長谷川白紙

長谷川白紙

【長谷川白紙 インタビュー】
ひとつの形態でありたくない
という根本的な欲求がある

DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を駆使した独創的なソングライティングが注目を浴び、ネットシーンではすでに絶大な支持を得ている長谷川白紙がアルバム『夢の骨が襲いかかる!』を発表。7曲中6曲がカバー曲であり、全編ほぼ弾き語りという、これまでとは異なるアプローチとなった今作から新世代アーティストの本質を探ろうと試みた。

私がやっているんだから、
全部私がやりたいこと

新作『夢の骨が襲いかかる!』はほぼ弾き語りアルバムと言っていい作品で、楽曲の展開が複雑で音数も多かった前作『エアにに』(2019年11月発表のアルバム)、前々作『草木萌動』(2018年12月発表のアルバム)と比べてずいぶんとシンプルになった印象があります。まず、今作の制作の経緯と動機を教えてください。

経緯は…結構長い話になっちゃうんですけど(苦笑)。『エアにに』とその軸になっている「あなただけ」という曲を書く時に、本質主義への批判を交えて制作していたんですね。どういうことかと言うと、“生まれ持ったものだけが素晴らしくて、それを取り繕ったり、隠すのは悪いことだよ”みたいな風潮ってあるじゃないですか。それは個人的に違うと感じていて、“それはおかしいでしょ?”ってことを言うために、「あなただけ」ではトランペットやトロンボーンなどを再現してできたソフトウェア音源を使っているんです。それを鳴らす時に実際の演奏では到底難しいというか、原理的に不可能なことをいろいろやっているんですね。要するに主客の転倒が起きているというか、このソフトは楽器の音を再現したものだったんだけど、実際の楽器にはないオリジナリティーを含んでいるという象徴的な作曲方法で、それを取り入れることで本質主義への批判を交えて指向していたんです。でも、『エアにに』がそういうステイトメントのもとにあるとか、“このアルバムはこういうことを言いたいから作ったんだ”みたいなことでは全然なく、あくまでもそういう思考の下敷きがあった上で表出した音楽ってだけの話なんですけど。『エアにに』を作った直後くらいから、自分としては本質主義的なものへの回答としてうまくやれた気がしてたけど、もしかしたら…さっきおっしゃっていただいた展開や音色の過剰性が、ただ単に反骨精神にとらえられてしまう危険性があると思ったんです。

危険性というのは?

“リスナーが私の思ったように聴いてくれない”という話ではなく、単純に制作論として、こちらが回答しきれてない部分があるんじゃないかと思ったんです。で、私が音楽をやっている根本的な動機は軽率なカウンターみたいなものではないということをどうやったら表明できるのかと考えた時に、弾き語りをして、その弾き語りの段階から自分の身体が過剰であるというのを示すことが、ひとつの面白い手段だと思ったんです。あと、単純に歌うのが楽しくなってきて、自分の声質をある種の特殊奏法みたいにして、いろいろ追求できるシチュエーションが増えてきたんですよ。それをたくさん使ってみたいと思ったんです。だから、今作を作った動機は単純に音楽が楽しいからという理由と、前作からの地続きというふたつの理由が主にあります。

なるほど。我々は“今作は前作と比べてこうなりましたが…”と比較しがちなんですけど、長谷川さんにとっては『夢の骨が襲いかかる!』も『エアにに』も等価値であるというとらえ方でもいいでしょうか?

う~ん…おっしゃっていただいた比較することは無駄ではないというか、真っ当な手段だとは思うんです。『エアにに』に比べて今作は弾き語りになっているし、それで見えることや違いがなければ、それはそれで私も困るというか(笑)。でも、作品単位で考える時に必ずしも地続きなものとして見てほしいわけではなく、私が言いたいのはもっと簡単な“私がやっているんだから、全部私がやりたいことなんだ”ってことだけなんです。

先ほど言っていた“歌うのが楽しくなってきた”というのはそういうことですよね。今作の弾き語りのスタイルが、今自分がやりたいことに沿っているという。

そうですね。シンプルな言い方をするとそうなります。

これは結論めいた話になっちゃいますけど、私が思うに今作は前作に比べて音数は減っているものの、基本的なポップセンスは変わってないのかなと。

そうですね。私は試行回数がめっちゃ多いんです。“このドラム、どうしよう?”という時に何パターンも試すんですよ。1小節だけでも30個くらい試すのが普通で。今回の弾き語りも自分でiPhoneに録音しながら、“この展開はどっちのほうがいいんだろう?”とか“どっちの和音がいいかな?”ってとことん作り込んだというか(苦笑)。事前に設計図を書いていくように構築しているんですけど、即興性がないということではなく、むしろ即興性の塊がバーッと構築された…みたいなことで。なので、過剰性とポップセンスが変わらないというのは的を射ていますし、自分でもそう思います。作り方はあんまり変わってないです。

弾き語りは鍵盤でコードを鳴らし、歌がない部分はメロディーを弾いて、その上にヴォーカルが乗るっていうスタイルに考えがちですけど、今作はそうではないと。即興性もあるけど、アドリブではないというか。

無数のアドリブが結果としてあるというか、それは『草木萌動』や『エアにに』の時もずっとそうだったんです。なので、今回も実はそんなに変わってなくて、アドリブで構築されているところや構造的に思いつきでやっているところとか、いろんなところがあります。

音数が少ないからと言って決してシンプルではないというのはよく分かりました。

そう言っていただけると嬉しいです。

選曲は結構練ったというか、考えた末でのチョイスですか?

選曲に関しては、全部私がメロディーを深層的に覚えていて、お風呂に入っている時に歌っちゃうような曲を選んでいます(笑)。でも、“これで行きましょうか”というのを出してから決まるまでに結構時間がかかったので楽ではなかったんですけど、“この曲をカバーしたぞ! どうだ、意表を突いただろう!”みたいな感じでは考えてなかったですね。

ジャンルも時間軸もバラバラで、多岐に渡っているという感じはあります。

そうなんですかね? 自分で見返してみると、あくまで自分の興味の範囲内というか、結構限定的なところはあると思ったんですけど。

ディズニー音楽、デジタルを取り込んだロックバンドのサカナクション、3ピースのファンクロックのサンボマスターと、これだけでもかなり異なる印象ですが、長谷川さんにとっては自然なチョイスなんですね。

そうですね。今回はそのほうが面白いだろうと。

これは今作の特徴であると思うんですが、全曲が躍動感にあふれていますよね。ファンキーでダンサブルと言いきってもいいと思うんですが、ご本人的にはどう感じていますか?

あぁ、確かに。いろんな曲を書いてきて“この曲はOKか? OKじゃないか?”を判断する時に、自分が聴きながら踊れたり暴れたりできたらOKという判断基準がひとつあって、それも今作で採用されています。

あと、ここに収められているテイクは歌もすごくエモーショナルな印象があります。

ありがとうございます。気持ちは入ってますね。

今までの作品のヴォーカルに気持ちが入っていなかったというわけではないと思いますが、今回はそこが大きく違っているのかなと。

そうだと思います! 単純に歌で表現するというところに興味が向いてきているというか。まだ練習中ですし、改善点はいくらでもあるんですけど、自分の中で歌が自由になってきているんですよね。『エアにに』を作ったのって1年前になるので、やはり1年あると自分の歌い方って結構変わってきます。そういうシンプルな面があるんだと思うんです。

冒頭でも“単純に歌うのが楽しくなってきた”とおしゃってましたが、その辺がもろに自分のパフォーマンスに出たんでしょうね。

はい。今作は特に出ていると思います。
長谷川白紙
アルバム『夢の骨が襲いかかる!』

OKMusic編集部

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