青年座『ブルーストッキングの女たち
』で“新しい女”座談会〜小暮智美×
世奈×田上唯「物語を通して『生きて
いる』ことを実感していただける芝居
にしたい」

劇団青年座は2020年1月の劇団の財産演目『からゆきさん』に続き、劇作家・宮本研の戯曲、初挑戦となる『ブルーストッキングの女たち』を2020年9月26日より上演する。コロナ禍の劇団活動再開の狼煙となるこの作品は、青鞜社に引き寄せられた若き女性たちの姿を、1912年から1923年にわたって描く。折しも1918年から1920年はスペイン風邪が流行っていた。劇中でそれが直接描かれてはいないが、そのほかさまざまな制約のある時代を驀進する神近市子、尾竹紅吉、伊藤野枝の姿は、それを演じる小暮智美、世奈、田上唯の瑞々しさとどこか通じるところがある――。

【物語】
1911年、平塚らいてうの「原始、女性は実に太陽であった」という有名な言葉を掲げ、女性による女性のための文芸誌「青鞜」が創刊される。1912年、らいてうを慕い、野枝が九州から上京し、青鞜社で市子、紅吉と出会う。「青鞜」のもと、女性の解放と自由を求め、奮闘する“新しい女性”たち。そんな彼女たちの前に、時期を同じくして「近代思想」を発刊し、世の中の変革を目指す無政府主義者・大杉栄が現れる。高い志しを抱く者同士、共鳴するものの、この大杉、自由恋愛主義者でもあって、ことはややこしくなっていく――

■お金がなくても、やりたいことに向かって
――『ブルーストッキングの女たち』に向き合っていかがですか?
小暮 宮本研さんは(社会主義者の冬の時代を、売文社を舞台に堺利彦、大杉栄、荒畑寒村、辻潤ら若き男たちの目線で描いた)『美しきものの伝説』のあと、『ブルーストッキングの女たち』を書いたんですよね。セットで上演できれば面白かったのに(6月の新劇交流プロジェクトで上演予定だった)。私がバイトをしている居酒屋のマスターは「この時代はバブル期だった」と言うんです。戦争が2回あって、なんとなく日本が高揚し、でも権力者と市井の人びとの暮らしは雲泥の差があって、志しある若者たちが世の中を良くしようと動いた。でも大杉栄さんはお金はなく、家賃も払えていなかった。誰も彼もがお金がないのに力強く生きていた。今だったら生活保護、生活保護って訴えますよ。だから当時がどんな時代で、どんな空気だったのか興味を持って、「まんが日本の歴史」から入って紐解いていったんです。私は会津出身なので、戊辰戦争に負けて時代が変わった、その後の話なのかって(笑)。
小暮智美
田上 私は自粛期間に戯曲や野枝に関する本を読んだりしていました。みんなそうですけど、自粛なんて初めてだから、すごく弱りそうだったけど、この時代に生きた人たちのエネルギーをものすごく感じて、奮い立たされたんです。立ち向かわねばって。だったら今生きている自分が世の中に何を届けられるんだろうと思いながら。
世奈 とにかく登場人物みんながエネルギッシュ。誰が主人公でも1本の作品になるくらいで、もう圧倒されましたね。私はつい周りを気にしてしまうけど、ここに出てくる新しい女性たちは自分たちを信じて、周りに負けないように立ち向かっていく心の強さがあって、憧れるし、ついていきたいと思いました。
​■野枝はやばい女?!
――役についてはどんなイメージをお持ちか教えてください。
世奈 紅吉は青春真っ盛りで、油絵を描いていたけれど、らいてうさんと出会って私がやりたいことは違うと気づいて新たな道をひたむきに走っていく。お父さんの反対を振り切って、意思を貫いて青鞜社にのめり込んでいくんです。「青鞜」の営業も原稿集めも精力的にやるんですけど、あんなにも天真爛漫、破天荒に生きられたのは、縛られているものから解放されたい、自由に生きたいという想いからだと思う。同時に天性のフェミニストでもあって。彼女はらいてうさんが好きなんです。女性同士ではあるけど、らいてうさんの生き方考え方に感動して、私にはこの人が必要だと人間として惹かれていった。
世奈
小暮 紅吉がそんなふうに外でブイブイ言わせていなければ「青鞜」はあんなに早く注目を集めなかったって、市子が晩年に語っているんです。こんなにめまぐるしく動く人は見たことがない。トラブルメーカーだったけど面白すぎるし、大好きだったって。
世奈 人前で堂々とお酒を飲んだり!
小暮 青鞜社のめんめんは五色の酒(明治後期から流行ったカクテル)を飲んでるとかスキャンダルに取り上げられた部分もあったけれど。逆にそうでなければ文芸誌として、女性の生きる道筋を示す雑誌として成功したんじゃないかとも書いている。自分たちの理想とは違う形で世の中に伝わってしまった一端は紅吉さんの存在のおかげらしいですよ。
田上 いい意味でも、悪い意味でも、結果的に有名になったということですね。
世奈 紅吉はかき回すだけかき回して退社してしまうけど、その時は必死だったし、すごく楽しかったと思います。自分が好きな人のことを想い、やりたいことに邁進するのはかっこいいと思う私がいて、逆に役に追われないように、彼女のように熱いものを信じてこの芝居をやり遂げられたらと思います。
小暮 市子は当時のキャリアウーマンで、新聞記者もやっていました。女性記者は料理とか暮らしとか、そういう部門に追いやられていた時代に、市子は外国語もできたので政治家や海外の要人の対応をしたり、男性を押しのけてガンガン仕事をしていたそう。その一方で大杉をめぐる野枝、保子(大杉の本妻)とのフリーラブセオリーを実践しようとする生真面目さ、一途さ、それは大杉さんが好きだからこそですけど、そういう部分も含めて普通の女性とは比べられないくらいのスケールで演じたいです。と言いつつ、私が演じるとどうしても女性的な部分が強くなってしまう。だってやっぱり苦しいし、切ないから。けれど彼女の根底にはそんなふうに生きたくないという強い想いがあるので、なよなよせず、自分を律してやりたいですね。

田上唯

田上 私も野枝の大きさに圧倒されていて、追いつこう追いつこうと必死にもがいています。自分が信じたもの、やりたいことに向かって突っ走る力がすごくて、考えるより行動で切り開いていく。「青鞜」を後々一人で背負うバイタリティや想いもすごいけれど、大杉さんと出会って、この人と生きていくと決めたら「青鞜」さえ捨てて飛び込んでしまう大胆さもある。すべてに100パーセント。もっともっと野枝のエネルギー、打ち込む力をたしかめ続けたいですね。自由は野枝の代名詞みたいなもの。私自身も自由に野枝を生きられるところまで行きたいです。
小暮 市子は野枝さんはあまり好きじゃないって、書いてあるのー(笑)。
世奈 そうなんだ
田上 そりゃそうでしょー。
小暮 大杉とどうこうなる前から、同じ九州出身だし意識していたんじゃないかな。らいてうさんの家で、髪もボサボサですごい身なりをしていたのを見て、なんだこの女はって思ったらしい。
田上 市子さん的にはその時から、
小暮 好ましくは思わなかったって。でもそれは晩年に書いたものだから後付けじゃないかな。
世奈
世奈 紅吉は読書が大好きで、毎日のように図書館に通っていたんですって。紅吉はすごく早足なんだけど、それに負けないくらいの速度でいつも図書館にやって来る女の子がいる。それが野枝だったらしく、二人とも競い合うようにドドドドって図書館に入っていたそう。二人は年齢も近いし、いい意味で負けないぞという気持ちがあったと紅吉さんの本で読みました。
小暮 いずれにしても野枝談が多いよね、やばい女だって(笑)。
一同 笑い
田上 野枝は紅吉さんのことは好きだったみたい。たしかに気質は違うけれど、自由を求めるという意味では同志だから。市子さんについては、年上だし、負けたくないと思いつつも、この人から何をもぎ取れるんだろうって考えてたんじゃないかな。
小暮 吸収してやるぞというのは、稽古場でのユッピー(田上)からも感じるよ。目も瞳孔がまじ開いている(笑)。
田上 やだ! でも自己成長とか知識欲があって純粋にすごいんですよ。野枝は「青鞜」に育てられましたとも言っていて。それは青鞜社にいろんな個性を持った人たちが集まっていて、それぞれからいろんなものを吸収して生きていたんだろうと思います。
​■舞台に立てる喜びをパワーに変えて
――戯曲の最後の方のシーンでは、その当時の仲間が恩讐を乗り越えて?(笑)、みんなで同窓会的に集まります。青年座ということではなくて、劇団のようだなと思いました、くっ付いた離れたも含めて。
小暮智美
小暮 演出家もこの時代の熱さ、みんなが議論していた感じを劇団みたいだと例えていました。実際に演劇について熱い議論をするという稽古もやったんです。
世奈 ただ飲み会にはならないでねって、あくまで研究会であることは守ってくれって(笑)。
小暮 劇団でもよく稽古後に飲みに行って、第二稽古場かというくらい芝居の話をするんです。今回はコロナでそれはできなかった。みんな自分の出演場面の稽古が終わればすぐに帰るし、出番がなければステイホーム。劇中に接吻のシーンがあるんですが、それもフェイスシールド越し(苦笑)。不思議な稽古場でした。
田上 ようやく10日くらい前から全員が合流しての稽古が始まりましたけど。
小暮 稽古に関するガイドラインをつくる必要もあったけど、なかなかに難しいところがあったよね。ようやく今までのような稽古場になって、「あのシーンはいいと思うけど、ここはどう考えている?」とか闊達に意見も言い合ってます。
世奈 いろんな意味で胸が高鳴ります。野枝さんが田舎から東京に出てきて「火の見櫓の高さから飛び込む」と言うけど、まさにそんな気持ちです。ワクワクするし、怖さもあるけど、その全部を力に変えて演じたいですね。

田上唯

田上 久しぶりの劇場は楽しい。昨日、衣裳付きの通し稽古だったんですけど、本当にやれるんだと思ってうれしくなりました。私は野枝を演じていると、喝を入れられているような気持ちになります。「弱ってんじゃないよ、コロナなんかに負けるな」って。そうやって力を引き出されているような気がする。
小暮 お客様が劇場に来てくださることを決断してくださる、来られないけど応援のメッセージをくださるということに、今まで以上に身が引き締まる思いになるよね。
一同 うなづく
世奈 こんな社会状況の中、上演までたどり着けるか不安のまま稽古が始まったんですけど、ここまでPCR検査を4回受けて陰性で来られ、いよいよ劇場入り。この時期だからこそ、お芝居をやることの意味、ありがたさ、強さ、楽しさを噛みしめたいと思います。そして生き生きとあの時代を生きた人たちの物語を通して、今を生きる私たちも「生きていくぞ」って実感していただけたらと思います。
取材・文:いまいこういち

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