カツセマサヒコがMOROHA自主企画『私
語厳禁』で感じたコトーー「発熱。そ
の日、世界と、鳴った音。」

MOROHA自主企画『私語厳禁』@渋谷WWW X
コロナ禍による非常事態宣言が解除されたすぐ後に、人生で初めての本が出た。
書店に並んでいるところが見たくて電車に乗ってみれば、いつもならもっと過密なはずの小田急線や山手線が、やけに空いている。あれだけ企業が渋っていたはずのテレワークもすんなり導入が進んでいくし、PM2.5などの大気汚染は、ここ数週間で劇的に数値が改善されたとキャスターが言った。
人類が何年かけても改善できなかった未来を、疫病がわずか半年で成し得ていく。なんとも皮肉な話に、真顔で笑った。それらと引き換えに、もうしばらく脚を運んでいない、ライブハウスや劇場のことを思った。
「ZOOM飲み」という画面越しでの飲み会に、頻繁に呼ばれた。参加してみたら、急にボードゲームのようなものが始まり、ただ居酒屋でグラスを見つめてダベっているのが好きな自分とは相性が悪過ぎると思って、次から参加を辞めた。
4月を振り返ればレジェンド級の有名人が亡くなって、それを人柱とするように自粛ムードが深刻化して、でも、それもすぐに忘れて。『100日後に死ぬワニ』で死というコンテンツについて熱く語る人もいれば、そもそも日本の自殺率自体がグッと下がっているという皮肉な結果に言葉も出ない。誰かの命日が、誰かの誕生日である今日も、どこかで誰かの夢が叶い、誰かが悔し涙を流している。それらをいつまでも追悼している余裕もなく、タイムラインやバイラルチャートは、濁流のように流れていく。
片っ端から忘れていかないと、新しいものを詰め込めないから。
そんな言い訳を、救いを、都合の良い体質をインストールして、東京は走り続けていく。
ライブハウス、夜の街。
強引にでも敵を作って、そこにいる人たちに遠巻きな死を宣告していくのが、偉い人たちのできること。友人の勤めていた飲食店は5月には潰れて、あいつは今でも職を探してる。開催されなかった五輪。開かれない海。上がらなかった花火。中止になった夏フェス。それなのに実施される3,000人規模の政治家によるパーティ。冷え切った世界に呼応するように、7月は気温が上がらない。八方塞がりな「Go Toキャンペーン」が、なんとも中途半端な状況のまま施行されようとしている。
誰も予想できない始まりを見せた7月に、「MOROHAのライブレポートを書いてくれないか」と、アフロさんから依頼が届いた。小説を読んで、何か一緒にやりたくなったから、と、漠然とした誘いが来て、そのことにひどく驚いた。
誰一人として人間を信じられなくなった夜。電気もつけずバスタブに浸かって、MOROHAの「tomorrow」をかけながら翌日への活力を蓄えていた。あの日、真っ暗な浴室が僕専用のライブハウスとなって、その最前列で聴いていたギターとラップ。ギリギリの淵にぶら下がっていた自分を拾い上げてくれた音楽に、恩返しができるなら。
二つ返事で引き受けることが決まると、早速、詳細が届いた。
MOROHA自主企画『私語厳禁』@渋谷WWW X
コロナ禍において多くのアーティストがライブを延期や中止、配信に切り替える中、実際に観客を動員してのライブ開催。来場者はソーシャルディスタンスを保てるよう、一定の間隔を置いた座席に着席状態で観賞。タイトル通り私語は厳禁となり、パフォーマーの二人以外は、マスク着用を義務化。
来場時の検温や最大限の換気など、できる限りの配慮を見せてはいるものの、ハッキリ言って、挑戦的だった。そもそも、観客同士が一定の距離を取り、座り、一言も喋れない、歌えない、叫べないライブだなんて、楽しいのだろうか? やりきれるだろうか? 成立するのだろうか? 一瞬想像してみて、他のアーティストならうまくいかないよな、と思った。
でも、MOROHAなら。
MOROHAなら、きっとこの一夜は、コロナに向けて放たれる音楽の逆襲となるんじゃないか。打つ手ナシの音楽業界に見せつける、小さなカウンターアタックになるんじゃないか。2020年の音楽シーンに名を刻む、伝説の一夜になるんじゃないか。素人ながら、勝手にそんな予感がした。久しぶりの大一番に、自分ができることを精一杯やろうと決めた。そう決めたはずだった。
でも、ライブ当日、僕がその会場に行くことはなかった。
朝起きると、体の内側に違和感がある。
皮膚一枚挟んでその奥、全身がどろりと溶けたような、腫れぼったい感覚。
頭が膨張しているような気がする。重たくて、フラついて、まっすぐに立っていられない。嫌な予感がして、半年ぶりの体温計を、脇に挟む。上昇して行く数字を、二重アゴを作りながら見守った。
数字は37度6分から8分を、行ったり来たりしている。かろうじて、37度台で収まるだろうか。それならまだ、大丈夫か。安心しかけたところで、急に表示が38度4分までジャンプして、直後、決定アラームが鳴った。
死刑宣告のようだった。頭によぎるのは、ここ二週間で出会った、得意先や友人たちと家族。僕と濃厚接触した人たちの顔。そして、明日開催予定のMOROHAのライブのこと。
「ここでだけは倒れちゃだめだよな」という日にこそ倒れてしまう自分は、やっぱり物語の主人公ではないのかもしれない。それどころか、この二週間で接触した人たちを思えば、圧倒的悪役のようにも思えた。
重たい頭を氷枕に沈めながら、スマホを構える。返さなきゃいけない連絡は何か。伝えなきゃいけない相手は誰か。整理しきれず、まずはマネージャーにメッセージを打った。
「MOROHAのライブ、やばいですね」
「明日だよね?」
「明日です」
「もしも俺が、コロナ感染者だったら?」
「絶対アウトです。万が一感染拡大したら、これまでMOROHAの培ったものが、全て吹き飛びます」
Googleカレンダーに書かれた「MOROHA!!!!!!!!!」の文字。エクスクラメーションマークの数が、そのままこの日の期待を表していた。とりあえず現状を報告しますとマネージャーが言って、連絡は一度途絶える。本当にすみません。不摂生な自分の生活を恨みながら、コロナではないことを願って、僕は病院に向かった。
「こんなハズじゃなかった」と思う瞬間を、いつまでも繰り返していくのが人生だとすら思う。
診断の結果は、コロナではなかった。友人たちを巻き込まずに済んだことに大きな安堵を覚えながら、それでもキャンセルせざるを得なかったMOROHAとの仕事に、想いを馳せる。
丸2日は回復せず、寝たきりの状態で、SNSも、ライブ当日の配信も、FANZAすらも見ることができなかった。
MOROHA
MOROHAのライブが終わって2日が過ぎた、7月14日。
こんなハズじゃなかった僕のMOROHAライブ鑑賞は、アーカイブに残された配信を見ることで始まった。
MOROHA
等間隔で置かれた座席に腰掛けているオーディエンス。とてもライブと呼べる空気でなくて、何かの説明会のようにすら思えた。正面のステージには、いつものMOROHAのバンドロゴ。これからパフォーマンスする二人だって、きっとこんな異様な空気で演奏すること、平気でいられるわけがないだろう。
感染が確認されたら一発で終わりかもしれない。普段のライブとは別のプレッシャーも襲いかかる中で、アーカイブ放送は、開演の時間を迎えた。UKさんが台座の上に鎮座して、チューニングの後にギターを構える。その横でマイク一つ握りしめて立ち尽くしたアフロさん。「始めます」と力強く言うと、いよいよ幕は、上がった。
MOROHA
一曲目から、「YouTubeをご覧の皆様へ」と「ストロンガー」。辿り着けなかった現地から届いた、画面の向こう側にいる僕へのメッセージ。力強い言葉の中に、意地でも僕のいるこの部屋まで届けようとする二人の熱が届く。目前にいたら、どれだけ気迫に満ちていただろう。なんだか悔しさが込み上げて、耳から水が抜けるように、涙腺が緩む音がした。
MOROHA
代表曲の「革命」、過去に正面から向き合う「俺が俺で俺だ」、ハイスタではなく、<ナンバガ復活よりもぶち上がれ>と歌詞を言い換えた2020ver.の「上京タワー」、止まない雨の中で力強く鳴り響く「スコールアンドレスポンス」(最近のMOROHAで一番好きだ)。
聴きたかった曲が惜しげも無く披露されていく。それでも会場は、音が鳴り止めば、基本、無音だ。1秒前まで風船のように広がり続けた楽曲が、最後の一音が鳴った瞬間に、急激に暗闇に収束されていく。そうして繰り返される、感情と音楽と、呼吸の起伏。
MOROHA
会場は、この瞬間、どんな空気なのだろう。映像を見ていると、アフロさんがカメラに目を合わせて歌っている(ように感じる)瞬間がある。そのとき「今この曲は、僕に向けて、僕だけに向けて、歌ってくれている」と思う。深夜帯に聴いたラジオのようで、背中にじっと汗が滲んで、こちらもそれに食らい付こうと、目と耳と、心を澄ませる。
MOROHA
そして終盤、MCを挟んで、<浮かんだ顔に明日会いに行こう>と、もはや当たり前だったはずのことすら難しくなった今歌うからこそ響く「スペシャル」と、僕をあの暗闇のバスタブで支えていた「tomorrow」。
”外へ出かけよう 会いたい人に会いに行こう
この言葉が 不謹慎だ なんて言われちまう未来を一体誰が想像してた?
ついでにこんな弱っちい自分自身を
ブレブレの叩かれて うつむき続ける情けない自分自身を 一体誰が想像した?”
「tomorrow」演奏前、アフロさんはアドリブでこのように告げた。心の声に対して、誰が笑うことができただろうか。僕は、あの体温計の表示を見た瞬間に狼狽した自分を思い出して、耐えきれず目を瞑った。
MOROHA
ラストナンバーとして何度も演奏されてきた「四文銭」に続いて、まさにこのライブのメインテーマともいえる「主題歌」が、最後に演奏される。会場を撮影していたカメラが途中、渋谷の街を徘徊するように進んでいき、日曜夜のスクランブル交差点を写した。
迷い、悩み、自暴自棄になり、逃げ場のない不安や行き場のない不満に苛立ち、それを振りほどくことも、拳を振り下ろすこともできず、また体内にしまいこむ。そうして生きている私たちの「主題歌」が、夜の渋谷に溶けていく。
彼らはこの日、たくさんの逆境を乗り越えて、渋谷の坂の上、WWWXでライブを終えた。アフロさんは、最後の最後の最後まで、僕らに問いかける。「君は、何がしたい?」と。
できることは、ますます限られていく。会いたい人にすら、気軽には会えない日が続く。それでも、日常は繰り返されていく。
「君は、何がしたい?」
MOROHA
取材・文=カツセマサヒコ 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-

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