堺から世界へ~堺を拠点に活動する3
つの芸術団体がコラボ公演を開催

6月に入ってクラシック音楽のコンサートも少しずつ動き始めた。
関西のオーケストラも、ゆっくりではあるが、活動を再開し始めた。もちろん奏者はソーシャルディスタンスを十分にとって、マスクの着用やアクリルボードの設置などを併用しながらも、ホール客席には定員の1/3~半分ほどの観客の姿が。他団体の様子を気にしつつ、政府、自治体、各ホールで取り決めたガイダンスに沿った対応を慎重に行っている。
そんな中に有って、コロナ後初めての演奏が7月16日の定期演奏会と、日程の巡り会わせとはいえ、6月スタートの他楽団に比べ、少々出遅れたきらいのある大阪交響楽団から、とても素敵なニュースが発表された。
大阪交響楽団と同様、堺市に拠点を構える芸術団体、堺シティオペラと野間バレエ団が、昨年秋に誕生した客席数2000席を誇るフェニーチェ堺で3団体合同公演を開催するというのだ。オール堺でバレエ、オペラ、オーケストラのコラボレートしたコンサートをどこよりも早く行うことは、進取の気風に満ち溢れた堺らしくて、何だか笑ってしまう。
しかもコロナの問題で、オーケストラはようやく動き出したものの、オペラ団体やバレエ団は活動再開に向けた準備を模索している段階での開催発表。少し早過ぎはしないか?
先日行われた会見でも、新型コロナ感染症対策に関する質問も多かったのだが、大阪交響楽団の赤穂正秀事務局長の発言には驚かされた。
「楽団員や事務局スタッフ全員、今週中にPCR検査を実施して、身の潔白を証明して来週の定期演奏会に臨みます。その上で、月1回ペースで検査を実施出来ればいいのですが。」
堺を本拠地に活動する大阪交響楽団 (c)飯島隆
確かに、検査で感染していない事が証明出来るなら、奏者は安心して演奏に集中出来、観客にとってもこれほどの安心材料はない。しかし、一般的にも十分に浸透しているとは言えないPCR検査受診が、今後オーケストラの新型コロナ感染症対策にどのような影響を及ぼすか、これを受けての他団体の動きが気になるところだ。
コンサートのタイトルは「Teatro Trinitario(テアトロ トリニタリオ)2020」。三位一体劇場という意味のイタリア語だそうで、今回の趣旨にぴったりのタイトルだ。
メインプログラムとして、3つの芸術要素が絶妙に絡むビゼー作曲のオペラ「カルメン」を抜粋版で上演。前半は歌にバレエ、オーケストラ演奏をたっぷり楽しんで貰おうという趣向。
指揮は古くから堺シティオペラと共演を重ね、3団体全てと共演経験のある柴田真郁が務める。
コンサートの聴きどころとコロナ対策について、各団体の責任者に語ってもらおう。
◆堺シティオペラ エグゼクティブ・プロデューサー 坂口茉里
「堺シティオペラは今から42年前に市民が集まって出来た文化団体です。堺から世界へ発信できるような作品を意識し、毎年公演を行って来ました。今回は、ステージ上に広いスペースを取る事と、ホール全体を大きな空間にする事を目的に、反響板を取っ払って舞台を創ります。それにより響きの問題など音楽的なリスクは大きいのですが、今回はコロナ感染症対策がいちばん。合唱団はステージいっぱいに広がって歌います。接触を避け、距離を取り、マスク越しに互いの声を聴き合うのは難しいのですが、稽古で克服したいと思っています。マスクを外すのは本番だけになるでしょうね。素晴らしい出演者を得て、最高の『カルメン』をお届けします」
堺シティオペラ エグゼクティブ・プロデューサー 坂口茉里 (c)H.isojima
堺シティオペラ オペラ「カルメン」(2015.9.5 SAYAKAホール) (c)ひかり写真室
◆野間バレエ団 副団長 野間景
「野間バレエ団は、創立28年の地域に密着したバレエ団です。コロナの件で稽古は3月からオンラインに切り替えて行っておりました。今回は古典バレエではなく、私のオリジナル作品なので、接触を避けた振付にする予定です。稽古は熱中症対策の為にクーラーをかけてやって来ました。3月からオンラインに切り替えて行っていましたが、ようやくスタジオでのレッスンを再スタートしています。マスク着用での練習は熱中症の危険があり大変ですが、この苦労を乗り越えたダンサーは、忍耐力が強く、創造力に長けた素晴らしい強さを持ったダンサーになれると思います。私達も新しく生まれ変わって行かないといけないのでしょうね」
野間バレエ団 副団長 野間景 (c)H.isojima
野間バレエ団「ボレロ・フェニーチェ」(2018.2.11 栂文化会館) 写真提供:野間バレエ団
「今回、私の『ボレロ・フェニーチェ』を上演するにあたり、ぜひKバレエカンパニーのプリンシパル中村祥子さんに踊って頂きたいとお願いをしたところ、快諾を頂きました。『ボレロ・フェニーチェ』だけでなく、ご主人のヴィスラフ・デュデックさんと二人で、ウヴェ・ショルツ振付による「Sonata」を踊ってもらうことになりました。これはラフマニノフのチェロソナタに合わせて踊るもので、チェロとピアノは、ステージ上での演奏。今回のコンサートに相応しい華やかな舞台になると思います」
Kバレエカンパニー プリンシパル 中村祥子
世界を代表するダンサーの一人、ヴィスラフ・デュデック (c)Maria-helena buckley
◆大阪交響楽団 事務局長 赤穂正秀
「大阪交響楽団は今年、創立40周年を迎えた堺を拠点にするオーケストラです。今回オーケストラは、80名ほど入れるオーケストラピットに、弦楽器10型、60名ほどで演奏します。関西のオーケストラとして、コロナ後初のピット演奏だと思います。反響板の問題では色々な意見が出ましたが、今回はコロナの感染対策を第1に考え、音響を担保に、照明や演出の充実が図れるのならと云うことで、良しとしました。ありがたいことに、フェニーチェ堺にある照明機材はすべて使って良いと言って頂いています(笑)」
「それと、楽団員全員でPCR検査を受診し、来週の定期演奏会は身の潔白を証明した上で(笑)、行います。月に1回ペースで検査できると良いのですが」
大阪交響楽団 事務局長 赤穂正秀  (c)H.isojima
大阪4大オーケストラの一つ、大阪交響楽団 (c)飯島隆
◆フェニーチェ堺 副館長 中野郁代
「コロナの問題で4か月ホールを閉めていました。こういう形で皆様にお集まり頂けて大変嬉しく思います。堺を代表する3つの芸術団体が一堂に会し、私共フェニーチェ堺を舞台にお届けする『Teatro Trinitario 2020』。この画期的な公演に堺はもとより、全国からお集まり頂きたいですね」
フェニーチェ堺 副館長 中野郁代 (c)H.isojima
客席数2000席を誇るフェニーチェ堺 大ホール (c)石川拓也
2019年の10月にオープンした堺市民芸術文化ホール(愛称はフェニーチェ堺) (c)石川拓也
◆指揮者 柴田真郁
「生まれは関東ですが、ご縁が有って堺シティオペラの副指揮者として駆け出しの頃からオペラに触れ、音楽を研鑽させて頂きました。おかげ様で大阪交響楽団とも野間バレエ団とも繋がりを持て、多くの方と知り合えました。堺は私にとって原点の街です。フェニーチェ堺で行われる公演に指揮者として選んで頂き、大変光栄に思います」
指揮者 柴田真郁 (c)H.isojima
今回オープニングで、ワーグナー歌劇『タンホイザー』より“愛の殿堂のアリア”を歌う、日本を代表するソプラノ歌手 並河寿美に、会見終了後に話を聞いた。
―― 「Teatro Trinitario 2020」に出演が決まった感想をお願いします。
このような形で3つの芸術団体が団結してコンサートを行うのは前例がないのではないでしょうか。素敵な試みにお声がけ頂いて、大変光栄です。
堺シティオペラとは20年ほどのお付き合いですが、14公演に関わらせて頂いています。コロナ前の今年のプッチーニの『アイーダ』をはじめ、『蝶々夫人』『ラ・ボエーム』、R.シュトラウス『ナクソス島のアリアドネ』、グノーの『ロメオとジュリエット』などオーソドックスな作品から、一昨年の青島広志氏の『黒蜥蜴』まで、レパートリーを広げて頂いています。毎回、アットホームな雰囲気の下、親身になってサポートして頂きとても感謝しています。堺シティオペラのお陰で、今の自分が在ると思っています。
日本を代表するソプラノ歌手 並河寿美 (c)H.isojima
―― ここフェニーチェ堺の印象をお聞かせください。
今年1月の『アイーダ』でステージに立たせて頂きましたが、まず思ったのは「天井が高い!」という事。そして次に、お客様との距離が近いという事です。よく響く大きな空間や、お客様の反応を身近に感じられる事は、歌い手にとって大変プラスに働きます。温かな素敵なホールだと思います。
―― 『アイーダ』の頃はまだ、こんな事になるとは思いませんでしたね。ずっとステイホームされていたのですか。
そうですね。家を出るのはやはり怖かったです。ステイホーム中に入って来る連絡は、すべて公演のキャンセルばかり。楽しみにしていた大阪音大の吹奏楽演奏会も、枚方シティオペラの「スペシャルアリア・コンサート」も、東京・春・音楽祭の「子どものためのワーグナー」《トリスタンとイゾルデ》も、大阪フィルと名古屋フィルの定期演奏会「ミサ・ソレムニス」もすべてなくなりました。一部のコンサートは延期となって、いずれご一緒する機会は有るのですが…。
私たち歌い手は、本番の舞台をモチベーションにやって来ています。歌う事はメンタルが重要なので、コロナ騒動の終わりが見えない中だと、ここまで落ちていくかなと思うほど。とても歌う気持ちにならなかったですね。
今回、3団体でやろう!という決断は、私たちには大変ありがたいことでした。
堺シティオペラ オペラ「黒蜥蜴」緑川夫人役の並河寿美(2019.2.3 ソフィア・堺) (c)ひかり写真室
―― 教えておられる大学での授業はずっとオンラインだったのですか。
はい、ずっとオンラインでしたが、最近ようやく対面になりました。パーテーションを立てて、マスク越しのレッスンですが、アンサンブルはまだ当分は無理。学生一人に対して指揮者に歌の先生にピアニスト。贅沢な授業です(笑)。
―― ステイホーム中に東日本大震災チャリティの、ズービン・メータ指揮「第九」の演奏が再放送されました。何ともグッドタイミングでしたね。
今回初めて見たという人が意外と多くて、私の周りではとても反響が大きかったです。視聴者の皆さまから、東日本大震災チャリティのメータ指揮の「第九」再放送を求めるリクエストが多かったと聞きました。
舞台上に並ぶオーケストラと合唱団、それに満員のお客さま。今回改めて見て、密の状態が当たり前だった当時のコンサートの状況が「当分の間は叶わないんだなぁ」と、とても切ない気持ちになりました。あの演奏会に関われたことはとても嬉しく、私の誇りです。
―― 今日のような記者会見も久し振りで、緊張されたのではないですか。
家で背筋を伸ばして長時間座っている事があまりないので、背中がつりそうでした(笑)。
堺シティオペラ オペラ「ルサルカ」ルサルカ役の並河寿美(2007.9.7堺市民会館大ホール) (c)ひかり写真室
―― 本番当日に向けてメッセージをお願いします。
この後、コロナがどうなるのか分かりませんが、プロの音楽家としては、最善を祈りつつ、最悪に備えて参ります。当日はたくさんの方に楽しんで頂きたいです!
―― 並河さん、ありがとうございました。
まずはこのタイミングに、堺が誇る3つの芸術団体による画期的な公演をやろう!と決断されたことにエールを送りたい。
考え得る限りのコロナ感染症対策を施し臨むステージ。この公演の成功が、音楽家や舞踏家の背中を押し、ひとつのメルクマールとなるだろう。何事も最初の一歩を踏み出すのは勇気がいる。
「Teatro Trinitario 2020」の成功を祈っている。
「Teatro Trinitario 2020」にお越しください! (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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