『BITTER AND SWEET』は
不世出の歌姫、
中森明菜の潜在能力の
高さが顕示された名品

『BITTER AND SWEET』('85)/中森明菜

『BITTER AND SWEET』('85)/中森明菜

平成生まれの読者にはピンと来ないかもしれないけれど、それ以上の世代にとって中森明菜の説明は不要だろう。彼女もまた昭和の音楽シーンを代表する歌手のひとりである。本文でも述べるのであえてここでは細かく書かないけれども、1980年代半ばに残した足跡が偉大かつ多すぎて、ひと口には語れないアーティストでもある。その意味ではこのコラムに向かないタイプではあるのだが(苦笑)、何とか頑張ってチョイスしてみよう。

1980年代の音楽シーンに君臨

先週の当コラムで松田聖子『風立ちぬ』を取り上げたので、その勢いのまま、今週は中森明菜の作品を取り上げようと意気込んだのだが、のっけから“さて、どのアルバムにしたものか?”と結構悩む。それは中森明菜の作品をアルバム単位で聴き込んだことがないという個人的な理由もあるにはあるのだがそれは置き、彼女のディスコグラフィーをザっと見渡してみても、そのピークがなかなか掴みづらいのである。中森明菜は1984~1987年の間、年間シングルチャートが4年連続1位となり、1985年に「ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕」、1986年に「DESIRE -情熱-」で2年連続日本レコード大賞を獲得。1986年と1987年にはアーティスト別年間トータルセールスでも1位となっている(この項目は1985年以前が不明だが、1984年、1985年ともに上位にランクインしていたことは間違いなかろう)。つまり、彼女が活躍した時期が比較的長期に渡っていたため、単純にチャートリアクションや記録などを測るだけでは、そのピークが分からないのである。1980年代半ば、中森明菜はずっと高値安定だったのだ。

そうであれば、デビュー作であったり、最大の売上を記録したアルバムであったりを持ってくるのが定石であろうが、1stアルバム『プロローグ〈序幕〉』はその収録曲10曲の中から先行シングル「スローモーション」が選ばれたというストーリーは興味深くあるものの、ややパンチに欠ける印象だ。最大セールスとなると2nd『バリエーション〈変奏曲〉』で、こちらはブレイクのきっかけとなった「少女A」も収録された言わば出世作でもあるが、それゆえに、のちの明菜──1980年代半ばのスーパーディーヴァ期と比較すると、若干、話題先行な作品だった感も否めない。

となると、松田聖子の『風立ちぬ』がそうであったように、やはりシンガーとしての転機となった作品がいいだろう…と、再びディスコグラフィーを見る。ザっと見てみると、4th『NEW AKINA エトランゼ』辺りが一作品としての最初の転機だったようにも思える。それというもの、このアルバムには、阿木燿子、財津和夫、谷村新司、細野晴臣、横浜銀蝿の翔やTAKUといった、それまで組んだことがなかった作家たちが大胆に配されているのである。アルバムの帯には、“ヨーロッパ・レコーディング、撮影、そして新しい作家との出逢い。明菜2年目の歴史がここから始まる。”というコピーがあったという。なるほど…とは思ったものの、そこで気付く。そうだ。そもそもシングル作品において、中森明菜を支えた作家陣はその顔触れが実にバラエティー豊かなのであった。

松田聖子であれば、最初期の[作詞:三浦徳子/作曲:小田裕一郎]から[作曲:財津和夫][作詞:松本隆]を経て、[作曲:呉田軽穂(松任谷由実)]期に移り変わっていくようなところがあった。中森明菜、松田聖子以前にしても、山口百恵に[作詞:千家和也/作曲:都倉俊一]期と[作詞:阿木燿子/作曲:宇崎竜童]期があり、桜田淳子には[作詞:阿久悠/作曲:森田公一]期があって[作詞/作曲:中島みゆき]があった。いずれも彼女たちが発表したシングルを大掴みにとらえたもので、その期間において作家が変わったこともあって、必ずしもパキッと[○○]期、[××]期と分かれているわけではないことをご了承いただきたいが、それでもリアルタイムで彼女たちの楽曲に触れた人であれば、そうした期間で示されることもご理解いただけるのではないかと思う。理解できないという人には、安室奈美恵に[小室哲哉]期と[小室以外]期があると言えば分かってもらえるだろうか。

OKMusic編集部

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