吉原光夫と加藤敬二が語る『BROADWA
Y MUSICAL LIVE 2020』とあの頃のこ

2020年9月25日(金)、26日(土)の2日間、Bunkamuraオーチャードホールにて『BROADWAY MUSICAL LIVE 2020』が上演される。多彩なミュージカル俳優たちとオーディションで選ばれた気鋭のダンサーが織りなす本ライブで、演出を務める吉原光夫と振付の加藤敬二に話を聞いた。
今、作品作りで葛藤する現場、そして劇団時代に明かりの消えた稽古場でふたりが見た光景とはーー。
ーーまずは吉原さん、本作の演出コンセプトを教えてください。
吉原 僕自身、ライブをやっていない人間なので(笑)、今回、演出のお話をいただいた時に、どうして自分がライブやコンサートに出演しないのか、そこからあらためて考えてみようと思いました。
――答えは出ましたか?
吉原  ミュージカル作品と違い、物語の流れがない中で舞台に出て歌うことに自分はどこか気恥ずかしさがあるんだと思います。その前置きがありつつ、今回はミュージカル俳優ならではのライブをお客さまに観てほしいと思っています。具体的には、前の人が歌ったナンバーの心情と繋がりを持つ形で次に出てきた俳優が歌う、みたいな。このコンセプトで行こうと思った時から、敬二さんのお宅にお邪魔して、いろいろご相談しつつ構成を詰めていきました。ただ、企画が動きだした時と今とではコロナのこともあって状況が変わっています。おもに振付の面でできないことも出てきましたが、歌の力を感じられるライブパッケージになっているんじゃないかと思います。
――加藤さんは振付を担当されます。特に強く意識なさっているポイントはどういうところでしょう。
加藤 この企画が具体的に動き出したのが昨年末でしたが、光夫くんと話すうちに、彼の演出には強い“軸”があることがわかりました。その“軸”を受けつつ、ミュージカル俳優ならではのパフォーマンスを魅せていきたいと思っています。いろいろな作品から有名なナンバーをただピックアップして並べてみただけ……とか、スターの後ろで個性を殺したバックダンサーが踊る……みたいなステージには僕もしたくないですから。なので、今回は曲と曲をつなぐブリッジの部分が特に重要になります。そこは振付でも強く意識するポイントですね。
吉原 ダンサーはオーディションもやりましたね。
加藤 そうそう、書類選考に通った人だけでも200人以上のダンサーと会って。オーディションっていうと、振りを移して曲に合わせて踊ってもらって終了ってパターンがほとんどですが、今回は4回に分けてワークショップ形式で実施したんです。1回2時間半くらいかけたかな。今回のライブに出てもらうことは叶わなかったダンサーから、あとになって「めちゃくちゃ楽しかったし、いい経験になりました」って声をかけてもらったのは嬉しかったですね。オーディションに参加してくれたダンサーたちにもギフトを渡せた気がして。
■控えめに言っても「ヤバい」ステージング
吉原光夫×加藤敬二(撮影:上村由紀子)
――吉原さんは加藤さんのお宅にまで行ってお話されたんですね。
吉原 もともと同じ劇団(=劇団四季)の出身ですし、奥さまの山崎佳美さんが僕がやっている「響人(ひびきびと)」の舞台に出演してくださったご縁もあって、親しくさせていただいてます。さらに言うと、僕が敬二さんのファンなんですよ。今回は敬ニさんがこれまで創ってきたものを解剖し、それを自分にも教えてほしいという思いが凄く強かった。僕のショーの入り口は、劇団四季で観た『ソング&ダンス』シリーズで間違いないですから。
今日の時点で敬二さんが作った3曲の振りを見せてもらいましたが、控えめに言ってもヤバいです。凄まじいと思いますよ。3Dと言っていいんじゃないかな。
――す、3Dとは?
吉原 劇団四季のショーを除いてですが、こういうライブでありがちなのが、スターを前に出してダンサーは後ろでただ踊る、みたいなステージングじゃないですか。でも今回は才能に溢れた素晴らしいダンサーさんが14人も参加してくれていますから、エネルギーのうねりはとんでもないですし、全員ただのバックダンサーなんかじゃない。僕は稽古場で彼らのダンスを見ながら「俺、これ踊れって言われたら絶対に無理……」って震えながら吐き気をもよおしてましたからね(笑)。そのくらい、いい意味でぶっ飛んでます。
加藤 光夫くんも一緒にステージで踊ればいいじゃない(笑)。
吉原 いや、それは本当に無理です(笑)。
――なんなら、加藤さんにも代表作『クレイジー・フォー・ユー』のナンバーを歌って踊ってほしいです。
加藤 いやいや、勘弁してください(笑)。
吉原 それはマジで観たい!そういえば、自分が専門学校時代に初めて四季のミュージカルを観たのも敬ニさんがボビーを演じた『クレイジー・フォー・ユー』でしたよ。
加藤 ええっ、本当に?
吉原 全部凄かったですけど、特に敬ニさんのタップのレベルに圧倒されて「負けてらんねえ」ってめちゃくちゃタップの稽古したのを覚えてます。何と戦っていたのか、今となっては謎ですが(笑)。
加藤 そういえば、光夫くんはタップ上手かったよね。劇団時代は今よりもう少しシュっとしてたし(笑)。
――おふたりのそんなお話を伺っていると、出演者の中に光枝明彦さんがいらっしゃることに深い意味を感じます。
吉原 シンガーに関しては全員共演経験があるメンバーです。が、光枝さんには特に重要な意味を背負って舞台に立ってもらおうと思っています。光枝明彦という俳優の人生を舞台で振り返る……みたいなイメージでしょうか。
加藤 10代の俳優やダンサーと光枝のお父さんが同じ舞台に立つことにも大きな意味があると思うんです。光夫くんとも話しましたが、若い世代にいろいろなことを繋げていく、手渡していくというのも今回のライブのテーマのひとつですし、僕たちの課題だとも感じています。
■初めて共にした仕事は劇団時代の『夢から醒めた夢』

吉原光夫(撮影:上村由紀子)

――吉原さんと加藤さんが仕事として初めて組まれたのは劇団四季時代の『夢から醒めた夢』でしたね。
加藤 そうですね、『夢から醒めた夢』リニューアル時に僕は振付を担当していました。
吉原 僕は暴走族役で出演。これが劇団四季での初役でした。同期の子が先生(=浅利慶太氏)に推薦してくれたのがきっかけですね。
加藤 それは知らなかった。
吉原 福岡公演からのスタートで、それまでの『夢醒め』とは衣裳も変わって、霊界空港のシーンではヒップホップのアレンジが加わったり、ロビーパフォーマンスを実現させたりと、凄く新鮮でした。ロビーパフォーマンス、僕は高足ピエロだったんですけど、スタンバイがめちゃくちゃ早くてどうしようかと思いましたよ。
加藤 開場時にはすべて準備した状態でお客さまを迎えないといけないから。
吉原 暴走族は劇団で初めて付いた役でしたし、そこに集中したい気持ちも強かったので、45分前の高足ピエロスタンバイが最初はキツくて。でも、お客さまがロビーでのパフォーマンスを見て盛り上がって喜んでくれたり、一緒に写真を撮ってくれたりする中で、こちらの気持ちもほぐれてモチベーションが上がっていくんです。ロビーパフォーマンスがあると、緊張が解けた状態で舞台に上がれるというのは発見でした。
加藤 そうなの?僕は遊園地と劇場の共通点が非日常への入り口であると考えてあのロビーパフォーマンスを構想したんだけど、そんな効果もあったんだね(笑)。
――今回、いろいろ大変な状況でのお稽古だと思います。現状、どんなご様子でしょう。
吉原 やっぱり、今は考えることも多いですよね。特に感染症対策に関しては、全員が敏感になっていると思います。ただ、それをネガティブにとらえるのではなく、どうポジティブな方向に引っ張り上げられるか、どうしたらこの状況を逆手に取って面白くできるかを模索中です。
加藤 僕はずっと以前から光夫くんと一緒に何かを創れたらと思っていたので、とにかく稽古が楽しいですよ。彼が持つ周囲のモチベーションをあげていく力は凄いと思います。劇団時代に『ジョン万次郎の夢』という作品で彼が二役を演じたことがありましたが、抜き稽古でジョン万次郎役の俳優とふたりで対峙した時に、光夫くんがせりふを語るとその場の空気がガラっと変わるんです。温度がババっと上がる感じ。今の稽古場でもその頃からの求心力は生きています。
吉原 おお、マジですか(笑)。
加藤 そういえば、『ジョン万次郎』カンパニーにバスケのユニフォーム作ってくれたこともあったよね。
吉原 ええ、よく覚えてますね。
加藤 確かに僕の方が劇団でも先輩でしたが、そういうことが壁になって遠慮が生まれると絶対にいい作品は創れない。だから、作品全体を上げていくためのディスカッションは演出家と振付家としてつねに対等な目線でやってます。最終目標はお客さまに最高に楽しんでもらえるライブを創ることで、そこは完全に一致していますから。
■誰もいない稽古場でふたりが見たもの
加藤敬二(撮影:上村由紀子)
――劇団時代、おふたり共通の思い出があれば教えてください。
吉原 旧稽古場の電気がひとつだけ点いた中で振付を考えてる敬二さんに「どうすか?」って声をかけて、自分はその隣でタップ踏んだり歌の稽古をしたりしたことを思い出しますよね。あの加藤敬二もこうして誰もいない稽古場でもがき苦しんでるんだ、っていつも感じてましたし、その姿を見ることで自分もフラットな状態に戻れる気がしましたから。
加藤 ふとした瞬間に「うぃっす」って光夫くんから声がかかるんだよ。劇団が“動いていない”時間ってあるじゃない。全体の稽古やレッスンが終わって、多くの人が帰った静かな稽古場。その“動いていない”稽古場に残って何かをやる人間って毎回同じ、そして限られていて。
吉原 特にそこで一緒に何かをするワケじゃないんですよね。
加藤 そうそう、あらかじめ約束をして残るワケでもなく、すれ違ってひと言挨拶するくらい。だけどそこには見えないけれど絶対に繋がっている“糸”がある。それがとても大事なんだよね。今のカンパニーでもそういう関係性が作れたらいいな、と思ってる。
――取材でおふたりが揃う機会も貴重だと思いますので、信頼関係がある上で、お互い気になるところを伝えあっていただけると嬉しいです。
吉原 敬ニさんは集中しすぎると水分も食事もとらず倒れこむのはどうかと思います。子どもじゃないんだから(笑)。この前も根を詰めすぎて稽古場の床で動けなくなっちゃって、ちょっと、そこまでやるか!って思いました(笑)。そういえば、昨日も「……今はサンドウィッチしか食えない」ってへたってましたよね。
加藤 あったあった(笑)。
吉原 本当、そろそろ食事が普通に摂れる余力は残してください。
加藤 光夫くんはこう見えて凄く気を遣う人だから……
吉原 こう見えて、ってどういうことですか(笑)。
加藤 いやほら、プライベートではもっとズバっとくるようなことも、稽古場では遠慮して僕に言えてないんじゃないかな?って。
吉原 一切、それはないです。今、敬二さんが振付してくれているダンスパートはめちゃくちゃ素晴らしいですし。ただ、コロナの問題を考えるとどうしても時間や接触の関係等で削らなくちゃいけないパートもあって、良いけど削らなくちゃいけないという自分の中のジレンマが、少し回りくどい表現になっているんだと思います。
加藤 そうか、良かった。
――お互いの“愛”が確認できたところで『BROADWAY MUSICAL LIVE 2020』の見どころをお願いします。
加藤 (大嶋)吾郎さんの音楽アレンジ、最初に聞いた時は僕自身が飛び上がりました。本当に、自分が20歳若ければ先頭切って踊りたいくらい。そこに光夫くんの“軸”が通った演出が相まって、凄い化学反応が生まれています。ここから初日まで稽古を重ねて、全員でどんなショーを作っていけるか、楽しみにしていただければと思います。
吉原 吾郎さんが作ってくれる音楽が本当に素晴らしいです。音楽のことを良くわかってない自分のオーダーを確実に具現化してくれる技術には尊敬しかありませんし、そこに“天才・加藤敬二”の振付が加わってエラいことになってます。自分としては曲と曲の間に流れる“ライン”を強く意識した演出をきっちりお見せできるよう格闘中です。
ド派手ではないですが、確実にお客さまの心に届くライブになりますので“奇跡の2日間”を劇場で体感していただければ嬉しいです。
吉原光夫×加藤敬二(撮影:上村由紀子)
【取材note】
加藤敬二と吉原光夫。劇団四季では先輩と後輩だったふたりが、振付家と演出家としてひとつのショーを創造する……なんてエキサイティングな企画だろう。ただ、最初にこの話を聞いた時は「なぜ、このふたりが?」というクエスチョンもあった。なぜなら、劇団時代、ふたりの共演舞台を観た記憶がなかったからだ。
が、今回のインタビューでその小さな謎が解けた。作品の全体稽古や公式のレッスンが終わり、皆が帰宅したあとの人気(ひとけ)のない稽古場……共通項はそこにあった。交わす言葉は少なくとも、ふたりは同じ想いを抱えて暗い稽古場で自分と向き合う同志だったのだ。
これまで”芝居”にこだわり続けた吉原と”ダンス、振付”にさまざまなものを賭けてきた加藤。そんなふたりがこの禍を乗り越え”軸”が通ったライブを創っている。そこにどんな物語や人生が存在するのか……開幕を楽しみに待ちたい。
取材・文・撮影=上村由紀子(演劇ライター)

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