク・フロイドのライブがとても望まれていることは想像に難くない。その欲求を満たすには、このブリット・フロイドは役不足どころか、今現在考えうるに適任ではないかと思えるのだ。
また、このブリット・フロイドの初来日は、本家のアルバム『The Wall(ザ・ウォール)』発表40周年に合わせたワールド・ツアーの一環として行われる。なので、このロック史上稀にみる完成度を誇る一大コンセプト・アルバム且つ壮大なロック・オペラの名曲たちが、ロジャー・ウォーターズの行ったアルバム完全再現の「The Wall Tour」で蘇ったように、再び血を通わせることとなる。これも、見どころの一つだ。当日は、アルバム『The Wall(ザ・ウォール)』以外からも、もちろん代表曲達が披露されることになっている。今のところでは、『The Daerk Side Of The Moon(狂気)』からは、「タイム」、「虚空のスキャット」「マネー」が、『Wish You Were Here(あなたがここにいて欲しい)』からは、「クレイジー・ダイアモンド」、「あなたがここにいてほしい」がなどが演奏される予定となっている。

ブリット・フロイド 来日公演に寄せて、ピンク・フロイドのライナーノーツや関連著書の執筆で知られるプロデューサー・立川直樹氏がコメントを寄せている。

ピンク・フロイドは歌舞伎やフェリーニの映画のように、構築美と様式美を極めたバンドだ。
そして歌舞伎で言うところの“家の芸”・“型”を持っている。ブリット・フロイドは、それを十分にわかった上で、ピンク・フロイドの演目をライヴ・エンタテインメントに仕立て上げた。
だからこそ価値がある。
“コピーバンド”などという安っぽい言い方などから遠く離れてブリット・フロイドは、ほぼ完璧にピンク・フロイドの世界を構築し、演じて見せてくれる。公演が本当に楽しみだ。
立川直樹氏が言っているように、ピンク・フロイドには”型”がある。その型をブリット・フロイドは、確実に習得し再現しきっているのだ。それは、プレイ面だけの話ではない。その曲にはどのような思想が反映されており、それを表すためにどのようなライティングが行われ、どのような映像がスクリーンに投影されるべきなのか。それをピンク・フロイドのファンというものは、熟知している。
そのように複合的な再現がなされることによって、ピンク・フロイドの楽曲はピンク・フロイドの楽曲として初めて存在しうるのだと思う。そのどの要素も疎かにしない。これこそがブリット・フロイドがコピーバンドではなく、一線級のトリビュートバンドとして評価を受けている由縁であろう。その差は、ピンクフロイド・ファンには一目瞭然だ。

本家のファンにならよりその良さがわかるであろうブリット・フロイドの初来日公演。大いに期待をしたい。

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