「"日本舞踊"を世界共通語にしたい」
藤間蘭黄が語る、「日本舞踊の可能性
vol.3」~珠玉の創作二題『禍神』『
徒用心』を劇場公演&動画配信

国内外で精力的に活動する日本舞踊家・藤間蘭黄。江戸時代から続く日本舞踊の名家に生まれ、「代地」藤間の継承者として古典を受け継ぎながら創作や普及にも勤しむ。2009年には斯界の第一線にある有力舞踊家(西川箕乃助、花柳寿楽、花柳基、山村友五郎)と共に五耀會を立ち上げ日本舞踊の普及に尽くし、2017年には文化庁文化交流使として10ケ国14都市で公演、ワークショップ、レクチャーなどを行った。その鬼才が、2020年11月3日(火・祝)、浅草公会堂にて「日本舞踊の可能性 vol.3」を開催し、ゲーテの長編戯曲「ファウスト」に基づく『禍神(まがかみ)』、ロッシーニのオペラでも有名な「セビーリャの理髪師」を翻案した『徒用心(あだようじん)』を二本立てで披露する(後日、イープラスのライブ・ストリーミング・サービス「Streaming+」で配信)。蘭黄に意気込みや今後の展望を聞いた。
■公演延期、そして自粛期間
2020年3月、蘭黄は日本芸術院賞を受賞した。2016年にバレエ界のカリスマであるファルフ・ルジマトフ、ボリショイ・バレエで活躍し現在ロシアで国立バレエ団の芸術監督の任にある岩田守弘と共演した『信長』(2015年初演)などの成果により芸術選奨文部科学大臣賞を受けたのに続く大きな栄誉だ。授賞理由は「日本舞踊における古典を継承するとともに、優れた作品を発表し、日本舞踊のさらなる発展・普及に寄与した功績に対し」である。
「ただただ有難かったです。何かの作品や活動に対してではなく、日本舞踊全体を見据えて世に訴えかけているという授賞理由でした。私の日本舞踊の活動に対してではあるのですが、それよりももう少し突っ込んだ形で評価いただきました」
『信長』 撮影:瀬戸秀美
2018年開始の「日本舞踊の可能性」は「日本舞踊のさらなる発展・普及」を目指す蘭黄の新たなライフワーク。2020年7月21日(火)には、東京文化会館大ホールでvol.3となる『GOSAMARU-勇者たちの物語-』の上演を予定していた。五耀會、福田圭吾(クラシック・バレエ)、可西晴香(現代舞踊)、累累(無声劇)が振付し、五耀會と長田佳世(クラシック・バレエ)、累累、可西晴香舞踊団が出演し、藤岡幸夫指揮・東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏も入る大作だったが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて2022年以降に延期した。
「7月だから何とかなればと思っていました。皆の予定を押さえ、稽古場を取り、打ち合わせも済んでいました。ところが感染が広がり緊急事態宣言が出ました。「やるも地獄、やらぬも地獄」ですが、会場や関係者と相談し、やる際のリスクを考えました。オーケストラも入りますし、リハーサルも含めて感染症対策をするのはなかなか難しいんです」
『信長』 撮影:瀬戸秀美
自粛期間中は『GOSAMARU』で使う予定だったチャイコフスキーの音楽を聴きながら台本を書いた。公演延期が決まると、しばらくの間は放心し、自宅近辺をひたすら散歩する日々だった。だが、この時期だからこその新たな取り組みに目覚めた。
「4月、5月と丸々2か月稽古場での稽古を止めましたが、3、4人の弟子を相手にリモートで稽古を始めました。自分で撮った動画を送ってもらい、それを私が見て注意したり次の見本の演技を撮って送ったりしました。それから日本舞踊の解説をすれば面白いと思ってYouTubeを始めたんです。動画アプリを使い映画の予告編みたいなものを作り、60回目までは毎日アップしました。すると3月に行く予定だった東欧ツアーの受け入れ先だった国際交流基金ブダペスト日本文化センターから依頼され、ハンガリー語と英語の字幕を付けて発信してもらえました」
OKEIKO 10 #日本舞踊 #NIHONBUYO #FUJIMARankoh
■「やっぱり舞台に立って踊りたい」
――7月の『GOSAMARU-勇者たちの物語-』は延期となったが、11月3日(火・祝)浅草公会堂で新たに仕切り直し「日本舞踊の可能性vol.3」を行う。
「昨年『信長』のロシア3都市ツアーでお世話になった方から経済産業省のコンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金(J-LODlive補助金)を教えてもらいました。実は10月に京都で『信長』をやる予定だったんです。こちらも中止になり脱力していたので、新たに公演をやろうとは思いませんでした。でも、そのうちに動画撮影の依頼があり、夏に浅草公会堂を借りて長唄の生演奏で古典作品を収録し、上野の東京国立博物館の野外でも撮影しました。半年ぶりに劇場で踊り「やっぱり舞台をやらなければ!」という話になりました」
『禍神』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
新たな「日本舞踊の可能性vol.3」の演目は『禍神』『徒用心』という蘭黄の作・演出により「蘭黄の会」で創作初演した作品だ。
「まず『禍神』をやると決めました。ひとりで30分強をずっと踊るので、一日でも早くやらないと体が動かなくなると思って。もうひとつを選ぶに際し「日本舞踊の可能性」の開始当初から考えていたのですが、若い人たちがアピールできる機会にしようと思いました。そこで『徒用心』にしたんです。実は『徒用心』は五耀會に出てもらいましたが、まずは私の弟子と(花柳)基さんのお弟子さんに来てもらい、5人の女性に振りを付けながら創りました。今回の出演者のうちの4名は、その人たちです(藤間蘭翔、花柳喜衛文華、藤間鶴熹、藤間聖衣曄)。もうひとり(花柳楽彩)も(花柳)寿楽さんのお付きとしてずって来てくれていたので役柄を分かってくれています。『禍神』は生演奏です。『徒用心』は音源さえあれば五耀會の公演でも上演できるのでスタジオ録音し、兵庫で2回、東京で3回再演しました。今回も録音音源を使います」
『徒用心』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
■ゲーテの「ファウスト」が日本舞踊に!~『禍神』
『禍神』は2009年に初演され翌2010年に再演された。ファウスト博士、メフィストフェレス、マルガリーテのほか魔女や魑魅魍魎たち、絶世の美女ヘレネなどを蘭黄がひとりで演じる。
「もともとは「日本舞踊の可能性 vol.2」(2019年)でも上演し私が踊った『メフィストワルツ』の副産物です。リストの同名の10分ほどのピアノ曲を使って中村梅玉さんに振付したのが最初ですが「メフィストってなんだろう?」と思ったときに浮かんだのがゲーテの「ファウスト」だったんです。一から読み直すと戯曲なのでいろいろな場面が目に浮かび、日本舞踊にしたら面白いと思いました。私が読んだ高橋義孝さんの訳は文語調なので日本舞踊になりやすい感じがしました。「メフィストワルツ」から入ったので主役はメフィストにしました。そうしてメフィストとファウストに焦点を当てると上下二巻の内容が30分くらいにまとまるんです」
『禍神』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
蘭黄が歌詞を書き、杵屋勝四郎に作曲を依頼した。杵屋は「ドラマの壮大さやメフィストの凄味を表すために、囃子だけでなく太鼓をちょっと入れましょう」と提案するなどして音楽ができあがった。そして大きな布4枚をアーチ形にして吊り仕掛けを施した美術(河内連太)に陰影深い照明(足立恒)が当たる。初演時にはゲーテやドイツの文化に詳しい日本ゲーテ協会の会員からも好評を博し、同協会の総会で映像上映と『メフィストワルツ』の実演につながった。またドイツなどでも好反応を得た。
「2013年に休暇でドイツを旅してゲーテのふるさと巡りをしたとき、パソコンに『禍神』の映像を入れていきました。ドイツの皆さんも面白がってくれました。『禍神』の展開は凄く速いですが、動きは基本的に日本舞踊の古典にあるものです。たとえばファウスト博士は最初頑固な老人ですが「三番叟」に出てくる翁みたいな人。メフィストは怖い面もあるけど、私のなかではへいこらしている三枚目です。道化的なものといえば太郎冠者や太鼓持ちがいます。そういうものを織り交ぜていますが、物語自体が面白いので、筋さえ伝われば楽しんでいただけます。それから去年5月、ドイツ、チェコ、ハンガリー、ポーランドで公演し『メフィストワルツ』もやりました。するとドイツはもちろんリストの母国ハンガリーでも喜ばれました」
『禍神』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
■新しい味付けで、若い力を生かす~『徒用心』
『徒用心』の原作はボーマルシェの「セビーリャの理髪師」。ロッシーニのオペラとして有名な喜劇の舞台をスペインから江戸に移した長唄作品だ。2012年に初演された際は、若殿 有馬林之進(アルマヴィーヴァ伯爵)を蘭黄、髪結 彦郎(理髪師フィガロ)を花柳基、尾張屋 お梅(ロジーナ)を花柳寿楽、尾張屋 萬蔵(バルトロ)を西川箕乃助、舞師匠 幡土十郎(ドンバジール)を山村友五郎が演じて話題となり、その後も上演を重ねた。その作品を今回女性だけで演じる。
「「セビーリャの理髪師」はドタバタオペラで有名ですが、その面白さが出ればと思いました。どちらかといえば原作寄りですが、オペラの演出も活かしてダレるところは抜いています。コンセプトとしては、ある時は全員が群舞も踊りコロスにもなる。キャラクターもやる。一人で何役もできるという日本舞踊の強みを生かした作品です。オープニングは何もないところにコロスが風のように出てきたかと思うと背景の黒い塀になり、その塀を開けて林之進が登場する。そういう振付なんですね。五耀會が踊るときは紋の付いていない着物を色違いで着て、袴はズボンみたいに細いものでお揃いです。女の人たちが踊る場合には、着流しに半幅帯がいいと思いました。バッチリお化粧をしてカツラを付けてというのは避けたい。女性たちのきれいな、キラキラしたところが見えれば。五耀會でやるときとはガラッとイメージを変えました」
『徒用心』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
次世代を担う若手をアピールする機会だけに細心の注意を払いつつ並みならぬ覚悟で挑む。
「『徒用心』の振付は五耀會とは微妙に味付けが変わります。五耀會は皆キャラが立っているので、出てくるだけでそのキャラになります。今回女流でやる場合も、そこに寄せてはいますが、もう少しキャラ立ちをさせるために踊りでの工夫が必要です。そこが今回の見どころでもあります。「日本舞踊にも、こんなにきれいでかっこよく踊れる人たちがいますよ」というのをご覧いただきたい。でも若さは諸刃の剣です。若さゆえの未熟さもあります。若ければ誰でもいいとなれば、未熟なものをお見せすることになってしまう。そうなると、そのジャンルにとって弊害でしかないと私は思います。お客様に見ていただく以上、「この程度でいいよ」というものではなく、「ここまでやるんだよ」というクオリティをお見せしないと。そうしたクオリティを保ちながら、なおかつ若さというものを出す。そのせめぎあいがあります」
『徒用心』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
公演全体のナビゲーターとして五耀會公演でもおなじみの落語家である桂吉坊が入る。劇場公演はもちろんのこと映像配信でも安心して舞台に没入できそうだ。配信映像には特典として稽古風景や終演後の楽屋の様子などが入る予定。英語、ドイツ語、ハンガリー語、フランス語、ロシア語に対応したものも準備していきたいという。
「経産省の事業は「世界に向けて発信する」ことが第一条件なんです。映像技術もさることながら、踊りも世界水準のクオリティじゃないといけないと思うんですよ。『徒用心』は衣裳の色彩に一工夫したい。演出・踊りもおふざけにはならないようにはしますが、見ている方々がフフッと笑えるようなものも組み込みたいんですよね。そんなには外れたことはできませんが、できるだけ面白い味付けができれば。世界に通用するもの、世界で見ていただけるものにしたい。11月の公演終了後、撮影したものを編集して12月半ばから順次配信します。「日本舞踊でこういうことができるぞ!」というものをぜひご覧いただければ」
『徒用心』 撮影:岡村昌夫(テス大阪)
■私たちの使命は、日本舞踊の魅力を提示し広げていくこと
海外公演を含めた長年にわたる活動を通して得てきた手ごたえを聞くと、こう返した。
「こういうことをいったら元も子もないのですが、私は興味の惹かれるままに面白いと思うことをやってきただけなんです。そうすると賛同し一緒になって面白がってくださる方々がどんどん出てきた。そうすると今度はもっと積極的に「こんなことが面白いんですよ」ということをいろいろなところへ投げかけるんです」
『展覧会の絵』2017年 キエフ 黄金の門で初演 寺田宜弘と
そうしたなかで、まだまだ課題だと感じることを率直に明かす。
「日本に興味のある海外の人々は歌舞伎、能、狂言、文楽は知っています。でも日本舞踊と聞くと「何それ?」となるんですね。私は日本舞踊を世界に広めたい。歌舞伎、能はKABUKI、NOHで通じます。しかし日本舞踊は「日本」と「舞踊」という言葉がくっついてしまっている。舞踊という言葉は、明治時代にダンスの訳語として作られたので、どこの国の言葉にも簡単に訳せてしまう。だから、かえってぼやけてしまうんです。もっと狭い意味の日本舞踊、ローマ字表記の「NIHONBUYO」を世界共通の言葉にしたいですね」
『信長』カーテンコール 撮影:瀬戸秀美
最後に今後の目標をあらためて語ってもらった。
「夢のまた夢かもしれませんが日本舞踊専用の劇場を建てたい。そこでは、きっちりとした古典を見せながら新しいものもやっていく。いま、日本舞踊の人口が減っていますが、もっとその魅力を発信すれば、やりたい人も観客も増える。街の教室で草の根的に生徒を増やすことはもちろん大事ですが、素晴らしい日本舞踊がいつも見られる劇場があると違ってくると思います。ランドマークというか、みんなの憧れとなる存在が出てくれば変わるはずです。バレエでいえば吉田都さんや熊川哲也さんのような存在が大きいのではないでしょうか。五耀會がそういう存在にならないといけません。自分たちを売るというのではなくて、皆さんに日本舞踊を知ってもらえるように提示していく役割と責任があります。そうしないと自己満足に終わると思うんです」
取材・文=高橋森彦

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