片岡仁左衛門「やっと舞台に立てる」
 2月以来の公演への思いを語る『十
月大歌舞伎』合同取材会レポート

2020年10月2日(金)に歌舞伎座にて開幕する『十月大歌舞伎』は、27日(火)の千穐楽まで、『八月花形歌舞伎』『九月大歌舞伎』と同様に1日4部制で公演が行われる。
第三部の『梶原平三誉石切』に出演する片岡仁左衛門が、公演に先立ち都内で開催された合同取材会において意気込みを語った。
待ちに待った公演が決まってすぐに稽古を始めた
取材会の冒頭、「スーツもネクタイも半年ぶり」と笑顔を見せた仁左衛門は、「とにかく今は『やっと舞台に立てる』という心境。役者というのはライブで見ていただけるのが最高の幸せですから、それを待ちに待ってやっと実現できるのがありがたい。いつもならば自宅での稽古も公演が近づいてから始めるが、今回は公演が決まったとたんにセリフの稽古を始めた。本当にウキウキしています」と、今年2月に出演した『二月大歌舞伎』以来となる観客の入った公演への高まる思いを語った。
しかし「残念なことに、例えば花道でセリフを言ってはいけないとか、時間的制約があっていくつか場面をカットしなければならないとか、本来の形でお芝居ができない」と少し表情を曇らせ、「とにかく舞台に立てる。全力を尽くして、この状況下の中でわざわざ来て下さるお客様に『来てよかったな』と思っていただけるように頑張りたい」と決意を新たに表明した。
公演時間の制約があるため、今作では10分以上カットされているという。それについて仁左衛門は「日本間にある床の間のように、なくてもいいようなところが大事。あまり合理主義になってカットしてしまうとつまらなくなる」と、苦渋の選択であることをにじませた。
16年ぶりの梶原平三景時「滋味があって華があるようにできれば」
梶原平三景時を演じるのは2004年12月の京都南座以来で、初役は1978年3月の京都南座だった。そのときのことを「権十郎のおじさん(三世河原崎権十郎)に、橘屋さんの型を教えていただいてやった。播磨屋さんの型とはずいぶん違いましたね。手水鉢を切る場面でも、播磨屋さんは後ろ向きだが、橘屋さんは前向きで切るなど、派手なんですよね」と振り返った。続けて「派手さが先行して人間味というか優しさが飛んでしまうといけないので、滋味があって華があるようにできればなと思っている」と役作りについても言及した。
『梶原平三誉石切』梶原平三景時=片岡仁左衛門 (平成16年12月南座・撮影:福田尚武)
本作品の見せ場について問われると「今まで何回かやらせていただいているが、今回はセリフの運び方に工夫をしている」と、さらに役作りを進化させている様子をうかがわせ、「お客様の見方が変わってきている。昔は拍手が沸き起こった場面でも、今は皆さん真剣に見入っていたりして、子役の時代に味わった客席の雰囲気と今の雰囲気とは全然違う。拍手というのは意識してはいけないけれども、やはり(拍手がくると)脳内ホルモンが出るんですよ」と、昔と今の観客の違いを述べた。
劇場公演への思い「今の私を生で見ていただきたい」
片岡仁左衛門 (c)松竹
歌舞伎座では現在、客席は原則左右前後を開けた席配置で、桟敷席や幕見席の販売もなく、通常の半分以下の席数となっている。歌舞伎公演のなかった5か月間に、様々なコンテンツのオンライン配信なども行われた。無観客でのライブ配信といった可能性もある中、観客を入れての劇場公演を行うことについて改めて問われた仁左衛門は「やはり映像で見るのでは空気が伝わらない。今の私を生で見ていただきたい。過去よりも落ちてる部分もありますけれども、伸びている部分もある。体力的にも今ならできる、来年、再来年となると他のことでカバーはできてもベストは尽くせないなという思いがある」と述べた。取材陣より、落ちている部分と伸びている部分というのは具体的にどういうところか、という質問がされると「落ちるというのは、やはり体力的な問題がある。伸びているというのは例えば経験を重ねたことで見えてくるものがあるという部分。先輩たちの演じた映像や音声を何度も見たり聞いたりしてやっと気づけることがある。若い頃に『番町皿屋敷』を何度か演じたが、二代目の高島屋のおじさん(二世市川左團次)が演じたレコードを聴いていたら、最初のうちはセリフ回しが早く感じられた。何回か演じた後にもう一度聞いてみたら、自分よりもセリフ回しがゆっくりなことに気が付いた。何でだろうと思ったら、セリフの切りどころが違っていた。実際の時間と受ける印象が違うのは、これは芸の力。とにかく研究を重ねることで進んでいく」と研鑽を積むことの大切さを感じさせるエピソードを披露した。
3月に予定されていた歌舞伎座『三月大歌舞伎』は、初日の延期を繰り返した後に公演中止が決まり、無観客にて収録された演目動画がYouTubeの松竹チャンネルで期間限定で公開されたが、そこに話が及ぶと「3月が一番つらかった」と心情を吐露。初日の延期に伴い、稽古をしては止めの繰り返しだったため気分が乗っていかない上に、観客の前で演じることがないままの演目収録となり、仁左衛門の胸には様々な思いが去来したようだが「でも、この配役でこのお芝居が見たかったという、普段から歌舞伎を応援してくださっている皆様方に喜んでいただければ、という思いだった」と当時を振り返った。
『二月大歌舞伎』以来に舞台に立つ気持ちについて問われると「歌舞伎にはいろんな楽しみ方がある。若手のエネルギーがある芝居、それがだんだん熟してきて味がある芝居になるとか、それぞれの魅力がある。だから歌舞伎ほどファンの年齢層が広いものはないんじゃないかと思う。5か月ぶりに歌舞伎座が再開されて、幕が開いたときに泣いているお客様がいらしたという話も聞いた。客席の数は少なくても拍手がすごい、ということも聞いている。お客様も待ってくださっているというのは、本当に役者冥利に尽きる」と笑顔を見せた。
『十月大歌舞伎』は、10月2日(金)~27日(火)まで、歌舞伎座で上演される。
取材・文=久田絢子
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