ROVO・勝井祐二が思う、コロナ禍にお
けるライブ観 「新しいクオリティを
みんなで獲得していくべき」

「MCを挟む必要にかられるというのが、2020年のバンドの歴史においては非常に珍しいことになりました」と笑う勝井祐二。日本で人力トランスを幅広いリスナーに浸透させたROVOのスポークスマンは、コロナ禍において、早い時期から新しい野外ライブのあり方を模索してきた。そもそも20年以上のバンドのキャリアのほぼ大半をオーディエンスが思うままに踊り、自由に振る舞うことの回路を切り開き、信頼関係を築いてきたバンドである。そんな彼らがフィジカルな接触や動員数を理由に、17年続けていた日比谷野音での『MDT(Man Drive Trance) Festival』を中止せざるを得なかった悔しさは察するに余りある。だが、ここで従来と同じスタイルにこだわることは思考停止だと勝井は言う。あらゆるバンド/アーティストが困難を迎えた状況下、これから向かう先はーー。試行を続ける勝井の、コロナ禍におけるライブ観を訊く。
――ROVOは結成以降、フジロックなどの野外フェスへの出演などでライブの楽しみ方を更新してきたバンドだと思います。
フェス以前ってライブハウスしかなかったんで、ライブハウスのルールが完全に掟っていうか。ちょっとそれが嫌だったんで、最初の頃は一切ライブハウスに出るのやめようと思ってたんです。
――当時、ライブハウス以外の活動の場所というと?
恵比寿のみるくってクラブ。そこだとライブもできて、オールナイトで踊ってくれるお客さんも遊びに来れる。その後、新宿リキッドルームのオールナイトイベントにも出るようになって。僕らがライブデビューをしたときって、要するにダンスミュージックとして、バンドサウンドがどういう風にDJの人と同じようにフロアにいるお客さんに機能するのか、そういうことのある種の実験でもあったんで。DJがかけてるトラックにクロスフェードして入っていくっていうやり方を試したんですけど、そういうことをしたのは僕らが初めてだと思いますね。
――以降、そうした活動がごく自然に20年以上続いてきたわけですが、今年は主な野外フェスはほぼ延期になりました。2月末に自粛要請が出てからの勝井さんの心情はどういうものでしたか?
まずコロナの感染拡大で、いろんなライブがキャンセルになり始めて。僕らも春のツアーと17年間続けてきた日比谷野音のライブ(『MDT Festival』)が無くなったときは、「これいつまで続くのかな」、「いつになったら元に戻せるのかな」っていう気持ちでいたんです。でも、野音を延期にして、ライブをやるはずだった日に去年の野音の映像を配信したんですけど、僕も家にいながらリアルタイムでそれを観て、「あ、これはできないな」と思いました。お客さんが3000人びっしりいて、抱き合ったりとかしながら観てて。「今これは絶対できないし、下手したら来年以降もできないかもな」とは思いました。それで、いつになったら元に戻るかということよりも、今、何ができて何ができないのかなということを、ちょっとずつ考えるようになっていったような気がします。
――なるほど。
たまたまそんなときに、山梨の『ハイライフ八ヶ岳』を主宰しているアースガーデンの通称・南兵衛さんこと鈴木幸一さんから電話があって、「どうしてますか」と。その前の4月にアースガーデン主催のリモートのトーク番組にちょっと出てたんですね。その流れで連絡があって。僕が住んでるのが東京の八王子の高尾の方なんですけど、鈴木幸一さんが住んでるのがその隣のあきる野市で。「うちの近所にちょっといいところあるんですけど、見に行きませんか」と。それはのちのライブフォレストの会場になるキャンプ場で。それこそ2ヶ月近く、近所で生活必需品の買い物をするぐらいで、ほとんど人にも会ってなかったので、その時、初めて外に出た感じでしたね。
――確かに日常生活にも緊張感がありました。
で、場所を見に行くと野外でステージがあるんですね。5月というとライブハウスなんか全部営業できていない時期で。でも、外だったらなんかできるかもしれませんね、みたいなことをちょっとずつ話し始めて、それからは結構早かったです。最初、5月15日に配信だけのライブをそこでやってみて。そのときはスタッフだけで10人とか。で、5月30日には関係者とか友人たちを20人ぐらい招待してライブをやって、ちょっと規模を大きくして。その次は6月14日に初めて70人ぐらいお客さんを入れてやってみたんですね。
――段階を踏んで観客数を増やしていったんですね。
そこに……もともと『ハイライフ八ヶ岳』は7月10日・11日の予定だったんですけど、できるかどうか、南兵衛さんもかなり粘って検討して地元の人とも話して。でもやっぱり7月は難しい。9月だったらどうだ?っていう延期案が地元の人から出たので「延期にしようと思う」って話を、僕も真横で聞いてたんです。だったらもともと『ハイライフ八ヶ岳』の7月11日にROVOはブッキングされていたので、もちろんメンバーのスケジュールも合ってますし、ハイライフが延期したってことは南兵衛さんもアースガーデンのチームも全員空いてるはずなんで、ROVOのワンマンを7月11日にライブフォレストの会場でやりたいって相談をしたんです。
――そういう流れだったんですね。最初はやはりマナーやルールの意識が共通している人たちでやってみないと難しいと感じられたんでしょうか。
最初はそうですね。実際、会場は結構広いところなんで、50人ぐらいいてもよっぽど積極的にくっつき合おうとしない限りは間隔は保たれてるんです。なんですけど、6月の、初めてお客さんを70人入れようってときには、やっぱりなんとなくっていうわけにはいかないので、キャンプ用の椅子を2メートルぐらい間隔を開けて並べるっていうことを始めて。そのときに南兵衛さんや僕らのマネージャーと、7月にやるとしてここで何人だったらできるのかっていう話をして150っていう数字を考え出したというか。
――密になる不安もある中で、椅子があるというのは逆に当然というか、安心材料だと思います。
そうですね。だからそのときは椅子を間隔を空けて置いて、そこにどうぞっていう。指定席ではないんですけど、150ぐらい用意してあったんで。だからそこにいてくれればいわゆるソーシャルディスタンスは保たれるつもりではあったんですけど、まぁやってみないと分からないというか。それで7月11日のライブで……やっぱり僕らの音楽は基本的にダンスミュージックをやっているし、しかも日比谷野音で17年間やってきた僕らの『MDT Festival』っていうのはほんとに敷居が低い、席も自由、持ち込みも自由、みんな好きな場所で好きな聴き方をして、踊り狂うみたいな。酒もたくさん飲みたい人は飲むみたいなことでやってきてたんで、7月のライブの最後の方でーーまぁ大体の人は今の状況下で野外でライブを観られるってことの意味はほとんどの人は分かってたと思うんですけど、ま、一部の人が分かってなかった、っていう意味じゃないんですけど……。
『ROVO LIVE FOREST 2020』より
――自然と動いちゃったわけですね。
うん。やっぱり野音で僕らが17年間繰り広げたきたもの、あれこそがROVOの野外ライブのマナーだという風に思ったのかもしれない。で、ちょっと数人、ステージの前の方に出てきてしまったんですね。それが最後の曲だったんで、ライブの本編が終わって、一応、アンコールになったんですけど、すぐに僕がステージに出てきて、「こういう音楽をやってるけど一回ちょっと落ち着いてくれ」と。「今までとおんなじようなことをやっちゃダメなんじゃないのか」って。2019年以前の野外フェスや日比谷野音に戻ればいいかっていうと、もうそういうことじゃないっていうのがそのとき、はっきり分かったというか。やっぱり、今、この状況でこれからも新しいクオリティみたいなものをみんなで獲得していって2021年に向かう、そうあるべきだと思ってますね。
ーー新しいクオリティというと?
自分だけが盛り上がって、「楽しかった」っていうんじゃなくて、周りの人のこととか、横にいる人のこととかをちょっとだけ気遣うとか、そういうことが必要なんだと思うんです、そういうイマジネーションが。だから場所を作る側と演奏する側だけじゃなくて、やっぱり参加してくれる人も一緒にそれを獲得するというか。で、全員でクオリティを一段階上げていくということが必要なんだと思います。
――クオリティを上げていく中にはどんな要素が加わりましたか。
バンドのことでいうとセットリストが変わりましたね。今まではちょっと直線的なところがあって、始まって最後に向けて盛り上がっていくみたいな。例えばフェスだったら50分とか60分、野音だったら90分。直線的に、いわゆる盛り上がる状況に持っていくセットリストがこの20年だったんです。でもそれが今年、特にこの間のハイライフではヘッドライナーをやらせてもらったんで、90分のロングセットだったんですけど、そこでちょっと緩急がある、ずっと盛り上がりっぱなしじゃない、違うシーンがあって落ち着いたところから始める、そういう風になりましたね。多分これは僕らにとっても大きな変化だと思いますし、特にこのアルバム(『ROVO』)に入っている6曲目の「SAI」って曲が、作ったのはもちろんコロナの前なんですが、今年、この状況下ですごく僕らにとっても大きな意味っていうか、手応えを持てる曲になってきてるなと思ってます。ちゃんと起伏があって、最終的には「ああ、良かったな。この先に進もう」っていうようなものをみんなと共有できるというか、そういう曲になってきましたね。
『ハイライフ八ヶ岳2020』より
――先日の『THE SOLAR BUDOKAN2020』では横浜サムズアップでのライブ映像が配信されて。ライブハウスでも余裕を持った観客数でしたね。
あれは僕らもみんなもまだ全然慣れてないというか。いつもあそこに200人とか入れてたんで、まだ難しいですね。
――演者からお客さんがかなり見えるのでは?
そうですね。こちらも意識的になってることもあるんで結構見えちゃうんですね。「あのお客さんさっきから何杯もお代わりしてるな」とか。あと、最初に気づいたのは山本さんだったんですけど、「俺の前にいる客がちょっと危ういな」みたいなことを言ってて。で、僕もそれから演奏しながら見てたら、「あ、結構飲んでるな、この人」。もちろん楽しんでるし、悪意もないし、何かルールを破ってやろうみたいな気持ちはないと思うんですけど。スマホで山本さんのギターソロを撮ってて、さすがにそれはないなと、それは曲と曲の間で注意しました。普通に僕らMCっていうのをしないんですけど、あれですね、注意とか、ライブフォレストも含めて、MC入れるようになりましたね、必要があれば。別にその人が一歩前に出たからって何か大きく秩序が壊れることはないんですけど、それを見て、「あれ?なんか違うんじゃないかな」と思う人も確かにいるはずなんです。だから全体としてこの空間にいる人みんなのことを、ある程度考えられるという風にしていきたいですね。
――『ハイライフ八ヶ岳』に関してはイベントから2週間経って、感染者の情報などはなかったという報告が出ましたね。
2週間経って大丈夫だと思いますって宣言が出ました。
――アースガーデンの鈴木さんはすごく細かく、お客さんからは感染者は出ていないけれど、スタッフ関係者でPCR検査をして陰性だったという報告を出してらっしゃって。あのように事実をキチッと報告していくことがすごく大事ですね。
そうですね。そういうものの蓄積がないと絶対この先には進めないと思いますし、だからそういう意味では僕と南兵衛さんと5月から二人三脚みたいにハイライフまでやってきたんですけど、かなりそういう経験は積めたなと思いました。
――開催地を発見していくことも大事ですね。
うん。場所を自分たちで作っていかないと、っていうことだと思いました。先ほど話した、僕らがバンド始めたときに、僕にしても山本さんにしても、散々ライブハウスに出てる状況で。っていうか、山本さんに至ってはライブハウス(難波ベアーズ)のオーナーなんですけど、でもライブハウスでやるのはやめようって決めた。やっぱりそこからは場所作りというか、それがROVOの活動の大きいテーマですよね。場所を作っていくっていう。
――ライブハウスの掟を変えてきたのに、今はコロナの影響でまた別の場所なり考え方が必要になってきたと。
それは例えば僕らが活動を始めた頃、いわゆる通常のライブにしか行ったことのなかった人が獲得してなかった楽しみ方をフジロックなどで獲得したというか、うまく出会った。それも含めて場所作りってことだったなと思います。そういう意味では今こういう状況で、ライブできなくなっちゃったなっていうときに、何ができて何ができないかっていうのを考えると、やっぱり場所だったんだなっていうのはありますね。でも、じゃあ全国のキャンプ場で明日からライブやればいいかっていうと、そんな簡単なものじゃない。あきる野のキャンプ場はすごくいい条件に恵まれたと思います。
――これから違う楽しみ方ができる可能性もあるわけで。
例えば、いわゆる一番踊りに向いてるようなビートが続く曲だけじゃなくて、もうちょっとチルアウト的な表現とかアンビエント的な表現とか、そういうものにももっとフォーカスを当てやすくなってる気はしますね、ハイライフの初日に勝井祐二“八ヶ岳”セッションというのをエレクトロニカのermhoiとパーカッションの辻コースケと3人でやったんですけど、結構アンビエントな要素が多いもので。多分、去年までの夏フェスとかだとちょっと受けづらかったかもしれない。でもそれはそれで今回狙ってやったことではあるんです。基本的にハイライフの前の方は椅子が配置されてるので、すごくリラックスして聴いてくれてる感じで、むしろいい感じでハマれたなと。そういう表現の幅っていうのは出てくるんじゃないかと思います。
――生で自然に囲まれた環境でROVOを聴くのはきっと気持ちいいですよね。ライブも新しい回路が開かれるといいなと思います。
本当にそういう風になるといいですね。言っちゃえば、ROVOの今まで獲得してきたお客さんとの関係って、お客さんが踊ることで一番アクティブに参加するものだと思いますけど、そういうお客さんと僕らみたいなバンドが、むしろ率先してやり方を探っていくべきだなと思うんですよね。もともと椅子に座って聴く音楽とお客さんの関係だと作れない関係性がある、それを今、僕らとフェスのお客さんで新しく作ろうとしてるところです。座ってても全然いいわけですし、絶対踊らなきゃいけないわけじゃないってことも共有できる、そうなると思います。経験値をできるだけ積むというか。音楽を作る人間とお客さんとで一段階上を獲得する、今、そういう場所にきていると思います。

取材・文=石角友香 撮影=大橋祐希

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