『Before The Daylight』は、
孤高のアーティスト、
角松敏生が創り上げた、
今も色褪せない世界標準の一作

絶妙な生音の取り込み方

また、『Before The Daylight』は完全なデスクトップミュージックではないから、デジタル臭が薄いのは当然なことかもしれない。大半の音は所謂打ち込みで作られているものの、肝心なところでしっかり生音が入っている。ここは大きなポイントであろう。まず、何と言っても、ギターがいい。ギターが聴こえて来る箇所はどれもこれも超よくて、やはりM1「I Can Give You My Love」であったり、M6「Remember You」辺りのギターソロは流麗で素晴らしい。全編を通して聴こえてくるカッティングも実にいい。とりわけM7「Lady In The Night」が顕著だろうか。俗に言うサイドギター。一見、地味に思えるものの、これがあるとないとでは楽曲全体の印象はガラリと変わることは素人でも分かる。グルーブを生み出しているのはギターと確信させられるほどに、絶妙なプレイだと思う。

あと、生音が目立つのはサックス。これもまた楽曲に特有の空気感を与えている。印象的なのはM3「Thinking Of You」やM8「I’d Like To Be Your Fantasy」だろう。AORらしさだったり(完全にそう分けてしまうのはやや乱暴なのだが、ここは便宜上そう呼ぶ)、ジャケットの画に象徴される夜の都会的な雰囲気であったりを醸し出すのに、あの響きは重要な役割を担っているだろう。さらに忘れてはならないのはコーラスワークだ。M1「I Can Give You My Love」、M4「Get Your Feelin’」、M8「I’d Like To Be Your Fantasy」辺りで聴かせるブラックミュージック要素あふれる女性コーラスは流石に本場米国仕込み。今聴いてもまったく古びた感じがないのは、録音された当時の丁寧な仕事っぷりが偲ばれるところでもある。『Before The Daylight』収録曲は、これらの極めて印象的な生音が件のデジタルサウンドと合わさることで構成されている。改めて言うと、そこでのバランスも絶妙なのだろう。デジタルが出すぎても生音が多すぎてもこうはならないと思う。優れたシェフは、どこにでもある調味料を使っても、その絶妙な加減によって見事なひと皿を作り上げるという。それに近いことではないかと思う(微妙な例えですみません…)。

しかも…である。楽曲の中心を成していると言ってもいい歌のメロディーがいい。改めて言うことでないのかもしれないが、ここは強調しておきたい。料理に例えるならもともとの素材がいいのである。聴く人によっては、山下達郎に近いと捉える人がいるかもしれないし、久保田利伸をイメージする人もいるかもしれない。だが、そこは完全に説明は付く。山下達郎に関しては、角松自身が早くからリスペクトを公言している。[シュガー・ベイブの『SONGS』(1975年)は擦り切れるほど聴いた]というから、その辺は身体に染みついたものなのだろう([]はWikipediaからの引用)。また、もし久保田との類似を指摘する声があるならば、その影響下にないことだけははっきりと申しておきたい。『Before The Daylight』だけを聴いたらそう感じるかもしれないが、角松敏生はそれ以前から黒人音楽のフィーリングを自作に取り込んでいる。Wikipediaにもこうある。[デビュー以来の夏や海といったリゾート感覚のシティ・ポップス路線から離れ、自身の音楽的趣向であったダンス・ミュージックやニューヨークのミュージック・シーンで流行る最先端のファンクに傾倒していく。その曲調に合わせて歌詞のテーマも次第に夜の街へと移り、1983年に12インチ・シングル「Do You Wanna Dance」、続く1984年のアルバム『AFTER 5 CLASH』で、その世界を示した。(中略)ニューヨークへ長期滞在するようになり、現地での流行をいち早く取り入れた音楽活動を行うようになっていった。7&12インチ・シングル「GIRL IN THE BOX ~22時までの君は…」や代表作となる1985年のアルバム『GOLD DIGGER~with true love~R』は、ターンテーブルによるスクラッチやラップがいち早く取り入れられた]([]はWikipediaからの引用)。つまり、角松と久保田は共に当時のブラックミュージックに師事しているのだから、芸人システムで言うところの兄弟子・弟弟子の関係ということになる。そこで言えば、角松が「Do You Wanna Dance」を発表したのは上記の通り1983年で、久保田のメジャーデビューは1986年だから、角松のほうが兄弟子と言えるかもしれない(だからと言って、どちらが上だとか下だとかいう話ではないので、そこは誤解のないようにお願いします)。いずれにしてもメロディーのタイプが近いのは、必然とも言うべきものなのである。

OKMusic編集部

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