一青窈が凄腕バンド陣とともに代表曲
からカバー、最新曲まで届けた“Gro
ovy Night”

一青窈 Groovy Night feat. 森俊之, 中條卓, 沼澤尚, 山本タカシ 2020.8.24 ビルボードライブ横浜
懐かしい情景を想起させる旋律、人生の機微を描き出す歌詞、豊かなグルーヴをたたえたバンドの演奏、まるで演劇を観ているかのようなステージング。一青窈はこの夜、彼女にしか生み出せない、豊潤な音楽の世界をたっぷりと魅せてくれた。
一青窈が2020年8月24日(月)、ビルボードライブ横浜で単独公演『一青窈 Groovy Night feat. 森俊之, 中條卓, 沼澤尚, 山本タカシ』を開催した。『中津川 THE SOLAR BUDOKAN』への出演に端を発して実現したこの編成でのライブ。2ndステージはリアルとオンラインのハイブリッド公演で、ビルボードライブとLIVE LOVERSがタッグを組んで行う配信ライブの第六弾として行われた。
ライブの開幕を告げたのは、バンドメンバーによるシックな前奏、そして、電話のコール音。ステージに上がった一青窈は、スマートフォンを耳に当てながら、<僕の手の中の携帯/風邪引いて知恵熱みたい>と歌い始めた。最初のナンバーは、「電話出て」。大原櫻子に歌詞を提供した楽曲のセルフカバーだ。“君”とつながりたい、話したいと切実に願っている“僕”の様子をステージの上で描き出し、シアトリカルな空間が生まれる。楽曲の世界に自然に誘われるこの感覚は、彼女のライブの大きな魅力だ。
「嬉しいですね、ライブ。やっとできましたね。今年に入って、ルーティンが変わったり、やらなくちゃいけないこと、お家にいる時間も増えて。どう変わったか、ミュージシャンに訊いてみようかな」とバンドメンバーと気の置けないトークを繰り広げた後は、“Groovy Night”というタイトルにふさわしい場面へ。
「ウチの子も、家に帰ってきたら手を洗うようになりました」という言葉に導かれたのは、吉田美奈子の名盤『FLAPPER』(1976年)収録曲「ケッペキにいさん」のカバー。森俊之(Key/Pf)、中條卓(Ba)、沼澤尚(Dr)、山本タカシ(Gt)によるオーセンティックなファンク・サウンドに乗ってユーモアあふれる歌詞を気持ちよくグルーヴさせていく。本田雅人(Sax)、山本拓夫(Sax)によるスムーズにして濃密なソロ演奏、MARUのソウルフルなコーラスも絶品で、画面の前で思わず身体を揺らしたくなる。日本の音楽シーンを代表する凄腕ミュージシャンの演奏を目の前で体感できるのも、オンラインライブならではの醍醐味だろう。
荒井由実の「生まれた街で」のカバーも心に残った。2ndアルバム『MISSLIM』(1974年)に収められたこの曲は、ゆったりと波打つベースラインを軸にしたアレンジ、郷愁と洗練を共存させたメロディに、<生まれた街の匂い やっと気づいた>という歌詞が溶け合う名曲。一青窈の独特の“節”によって、ノスタルジックな雰囲気がさらに色濃く立ち上がるシーンは、間違いなく、この日のライブの大きな聴きどころだったと思う。
さらに松任谷由実との共作による「かたつむり」も披露。“STAY期間中に思い付きで書いた歌詞をどうしてもユーミンさんに読んで欲しくて送ったら、約8時間後に「できたわよ」と曲が送られてきた”というやり取りから生まれたコラボ曲だ。ゆっくりと前に進み、時々顔を出すかたつむりをモチーフにしたこの曲は、先が見えない現状のなか、それでも前向きな気持ちを持とうとする人々の心に寄り添ってくれるはず。ステージの上で大の字になったり、声、表情、身体のすべてを使って表現するパフォーマンスも素晴らしい。
「3か月前は私の電話を無視した」という語り、再びスマホを持ち、相手に語り掛けるように歌った「心変わり」から、ライブは後半へ。オーディエンスの心をもっとも強く捉えたのは、デビュー曲「もらい泣き」だったと思う。ラヴァーズロック風にアレンジされた軽快なビート、繊細な感情の揺れを映し出すような旋律、そして、独特の節回しが一つになり、リスナーを懐かしい記憶へと導いていく。リリースから18年経った現在も、彼女の原点であるこの曲は、まったく色褪せていない。
彼女がリスペクトし続けている詩人・谷川俊太郎の初期の作品を朗読し、「今日という日を分かち合ってくれて、ありがとうございます」と感謝の言葉とともに「アリガ十々」を歌い、本編は終了。観客の拍手に応えて再びステージに登場した一青窈は、井上陽水の「Pi Po Pa」(1990年のアルバム「ハンサムボーイ」収録)のカバーを披露。最後は「ハナミズキ」で幕を閉じた。
キャリアを代表するヒット曲から貴重なカバー曲、コロナ禍のなかで制作された最新曲までを網羅したセットリスト。凄腕のミュージシャンたちによる抑制の効いた演奏。そして、楽曲に込められた情景や物語を生き生きと表現するボーカルと、“つながりたい”という切なる思い。デビュー20周年が近づいている一青窈は、その音楽の世界をさらに広げているーーそのことをたっぷりと実感できるライブだったと思う。
今回のオンラインライブはアーカイブ配信も行われ、8月30日(日)23:59まで視聴可能(配信の販売期間は視聴期間最終日の21時まで)。一青窈の魅力が凝縮されたこのライブをぜひ、追体験してほしい。

取材・文=森朋之 撮影=Masanori Naruse

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