いとうせいこうが『マンモス展』を通
して語るパイオニア論ーー「過去を知
ってようやく0.01ミリの新しさが生ま
れる」

若者たちの間ではラップバトル番組『フリースタイルダンジョン』の審査員長として、文学界では小説『ノーライフキング』『想像ラジオ』の作者として、サブカルチャー好きにとっては『見仏記』シリーズの案内人として知られる、いとうせいこう。そんなさまざまな顔を持つ彼が構成監修をつとめる、『マンモス展 その「生命」は蘇るのか』が7月31日(金)より大阪南港ATCホールで開催される。本展では、ロシア連邦サハ共和国の永久凍土から発掘されたケナガマンモスの鼻、ユカギルマンモスの頭部、古代仔ウマなどの貴重な冷凍標本が展示される。現代にあらわれた古代動物たちは、私たちに何を語ろうとしているのか。今回はいとうせいこうに、本展のテーマでもある「過去・現在・未来」という部分について話を訊いた。
いとうせいこう
――今回のマンモス展の意義は、太古のマンモスの凍結死体が永久凍土から発掘されたという、その驚きだけではありません。永久凍土の急速融解という地球温暖化などの問題が絡んでいます。単純に「すごい!」という出来事とは言えません。
そうなんです。気候変動で良いことが起きるなら話は別ですが。しかもその原因が人類であるなら、どうにかしなければいけません。自分たちの子ども、孫、ひ孫の世代にまで良くないことが及ぶわけだし、今、ちゃんと手当てをしなければいけない。今回のマンモス展はそれがリアルな感触で分かるようになっています。
――いとうさんは以前より地球環境に関する取り組みをおこなっていらっしゃいますよね。そういえば先日、シベリアで気温が摂氏38度を記録しました。6月の気温としては日別で過去最高だといわれています。しかも北極圏では、世界平均の2倍の速さで温暖化がすすんでいるとのことですし。いとうさんもそういった事象に関して考えるものが多いのではないですか。
本展についても、永久凍土からマンモスが出てきたことにどういう意味があるのか、気づかなければいけないんです。今回の大阪での『マンモス展』では、もし今永久凍土から何かが出てきたというニュースが報じられたら、それをすぐに知らせることができるパネルを、会場内に設置しています。実際に、今なお永久凍土からは様々な古生物が見つかっていますし。ニュースに敏感な展覧会でありたいんです。
いとうせいこう
――今回の『マンモス展』は「過去・現在・未来」という視点が盛り込まれています。いとうさんがそのテーマをご提案されたと伺いました。
それはこの『マンモス展』のなりたちの話にもつながります。今回は、以前より知っているプロデューサーから話をいただいたんです。発見されたマンモスなどを展示するだけなら、自分に役割はないと思いました。ただ、ロシアの永久凍土からマンモスが発見され、そ​のDNAを使ってマンモスを復活させる生命科学の研究がおこなわれている事実がある。しかし、果たして本当に絶滅したマンモスを復活させて良いのかという「意味」の問題にまで発展させたとき、先ほどお話ししたように現在の地球温暖化などの問題も浮かび上がってきます。あと、例えば発見されたマンモスの皮膚について研究すると、現代の地球上の極寒で生きるための衣類にも使える技術につながるんです。過去に生きていたマンモスを通して新しく分かることがたくさんある。「過去・現在・未来」にゾーン分けすることでそれらが明確になる部分もあり、「これは携わる意味が出てきそうだ」と考えました。
――確かに、「マンモスをよみがえらせることができるのでは」と話題になっていますよね。
「マンモス復活」は分かりやすいゴール。ただ、そこに至ろうとするときに生じる様々な問題の統合こそが、真のゴール。実際にマンモスを復活させてどうこう……ではないんです。もっと細かいことに目を向けた上で、我々人類がこの環境をどのように生き抜くか、そこに議論点が込められています。未来の環境を考えるためには、知っておかなければいけない過去がたくさんあります。もしもマンモスが復活したとして、現代の地球で生きるためにはどういう環境を作らなければいけないかとか。
――だから過去・現在・未来に振り分けた、と。
『マンモス展』に携わることになり、マンモスが永久凍土のなかからどれくらい発掘されているのか、どういうふうに発掘されているのか、それを知るためにサハ共和国へ行ったんです。マイナス45度にもなるその場所でいろんな話を聞き、日常生活を送る人々を見て、「こういう文化や環境のなかにマンモスがいたのか」というリアリティを感じることができました。
――本土からマンモスがいなくなっても、北極海の離れ島にはマンモスが休息地として最後まで生存していたといわれています。
サハ共和国に滞在中、どのレストランでもベリー類の赤い実がお皿の上にのっているんです。どうやらそれは何万年も前から現地になっている実らしくて、マンモスもそれを食べていたのではないかと。そういうふうに考えると、遥か遠い昔に生存していたマンモスが近い存在に感じられた。今でも、人間の暮らしにつながっていることが分かりました。
いとうせいこう
――いとうさんの創作物を追いかけていたら、そこには必ず過去の文化や伝統が混在していますよね。みうらじゅんさんとの『見仏記』シリーズはその象徴だと思います。これはあえて質問しますが、物事をかたち作る上で、過去はどれくらい重要だと感じていらっしゃいますか。
僕の場合、過去を遡っていろいろ調べたり参考にしたりする方が、発想を生み出しやすいんです。そしてどの分野でも過去を知ると、自分のアイデアなんて大したことがないと気づかされる。どんなことだって「これはもう誰かが必ずやっている」と思うんです。じゃあ、それを自分なりに解釈して実践するならどうするかを考える。で、ほんの0.01ミリくらいの新しい感覚が生まれて、ようやく面白いものに仕上がる。その0.01ミリを作るために過去をちゃんと知っておきたいんです。
――たとえば1980年代、いとうさんは日本語ラップを開拓したと言われていますが。
日本語ラップをやるにしても、過去のリズムと日本語、韻の関連性を遡って考えると能につながります。音楽をやるなら古典芸能を知っておいた方が良い。「新しいことをやりたいんです」という人によく会うんですけど、「具体的に何をすれば良いと思う?」と尋ねると、大した案が出てこないんですよ(笑)。そういう人って大概は、過去を知ろうとしていなくて。「これって新しくないですか?」と話されても、「いや、それはもう何年も前にあの人がやっているよ」ということが多々ある。本当に新しいことってなかなかないですよ。
――まさに温故知新ですね。
僕が大尊敬している細野晴臣さんが、「自分がやれる新しいことなんてほとんどないし、やれないんだ」とおっしゃっていました。「本当に新しいものなんて、皮一枚あるかないかのものだ。もしそれができたら幸せなんだ」と。細野さんもすごく古い音楽をたくさん聴いているし、知識が深い。だから、そういう感覚が分かっていらっしゃる。音楽はもちろんそうだし、自分は門外漢ではあるけど科学の分野でもきっとそれは当てはまるのではないでしょうか。変化したいのであれば、変化する前の状態を知っておくべきだと思います。
――永久凍土から見つかったマンモスの姿は、確かにそういうことを教えてくれますよね。最後に遊びのような関連質問をさせてください。いとうさんご自身、遠い未来にまで凍らせてでも残したいものはどういうものでしょうか。
僕は基本的に、すべてのものは結局消えていってしまうと考えています。何事も消えていくという諸行無常が、宇宙の流れ。マンモスが非常に状態も良く見つかったことは、奇跡みたいなものなんです。
――未来にまで残って、そして発見されること自体、そもそも奇跡的なわけですね。
ただ、そうやって奇跡的に見つかったなら、人間はそれについて研究するべきではある。だからこの『マンモス展』でも、たとえば古来の生き物に興味を持った子どもたちが、いずれ研究者になって気候変動に対応する何かを作ったり、そういうキッカケになったら嬉しいです。というか、それはどんな分野にでも言えますよね。訪れた人がいろんな過去のことを調べて、良いものを作ってほしい。そうやって、過去から未来へバトンがつながることを望みます。​
いとうせいこう
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

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