神はサイコロを振らない が、初の映
画主題歌「目蓋」で描き出した心象【
SPICE×SONAR TRAXコラム vol.20】

福岡発の4ピースロックバンド・神はサイコロを振らない。通称、神サイ。少し変わったバンド名は、かの有名な物理学者・アインシュタインの発言から取ったもの――というエピソードもそろそろ聞き慣れてきたという人が多いのでは。
2019年5月にリリースしたミニアルバム『ラムダに対する見解』の収録曲「夜永唄」が、TikTokのユーザー投稿をきっかけとして話題に。「夜永唄」は今もロングヒット中で、YouTubeのリリックビデオは1400万回に達した。そしてバンドは今年7月、デジタルシングル「泡沫花火」でメジャーデビュー。さらに10月2日には『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に初出演するなど、話題が絶えない状況だ。
そんななか、さらなる新曲「目蓋」が配信リリースされた。「目蓋」は映画『リトル・サブカル・ウォーズ ~ヴィレヴァン!の逆襲~』の主題歌で、神サイが映画の主題歌を書き下ろしするのはこれが初めてとのこと。
タイトルの通り、同映画の舞台は、“遊べる本屋”として知られるあの雑貨チェーン。利便性よりも面白さを追求した商品や、個性豊かなバイト仲間に囲まれて働いていた大学生の杉下は、あるとき、刺激的だったはずの日々が変わってしまったことに気づく。なぜかというと、巨大な組織の陰謀により、“サブカル”が無駄で役立たずで下品なものとみなされ、弾圧・排除されるようになったから。
予告編映像やホームページを見た限りでは、ドタバタ系のコメディ映画だ。神サイの楽曲が持つシリアスな空気からは若干距離があるように思うが、主題歌を書き下ろすにあたり、ソングライターの柳田周作(Vo)はどこに通有点を見出したのか。おそらく彼は、“無駄なものは必要ない”と主張する世界に抗うキャラクターたちと、正しいだけでは生きられない人間の性質をリンクさせ、“生きづらさ”をテーマに曲を書くことにしたのではないだろうか。
とりわけ「目蓋」では、なかなか寝つけない真夜中、ぬるっと現れては人の心を好き勝手荒らしていく孤独感が扱われている。始まりを告げるのは雑踏の音と鳥のさえずりだが、歌詞を読む限り、〈僕〉の現在地は“夜”。ベットに沈み、天井を見上げながら、日中にあった出来事、自身の言動を思い返し……。そんな〈僕〉の姿をイメージすることができる。「夜永唄」での“金木犀の香り”然り、「泡沫花火」での“汗ばんだ手”や“煙草の煙”然り、神サイのバラードでは、五感で受け取った感覚の描写が丁寧にされていて、それがリスナーに対するイメージ喚起、および“共感”に繫がる一つの要素になっている。今回の「目蓋」では、“ブルーライトの光”が印象的なモチーフとして登場。個人的には、“一人ぼっち”とは言わず“一人ぽっち”としているところも絶妙だと感じた(世界から零れ落ちてしまったみたいな感触が伝わってくる)。
しばらくはボーカルとピアノの二重奏。誰に届くこともない独り言は、やがて歌になり、歌に寄り添うように、バンドの音が順に入ってくる。アコースティックギターの音色を基調としたアレンジはかなり久々な印象。時計の針と雑踏の音、ハミングのみのパートを経て訪れるラスサビでは、多種類の楽器が鳴っている。平等に訪れる朝の下、温かみのあるサウンドがクライマックスを彩るなか、それでも〈僕〉は物思いに耽ったままだ。
何も厭わず合理的な選択ができたら、人はどんなに楽になれるだろうか。しかし、そうはできない不器用さこそが、人を愛おしい存在にさせているのかもしれない。聴き手を鼓舞するでも助けるでもなく、共に悩むことで、それでいいと言ってくれるような一曲だ。いつの間にか日が短くなり、“秋の夜長”が私たちの心と生活を浸食する時節になってきた。すぐそこに横たわる感傷を愛するために、神サイの音楽を。

取材・文=蜂須賀ちなみ

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