INTERVIEW / CIKI 「(音楽は)暗い
気持ちに打ち勝てる手立てになるかも
しれない」――世界中から支持を得る
謎多き韓国のSSW・CIKI。その活動ス
タイル、アティテュードを紐解く

韓国 ・ソウルを拠点とするSSW、CIKIをご存知だろうか。 SoundCloud(https://soundcloud.com/ciikki) やSpotifyなどを通して世界中で多くのファンを集めており、中でもこれまでのシングルのうち 「사이 (Between)」(https://spincoaster.com/ciki-between) 、「BOKE」、「Syndrome」の3曲は、本国韓国に未だ進出していないSpotifyで再生回数100万回を超えるほどだ。
優しく甘い歌声と“ローファイ”や“チル”とも形容されるようなミニマルで心地よいサウンド、失恋や恋愛関係の中のもつれなどをモチーフにした歌は、時に共感を生み、聴き手の心の痛みを癒したりもする。ヒップホップ、EDM、ブルースなどあらゆるジャンルが細部に自然と取り入れられ、歌のメロディもキャッチーだ。セルフ・プロデュースながらどれも完成度の高いCIKIの楽曲たちは、確かに世界中でリスナーの心を捉えられるポップ・ミュージックの普遍性を持ち合わせている。
顔出ししているライブ映像もなく、謎の多い存在でもあるCIKIについてより深く知るべく、メール・インタビューを敢行した。これまでのキャリアから現在の音楽スタイルに至った背景、歌詞のテーマに関する思いまで幅広く語ってくれた。
Interview & Text by Daichi Yamamoto
――CIKIさんはYouTubeなどにもライブ映像がなく、SNSでもあまり顔を出されていないため、情報が少なく謎の多いアーティストというイメージがあります。韓国でいう「NAVER 지식iN」のような日本のサイトで、「韓国の歌手のCIKIさんという方について教えて欲しいです! 調べても詳しいこととかなかなか出てこなくて」という投稿もありました。例えば、アーティストが出身や年齢など自身のバックグラウンドに関する情報を表に出さないことは、聴き手に作品のみに集中させることに繋がるとも思います。この点について特に意識、意図があるのでしょうか?
CIKI:特に意図していたわけではないです。どちらかと言えば音楽制作に集中するあまり、そうなってしまったのかもしれません。私自身が自分の私生活をさらけ出すのが苦手なタイプの人間だというのもあります。今後は自分の日常を少しずつシェアすることによって、ファンとのコミュニケーションをもっと深めたいと思っています。実は最近、YouTubeチャンネルでvlog投稿の計画も立てているんです。
――CIKI(시키)というアーティスト名は日本語から取られているのでしょうか?
CIKI:いえ、これは友達から呼ばれているニックネームなんです。韓国語の本名に“Cik”っていう音が入っているんです。
――幼い頃はどのような音楽を主に聴いていたのでしょうか? また、中でも今の自分の音楽スタイルに直接影響を及ぼしていると思うアーティストやアルバムがあれば教えてください。
CIKI:Nellという韓国のアーティストや椎名林檎東京事変などはよく聴いていました。影響を受けたアーティストは多岐に渡っていますが、サウンド的に言えば主にRadioheadCigarettes After Sex、The Black SkirtsやOOHYOなどの影響が大きいと思います。
――自身で全ての楽器演奏を担当している楽曲もありますよね。作曲や演奏の技術はどのように身に付けられたのでしょうか。
CIKI:楽器の演奏は独学です。大昔のことですが、初めてインディ・バンドに入った時、アコースティック・ギターを持って来いと言われ、そのままお店に直行して買いました。その時はバカみたいにギターの練習に打ち込んだのを覚えています。作曲に関しては高校生の時に趣味として始めたのがきっかけです。
――活動の拠点はレーベルと契約する前からずっとソウルなのでしょうか。ソウルという大都市での生活が自分の作品に与えている影響があるとすれば、どんな点か教えてください。
CIKI:東京同様、ソウルは人で溢れ返っていますが、時には冷たい印象を与えます。そんな街で育ったことは、もちろん私のメランコリックな音楽スタイルの形成に多大な影響を与えていると思います。
――CIKIさんは〈Sony Music〉傘下の〈SeoulSoulGround〉と契約する前からSoundCloudやYouTubeにUPした楽曲で注目を集めていました。再生回数やファンの数は自然と増えていったのでしょうか。それとも、何かきっかけがあったと思いますか?
CIKI:SoundCloudのフォロワーが増えた一番の要因は、YouTubeのいくつかのインディ・ミュージック・プレイリスト・チャンネルのおかげだと思っています。「사이 (Between)」と「Syndrome」のリリース時からフォロワーが急激に増えるようになりました。
――特にSoundCloudはCIKIさんのキャリアのスタートに重要な役割を果たしたと思います。SoundCloudに楽曲を投稿し始めた当初から、このプラットフォームを通してファンが増え、レーベルとの契約まで繋がると予想できましたか?
CIKI:特に意識していませんでした。自分好みの曲作りに没頭していたので、当時はアルバム・リリースやレーベル契約については特に考えていませんでした。
――CIKIさんは韓国未進出のSpotifyで再生回数が100万回を超える曲を3曲も持っているなど、ここ日本も含め海外でも多くのファンを獲得しているようですね。世界中のリスナーから支持されることについて、ご自身ではどのように分析していますか?
CIKI:ローファイ・チル(アウト)・ミュージックがグローバルに流行ったことが大きく関係しているのかなと思います。過去にはバンド・スタイルのアグレッシブなサウンドの楽曲を作っていた時期もあるんです。でも、ソロ・アーティストとしてキャリアを積んでいく過程で、叙情的なフォーク・ソングなどのミニマル・スタイルを追求するようになり、それが偶然にも現在のトレンドとマッチしたんだと思います。
――CIKIさんの楽曲の魅力は、甘い歌声やアコースティック・ギターの優しい音をベースにした落ち着いたムードにあり、それは聴き手に癒しを与えるような力を持っているとも感じます。個人的には、作曲される際もこうした特徴的なムード作りを大切にされているのではないかと思うのですが、CIKIさんご自身は自分の作る音楽の核、軸はどのような部分だと考えますか?
CIKI:ボーカル作業に取り組んでいる時はとにかく自然に聴こえることを最優先にすることが大事です。私は自分の音楽に心地良さを感じることで初めて満足するタイプのアーティストなんです。時にはシリアスに、でも重すぎないムード作りを目指しています。
――CIKIさんの楽曲からは、どの曲にもヒップホップやR&Bからロック、フォーク、ブルース、ダンス・ミュージックまで幅広いジャンルからの影響、そして様々なスタイルを積極的に取り入れる前向きな姿勢を感じます。作曲を始めた当初から、特定のジャンルにはこだわらずに創作されていたのでしょうか。
CIKI:その通りです。韓国のヒップホップもよく聴いていますし、R&BだったらNAO、Daniel Caesar、Mac Ayres。Chet Bakerなどのジャズ・アーティストも大好きです。Yaejiのようなエレクトロニック・ミュージックも最近よく聴いていますね。それぞれのジャンルに魅力があるので、ひとつのジャンルに収まらず、各ジャンルの魅力を自分の音楽に取り入れています。そういう曲作りをしていると、時々いっぱいいっぱいになりそうなこともあるのですが、少なくてもありきたりな曲作りにはならないのが長所だと思います。
――作曲から編曲まで自ら完結させながらも、CIKIさんの楽曲はどれもチャートの上位に入っていてもおかしくないようなキャッチーで完成度の高いものですね。DIYなスタイルでポップな楽曲を作っているアーティストという意味で、ロール・モデルのような存在はいますか。
CIKI:例えばCharlie Puth、Bruno Major、Tom MischやBillie Eilishなどの優れたアーティストですかね。彼らに比べたら私なんてまだまだですけど……(笑)。
――セルフ・プロデュースの長所はどんな部分だと思いますか。今後も外部プロデューサーを起用せず、自ら編曲までこなしたいと思いますか。
CIKI:当たり前かもしれませんが、セルフ・プロデュースの最大の長所はいつでも自分のやりたいように作業を進められること。他の人が作ったビートにボーカル・ラインを何重にも乗せていくのも楽しいけれど、全ての作業を自分の手でやり遂げた時の方がより充実感を味わえるから、一人作業が好きですね。でも、音楽的なセンスさえ合えば他のプロデューサーとの仕事もいつでも歓迎します。
――ストリーム・メディアのページで 作品の情報(https://www.genie.co.kr/detail/albumInfo?axnm=81154828) を見ると、どの曲も必ず作曲した時期が何月何日〜何月何日までと正確に書かれているのが気になりました。いつ、どんな考えをした時に作った曲かを残しておくことに、どのような意図があるのでしょうか。
CIKI:その曲を書いたのがどれぐらい前だったのか、そしてどれぐらいの期間をかけて作ったのかを確認できるように、作曲した時期を記録しています。夏に書いた曲と冬に書いた曲とでは雰囲気が違うと思いますし、四季によって放つ雰囲気の違いを曲から感じ取って理解するのは、リスナーにとっても楽しいことなんじゃないかなと考えています。
――「BOKE」は曲が完成するまで2年近くかかったようですが(ストリーム・メディアの作品情報には2017年3月3日〜2019年1月16日までとある)、特に制作に苦労された理由・背景があれば教えてください。
CIKI:曲のアイディアが思い浮かんだ日を制作期間の初日として明記しているから、実際に作業した日数より長い期間だと思われてしまうようです。2年間休みなく「Boke」に取り組んでいたわけではないんです。必要とする楽器がなかったり、自分の満足いく形に仕上げられなくて、曲の制作を中断して保留することは珍しくないことなんです。
――失恋を始め、恋愛をする中で生じる困難をモチーフに繊細な感情を歌っている曲が多い印象です。そうした経験を歌にすることは、CIKIさんにとってどのような意味があるのでしょうか。歌にして表現することで困難な経験も乗り越えやすくなったりするのでしょうか?
CIKI:愛について書くより、恋愛関係のもつれについて書くことの方が私には合っているんです。長年、別れを経験した直後に自分の気持ちを音楽で表現することに没頭するというのが習性になっていて、それが大きく(全体の曲作りに)影響しています。
――近年、世界的にも失恋のような辛い体験も「自分を成長させる」ものとポジティブに捉えるようなポップ・ソングが多くの支持を得ています。CIKIさんご自身は、こうしたテーマを歌うことで聴き手に伝えたいメッセージなどはありますか?
CIKI:聴くという行為は単純に音楽が耳に入ってくるだけではありません。それはリスナーがミュージシャンと感情やフィーリングを交わす、もしくは共有する体験なのだと認識しています。機嫌が悪い時は明るい曲よりも憂鬱な曲を聴きたくなるのも、共鳴や共感を得たいから。だから直接的なメッセージじゃなくても、音楽そのものを聴いているだけで暗い気持ちに打ち勝てる手立てになるかもしれない。
――どのシングルも女性のイラストを使ったアートワークが印象的です。特に「사이 (Between)」、「BOKE」「Syndrome」は昔のアニメのような懐かしさを感じます。これらは、誰がどのようなテーマで描いるのでしょうか?
CIKI:私が使用しているイラストは全て 나무13(https://www.instagram.com/__tree_13/) や kan.yh(https://www.instagram.com/kan.yh/) などの韓国人イラストレーターの作品です。彼らが描く若々しくてクールなイラストは、あの当時人気だったシティ・ポップをテーマにしているのではないでしょうか。
――リリック・ビデオもカセット・テープや昔のゲーム機、ローファイなビデオなど、レトロな要素が多いですね。これらには特別な意図があるのでしょうか。また、こうしたレトロな要素にはどのような魅力があると思いますか?
CIKI:ビデオ制作にはあまり関わっていないので、私からは説明しにくいですね。ただ、アートワーク同様にリリック・ビデオにはシティ・ポップ関連の要素が多くちりばめられていて。だからこそ、レトロな要素も頻繁に出てくるのだと思います。ビデオ制作班ならどんな質問にも答えられるでしょうけど……(笑)。
――韓国ではここ数年「Newtro」(ニュートロ)という、過去の文化を現代的な感性で解釈するスタイルが流行っていますね。CIKIさん自身はこうしたムーブメントに共感しますか?
CIKI:それはきっとリスナーも作り手も流行りの音楽に飽きたからだと思います。多くのマーケットで、音楽はただ単に消費されるものとして捉えられているけれど、だからこそすぐ消費されてしまうモダン・ミュージックとは違い、昔から愛され続けているジャンルへの回帰が求められる動きがある。90年代にたくさんの良い思い出を持つ私にとっては嬉しい傾向です。
――「I AM SARA」などシティ・ポップに影響を受けた曲もあるようですが、近年韓国でも流行しているシティ・ポップというジャンルにはどのような魅力があると思いますか?
CIKI:高度な技術が生み出したクオリティの高い80年代のセッションと、めちゃくちゃ力が入った音楽プロダクションがシティ・ポップの最大な魅力だと思います。ユニークなボーカル・スタイルを持った当時の女性ボーカルもすごく魅力的です。
――韓国国内の同世代のアーティストで特に共感できる、あるいは刺激を受けていると思える人がいれば教えてください。
CIKI:彼らからインスピレーションを受けたかは別として、私はSe So Neon、Shin Hae GyeongとYoon Ji Youngの大ファンです。同年代と言えるかは疑問だけど(笑)。
――新型コロナウイルスの流行が落ち着いた後にはなると思いますが、今後は海外での活動も視野に入れていますか? また、次の目標や展望があれば教えてください。
CIKI:できる限りそうしていきたいと考えています。でも、新型コロナウイルスの終息が何よりも先決ですね。EPとフル・アルバムをリリースすることが短期的な目標のひとつです。長期的な視野で考えた場合、最終的な目標は海外に進出してワールド・ツアーを開催することですね。
【リリース情報】

CIKI 『Of Course I Love You (ft. mingginyu)』

Release Date:2020.04.07 (Tue.)
Label:SME Korea Inc. / Seoul Soul Ground
Tracklist:
1. Of Course I Love You (ft. mingginyu)

Spincoaster

『心が震える音楽との出逢いを』独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介。音楽ニュース、ここでしか読めないミュージシャンの音楽的ルーツやインタビュー、イベントのレポートも掲載。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • PunkyFineのそれでいきましょう!~V-MUSICジェネシス日記~
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜

ギャラリー

  • Tsubasa Shimada presents / 「Wet Crate」
  • SUPER★DRAGON / 「楽楽★PAINT」
  • Yun*chi / 「Yun*chiのモヤモヤモヤ」
  • OLDCODEX / 「WHY I PAINT ~なぜボクがえをかくのか~」
  • 魔法少女になり隊 / 「魔法少女になり隊明治のあったりなかったり」
  • みねこ美根 / 「映画の指輪のつくり方」
  • 嘘とカメレオン / 「猫を抱いて蝶と泳ぐ」
  • エドガー・サリヴァン / 「東京文化びと探訪」

新着