『夏雲ノイズ』で示された
優れたバランス感覚に
スキマスイッチの秀でた
音楽的才能を見出す

ウィットとリスペクト

M5「きみがいいなら」はやわらかなメロディーでコーラスもさわやかな雰囲気だが、リズムが硬質なロッカバラード風。M6「ドーシタトースター」は前述の通り、ピアノソナタ的な綺麗めなナンバー。いずれも音数は少ないものの、しっかりと楽曲の世界観が構築されている印象が強い。パーカッシブで情熱的ラテンフレイバーのファンクチューン、M7「君の話〜エヴォリューションMix〜」。ボサノヴァタッチというかカントリー調というか…な、速すぎず遅すぎない絶妙なテンポのポップチューンM8「僕の話」。この2曲も、件の“いい塩梅”な楽曲である。M7もM8も“これだ!”と明確にジャンル分けできるとタイプではないものの、いずれも楽曲を構成する要素がそれぞれにおいてなくてはならないものとなっているのは間違いない。各々にある要素のどれかの分量が増えたり減ったりするだけで、おそらく楽曲全体の雰囲気は大分変わるだろう。ここでも巧みなバランス感覚が発揮されているように思えるのだ。M7、M8について言えば、これを連続するユーモアセンスは決して見逃してはいけないところでもある。斉藤和義の3rdアルバム『WONDERFUL FISH』(1995年)にも「走って行こう」の次が「歩いて帰ろう」なんてことがあったが、ロック、ポップスにはこういうウィットに富んだ面も必要不可欠だろう(そこでもその分量は大事なところで、コミックバンドにならない程度の節度は必要だろう)。どちらの曲にも山本拓夫の吹くフルートがフィーチャーされていて、組曲風になっているのも心憎い。

以降、アルバムはM9「種を蒔く人」、M10「キミドリ色の世界」、M11「えんぴつケシゴム〜overture〜」と続いていくのだが、そのいずれの楽曲もそこはかとなくThe Beatlesを感じさせるのは気のせいだろうか。“そこはかとなく”というのがポイント。“ここは「Strawberry Fields Forever」みたいでしょ? あそこは「Penny Lane」っぽいでしょ?”という感じではなく、その雰囲気をさりげなく感じさせるのである。M9とM10は中期のサイケデリックロックの香りを、これもまた過度、華美ではなくあしらっている印象だし、M11の後半の合唱部分は世界中の多くのアーティストが参考にしたであろう「All You Need Is Love」の空気感がある。彼らもまたThe Beatlesへのリスペクトを公言しているアーティストであること知ったからこそ、余計にそう感じるのかもしれないが、そう思ってしまうとその想像を禁じ得ないThe Beatles感ではないかと思う。

アルバムのフィナーレを飾るM13「奏(かなで)」は、2ndシングルとしてロングセールスを記録し、今に至るまで数多くのアーティストにカバーされたスキマスイッチの代表曲のひとつ。初出から15年以上経った今聴いても古びた感じがない、エバーグリーンな輝きを持ったサビのメロディーが秀でた申し分ないナンバーなのだが、ここでもスキマスイッチのバランス感覚がうかがえる。注目はCメロ。《突然ふいに鳴り響くベルの音》から《君がどこに行ったって僕の声で守るよ》のパートである。ここで大橋はソウルフルなボーカリゼーションを見せており、わりと熱唱と言うべきパフォーマンスを披露しているのだが、そこがとてもいいアクセントになっているように思う。ここもまたこのくらいの熱さで、Cメロくらいの分量がちょうどいい。こうした歌い方が多くなると熱すぎて“いす×のトラ×ク”っぽくなるだろうし、楽曲内でこうした歌い方が多いと泥臭くなるだろう。最後の最後まで、どこまで意識的だったか分からないが、徹頭徹尾、いい塩梅なのである。

恋愛から派生した想いのリアリティー

歌詞も実にバランスがいいように思う。代表曲のひとつであるM13「奏(かなで)」で以下のように歌っているのだから、スキマスイッチというユニットは主に恋愛から派生する想いをメロディーに乗せていると思われがちではなかろうか。

《抑えきれない思いをこの声に乗せて/遠く君の街へ届けよう/たとえばそれがこんな歌だったら/僕らは何処にいたとしてもつながっていける》(M13「奏(かなで)」)。

いや、それはそれで間違いではないのだろうが、決してスウィートなだけではないところが、歌詞の面では彼らの特徴であるような気がする。何しろM1「螺旋」からこんな歌詞である。

《どこで間違っていったんだろう/何でなんだ 壊れてゆく/どこですれ違っていったんだろう/何でなんだ 壊れてゆく》《どこで間違っていったんだろう/わかってたなら…あぁ…/なんでこんなに君が溢れ出してる/愛ってなんだ? わかるもんか》(M1「螺旋」)。

冒頭からいきなり《わかるもんか》とはなかなかの突き放し方である。アーティストは教祖でもないわけだから、むしろこのくらいの方が、個人的には好感が持てる。極めつけはM5「きみがいいなら」だろう。こんな歌詞である。

《君は僕の名前を呼んで 僕は君の名前を叫ぶ/邪魔する人がもしもいるなら 僕に言ってよ/頼むから》《君が言うなら/人だって刺せるよ/君が言うなら》《全てのことから君を見守るよ/たくさんの目や耳を使って》《君がいいなら/僕はずっと君のもの/君はずっと僕のもの/君がいいなら/君は、いいよね?》(M5「きみがいいなら」)。

『夏雲ノイズ』収録曲の歌詞は別れ歌、しかも意気地のない様子を生々しく綴ったものが多い気がするが、「きみがいいなら」はその中でも度がすぎた描写といった感じだ。誤解を恐れずに言うなら、ストーカー、サイコパスの言い分である。前述の通り、メロディーがさわやかなのでパッと聴きにはそんな感じないけれど、硬質なリズムが狂気のはらんださまを象徴しているようでもある。激辛とも言える味付けだが、そのビリっとするようなアクセントがあるかないかで『夏雲ノイズ』というアルバム、ひいてはスキマスイッチの印象はがらりと変わってくるような気がする。個人的にはスウィートなラブソングだけでなく、こうした狂気がちらりと顔を覗かせるところにリアリティーがあると思うし、スキマスイッチを信頼できるアーティストに認定できる要素であるように思うのだ。おそらく多くのファンも(はっきりと明言できないまでも)そう思っているのではなかろうか。

スキマスイッチはメジャーデビュー後、早くから多くのリスナーの支持を集めたが、その作品がチャート上位にランクされたのは、このアルバム『夏雲ノイズ』が初である。『夏雲ノイズ』はチャート2位。それ以前のシングルは「view」68位、「奏(かなで)」22位、「ふれて未来を」25位。2003年9月にリリースしたミニアルバム『君の話』にしても30位で、フルアルバムで跳ねたユニットなのである。これは、優れた一曲だけでなく、さまざまな要素がバランス良く混ざり合ったアルバムこそがスキマスイッチの本質を示すことができるものであり、リスナーがそれを認めた結果だったのではなかろうか。『夏雲ノイズ』を聴いてそんなふうに思った。

TEXT:帆苅智之

アルバム『夏雲ノイズ』2004年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.螺旋
    • 2.ふれて未来を
    • 3.桜夜風
    • 4.view
    • 5.きみがいいなら
    • 6.ドーシタトースター
    • 7.君の話〜エヴォリューションMix〜
    • 8.僕の話
    • 9.種を蒔く人
    • 10.キミドリ色の世界
    • 11.えんぴつケシゴム〜overture〜
    • 12.奏(かなで)
『夏雲ノイズ』('04)/スキマスイッチ

OKMusic編集部

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