INORAN

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【INORAN インタビュー】
ステイホームの期間中に
“何が大事か?”というのを探してた

外出自粛を余儀なくされた2020年春、INORANは制作に没頭していた。打ち込みでの作曲とアレンジ、演奏を全てひとりで成し遂げたアルバム『Libertine Dreams』は、内向きに閉じた“個室”ではなく、オムニバス映画のサウンドトラックのように多彩で開放的。脳内を自由に旅して見た数々の夢、そこで味わった感情を落とし込んだ、INORAN流の“ブルース”が鳴っている。

今しか感じられない、
今しかできない音楽を生み出したかった

作曲・アレンジ・演奏の全てをおひとりで担われた今作。1stアルバム『想』(1997年発表)も手法としては打ち込みでしたが、作業と気持ちの両面においてどんな違いがありましたか?

同じ打ち込みでも全然違いますね。『想』の頃は僕も打ち込みの知識や経験が今より少なかったし、音楽制作ソフトも進化してきているし。『想』のあとは“音楽はみんなと作るのが楽しい”というモードがずっと続いていたけど、こんな世の中になってしまって…それができなくなったというのもあるし。そういう状況やいつもライヴで叩いてくれているドラマーのRyo(Yamagata)くんが休養中だったこととか、いろいろなことが重なって。『想』は好きなジャンルとして打ち込みで作ったんですけど、今回はそういった何かに特化したものというよりは、自然に導かれたと思っています。

INORANさんの場合、打ち込みでの作曲はどういう順番で進んでいくんですか?

曲ごとに違うけど、打ち込みでも生でも頭の中で全部の音が鳴っていますね。全体像がなんとなくあって、ドンピシャなリズムパターンがある場合はそれをもとにリズムから作ってく場合もあるし、漠然としているのであれば、まずは仮のリズムを敷いておいて、上モノを重ねてからリズムを変えるとか。自分の中ではあまり“こうじゃなきゃ”という方法論は固めないようにはしてます。

昨年発表された前アルバム『2019』同様全て英詞で、サウンド的にもそのまま海外のチャートに入っていてもまったく違和感のない世界基準の作品だと感じました。日本のマーケットに聴き手を限定しないという意味でも自由な作品だと思います。

“どこでも聴けるムードの音楽を作りたい”というのは毎回考えていますね。音楽が自らその場所を選ばない許容量というか。例えばボブ・マーレーは地下鉄でも聴けるし、もちろん海でも聴けるし、街中でも…それがニューヨークでも日本のダウンタウンであっても聴ける。U2もMETALLICAもThe Rolling Stonesも。ビッグアーティストはそうだから、自分もそういうものを作りたくて。何年か前、自分の作った曲がアメリカでは“あっ、聴けるな”と思ったんだけど、メキシコで聴くにはパワーが足りないと感じたことがあったんですよ。だから、その違いが何なのかを常に考えているし、探してる。それはジャンル感の話ではないんだよね。情熱だったり、一個一個の音の粒の輝きであったり…そういうところは大切にしたいと思っています。

そういった音の輝きや込める想いなど、根源的な部分をINORANさんは大事にされているといつも感じるのですが、今作はそこを特に突き詰めたんでしょうか?

無我夢中で作っていて、何も考えていなかったということが、自然とそうさせたのかも。3日に一曲ぐらいのペースで没頭して曲を作ってたんだけど、それは全て純粋な気持ちで紡いでいったものだったので、そこは今までとはちょっと違うところかもね。これまでも別に計算していたわけではないけど、考えてはいたというか。良く言うとコンセプト、悪く言うと自分の中で制限を設けていたので。あまり自由すぎると収拾がつかなくなっちゃうから。今回は自由すぎて収拾がついてるのかついてないのか、自分にはまだ分からない感じです。

そういう幅広さをも許容するというか、楽しむことができたんですかね?

うん、そうですね。やっぱり僕もステイホームの期間中に“何が大事か?”というのを探してたんでしょうね。音楽制作の中でも。

人間が生きる上で決して手放してはいけないものだとか、一番大事なものって何なのかという本質的な問いが、歌詞からも伝わってくる気がしました。例えば「Kingdom Come」は時世的にコロナ禍で営業自粛を要請された人たちを代弁しているように読み取れたり、「Purpose」や「Shaking Trees」には死生観が濃厚に表れているように感じたり。作詞はどのようにオーダーされたのでしょうか?

今年起こったこと、世界のみんなに訪れたこの時間を紐解くのではなくて、“何に希望を持って生きているか?”とか、生きていることそのものとか、本当に尊いもの、そこに感じる光であったり…そういうものを僕は音楽に落とし込みたいんですよ。だから、歌詞についてはそういうテーマやコンセプトをなんとなくは説明しました。曲だけではなく歌詞も含め、今しか感じられない、今しかできない音楽のかたちを生み出したかったから、そう伝えて書いていただいたという感じかな?

実際に起きていることをなぞるのではなく、この状況に直面して浮き彫りになった本当の気持ち、大事なことにフォーカスしたということですか?

そうですね。この状況になって、それぞれが憧れる未来や希望、将来というものが感じやすかったんじゃないかと思うんですよ。こういう状況になる以前は“今日という日を一生懸命に生きること”が希望だったりしたんだけど、“本当の希望は夢を持つことじゃないの?”と気づいたんじゃないかなって。コロナ禍で制限されて動けなくなったことで、未来が見えるようになったというか。例えば、お酒を一生飲み続けたい人もいれば、旅をしたい人もいるだろうし、ワクワクする世界が限りなく脳内に広がって、それぞれの生き甲斐を探せたと思うんですよ。そういったことが歌詞や音に落とし込まれていると思います。そもそも音楽はみんなに生き甲斐を与えるためのものじゃないですか。この状況下ではなおさらそう思うし、だからこそミュージシャンは歩みを止めちゃいけないと思うしさ。夢とか妄想とか、世界は果てしないということとか、そういったことに気づく経験をさせてくれたこの時間は、自分の中でも大切な時間になっていますよね。

INORANさんご自身が“自分の夢はこういうことだな”と改めて実感されたのはどういうことでしたか?

うーん…もっと純粋に生きていきたいということかな? 情熱を持ってピュアに生きていかなきゃなって。年を経て経験を重ねていくと、方法論も何となく分かってきちゃうし、世の中の渡り方とか、借りてきた理論を組み立てて自分の理論にしちゃったり…そんなこともできてしまうんだけど、もっと情熱を持って生きていくと夢が見えてくるんじゃないのかということは思いましたね。

半世紀のお誕生日を目前に控えるINORANさんが今、そういう境地にあるというのは素敵なことですよね。

とは言っても、できるかどうかは分からないですけどね(笑)。2020年の現時点ではそう思ったなぁって。悪く言うと、もっと雑でいいんだよね。みんなも、世の中も、世界も考えすぎてしまって、複雑に絡み合って身動きが取れなくなっているから、“じゃあ、自分で動けばいいんじゃないの?”って。実は“まぁ、いいや”くらいのスタンスがいいんじゃないかなとは思うんだよね。

もっとシンプルでいいということですかね?

うん、そうですね。

INORANさんはこれまで、世界中を旅して見た景色、そこから感じたことを作品にされてきたことが多かったですよね。旅行を自由にできない状況になって、何か思い浮かべていた風景、情景というのはあったんでしょうか?

やっぱり自分の頭の中というのが誰しも一番、この現実世界よりも絶対に広い世界だと思うんだよね。それはもう限りなく広がっていくし。その中を旅するのもいいんじゃないの?という気持ちだったんです。どこかへ旅行することはできないけど、“頭の中を旅すればいいんじゃないの? あなたの頭の中が一番広い世界なんだから”っていう。そうずっと思いながら、“なんか、この彫刻いいなぁ”という自由な感じでいろんな彫刻を作っていたら家ができちゃったというのが、今回のアルバムですね。家を作ろうとして“一番目の柱の彫刻はこうだ”とかではなく、“彫刻って楽しいなぁ。ペンキ塗りは楽しいなぁ”と作業していて、“あっ、青い部屋もいいよね。オレンジの部屋もいいよね”って2部屋できて、気づいたら5部屋、10部屋できて、最終的には家ができちゃったという感じだったので。

“こんな家を作ろう!”という全体の設計からスタートせず、細部の具体を楽しく積み上げていったら家ができていたと?

そうそうそう。ひとつひとつには意味があるんだけどね。言うなれば、設計図のないサグラダ・ファミリアみたいなものですよ。無責任なようだけど、音楽ってそうやって作れるのが一番の強みだと思うから。農作物でもないし、工業製品でもないし、パーセンテージが変えられるじゃないですか? 必ずしも100パーセントが完成なんじゃなくて、10パーセントでも最高なものができるしさ。そういう音楽の特権は最大限失わないようにしてますね。

面白いお話ですね。サグラダ・ファミリアが完成に至っていないのと同じように、INORANさんの作品も、ライヴで披露した時に初めて全貌が露になるということですか?

うん、そうですね。そこに映し出されるものや照らされる光がないと、完成形は分からないですよね。ライヴでみんなと共有する時間とか、そこでみんなに入れてもらったパワーとかが反映されて生きてくる。それが音楽なんじゃないかなって。自分が求めている、理想とする音楽はそういうものだと思います。
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OKMusic編集部

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