新国立劇場バレエ団の池田理沙子・柴
山紗帆が大いに語り合う~吉田都舞踊
芸術監督就任後初公演『ドン・キホー
テ』で華やかに競演

新国立劇場バレエ団が熱い。2020/2021シーズンより英国ロイヤルバレエきっての花形プリンシパル(最高位ダンサー)として活躍した吉田都が舞踊芸術監督に就任し新たに始動した。就任後初公演は2020年10月23日(金)~11月1日(日)の『ドン・キホーテ』(新型コロナウイルス感染拡大により当初予定のピーター・ライト版『白鳥の湖』新制作から変更)。スペインを舞台に若い男女のキトリとバジルを軸に繰り広げる明るいステージだ。主演は6キャストが組まれ、池田理沙子(ファースト・ソリスト)、柴山紗帆(ソリスト)はキトリを初めて踊る。幼なじみでもある池田と柴山に同公演や12月の『くるみ割り人形』への意欲、コロナ禍の日々、吉田新監督の指導ぶり、今後の抱負などを語り合ってもらった。
■幼少から切磋琢磨し高め合う存在
――おふたりが出会われたのはいつですか?
池田理沙子(以下、池田)・柴山紗帆(以下、柴山) いつだったかな?
柴山 同じバレエ教室でしたが、初めは支部みたいなところで別々に習っていました。
池田 一番大きなスタジオに集って練習するときか、発表会で出会っているのかな。気が付くと一緒に習っていました。
――当時のお互いの印象はいかがでしたか?
池田 印象に残っているのは紗帆ちゃんがコンクールの練習で『パリの炎』のヴァリエーションを踊っていたときです。回転が凄く綺麗で、軸もしっかりしていました。
柴山 私は理沙子ちゃんの踊る『コッペリア』のヴァリエーションの印象が強いです。可愛らしくてジャンプがとても軽快で。ハキハキと踊って魅せ方が上手だなと。
ローラン・プティの『コッペリア』スワニルダ(2017年)池田理沙子 撮影:鹿摩隆司
――おふたりともコンクールでスカラシップを得て海外に留学しました。池田さんはハンガリー国立ブダペスト・バレエ学校、柴山さんはアメリカのハリッド・コンサーヴァトリー、ピッツバーグ・バレエシアター・スクールに行かれました。その後、新国立劇場バレエ団で同僚となりましたが、いま、お互いをどのようなダンサーだと捉えていますか?
池田 紗帆ちゃんには大人の女性の魅力を感じます。『白鳥の湖』のオデット/オディールでは色気を持っているし、はかなさも出せる。どんな役に対しても自分を変えていける。それに踊りが物凄く丁寧なんです。小さなことにも妥協せずに研究をしているし、それが踊りから見て取れる。盤石のテクニックがあり、そこに表現力が増している踊りを尊敬しているし見習いたいと思っています。
柴山 理沙子ちゃんには芯があり、自分の持ち味を存分に出せるのが凄い上手。軸や芯があって、そこにプラスして役柄について表現していけるし輝いています。身体の使い方が素晴らしくて、ブレないテクニックは私も見習いたいです。
『ラ・バヤデール』ニキヤ(2019年)柴山紗帆 撮影:瀬戸秀美
■基礎を見直した自粛期間
――新国立劇場バレエ団は今年2月、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて『マノン』が2公演を残して中止となり、その後も3月の「DANCE to The Future 2020」、5月の『ドン・キホーテ』、6月の『不思議の国のアリス』と中止になりました。大原永子前舞踊芸術監督最後のシーズンでしたが大原前監督への思いをお聞かせください。
柴山 私は大原先生が監督になられたときに入団し育てていただいたので思い入れが強いです。先生のパワーは凄まじくて指導を受けるたびに元気をもらえます。ズバっと愛のある厳しいお言葉をいただくこともありましたが、モチベーションを上げていただきました。感謝の気持ちを先生にお伝えしたいです。
池田 実はこの間、大原先生が夢の中に出てきて、お会いしたいという気持ちが日に日に強くなっています。私も一から育てていただき、今こうして踊ることができています。毎日のようにリハーサルで叱咤してくださり、物凄く大きな愛情を肌で感じられたのは大きな財産です。
――4~5月の自粛期間のお話をうかがいます。長期間スタジオにも入れない状況が続きましたが、この時期を振り返って印象に残っていることは何ですか?
柴山 お家でできることは限られるので、痛めやすいところを改善したり、戻った時に今より良くなっているといいなと思いながら基礎も見直しました。体力づくりを欠かさないようにすることも心がけました。
池田 この期間に逆にできることがあるかもしれないと考えました。基礎の見直し、体幹の強化など自分の体と向き合う時間が増え、自分の体をもっと知ることができるようになったと思います。(芸術参与だった吉田)都さんやミストレスの先生方がリモートでレッスンをしてくださったので、皆の顔を見るだけでも心にいっぱい栄養をもらい、元気をいただきました。
柴山 バレエ団の人たちと映画鑑賞会をしました。オンラインでジャンルを問わずいろいろと見て、皆で突っ込んだりするんです。先輩の(福田)紘也さんが詳しく解説してくださるんです!
『アラジン』ダイヤモンド(2019年)柴山紗帆 撮影:鹿摩隆司
■『竜宮 りゅうぐう』であらためて実感した、舞台で踊る喜び
――新国立劇場バレエ団は、6月に入りレッスンとリハーサルを再開し、7月24日(金・祝)には世界初演・新作バレエ公演『竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季(とき)の庭~』で公演活動を再始動しました。この作品はコンテンポラリーダンスの森山開次さんが初めてバレエを振付するということで話題になりました。池田さんは主役のプリンセス 亀の姫を、柴山さんはフグ接待魚、織姫などさまざまな役を踊りました。幕が開いたときの気持ちはいかがでしたか?
池田 舞台に上がったときに「この景色だな」という感覚がありました。舞台稽古のときもうれしかったのですが、本番では客席にお客様がいらっしゃると熱気を感じ、そのうれしさも倍増でした。
柴山 感無量でした。今思い出しても泣けるくらいうれしくて。それが客席にも伝わったみたいで「皆さん生き生きしていた」といってくださった方もいました。今まで普通だったことが普通じゃなくなって迎えた舞台なので、一つひとつを大事にしようという初心に戻れました。
『竜宮 りゅうぐう』(2020年)池田理沙子(プリンセス 亀の姫)&奥村康祐(浦島太郎) 撮影:鹿摩隆司
――『竜宮 りゅうぐう』は御伽草子の「浦島太郎」に基づき和の要素が満載で、美術や衣裳、映像、音楽もユニークです。森山さんとのクリエイションで印象に残っていることは何ですか?
池田 亀だけではなくて魚たち、たとえばイカであったらこういうイメージなんだなと、あらためて気づかせてくれました。開次さんは私たちにはない視点から動きを創り出すので素晴らしいと感じました。難しかったのが体の使い方です。エネルギーが様々な方向に向かっているというか、私たちは小さな範囲でしか動けないところを大きく使っていて、しかも滑らかです。空間把握の勉強になりました。音に関しては無音の持つ意味や音の取り方のニュアンスで表現を重ねていくクリエイションが印象に残っています。
柴山 『竜宮 りゅうぐう』という作品自体が開次さんの頭の中を覗いているようでした。それぞれの役についても、子供ってこうだよな、フグってこうだよなと納得するような動きですし独特な感じもあります。踊っていても楽しかったです。音楽でもフグ接待魚の出るところとタツノオトシ吾郎が出るところでは、これはフグの音、これはタツノオトシゴの音と決まっていて、音にも役があるんです。凄く繊細に創られているんですよ。
池田 能の動きも入り、今までのバレエにはないテイストが散りばめられているのも魅力です。
『竜宮 りゅうぐう』(2020年)左より 宇賀大将(タツノオトシ吾郎)、渡辺与布、柴山紗帆(フグ接待魚) 撮影:鹿摩隆司 
■吉田都 舞踊芸術監督が就任! 高まる士気
――2020/2021シーズンから吉田都さんが舞踊芸術監督になりました。2年前の6月に芸術参与(次期芸術監督予定者)になることが発表されたときはどう思われましたか?
池田 都さんはバレエをやっている人にとってレジェンド中のレジェンドで雲の上の人、神様みたいな方です。畏れ多くて言葉も出ませんでした。こんな幸せなことがあるのかと思いました。実際にお会いしても小さい頃からの憧れの方なので、お話することさえも畏れ多かったです。
柴山 右に同じです(笑)。まさか!とびっくりしました。現実味がない感覚でしたね。
――就任後の吉田監督に接した印象はいかがですか?
柴山 一対一でお話させていただく機会があったのですが、一人ひとりのことを凄く考えてくださっていました。寄り添って真剣に話を聞いて共感し、解決策を考えてくださいます。それから今までの都さんの経験を踏まえた教えをしてくださいます。この間も私たちふたりのために演技の時間を作ってくださり、一から細かく教えていただきました。
――吉田監督は演技の部分を大事にして指導していきたいと意欲を持たれているようですね。
池田 私はこの間『ドン・キホーテ』第1幕でキトリが踊るバリエーションのときのカスタネットの鳴らし方と、そのときの目線と顔の使い方を教わりました。都さんがお手本を見せてくださるので、印象がガラッと変わるのを身をもって感じました。
――新たにバレエミストレスに湯川麻美子さん(元プリンシパル)も加わるなど指導体制に変化がありました。バレエ団の雰囲気は変わりましたか?
池田 コロナのこともあったので結束が強まりました。都さんがミーティングでおっしゃったのですが、こういう時だからこそ皆で一つのものを創り上げていくことを大切にしたいと。皆の士気を上げてくださる。紗帆ちゃんが話したように、都さんは一人ずつに寄り添ってくださるので、みんなで頑張ろうという空気が流れていると思います。
吉田都 舞踊芸術監督 (c)Tamaki Yoshida
■『ドン・キホーテ』では“遊び”を忘れずに
――シーズン開幕公演は10月23日(金)~11月1日(日)の『ドン・キホーテ』です。5月の中止公演をスライドさせた形で、おふたりは主役のキトリを初めて踊ります。池田さんは奥村康祐さん、柴山さんは中家正博さんと共演します。古典バレエの中でも、いわゆるお姫様役とは違う陽気な街娘という役柄ですが、役作りをどのように進めていますか?
池田 今も模索中です。全3幕を通して踊り続けるので体力面でも大変です。都さんが演技指導をしてくださったときに「台詞にして書いてみる」ということをアドバイスしていただきました。「こう言いたくて、こういう感情があるから、その動作に移る」ということを自分の中に落とし込む作業を繰り返ししています。それから、ドン・キホーテがキトリをドルシネアというお姫様に見間違えるシーンがあるので、2つの役の間にどこか共通点・類似点があるようにしたいと考えています。キトリはお転婆娘でコミカルな役ですが、どこか芯があって品も感じられるように持っていきたいです。
柴山 私が今までバレエ団でやってきた役の中では、ここまで明るくてハッちゃけた役は初めてなので挑戦です。体力面で本当に大変な役ですが、第1幕から思いっきりやりたいです。演技と技術面を合わせて魅せられるように頑張りたいです。
池田 都さんには「遊んでほしい」と言われるんです。きちんとやる中に“遊び”を入れて、各キャストごとにそれぞれ自分たちの色を出してほしいと。そこは課題です。
柴山 “遊び”を忘れてしまう部分がまだ多いです。いい意味での余裕を出していければ。
『ドン・キホーテ』 撮影:瀬戸秀美
■新感覚の『くるみ割り人形』への誘い
――12月12日(土)~20日(日)には4年連続となるウエイン・イーグリング振付『くるみ割り人形』を上演します。少女クララの夢の世界を描いています。振付がとても難しいのですが、皆さんは見事にこなしていますね。この舞台の特徴・魅力をお話しください。
池田 女性ダンサーは地上にいる時間が恐ろしく短い(笑)。常にリフトされています。だからこそ浮遊感や迫力はどの『くるみ割り人形』よりもあるのではないかなと感じます。華やかな世界観が広がっていますし、第2幕のディヴェルティスマン(余興の踊り)は他の版では見ないものが組み込まれています。子供から大人まで幅広い世代の方に愛される作品だと思います。私はアラビアの踊りが大好きで、1人の女性を男性4人で様々な面白い角度でキャッチしたりします。
柴山 女性がリフトされている時間は長いですね。だから自習はあまりできないんです(笑)。でも男性との踊り方には勉強になるところがあります。体重のかかり方とかによって、こう違うんだと。ウエインの『くるみ割り人形』には、コンテンポラリーを踊ったあとにバレエが踊りやすくなるみたいなことにも通じる感覚がありますね。
池田 オフ・バランスの動きがとても多いんです。
柴山 個人的には第1幕に出てくるネズミたちと兵隊の戦いのシーンが大好きです!
池田 (クララと人形が運ばれ、魔法の地へと向かう)気球も斬新ですよね。
『くるみ割り人形』池田理沙子&奥村康祐 撮影:鹿摩隆司
『くるみ割り人形』第2幕 撮影:鹿摩隆司
■課題と向き合うことで生まれる“楽しさ”
――今後の目標、克服していきたいことなど抱負をお聞かせください。
池田 課題は山積みです。とくに表現面は永遠の課題だと思うんです。でも都さんから一歩歩くだけでも感情が伝わる面もあると教えていただけるので、それを一つも漏らさず吸収していきたいです。それにミストレスの先生方も含めていろいろな方に見ていただき、さまざまな指摘をもらえることがうれしいです。私は周りのダンサーに比べて体が小さい方なので、いかに舞台で大きく見せられるかを研究していますが、これも毎日の課題、永遠の課題です。そこにテクニックも伴わせなければいけません。バレエって面白いし楽しい。毎日が勉強で終わりがないというのは、このことなのかなと思います。
柴山 まさに『ドン・キホーテ』で課題に直面しています。技術と表現を伴わせるという部分に関して、演技で自分を出していく面がまだまだ足りないと感じます。最初に「理沙子ちゃんには芯があり、そこにプラスして役柄について表現していける」と言いましたが、その部分が自分の課題です。そこをより一層大きく強くするのが一番の目標です。大原先生に言われてきたこと、自粛期間に基礎を見直したことに加えて、新しく都さんに言われたことによってやっと気が付くこともあります。そうした積み重ねがまだまだ必要ですが、考えることが「楽しい」と思えるようになってきました。相手役の方とのコミュニケーションに関しても「こうしてみたい」というものが徐々に出てきて、どうしていくのか沢山話し合い、研究しています。その自分の中の部分をもっともっと出して、お客様にも伝わればいいなと思います。
取材・文=高橋森彦

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