大田王(川下大洋+三上市朗+後藤ひ
ろひと)『GOLD LICENCE TO KILL』公
演直前稽古場レポート+インタビュー
「回替わりにしなきゃいけないぐら
い、やりたいネタを詰め込みました」

川下大洋+三上市朗+後藤ひろひとという、関西が生んだコントの達人3人によるユニット「大田王」。2020年は、結成23年目にして初の東京公演が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で中止に。しかしがっかりする間もないぐらいに素早く、大阪で新作公演『GOLD LICENCE TO KILL』を、有料配信付きで行うことを決定。しかも東京向けに用意していたネタを使い回すことはなく、全部新作で勝負するという。その稽古の様子を、大田王の3人のコメントも交えつつ紹介する。

大阪市内某所の稽古場にお邪魔すると、東京で『12人の怒れる男』公演を終えたばかりの三上も合流していて、熱い稽古が繰り広げられていた……と書きたかった所だが、良く言えば各自の自主性を重んじる、悪くいえば「ユルすぎやろっ!」な、ちょっと見たことのない雰囲気の稽古場だった。
前回の大田王公演『DON'T CROSS 3 BEAMS』(2018年)より。
到着してまず目に入ったのは、ボブ・マーサムが4人の役者とともに、彼が作・演出を担当するコントの最終確認を行っている所だった。三上が「セリフ覚えきれるかなあ」と笑ってる姿から察するに、ボブらしい「意識高い系の単語が無駄に連発する会話劇」のようだ。ボブ本人いわく「ナショナル・シアター・ライブ『ザ・オーディエンス』を意識しました」とのことだが、言われなければ……多分言われても絶対わからないだろう。
一方このコントに登場しない役者たちは、反対側の壁際でダンスの練習を行ったり、楽器の練習をしたりと、思い思いに時間を使っている。そしてボブのコントの稽古が終わると「じゃあ、次はどの練習する?」なんて声をかけあってる所を見ると、特に全体スケジュールも決めてないらしい。大田王でスパルタな稽古が行われてるなんて全く考えてもいなかったが、それでも予想以上のフリーダムさ。大田王を「遊び」と言い張る、この3人ならではの空気かもしれない。
『GOLD LICENCE TO KILL』稽古の様子。
三上 今回は嬉しいことに、メンバーの方からやりたいことをいっぱい出してくれるんですよ。我々の出番が少なくなるんじゃないか? ぐらいの勢いですね。
後藤 特に(クスミ)ヒデオちゃんのクリエイト能力が、すごく上がってて。最初に大田王に出た時は「こんなの作ってみたんですけど……」って感じだったのに、今は「これとこれとこれ、作ってきました!」って(笑)。
クスミヒデオ。
川下 書くのも一番早かったし、もうセリフもちゃんと入ってるし。
後藤 でもボブの台本がさあ、何か長くてまどろっこしいのね。(脚本が)6枚でしょ? 俺は2枚で爆笑するようなのを期待してたけど。
三上 ボブは実験しようとするからね。ここでしかできないことを。
後藤 それで大洋さん(の脚本作品)も、どんどん競うように長くてまどろっこしくなってる(一同笑)。
川下 いや、俺の方が短いだろっ!
三上 十分長えよ!(笑)
川下大洋。
この後観たクスミの作品は、ミュージシャンらしく音楽が重要なキーとなるネタで、しかもすぐ舞台に上げられるぐらいの完成度になっていた。ただそうやって、みんなが良作をたくさん持ち寄ったためか、現在「二時間半か三時間分のネタが集まってしまった」(三上)という状態に。稽古場の隅には、上演する予定のコントのリストが掲示されていたが、それを眺めながら後藤が考え込んでいる姿も見られた。
後藤 もしコロナの第二波とかが来たら、また演劇ができなくなるかもしれないでしょ? だったら大田王のこの一回に、やりたいことを全部詰め込もうと思ったのね、俺自身は。
川下 でもやりたいことを全部並べたら、今の時点ですでに時間オーバーしてるなあと。
後藤 だからどれかを削るんじゃなくて「これは○日に」「これは◇日に」って、日替わりにしようという話になってます。
西原希蓉美。
三上 あるコント公演に参加したのが、我々の最初の出会いだったんだけど、それこそコントが日替わりだったの。しかもその場で、ルーレットを回して決めるという(笑)。
川下 ガチでルーレットやったなあ。その結果、結局お披露目できなかったコントもあった。
後藤 しかもその(選択肢の)中には「お客さんに缶コーヒーを買ってもらう」なんてのもあって、本当にコーヒー買いに行かせてしまったりね(一同笑)。
川下 だから全部がそうじゃなくても「このコーナーで何をやるかはクジで決めます」というのは、あるかもしれないな。
久保田浩。
後藤 俺のコーナーは、まさに回替わりにするけど、本当に俺が遊びたいことだけしかやらない。運の悪い人は、前田日明のモノマネでしゃべり切る回に当たります(笑)。
三上 それ、ほとんどの人わからないんじゃない? わかって長州力ぐらいじゃない?
川下 まあ「後藤さん、楽しそうにやってはるわー」というのは、必ず伝わるよ。
後藤 その中には、急遽奄美大島から来た「Piper」(注:川下と後藤が所属する5人組のユニット)のコウちゃん(竹下宏太郎)を交えた「5分の3Piper」というネタもあります。(公演期間中の)一回だけだし、「それはいつですか?」という質問には答えられないけどね。
『GOLD LICENCE TO KILL』稽古の様子。一番左は日替わり出演が決定した竹下宏太郎(Piper)。
大阪府は先日「5,000人以内なら劇場を満席にしてOK」という規制緩和を出したが、今回は引き続き客席数50%で上演。さらには有料の配信があったりと、いろいろいつもと勝手の違う状況となっている。そのことについては、3人とも「不安もあるけど期待も大きい」というスタンスで臨んでいる。
三上 配信だと、有り物の曲が使いにくいんですよ。となると、オリジナルの曲が必要になるけど、うちはヒデオちゃんと石田(雄一)さんという、強い味方がいるからね。
川下 特に石田さんは(毎年ギター演奏をする)河内音頭が今年は軒並みなくなったから、エネルギーがすごくたまった状態(笑)。
三上市朗。
三上 「こんな感じの曲を」って言ったら、すぐ「わかりましたー!」って作ってくれる。
後藤 だから今回、音楽ネタが多いね。
川下 で、配信がない日は、配信ではできないことをやる予定です。
三上 でも配信は配信で、コメントを入れたりとか、オマケ映像を入れたりとか、そういう楽しみがあると思う。プロジェクション・マッピングとか、ああいうのもできないかな?
丹下真寿美。
後藤 それは今ね、映像の人と話してるところ。でも俺が意識してるのは配信じゃなくて、お客さんが半分しか入れられないということで、それってつまり、満席のお客さんの前ではやれないようなことができる。(会場の)[ABCホール]の半分って、150人ぐらいか? [下北沢駅前劇場]とか、俺が初めて舞台に立った[スペース・ゼロ](注:かつて大阪にあった小劇場)とかぐらいの客数なら、絶対普段はできないような悪ふざけがやれるんです。だから「客席が半分しかない」というのは、俺にとってメリットでしかない(笑)。
川下 配信って、ちょっと前まで「仕方なしにやります」という感じだったけど、外国にいる友達とか「年老いた両親と住んでるので、コロナが怖くて劇場に行けない」という人も「配信だったら観ることができる、ありがとう」と言ってくれてるんです。そうやって聞くと「ああ、やると決めて良かったなあ」と思います。
ボブ・マーサム。
後藤が話した通り、この日稽古で演じられたコントのほとんどは、音楽がフィーチャーされたネタ。多分初めて触れる人も「こんなコントがあるんだ」というのと「あ、噂通り楽しいなあ」の、両方を感じてもらえるんじゃないかと思った。とはいえ本番では、どう受け止めていいかわからなくなるような、大田王らしいコントも出てくるんだろうけど。
三上 配信だったら、全国どこでも観れるわけだから、もっといろんな地域の人に観てもらって「次はうちの街に来てください」って言ってもらいたい。さらに、その土地の面白い人たちとも、一緒にやれたら楽しいなあと思います。
川下 いまだに大阪以外でやれてないからなあ(笑)。まだみんなの故郷で……何なら「京都大田王」すらやれてない。
後藤 京都って、(大阪から)阪急電車で30分だけでしょ? でもいっつぁん(三上)の故郷は京都か。(後藤の故郷の)山形大田王はね、芋煮会でシメますよ(一同笑)。
たくませいこ。
三上 その芋煮に、味噌を入れてやろうかな。
後藤 いやいや、何考えてんだよ。仙台市民か?(注:山形の芋煮は醤油、仙台の芋煮は味噌ベース)
川下 俺は豚骨にしてもらおうかな? それか白湯鶏スープに。
後藤 やめろやめろ! 聞いたことないよ!(笑)まあでも、この分だと今回の大田王、どうやらできそうじゃない? 俺さっき、半分しかいないお客さんを見下すようなことを言ったけど(笑)、本当に早く会いたい、お客さんに。俺はこのコロナで、5つぐらいあった舞台の仕事が全部なくなったから、他の舞台を観ても「羨ましいなあ」としか思ってなかったの。この本番で舞台に立って、お客さんから笑い声が聞こえてきたら、涙出るかもしれないね。笑わせなきゃいけないから、泣いちゃいけないんだけど。
三上 俺も結局、今年の舞台は『12人……』とこれだけになった。でも『12人……』をやった時は、お客さんが入ってるということに、すごく感動したのよ。「客席にお客さんがいる」ということが、当たり前じゃない状態になるなんて、今までなかったことだから。だからこそ味わえた不思議な感覚というか、ちょっと言葉で言い表せない感動がありました。
『GOLD LICENCE TO KILL』稽古の様子。
川下 俺も舞台は、2月に東京の芝居に出て以来で、大阪は今年初めてになるのか。これまでずっと家に籠もってたから、久しぶりにスイッチが入って「ああ、やっとだな」という感じになってきましたね。
その「スイッチが入った」感は、この日の稽古場に来ていた役者たちだけでなく、スタッフたちからも感じられた。当然全員が、マスクやフェイスシールドを着用しているけど「もうすぐ舞台ができる」という、ワクワクした表情をしているのがわかる。悪ふざけのようなスタンスでありつつも、特にコロナを経て積もりに積もった舞台への愛情が、しっかりと伝わるはずの大田王。最後に今回のお楽しみポイントについて聞いてきた。
川下 (大田王のYou Tube)公式チャンネルに、宣伝用動画がいろいろ上がってるけど、あれはまったく舞台の内容とは関係ないです(笑)。でもどっちが先でもいいから、両方観てほしいですね。あと大田王のためじゃなくていいから、(タイトル元ネタの)『007』もぜひ観てください。
後藤ひろひと。
三上 大阪に近い人は、劇場に来るのと、配信で観るのと両方楽しめると思います。劇場はちゃんと空調を入れ替えてるし、マスクとか消毒の安全対策もしてるから、怖がらずに来てほしいですね。やっぱり劇場で観られるというのは、大きいことだと思うので。
後藤 本当に今やりたいことを全部詰め込んだし、何度見ても「あれ? 昨日の舞台と何か違う」ということが起こる仕掛けもあります。でも今回の何がすごいって、演劇が好きなのか、みんなで呑むのが好きなのかわからないこのメンバーたちが、一回も全員で飲みに行ってないってことだね(笑)。やっぱり安全対策で、呑むなら銘々でという約束をしてるから。
川下 昨日なんか稽古が早めに終わったのに、全員飲みに行かずに解散したもんね。そんなこと今までなかったからビックリしたよ。
(前列左から)たくませいこ、西原希蓉美、丹下真寿美。(後列左から)竹下宏太郎、久保田浩、クスミヒデオ、後藤ひろひと、三上市朗、ボブ・マーサム、川下大洋。
……ということを聞いて、私が発した一言が、三人から「お、いいこと言うなあ」「完全にそういうことだから」「シメのコメントはそれでいいよ」と言われましたので、つつしんでこの言葉でレポートを結びたいと思います。
「飲みに行く情熱をすべて稽古にぶつけて作り上げた舞台が、今回は観られるはずだと期待しています」
【予告編】大田王 GOLD LICENCE TO KILL
取材・文=吉永美和子

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