鈴木拡樹「演劇に興味を持ってもらえ
ることが、今、一番嬉しいことです」
 舞台『時子さんのトキ』インタビュ

田村孝裕書き下ろしの新作舞台『時子さんのトキ』は、離婚し夫と息子と離れて暮らす時子と、時子の心の隙間を埋める路上ミュージシャンの青年・翔真の愛のお話。そして、ふたりを取り巻く様々な人々が織りなす人間ドラマだ。翔真に多額の金を“貸し”続ける時子を演じるのは高橋由美子。時子に甘えてのらりくらりと生きる翔真役を演じるのは鈴木拡樹。この、ちょっと他人には受け入れがたい愛の形の物語についてどんな思いを抱いているのか──久しぶりに現代に生きる私たちと地続きの役柄でストレートプレイに挑む鈴木に、その心境を語ってもらった。
ーー本作の企画を最初にお聞きになった感想は?
僕は、今まで「愛にまつわる物語」をやってきたかもしれないですが、「恋愛モノ」ってなるとあまり本数が少なくて……。純愛とはまた違うストーリーなので難しいなぁとは思うんですけど、そこをしっかりと創り上げていきたいという自分への期待も込め、本作に参加することを楽しみにしています。​
鈴木拡樹
ーー主人公の時子は偶然出会った翔真に息子の面影をみて、やがて多額のお金を貸してあげつつ一緒にいることでひとりの寂しさを埋め、翔真も時子を必要としていく。確かに恋愛モノではあるけれど、このふたりの「愛」は不安定さ漂うちょっと変則的な形で……。
そうなんですよね。僕は、純愛モノの作品をいただけていないので……(爆笑)。愛の物語としてはこっち方面のほうがまだ可能性があるのかなぁと。
ーーなるほど(笑)。鈴木拡樹という俳優には、ストレートな恋愛モノよりもクセのある恋愛モノをやって欲しくなる匂いがある?
なんでしょうねぇ……。ただ自分で「やっぱりそうなのかなぁ」って、最近ちょっと思っています(笑)。僕の場合は大人の純愛モノに辿り着くまで、まだプロセスを経ないといけないのかもしれない(笑)。
ーー騙しているのか本気なのか。掴みきれないところがある翔真というキャラクターについての印象はいかがでしょう?
自分との共通点を探してみると……お互い形は違うかもしれませんが、生き方が不器用なところかな、と思ったんです。これだけ曲がった愛の形しか表現できない人ですし。だから台本を読んだら、また共感できる部分もたくさん見つかるんじゃないかな。時子さんに多額のお金をもらいながら生活している翔真、ふたりの中ではそれをよしとする関係があるという周りからは理解しがたい愛の形っていうものを描いていくので、自分はそういう部分を今回は楽しみたいなと思うのと、あとは演出の田村さんが翔真を「すごいダサくしたい」とおっしゃっていたので、稽古では人間的なダサさっていうのをすごく考える時間を作っていくのかなと思ってます。ちなみに「ダサくしたい」というのは、さっき聞いたばかりなんです(笑)。
鈴木拡樹
ーー翔真と時子との愛は理解できますか?
どうでしょう。でもこれから理解していかなきゃですね。今は頭ではたぶん理解しているんですけど、どういう感覚になるのかは一人で考えていても……というところはあるので、時子さんとどういう関係性を作っていけるのか、というのは楽しみです。稽古期間、毎日発見はあると思うんです。その中で気づいたことを大切にして、もしかしたら今回は稽古の様子を映像に残して、見返しながらいいところを探していくのがいいかなって思ってたりもしています。恋愛モノは出演もですけど、作品自体もそんなに多く観ている方ではないので、そうした感触はとにかく自分でやってみて体験していきたい。プラス、機会があれば参考にいろんな作品を手にとってもみたいです。
ーーなにか気にしてる作品はありますか?
今は阿部寛さんの『結婚できない男』とか。以前見た記憶があるんです。その記憶を頼りに、改めてまた見れたらいいなって思ってます。阿部さんがかっこよすぎで「ダサい」とは言えないんですけど、でもなんかああいうテイストの……“阿部さん史上ダサい”っていうラインでの表現と言うのかな、そういうところでなにか掴めるモノがあるかもって。もちろん直接反映できるわけじゃないと思いますが、「こういうところだよなぁ」って気付かされることがありそうです。
ーー劇中では翔真ともうひと役、時子の息子の登喜も演じられますね。
自分の中では「全く別の人物」という意識だけで演じようと思ってるんですけど、きっとどこかに面影を感じる瞬間があるのかなぁと思っていて……。それは時子さんの中でそう思ってもらえることがあるように構成できたら嬉しいなとは、今、思ってます。お客様に対しては演じている役者が同じって時点で多分イメージを重ねやすいとは思うので、そういうメリットもあっての、この一人二役なのかな、そこに狙いがあるんだろうなって思っています。
二役に関しては自分の中では難しさというより、ちょっとお得感を感じてるところ(笑)。ひとつの作品の中で二人の人生を演じられるんだなぁって、楽しみです。ちなみに登喜は僕が演じる年齢よりもっと小さな頃は矢部太郎さんがやってくださるらしいです(笑)。ほかにも共演の皆さんはいろんな役を演じられるので、そこもすごく楽しみにしてます。僕は多分ふざけどころがないんだと思いますが、その分、皆さんがいい意味で演劇ならではの嘘というか、舞台上で明るい空気を作ってくれる瞬間とかがあるんじゃないかな。
また、翔真に関してはいくら共感できない恋愛の形って言われても、どこかで「わかる」っていう瞬間はあると思うんです。そういうところでちょっとクスッときて微笑ましい感じになってくれてもいいのかなと。ああいう青年なので観てくださる方にどれくらい共感してもらえるのかわからないですが、100%中、3%くらいの方が味方についてくれたら嬉しいかな(笑)。「わかるわかる」って。
鈴木拡樹
ーー時子を演じる高橋由美子さんの印象もお聞かせください。
ビジュアル撮影の際、ふたりで寄り添っているシーンを撮ったんです。その時に「目を合わせてください」という指示があって目を合わせて撮ったショットがあるんですけど、なんていうんでしょうね……目の奥からすごーく愛が伝わるというか、包まれる感じがして、「すごく愛の深い方だな」って感じました。その時すでに高橋さんに時子さんのスイッチが入っていたかどうかはちょっとわからないんですけど、でも大きな愛を、感じました。そこで稽古場でもきっとこういう空気感のやり取りがあるんだろうなぁって思いましたし……。「舞台は空気が大事」ということもおっしゃっていたので、それをまず撮影で感じさせていただいて、「すごいな」って思いました。
ーー時子と翔真はひとりで生きていく中、互いに癒す・癒される存在として寄り添っていったのだと思います。鈴木さん自身はそういう……誰かと心を通わせて繊細な思いを分かち合うやり取り、癒す・癒されるという経験で心に残る人間関係はありますか?
このお仕事をしていると、「人は支え合って生きてるんだな」ってことをより実感するようになっていて……。自分にとってのそういう存在は、デビュー当初に一緒にお芝居していた仲間ですかね。彼らに対してはとても特別な感覚があります。普段、離れていても情報は入ってくるので、「今はこういう仕事してるのか」とか「ミュージカルもやってるんだ」ってことを知るとそれだけでもなんだか嬉しくなりますし、「お互いに頑張っているな」って、どこかでこちらも支えられている気持ちになります。
あとは『最遊記歌劇伝』という、今でも続いてるシリーズの舞台作品があるんですけど、そのメンバーの存在も大きいです。別の場所で一緒にお仕事するときもなんですけど、やっぱり強く支え合ってるんだなってことを感じる瞬間がたくさんあって。僕にとっては「心強い」という言葉が一番しっくりする表現なんですけど、この存在、この関係、この感情は自分自身にとっての癒しに繋がってるなぁと思います。安心感ですね。これからもその関係はなくなることはないと思います。
鈴木拡樹
ーーでは、誰に何を言われても曲げない自分の正義、貫きたいマイルールがあるとするなら……。
趣味のランニングがそうですね。周りの人に「なんでそんなに走るの?」って言われちゃうくらい、ずっと毎日走ってます(笑)。でもこれって明確な理由はなくて、本当にもう日常の一部になっていて……いつぐらいからやってるのかも、自分でももう明確には覚えてないんです。でもすごい小さい頃から走っています。
ーーそうだったんですか!
楽しかったんでしょうね〜(笑)。「遊びに行く」の感覚で「走りに行って」たので。だからなんなんでしょう……夜ならその日、一日のことを思い返すこともありますし、あと、季節ごとの空気を感じたりとかっていう瞬間も好きです。でもそれも意図して「季節を感じたい」って走るわけではなくて、たまたまそんなことを感じた時にふと「小さな幸せの発見」みたいなときめきを得られるということだし。うーん、自分にとってのランニング……改めて考えても、もう習慣の一部としか言えないですね。
ーー理屈じゃなく、走らずにはいられない。
そうですね。さすがに自粛期間中は外に走りに行くのは控えてたんですけど、解除されてランナーの方を見かけるようになったな、というタイミングで僕も久しぶりに走りに行って。普段も地方公演中は走らないようにしているので全く走らなくても一週間、二週間くらいなら耐えられるんですけど……って、「平気」ではなく「耐える」って言っている(笑)。それくらい、生活の一部になっています。
鈴木拡樹
ーー『時子さんのトキ』の公演は9月。鈴木さん自身も世の中もまた少しずつ本来のモードに向けて動き出した今、改めて舞台に立つ日を想像すると?
不安に感じることもあります。自粛が解除されたからと言って、またお客様が演劇に興味を持ってくださるのか……また、興味を持って観に来てくださったお客様でも劇場でお芝居が始まった瞬間、おそらくそこで一瞬距離を感じてしまうと思うんです。今の状況だと本編が始まってもいつも通りすぐに舞台の世界観に入ってもらうことは、非常に難しいのではないかなと。
ーー劇場にいる役者も観客も、一度スイッチを入れ直すタイミングはあるでしょうね。
はい。頭の片隅に「最初はきっと緊張感のある客席の空気にはなるんだろう」という思いを抱いて、舞台に立つんだという覚悟は今からしています。ただ、僕自身も舞台をじかに観て、舞台の魅力を知った人間ではあるので、お客様にもまたここで実際に観てもらうことで生の舞台の楽しさを体験して欲しいですし……。この数ヶ月、お芝居って世の中が健康であったりとか幸福であったりしないと成り立たないものなんだなぁっていうのは僕自身すごく感じていました。だから今はやっぱり演劇に興味を持ってもらえるっていうのが一番嬉しいこと。舞台は求めてくれる人たちがいるからこそ成り立つし、求めてもらうことは僕らの目標にもなります。
そんな中でまた「演劇が観たい」と集まってくださった方に、作品のテイストとしては重くなる瞬間もあるかもしれないですけど、日常を少し忘れられるような特別な空間を僕らは届けますし、その時間を共に大切に過ごしたいと考えています。そして前までの環境にできるだけ早く……何年もかかるかもしれないと思ったりもしますが、でもできるだけ早く戻せることができて、そこからさらに上を目指していけたらというのが正直な僕の思いです。なので、公演を楽しみにしてくださっている方、劇場に行こうと思ってくださっている方、本当にありがとうございます。久しぶりに皆さんに言える言葉かもしれないですけど、劇場でお待ちしています。
鈴木拡樹
取材・文=横澤 由香 撮影=iwa

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