東京バレエ団が三島由紀夫×ベジャー
ルの大傑作『M』を10年ぶりに上演、
新キャストを得て清新な舞台に

本年2020年は作家・三島由紀夫の没後50年にあたる。3月に映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」が公開されるなど、あらためて三島が注目されている。その記念すべき一年のハイライトと称しても過言ではないのが東京バレエ団『M』である(10月24、25日に東京文化会館、11月21日に神奈川県民ホールにて上演)。巨匠振付家モーリス・ベジャールが作家・三島を題材に創作した同作は1993年に世界初演された。海外でも上演し、パリ・オペラ座、ミラノ・スカラ座、ベルリン・ドイツ・オペラなどに招かれて披露したバレエ史に残る傑作だ。今回10年ぶりの上演となるだけに期待が高まる。
■三島由紀夫は、我々を魅了し続ける
三島由紀夫(1925~1970年)は古今東西の文学の素養と独自の美意識を反映させた文学作品を多数発表した。「金閣寺」「潮騒」などの小説は国内外で広く読まれ、「サド侯爵夫人」「近代能楽集」といった戯曲も海外を含め今も上演されている。
いっぽうで三島は肉体を鍛えるためにボディビルに励んだり、ボクシングを習ったり、自作が原作の映画や舞台などにしばしば出演したりするなどマスコミにも注目された。そして晩年自衛隊に体験入隊し、学生たちと「楯の会」を結成。1970年11月25日、自衛隊の市ヶ谷駐屯地に乗り込んで自衛隊員にクーデターを求めたが叶わず割腹自殺を遂げた。
ノーベル文学賞候補にも挙がるなど国際的作家として大きな足跡を遺したが、衝撃的な最期も含めミステリアスな部分も多く、その人生と文学に惹かれる人は今も後を絶たない。
東京バレエ団『M』2005年の公演より (c)Kiyonori Hasegawa
■連鎖する鮮やかなイメージ! 三島美学がバレエに
『M』はモーリス・ベジャール(1927~2007年)が『ザ・カブキ』(1986年)、『舞楽』(1989年)に続いて東京レエ団のために創ったオリジナル作品である。ベジャールは“日本”をテーマにしたバレエを創作するに際し、三島を題材にした。ただしベジャールは『M』は伝記でも文学作品の解釈でもなく、「私は詩人を愛するためにこれを創作した」と書き遺している。
最初は海から始まる。潮騒のなか三島を思わせる少年が現れ、彼には分身のI—イチ、II—ニ、III—サン、IV—シが付いている。IV—シは「死」を意味し、やがて三島を死へと誘う。4人の分身というのは、三島の小説「鏡子の家」に4人の主人公が出てくることを踏まえている。ベジャールは4人の分身を通して「彼の双子の弟や仮面の鏡のごとく、彼自身を裏切ることのないむしろ想像上の三島( Mishima )を描くことならできるのではないだろうか」と述べた。
三島が尊ぶ美を具現する聖セバスチャンも重要だ。体を縛り付けられ、矢を射られた殉教者が醸す究極の官能美。彼らに誘われ「仮面の告白」「禁色」「鹿鳴館」「鏡子の家」「午後の曵航」「憂国」「行動学入門」さらには遺作の「豊饒の海」四部作といった三島文学の世界を鮮やかに描く。そして自決の場面を経て、すべては海へと還る。
東京バレエ団『M』2005年の公演より (c)Kiyonori Hasegawa
■壮大な生と死と再生の物語、これぞベジャールの真骨頂
Mとは、三島(Msishima)であるだけでなく、生の象徴であるla Mer(海)、la Mythologie(神話)、la Metamorphose(変容)、la Mort(死)をも意味するという。生と死をめぐるイメージが連なり、壮大で重層的な宇宙が立ち上がる。
音楽は黛敏郎。三島と交流があり三島没後には三島原作のオペラ「金閣寺」をベルリン・ドイツ・オペラから委嘱され、ベジャールの『ザ・カブキ』の音楽でも知られる。そのほかヨハン・シュトラウスII世の「南国のばら」、クロード・ドビュッシーの「聖セバスチャンの殉教」のファンファーレ、エリック・サティの「ジュ・トゥ・ヴー(あなたが欲しい)」、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』から「愛の死」、フランスのシャンソン「待ちましょう」が使われ、万華鏡のごとき世界を彩る。
「なぜ、三島を題材に?」と思う人も一見すれば気が付くだろう。ベジャールは三島という異能の芸術家と時を超えて四つに組み、生と死と再生の物語を立ち上げていることを。これはワーグナーの歌劇を基にした『ニーベルングの指環』、ロックバンド「クイーン」のボーカルだったフレディ・マーキュリーに捧げられた『バレエ・フォー・ライフ』といったベジャール屈指の名作とも通じよう。実際に『M』はそれらに劣らぬ見事なできばえである。休憩なしの約1時間40分、観る者をぐいぐいと惹きこんでいくパワーと才気には驚嘆するほかない。
東京バレエ団『M』リハーサル (c)Shoko Matsuhashi
■10年ぶりの上演ではココに注目!
このたび2020年以来10年ぶりの公演の話題はメインキャストを一新すること。I—イチ:柄本弾、II—ニ:宮川新大、III—サン:秋元康臣、IV—シ(死):池本祥真、聖セバスチャン:樋口祐輝、女:上野水香、海上の月:金子仁美、オレンジ:沖香菜子、ローズ:政本絵美、ヴァイオレット:伝田陽美のうち上野以外は皆初役である。
リハーサルにはIV—シを初演した小林十市(元モーリス・ベジャール・バレエ団)をはじめ、高岸直樹、吉岡美佳という2名の特別団員、それに飯田宗孝(団長)、佐野志織(バレエミストレス)、木村和夫(バレエ・スタッフ)という初演から関わってきた6名が携わる。芸術監督の斎藤友佳理は要所要所で指導に関わる。「忠臣蔵」を題材にとし日本人の忠誠心を描く『ザ・カブキ』が世代を超えて受け継がれ、作品の完成度がより増していっているように、『M』にも新たな息吹が吹き込まれ、作品の奥深さを再認識できる舞台になるのではないか。
東京バレエ団『M』リハーサル (c)Shoko Matsuhashi

東京バレエ団『M』リハーサル (c)Shoko Matsuhashi

久方ぶりの上演に際し、団員たちは三島の人生や文学に触れる機会を持っている。柄本弾は三島と親交の深かった美輪明宏と、上野水香は管原小春(日生劇場で行われた「MISHIMA2020」で『(死なない)憂国』に出演)と対談する機会を得て、作品への理解を深めるきっかけになったという。また5月の自粛期間中に、斎藤からダンサーたちに「関連する三島作品を読んでおくように」という課題が出され、各自読書に励んできたそうだ。
なお音楽はピアノ生演奏+特別録音音源を使用。今回はピアニストとして菊池洋子が出演する。日本人として初めてモーツァルト国際コンクールで優勝し以後幅広く活躍する名手・菊池の奏でる音色が、作品にさらなる豊かさをもたらすだろう。
東京バレエ団 モーリス・ベジャール振付「M」プロモーション映像

文=高橋森彦

参考資料:東京バレエ団公式サイト、プレスリリース、「東京バレエ団50年の歩み」

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