心のぶつかり合いが変える運命、檀れ
い主演の明治座公演「恋、燃ゆる。~
秋元松代作『おさんの恋』より~」が
開幕

『近松心中物語』『元禄港歌』『常陸坊海尊』といった傑作戯曲の数々を生み出し、日本演劇史上にその名を残す劇作家・秋元松代。明治座で上演中の「恋、燃ゆる。~秋元松代作『おさんの恋』より~」は、近松門左衛門の『大経師昔暦』を原作に彼女が執筆したテレビドラマ『おさんの恋』を、今回演出を担当する石丸さち子が上演台本を手がけて舞台化したもの。初日の舞台を観た(10月19日12時の部、明治座)。
京都の大店、大経師彩玉堂のおさん(檀れい)は、器量と気立てのよさで知られる“ごりょんさん(若奥様)”。夫である永心(西村まさ彦)は、美貌の彼女を人目にはふれさせまいとする一方、商売そっちのけで女遊びに耽っており、その母(高畑淳子)は息子を諫めながら、妾に子供(東啓介)を産ませた亡き夫を思い出さずにはいられない。永心がちょっかいを出した女中のおたま(多田愛佳)は手代の茂兵衛(中村橋之助)に思いを寄せているが、当の茂兵衛は人知れずおさんに叶わぬ恋心を抱いていた。その茂兵衛は、巾着切りに店の金十両をすられてしまうが、永心はそれを横領と決めつける。そして、番頭の善四郎(大石継太)が茂兵衛の荷物を調べたところ、彼が拾って隠し持っていたおさんの櫛が出てきたことから、二人は不義を疑われることとなり――。
(左から)西村まさ彦、檀れい
(左から)檀れい、高畑淳子
女として生まれた運命を耐えるともなく甘受しながらも、茂兵衛に激しい恋心をぶつけられて心動かされ、自らの心のままに生きていくことに目を拓かされるヒロインおさんを演じて、檀れいは、意志のいかにも強そうなところと、けなげさとを見せ、華やかな着物の数々もあでやかに着こなしてみせる。そんなおさんに恋心を寄せる茂兵衛に扮した中村橋之助は、まっすぐさ、一途さ、熱さを発揮。彼がしばしば走り抜けていく姿は、いかにも恋に生きる若者らしい。嫁であるおさんを思いやる姑役の高畑淳子は、セリフのはしばしに、忍従を強いられてきた女の諦念を感じさせる。西村まさ彦が演じる永心は、大店の主人の家に生まれ、その境遇がいかに恵まれたものであるかを理解せず、そうとは生まれていない人々の気持ちに思いを馳せる余裕がない人間。その姿には、制度に守られてぬくぬくと生きてきた者の、ある種の悲哀が漂う。己の出世心にとらわれて茂兵衛を窮地に陥れる番頭を演じて、大石継太が滑稽な哀しみを見せる。おさんと茂兵衛、二人を見守る住職役の石倉三郎が発揮する温かみは救いである。
(左から)中村橋之助、多田愛佳
(左二番目から)西村まさ彦、東啓介
茂兵衛がおさんに対して言う「おさん様はわしの棲む世界や」をはじめ、心に響く珠玉のセリフがちりばめられたこの作品。近松の浄瑠璃は実際に起きた密通事件を題材にしているが、秋元松代の筆は、原作とは異なるところへと着地し、人間が強く生き抜く力に対する祈りのような希望を感じさせる。その結末についてはぜひ劇場でお確かめいただこう。そして、そんな恋の物語を盛り上げるのが、氷川きよしが歌う主題歌「恋、燃ゆる。」である(作詞:石丸さち子、作曲・編曲:森大輔)。オープニングはじめ、要所要所で流れるこの曲は、どこか不思議な懐かしさと、空に羽ばたく鳥さながら心解き放たれるような清々しさに満ち満ちている。その劇的効果もまた、ぜひ劇場にてご体感のほどを。和モダンを思わせる設えの中、ぐるぐると廻る盆が印象的な舞台である(美術:松生紘子)。

(左から)檀れい、中村橋之助
檀れい
終演後に行なわれた合同取材会には、おさん役の檀れいと、茂兵衛役の中村橋之助が出席。初日を終えて、「本当にほっとしています。キャストとスタッフが一丸となって、高い集中力でいい幕を上げられたのではないかなと思います」(檀)、「石丸さんと檀さんのリーダーシップのもと、一丸となって初日を迎えられました。チームワークがすばらしいなと思っていますし、全員が100の集中力で挑めた、全力でできた初日だったと思います」(橋之助)と感想を。主題歌「恋、燃ゆる。」については、「一番の歌詞が茂兵衛、二番の歌詞がおさんにあてて書かれているのですが、曲を聞くとぐっと気持ちが盛り上がって。私たちが作りたい世界が歌で表現されているので、より深く役に入ることができると思っています」(檀)、「茂兵衛のお役をつとめる上で、スタートラインに立たせてくれるのがこの歌。舞台にものすごく合っていて、すてきな曲だなと思います」(橋之助)と語った。「意思をもって自分の道を選び取ってゆくおさんの強さが、人間として、女性として、とてもすてきだなと思います」(檀)、「僕自身、例えばスポーツなど、好きになったらそれしか目に入らないくらい好きになるので、茂兵衛のまっすぐさにはすごく共感できますね。ただ、茂兵衛のように、すべてを捨てて行けるほど強くはないと思いますが」(橋之助)とは、それぞれの演じる役について。

初日合同取材(左から)中村橋之助、檀れい
二人は今回が初共演となるが、お互いについての印象を、「自分のお役をとてもまっすぐ演じていることがひしひしと伝わってくる人。どんなことがあっても立ち上がって前に進もう、何かをつかみ取ろうとするエネルギーがすごく強くて、一緒にお芝居していてとても刺激的。たくさんの可能性をもっていて、どんな役者になっていくのかすごく楽しみな方」(檀)、「お稽古が始まってから、僕自身、悩み、どう進んでいいかわからないかわからなくなってしまったときがあったのですが、檀さんがいつも、『大丈夫?』『頑張ろうね』と声をかけてくださって。それがなかったら折れていたかもしれません。お芝居の面でも具体的に教えてくださって、勉強させていただけて。大好きです」(橋之助)と答え、檀が「ありがとうございます」と返す一幕も。
初日合同取材(左から)中村橋之助、檀れい
ちなみに、檀は橋之助の父である芝翫と『オセロー』で共演しているが、「橋之助さんがどんと構えているところに大きさを感じます。それは芝翫さんもそうでした。私が橋之助さんに頼っている部分も多々あり、ついて行っているところもある」とのこと。橋之助のところには父から初日の朝に電話があったそうで、「檀さんはどんな直球ストレートを投げても受け止めてくれる方だから一生懸命やりなさいと言ってくれた」とのエピソードを明かした。「やはり私たち役者は演じることが大好きですし、演じていなければ自分が生きている実感を感じないというか、演じることで自分は生かされているなと今回すごく感じました。千穐楽に向けて作品がどんどん深みを増していくと思いますので、足を運んでいただければ幸いです」(檀)、「お客様の前でお芝居させていただけることは本当にありがたいことだと思っています。一丸となって頑張っておりますので、一人でも多くのお客様に観ていただきたいなという思いが一番です。千秋楽まで一生懸命つとめたいと思っています」(橋之助)と、観客の前で演じられる喜びにあふれた二人の姿が印象的だった。
初日合同取材(左から)中村橋之助、檀れい
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 写真提供=明治座

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