武田真治が
アーティストとしての才能を
如何なく発揮した
衝撃のデビュー作『S』

本格派アーティストたちが参加

武田真治の1stアルバム『S』がリリースされたのは前述の通り1995年。件の『第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリ獲得が1989年で、俳優デビューが1990年、映画デビューが1992年だ。最近は少なくなってきたような気もするが、しっかりヴォーカルトレーニングをしたとは思えないタレントが速攻でCDを発売することがままあった頃である(※あれはあれでキャラクターグッズのひとつとして十分に機能しているのだけどね)。それを考えると、武田真治の音楽デビューは随分と遅かったと言わざるを得ない。しかし、その完成した音源を聴くまでもなく、中ジャケに記されたクレジットを見るだけでも“それはそうだったろうな”と思う。この企画をストレートに実現させるのは、いかに武田真治の人気が絶頂だったとはいえ、そう簡単ではなかっただろうことは想像するに難くない。

まず、サックスプレイヤーとしてのアルバムだということ。1995年と言えば、史上2番目に多く年間ミリオンセラー作品が生まれた年である。その年の年間チャート1位はDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE/嵐が来る」。H Jungle with tの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」を始めとして小室サウンドの勢いはまだまだ衰えず、Mr.Children、スピッツが本格的にブレイクしたのもこの年だ。言わば、J-POP、J-ROCKの全盛期であった。そんな中で歌のほとんどないサックスのアルバムの制作なのだから、CDバブルに突入していた時期とはいえ、その企画に閉口するスタッフもいただろう。いや、穿った見方をすれば、バブルであったからこそ、ここまでできたとも言えるし、ここまでやる必要もなかったとも言えるけれども、武田真治のデビューアルバム『S』は、人気タレントがちょいと特技であるサックスを吹いてみました…という企画盤などではまったくなく、これが相当に本格派なのである。

プロデューサーは元チェッカーズのギタリスト、武内 享。武田とともにアレンジをしている他、収録曲の作曲も手掛け、もちろんほとんどのギターは氏が弾いている。シングルにもなったM1「Blow Up」での中盤で妙に響くギターソロ、ファンキーなM8「TETROMECCA」で聴かせるカッティング、宅録(※おそらく外で録っているのでそう呼ぶのもどうかと思うが、スタジオで録ってないという意味で便宜的に宅録と言う)M11「バハマの2人」でのアコギと、氏のギターもバラエティーなサウンドのひと役を担っているのは間違いない。参加ミュージシャンも豪華だが、浮付いた感じが一切ない。まずは東京スカパラダイスオーケストラ。M1「Blow Up」やM10「サファィアを手に入れろ」で冷牟田竜之(現在は脱退)、GAMO、谷中 敦、北原雅彦、NARGOらが参加している他、M5「恋をしようよ」でNARGOが、M6「MOTOR WAY」で冷牟田、沖 祐市がそれぞれ花を添えている。M1、M10で聴かせるスリリングでありながらもしっかりポップなホーンセクションはいかにもスカパラ的で、さすがのひと言であるけれども、奥ゆかしいと言うと変だが、これが武田真治のソロアルバムであることを忘れることなく、しっかりとサポートしている印象が強い。スカパラ・ホーンズの音色と武田の音色の違いがはっきりと認識できる。主旋律が武田で、その周囲のメロディーをスカパラが担当しているという、如何ともし難い構成上のことは当然あるにしても、聴いていると“あっ、これは武田が吹いているな”というのがアリアリと分かるのである。

歌はほとんどないと書いたが、歌があるのは11曲中3曲。M3「YOU AND ME MAKE LOVE」、M6「MOTOR WAY」、M9「FREE YOUR SOUL」がそれである。リードヴォーカルはそれぞれLoleatta Holloway、MOTSU&Yoshiko Takahashi、Carolyn Hardingが担当している。Loleatta Hollowayは“ディスコの女王”とも称されたゴスペル/ソウル・シンガー。そして、Carolyn Hardingはニューヨークで活躍した実力派ディーバである。女性ヴォーカルをフィーチャーするのであれば、武田真治と同じ事務所にいくらでもアイドルや俳優はいただろうに、本格派も本格派を起用するところに作品作りにおける彼の本気度がうかがえるというものだ。実際、キラキラとしたディスコティックなサウンドで迫るM3、日本ではまだコンテポラリーR&Bが一般化する以前にそのサウンドをいち早く取り入れていたと言えるM9は、それぞれにシンガーに対する確かな敬意が感じられる。ちなみに、M6のMOTSUは現在キング・クリームソーダで活躍するゲラッパーのことで、当時はMORE DEEPにて活動していたその人のことであろう。Yoshiko Takahashiは“たぶんあの女性シンガーではなかろうか?”と思う人物が頭に浮かんでいるが、ここにそれを書いてしまって間違うと各方面に迷惑をかけてしまうと思うので、この辺にしておく。気になった人は調べてみてはどうだろうか。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • SUPER★DRAGON / 「楽楽★PAINT」
  • OLDCODEX / 「WHY I PAINT ~なぜボクがえをかくのか~」
  • みねこ美根 / 「映画の指輪のつくり方」
  • POP TUNE GirlS / 『佐々木小雪のイラスト花図鑑』
  • POP TUNE GirlS / 『涼水ノアの、ノアのはこぶ絵』

新着