劇団四季、16年ぶりのオリジナル・ミ
ュージカル『ロボット・イン・ザ・ガ
ーデン』開幕! 吉田社長+長田育恵
+小山ゆうな会見レポート

劇団四季が16年ぶりに手がけたオリジナル・ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。その初日、10月3日(土)の公演後、劇団四季社長の吉田智誉樹、台本・作詞の長田育恵、演出の小山ゆうなによる囲み取材が行われた。貴重な機会だったし、興味深いお話が満載だったので、アットランダムに飛び交った記者の皆さんの質問を『ロボット・イン・ザ・ガーデン』ができる時系列に合わせて、座談会風に再構成してみた。
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の原作は、英国の作家デボラ・インストールが2015年に出版した同名小説。世界各国でロングセラーに。日本では2016年に小学館文庫から上梓されている。人間に変わってアンドロイドが家事や仕事を行う近未来。両親を亡くし無気力に日々を過ごす主人公ベンのもとに、壊れかけのロボット「タング」が現れる。ベンはタングを直すための旅に出るが――。
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』 撮影:阿部章仁

オリジナル・ミュージカルを創作するカルチャーを取り戻したい
――16年ぶりのオリジナルミュージカル。初日を迎えたお気持ちから教えてください。
吉田 プロジェクトが始まったのが2017年。3年間ずっと勉強してきた受験生がいよいよ試験日を迎えるような気持ちでした。昨日もドキドキしてまんじりともしませんでしたけど、ここまできたら、あとはお客様にお任せするしかないと今日を迎えました。暖かい拍手をいただけましたので、まずはホッとしました。良いスタートが切れたと思っています。
――上演までの3年間の創作期間で重点的に取り組んできたことはなんですか?
吉田 オリジナル作品をつくるカルチャーは、劇団四季にもありました。特に積極的だったのは70〜90年代。当時、小学6年生を招待するニッセイ名作劇場という企画があって、毎年ファミリー・ミュージカルをつくっていました。2000年代を迎え、我々は各地の専用劇場の整備を行いました。それから海外の作品がだんだん大型化し、1本上演すると2年、ときには5年というスパンで公演することになりました。そうするとオリジナルのものをやろうにも入れ込む隙間がない状況もあって、創作体制上も企画編成上もうまくいっていない部分がありました。私が現職について6年ですけども、90年代までの創作体制に戻さなければならないと思い、積極的にこの仕事に取り組んでいます。
 『ロボット・イン・ザ・ガーデン』をつくるにあたっては、本当にたくさんの素材を当たりました。その中で関係者で議論して、4、5作品に絞ったんです。そして劇団の幹部約60名に全部を読んでもらい、感想を述べてもらったら本作の原作が圧倒的に支持されました。私自身もこれに投票しています。この小説には人生を肯定する、明日も元気に生きていこうというメッセージが込められています。何か大きな出来事が起こるわけではありませんが、読み終わったあと非常に幸せな気持ちになるものでしたから、劇団四季にぴったりだということで創作を決めました。
吉田智誉樹劇団四季社長
二人にお願いしてよかった
――『恋におちたシェイクスピア』を演出した青木豪さんもそうですが、吉田社長が小劇場に足繁く通って才能を探していらっしゃると聞きました。今回のお二人を起用した理由をお聞かせください。
吉田 長田さんとお話ししましたのは、シアター風姿花伝でてがみ座の『対岸の永遠』を拝見したときです。2016年の、鶴屋南北賞を受賞されたときの記念パーティで紹介していただきました。その時に、ファミリー・ミュージカルをつくっていたご経験があること、素晴らしい才能がある劇作家さんだということを伺いました。調べたところ風姿花伝で公演される予定がおありでしたので出かけたわけですが、非常に素晴らしい作品でした。人の一生を評伝劇として描くのは非常に難しいと思うのですが、ロジカルな組み立ての素晴らしさと、その文体が非常に格調高く、私には新古典主義的にも感じられました。私たちが仕事をお願いするのに、非常にふさわしい方だと思い、以来ほとんどの長田さんの作品を拝見させていただきました。そうした流れを経てオファーを致しましたら快く引き受けてくださいました。
 小山さんは『チック』という舞台を拝見しました。これも原作は二人の少年があちこち車で旅するという、本作と同じ経めぐる物語なんです。素材としては大変難しいのですが、非常に見事に処理されていました。それで『ロボット・イン・ザ・ガーデン』をお願いするなら小山さんしかいないと思い、オファーをさせていただきました。
 小山さんの演出を稽古場で何度か拝見したのですが、本当に俳優と寄り添ってくださって。俳優たちがセリフをしゃべるときに、なぜそれを言うのか細かく細かく確認してくださっていました。俳優がそのやりとりを通してセリフを腑に落としていくプロセスによって、芝居が変わってくるんです。強い演出家の下で育ってきた私どもからすると、そうした演出は非常に新鮮で、小山さんにお願いしてよかったなという思いであります。
原作のテーマが、未来の設定においても現代的かつ普遍的
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』 撮影:阿部章仁
――原作を読んだ感想、その上で戯曲を書く際、演出をする際に大事にしたいと思われたポイントを教えてください。
長田 最初に読んだときはタングの愛らしさ、そのかわいらしいロボットとベンの旅の中に掘りがいのあるテーマがたくさん潜んでいることが原作の面白さだと思いました。人間とアンドロイドが共存するという世界観ですが、女性がキャリアを積む生き方をすることによる家庭内の問題、道具は便利になっているはずなのに人間同士は何が幸せなのか見えずらくなっていることなど、テーマはすごくリアルな現在形。戯曲を書くにあたっては、とにかく登場人物の心理にお客様が目線を添えられるように、人物の糸を太く通そうと意識しました。あらすじは原作どおりですが、ディテールや登場人物を造形する要素はオリジナルでやらせていただきました。ささやかな物語で、特に大きな展開があるわけではありません。主人公のベンはニートで閉じこもっている設定ですが、このコロナ禍で、誰かといても孤独であるとか、その孤独感をどうやって解消していくかとか、今年だからこそ響きを持ち始めたなと感じました。だから無理に抑揚のあるストーリーにするのではなく、今のこの心情を等身大で見つめ続けることで一本のミュージカルにするぞという挑戦をしたいと思い取り組みました。
小山 酒井駒子さんの素晴らしいイラストも手伝って、かわいらしいタングと人びととの物語として読んだのですが、人間ドラマがしっかりあって、その塩梅が新しくて面白いなと思いました。冒頭の夫婦の喧嘩もヒリヒリするくらいリアリティがあって、こういうことあるよねという数々のエピソードは非常に普遍的で、そこを大事にしていきたいと思いました。子どもも楽しめるけれど、大人のお客様がいろいろ考えたり楽しんだりすることでできる作品になればいいなあと思っています。
ミュージカルを離れた今だからこそ書けるものになった
長田育恵
――長田さん、久しぶりのミュージカルはいかがでしたか?
長田 私のスタートはファミリー・ミュージカルでしたが、アイドルの方が出るようなもので、脚本家がどういう作品を書くかはあまり問われることがない現場でした。それで劇作家になりたいと思い、ミュージカルを離れ、戯曲セミナーから学び直しました。そして自分の作品をプレゼンするために劇団を旗揚げし、3作目くらいから劇作家として認知していただけるようになりました。そうした活動の中で、客席が100人にも満たない小さな劇場に吉田社長がいらっしゃって、公演をご覧いただいてオファーをしてくださった。ミュージカルから離れようと決意してから12年が経っていました。その間、人間をどうやって描写したらいいか、言葉の強度とはなんだろうか、どうやって通用するものを書けばいいかなど必死に試行錯誤してきました。また登場人物たちがストーリーに奉仕するのではなく、登場人物たちがしっかり生きることでストーリーが生まれるといった書き方は、あのままファミリー・ミュージカルをやっていたら考えもしなかったと思います。今だからこそやっとスタートラインに立てたなって思います。
――作詞はいかがでしたか?
長田 今回は作詞先行でやらせていただけるということで、曲に縛られない、作詞のエッセンスに純粋に向かい合うことができました。それは初めての経験でした。1曲をつくり上げるのに、スケッチブックに、ストーリーやバックグラウンド、書きたいこと、登場人物から見えそうな風景を本当に何ページにもわたって書き連ね、1曲1曲が自分が手塩にかけた、まるで工芸品をつくり上げるといった体感ですごく刺激的で楽しかったです。
アナログな演出は、総力戦のできる劇団の魅力を見せたくて
小山ゆうな
――小山さん、演出で苦労した点はありましたか?
小山 あんまり苦労が見当たらないんです。ミュージカルはもちろん総合芸術なので、作曲の河野伸さん、振付の松島勇気さん、音楽監督の清水恵介さんをはじめ、あらゆる皆さんとつくったという感じが強いですね。それぞれがかなり強い意志でいろんなアイデアを持ち込むので、方向性を確認し合うという意味ではなかなかの苦労でした(笑)。それは私だけではなく皆さんそうだったと思います。でもとても楽しい稽古でした。
 パペット演出のトビー・オリエさんの来日が叶わず、オンラインになったという難しさはありました。画面越しなので、伝えたいことが伝えられなくて時間がかかったということはありました。しかし基本的にはロボットをどう見せるかなど、コンセプトは最初から共有できていたので、そのあとに出てきた課題はそのつどスムーズに解決することができました。
――長田さんとのお仕事は初めてでしたが、どんな感想をお持ちですか。
小山 長田さんには信頼できる台本を書いていただきました。私の場合、翻訳劇、それも古典を演出することが多いんですけど、それは本が信頼できるから。バイブルというか、稽古場で何があっても、仮にケンカしても、ここに向かって行こうよと言える軸になるからです。今回は本当に安心感がありました。あと世代も近いので、いろいろ相談しながら、稽古場からLINEでやりとりできたり、いろいろ支えていただいたのも大きかったですね。俳優たちも長田さんワールド、綺麗な言葉とかロマンチックな描写を楽しんでくれて、原作のデボラさんの世界ではあるけど、明らかに長田さんの世界だよねと言いながら稽古をしました。
――役者さんがものを動かすなど、わざと俳優が見えるようなアナログな演出にはこだわられた理由を教えてください。
小山 四季の皆さんとかかわるなかで、理想的な劇団なんだな、総力戦でやっているんだなということを感じたので、そこが魅力として見えた方がいいんじゃないかと思ったんです。誰かが際立つということではなく、みんなでやっているぞという姿を見せたいと。また近未来の話なので、デジタルな力を借りると、少し時間が経つと演出に使った技術が古く見えてしまうじゃないですか。そもそもあの形のロボットが近未来にいるとは到底思えない。だったらあえてすべて逆行して、アナログでいこうということですね。それがこの作品を演劇でやることの意味でもありますし、AIの姿はお客様の想像力に委ねるくらいの方が面白いだろうということです。
『ロボット・イン・ザ・ガーデン』 撮影:阿部章仁
劇団が権利を持つ作品を大きく育てて、そこから新しいビジネスをつくっていくことが必要
――今後も発掘した才能との共同作業はあるのでしょうか?
吉田 我々のオリジナル作品については二つの方向で考えています。一つは今回のように外部で活躍されているクリエイターの方との共同作業、もう一つは2019年に初演した『カモメに飛ぶことを教えた猫』のように劇団のメンバーでつくっていくスタイルです。それを両輪で進めたいと思っています。最初に申し上げた外部の才能については、私自身が作品を観にいってリサーチするのが一番早いのでできるだけ時間をつくって足を運ぶようにしています。また私だけではなくて、2018年4月に新設された企画開発室のメンバーもレーダーを張り巡らせて、あちこち見歩いているんです。
――改めてコロナ禍での作品発表についてはどんな思いがあるでしょうか。
吉田 コロナについては本当に演劇と相性が悪いなと毎日痛感しています。ただ相性が悪くても、演劇が否定されたわけではありません。演劇自体は古代ギリシャ悲劇の時代から2020年までずっと続いているわけで、途中には、悪疫の流行も戦火もあったけれど滅びてはいません。このコロナ禍にあっても演劇そのものがなくなることはないと信じ、アナログで人間がつくる芸術を続けていかなければいけないと思います。
 また我々は、ライセンスを受けて海外の名作を輸入し、翻訳して上演するという仕事が非常に多いわけです。つまり許されているのは、日本国内で日本語で日本人に向けて上演するということだけ。映像権や二次使用の権利はすべてライセンシーが持っています。コロナ禍でよく『ライオンキング』を配信したら儲かるでしょうと言われましたが、それは無理なんです。ですから改めて痛感しましたのは、我々自身がコンテンツの権利を持っている作品を、たくさんのお客様がいらっしゃるような作品に育てて、そこから新しいビジネスをつくっていくということが必要だということです。
構成・文:いまいこういち

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