「ART歌舞伎」中村壱太郎&尾上右近
が対談「視聴者にスマホを触らせない
ような配信をめざす」

「中村壱太郎✕尾上右近 ART歌舞伎」が、2020年7月12日(日)19:30よりインターネットで配信される。「伝統芸能」と「映像技術」と「アートデザイン」を融合させ、音楽をベースにした新たなスタイルの舞踊作品を創り上げる。
中村壱太郎が基盤をつくりあげた本作には、歌舞伎俳優 尾上右近に加え、日本舞踊家の花柳源九郎、藤間涼太朗も出演する。また、音楽は、中井智弥(箏・二十五絃箏)、浅野祥(津軽三味線)、藤舎推峰(笛)、山部泰嗣(太鼓)、友吉鶴心(琵琶)といった、国宝級の和楽器奏者たちが参加。さらに、モード界でワールドワイドに活躍する、冨沢ノボル、里山拓斗、edenworksという豪華な顔ぶれが集結し、ヘアメイク・衣装も本作のために構想・製作された。
この公演について、中村壱太郎と尾上右近に話を聞いた。
【動画】『中村壱太郎×尾上右近 ART歌舞伎』予告編
■中村壱太郎「目に見えない力を感じながら踊る」
――6月中旬、「ART歌舞伎」のティーザー映像(下記)が解禁された瞬間、SNSが期待にザワつきました。まずはこの企画が立ち上がったきっかけと経緯から教えていただけますか?
【動画】ティザー映像

壱太郎 スタートは「歌舞伎が大変だ」「何かしなければ」という使命感というよりは、舞台公演が中止となり「やる事ないから何かしたい」「自分で発信するしかない」「やっぱり歌舞伎がやりたい」というシンプルな気持ちだったんです。それで色々な方とリモートでお話をし、企画段階から協力くださったのが(湘南乃風若旦那こと新羅慎二が副社長を務めるレーベル)「KSR Corp.」の皆さんでした。映画やファッションの現場で活躍されるヘアメイク・衣裳・装飾の方々に声をかけようというのは、新羅さんのアイデアなんです。それが全ての始まりでした。
右近 本当に、動きが早かったですよね。
壱太郎 初動からティーザー映像を出すまで約1カ月ですから、自分でもこのスピードにびっくりしていますし、本当にみなさんのおかげです。
中村壱太郎
右近 僕は心配性なところがあるので、正直「こんなに急いで大丈夫かな?」と不安があったんですよ。でも壱さんの血走った目を見たら安心しました。
壱太郎 普通、血走ってたら「ヤバい」と思うでしょ(笑)。
右近 熱い思いは人を動かすんですよ。僕、上籠鈍牛さんという書家の方に教えていただいて大事にしている言葉に「正直動山鬼」という中国故事があるんです。これは「心が正しく素直であれば山の神をも感動させる」という意味。壱さんは周囲に風を起こせるし、大きなものを動かす人なんです。
――今回はお二人に加え、日本舞踊界から花柳源九郎さん、藤間涼太朗さんも参加。さらに和楽器奏者の方々とのコラボレーション舞踊映像作品だと伺っています。内容の詳細について教えていただけますか。
壱太郎 以前からご一緒してみたかった方々にお声がけしました。箏・二十五絃箏(中井智弥)、津軽三味線(浅野祥)、笛(藤舎推峰)、太鼓(山部泰嗣)、そしてケンケン(右近の愛称)が紹介してくださった友吉鶴心さんの琵琶。歌舞伎ではあまりない組み合わせで、新しい感覚の音楽が生まれています。
右近 一人ひとりが主役のような、それぞれが最大限に魅力を発揮しているような音楽ですよね。それが重なり、一つになっていくグルーヴも感じていただけるかと。
――全体の構成についても伺えますか?
壱太郎 四方の方角を司る神(青龍、朱雀、白虎、玄武)をテーマに4人で踊る「四神降臨」、三味線と太鼓で送る祭事の前兆のような「五穀豊穣」、三番叟から着想を得た「祈望祭事」、そして最後は物語のある創作舞踊劇を考えています。能舞台で上演するということもあり、“神様に感謝する”ことに主軸を置いて全体を構成しました。19時半に「開演」するというのも、演劇的感覚を忘れたくないという思い、公演という形へのこだわりです。
右近 能舞台でやらせていただけるというのは、大きい要素になりましたね。お客様に観ていただくのが大きな目的ですけれど、神様や目に見えないものへの感謝、そうしたものと繋がる気持ちは、芸能の根ですから。
尾上右近
――壱太郎さんはご自身のYouTubeチャンネル「かずたろう歌舞伎クリエイション〈Kabuki Creation〉」でも、5月末「祈望」という新作舞踊を発表されました。不安で心が沈む時期に新しい舞踊劇をつくられた行動力に驚きましたし、観て癒されるような感覚もありました。
壱太郎 あれをつくった時期は、とにかく「つくることを止めてはいけない」「新しいものをつくろう」という思いが頭にあった気がします。お客様がいない場所で踊ることに最初は抵抗感もありましたが、「自分はなぜ踊るのだろう」ということを突き詰めて考え、根本を改めて考える良い機会となりましたし。稽古場で踊ろうが、能舞台で踊ろうが、神様やご先祖さまといった、目に見えない力を感じながら踊ることには変わりないと思い至ることができた気がします。
――何かに祈るように踊る姿というのは、観客にとっても感動的です。
右近 疫病とか天災とか、自分たちの力ではどうにも出来ないことに対しての畏れ、念じる思いもありますよね。その祈る姿、あるいは鎮魂をお客様に見ていただきたいです。6月にエレファントカシマシ宮本浩次さんが、25台のカメラを使ってソロライブを配信されたのですが、ひたすら思いを訴え続けるようなライブで、カッコ良かったんですよ。気持ちが強くないとできないことですし、お客様が目の前にいない中でやり続ける美しさがあった。「配信の美学というものも、あるかもしれない」と思えましたね。
壱太郎 うん、感動していただけるものをつくりたいですし、「ART歌舞伎」は、視聴者の方たちに集中いただける工夫をしたいと思っていて。この間、舞台に限らず様々なジャンルの配信を見ましたけれど、僕、どんなに面白くても携帯を触っちゃうんですよ(笑)。どうにかスマホを触らせないような内容にしたいですし、そのためのブレイクも考えています。照明に関しても、舞台だと「やりすぎでしょ」と感じるぐらいの演出が映像では効果的かもしれない。やはり音楽要素も重要ですから、もしお持ちであれば、いいスピーカーの使用を推奨いたします!
■尾上右近「僕は壱太郎さんを愛してるんです」
――こうしたスペシャルな企画でご一緒されると、お互いの印象も変化するのでは?
右近 壱さんは今回、振付も台本も歌詞も全部ご自分でなさって、その多才ぶりに本当に驚きますし、「ものをつくる喜びを知っている人」なんです。僕は泳ぎ続けるマグロの生む流れに身を任せています。
壱太郎 マグロも潮の流れに乗るよ(笑)。
右近 いや、このマグロは時に潮の流れを変えますから(笑)。僕もあるパートの振り付けを任せていただき、花柳源九郎さん、藤間涼太朗さんにもサポートいただきながら考えているんですけれど……とにかくこの方は大容量のハードディスクのようなんですよ。僕は一つ終わったら一つ消去しないと次にいけないし、何なら「しばらくお待ちください」が長く表示される(笑)。でも形になってくると面白いし楽しいし、こうした体験をさせていただくと、素直に「こういうこと、もっとやってみたい!」という気持ちになってきました。壱さんとは2歳違いで、今僕は28歳。30代になったら僕も、自分で流れをつくれるような人間になりたい。ありがたい時間をいただいた気がしています。
壱太郎 そう言ってもらえるとすごく嬉しい。でも今回ケンケンが、僕が急いで作ってしまうところをゆっくり考えてくれるのが、ありがたいんですよ。例えば手を取る動き一つにしてもいろんな意見を言ってくれるし、ケンケンの「しばらくお待ちください」が存在しなかったら(笑)、「これでOK」でマニュアル通りに通過しちゃったところがいっぱいあったと思う。
中村壱太郎
右近 リーダーのペースに水をさすことになるんですけどね。
壱太郎 いやいや、これがないとダメだってことを、僕も学んでいるんですよ。多分自分は、線路をどんどんつくっていける人間ではあるんですよ、周囲を振り落とすがごとく(笑)。でもどんな電車を走らせるかはチームでじっくりと考えたい。そういう意味では、本当に助かってる。
右近 あぁ~僕はその真逆の収穫を日々感じていますよ。「やるか」「やらないか」を常に決断していける壱さんの姿に感銘を受けるし……だからつまり何が言いたいかというと、僕は壱太郎さんを愛してるんですよ(一同笑)。
尾上右近
――突然の愛の告白(笑)。お二人は右近さんの自主公演「研の會」(第四回/2018年)でも相手役でご共演されましたね。『封印切』と『二人椀久』、とってもステキでした。
壱太郎 あの経験は大きかったですね。歌舞伎の本公演での共演自体は少ないんですよ。なのに、こんなに仲良くなれるのが不思議。でも多分「研の會」を通して、根底の部分で濃くつながれた感覚があります。この間も道端で偶然会ったしね(笑)。
右近 会った! しかもちょうど二人でラインしてたんだよね。
壱太郎 そうそう、そういうことが度々あるんですよ。それはもう、そういうことなんだろうなって。
右近 そういうことって、どういうこと!(笑)
壱太郎 そういうこと(笑)。一緒の現場では、部活みたいに打ち込める感じがするし。
右近 確かに、ちょっと高校球児みたいですよね。同じ光を見ている感じがあるし、「研の會」が終わった直後、妙に寂しくなっちゃって、空を見ながら「壱さんも同じ空を見ているのかなぁ~」なんて考えちゃって(一同笑)。とにかく相手役に、そうした没入感をもたらしてくださる方なんですよ。
壱太郎 あははは、とっても嬉しいけれど、思いと行動というものは裏腹というか……この間、稽古に遅刻した日は面白かったよね(笑)。
右近 あ、いや、ちょっと聞いて、聞いて! あの日は、朝起きたらふと「あ、すごい幸せかも」っていろんなことに思いを巡らせ始めちゃったんですよ。それが止まらなくなって、そのまま壱さんに「今回は僕を必要としてくれてありがとう。とにかく嬉しいし、心から感謝しているし、あなたは本当にすごいし、僕も出来ることをやりたいんだ!」って突然連絡して、そうしたら、どんどんボルテージが高まって「さあ今日の稽古もやっちゃうぞっ」って(立ち上がって、自宅での稽古準備シュミレートを再現)。で、ふと時間を見たら……「あれ、時計おかしくない? ……遅刻だ(絶望の顔)」って猛ダッシュ。ごめんなさい。
壱太郎 あははは! 「今日は妙に張り切って褒めてくれたけど、全部、遅刻の言い訳だったのかな?」ってなったよね(笑)。
中村壱太郎 尾上右近
【アフタートーク決定】中村壱太郎×尾上右近「ART歌舞伎」直前コメント

取材・文=川添史子  写真撮影=池上夢貢

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