文学座が『五十四の瞳』で活動再開、
舞台配信も決定~主演・松岡依都美に
聞く

文学座がコロナ禍をへて活動を再開する新作『五十四の瞳』。書き下ろしたのは、文学座には1999年の『冬のひまわり』を皮切りに、『秋の蛍』『大空の虹を見ると私の心は躍る』を手がけてきた鄭義信。主演は、舞台は近年こまつ座、イキウメなどで活躍し、久しぶりの劇団公演への出演となる松岡依都美。テーマは重いかもしれないが、人情味、人間味、エネルギーにあふれたキャラクターたちが繰り広げる、悲しい展開の先にほんのり温かさも感じる物語だ。稽古終盤、松岡に話を聞いた。
 戦後まもないころ。瀬戸内海に浮かぶ小さな島。そこにやってくる、島には違和感のあるキラキラしたハイカラな女性教師。少年たちの冒険と成長。そんな設定は、壺井栄の名作小説「二十四の瞳」へのオマージュにも見えなくもないけれど、『五十四の瞳』はどうやらひと味も、ふた味も違っている――。
 舞台は採石業が唯一の産業である島。島に一つしかない学校は朝鮮人学校であった。その学校の教師・柳仁哲(ユ・インチョル)に連れられて、新しく女性教師・康春花(カン・チュンファ)が赴任してくる。何やらちょっと訳ありの二人。それはともかく、この島では、日本人も朝鮮人も分け隔てなく働いていたし、子どもたちも一緒に楽しく学んでいた。
 康春花を演じるのは、松岡依都美。「警視庁・捜査一課長」(2019年)服部彩紀役、「科捜研の女」(2020年)園田逸子役など、近年、活躍の幅を広げている華のある女優さんだ。
 「康春花は島にやってくるときに、島では見かけない色と形の衣服を身につけているんです。なかなか粋なお姉さんが来てくれたぞみたいな雰囲気が島には流れたのかもしれません。春花は奔放で、素直で、明るくて、若さゆえの幼さとまっすぐさ、勢いのある女性。彼女を島に連れてきた柳仁哲先生は、結婚している身ではあるんですけど……。彼は自分の意見や理屈は言うくせに、行動は起こさない。そこは彼自身が劣等感として抱えている部分でもあるんですけど、ある種の人間臭さがあると思うんです。そんな、ちょっとダメな男に惹かれてしまう春花の女心もわからなくはないかな。22歳、まだまだ世間のことも知らない年ごろですから」
『五十四の瞳』稽古より
 物語は、康春花が島にやってきたときから、朝鮮人学校を卒業した子どもたち、その親たちとの交流を通して、20年にわたる時間が描かれる。明け透けなやりとりは島民同士の距離の近さを感じさせる。採石場の社長がおそらく大鍋で作るであろう「タコの煮付け」がことあるごとに登場してくるが、質素かもしれないけれど、愛情のこもった地元の料理だということが伝わってくる。
 平和な島の暮らしは、占領軍(GHQ)が全国の朝鮮人学校閉鎖を宣言したことで、じわじわと変化していく。最初は小さな島には監視が届かないと変わらぬ日常だった。コロナの喧騒が都会で起こっていても、地方ではピンとこなかったあの感じにどこか似ていると戯曲を読んでいるときに思った。しかしGHQの命令は高まり、やがて大阪や神戸で大規模な抗議デモが巻き起こる。
 「このままでは俺たちの学校もなくなってしまう!」
 島の少年たちは神戸の抗議デモに参加するため、親や先生たちに内緒で島を飛び出していく……。これをきっかけに、島の閉鎖性、危険と隣り合わせの採石場の仕事への想い、朝鮮半島の分断による影響などなどが、人びとの暮らしに影を落としていく。
『五十四の瞳』稽古より
 「実際にあった島のことがヒントになっているんです。この島は日本人とか朝鮮人とか関係なしに暮らしていたわけで、とても理想的な、いい関係が築かれていた。朝鮮人学校閉鎖という動きは、あの時代、いえ、今もそうかもしれないけれど、民族というものに対する想い、その権利を守るために行動する強さ、社会と向き合える強さ、そういうさまざまなことを浮き彫りにします。春花は島で生きていくことを決めてはいるんですけど、この出来事を通して、子どもたちに対して尊敬の念と愛おしさを感じていると思います。
 私は帰化しているんですけど、ルーツがもともと韓国にあって。だからと言って朝鮮学校に通ったわけでもなければ、韓国や北朝鮮のことを学んできたわけでもなく、やっぱり日本に生まれて日本で育ってきたので、日本人と同じような感覚で生きてきました。今回の台本をいただいて逆に学ぶことも多いし、セリフを聴きながら自分の中にはそういう血が流れているんだって改めて感じる瞬間がしばしばあるんですよ」 
 そしてもう一つ、時期を同じくして柳仁哲は妻のことがあって、神戸の自宅に戻っている時間が増えていく。柳仁哲のぶんも働くことで大忙しの春花。彼女の心に漂うのは、進展があるわけでもなく、ただ変わらずに続いていた柳仁哲との関係への迷い。
 「柳仁哲先生から投げつけられてヒリヒリする言葉もいっぱいあるんですけど、春花もけっこう言い返していますからね(笑)。言い合える関係だからこその腐れ縁といいますか、彼が最終的に島を去る決断をしたときに、寂しさもあるし、彼が最後に見せる弱さを包み込んで上げられるような関係性ではありたいなとは思っています。
 気がつけば島にやってきてから20年が経っています。それを表現するというよりは、嘘なく、まっすぐ、そこに生き続けることが大事かなと思います。その時その時を必死に生きることで、時の流れに向き合っていく。そうすればきっと何かが生まれてくるような気がするんです」
『五十四の瞳』稽古より
 冒頭にも描いたが、たしかに重いテーマの物語ではあるけれども、ちょっぴりベタな笑いと、心に沁みいるしっとりしたシーンが交互に展開していく鄭義信らしい味わいが包み込みそうだ。
 「私が鄭さんに出会ったのは研修生2年生の時。『20世紀少年少女唱歌集』という作品でしたが、それも松本祐子さんが演出だった。言葉もストレートで、ヒリヒリと、でもまっすぐ正直に生きている人たちを描いているという印象は変わらないですね。それが鄭さん節というか、鄭さんの戯曲の魅力だと思う」
 演出の松本祐子は、文学座以外にも、海のサーカスプロデュース『アジアン・スイーツ』、椿組『なつのしま、はるのうた』『20世紀少年少女唱歌集』を演出するなど、どうやら鄭義信の絶大な信頼を得ている。
 「お二人は相性がいいですよね。鄭さんの作品もそうですけど、松本さんもものすごくエネルギーを持って、しぶとく、しつこく、ねちっこく演出してくださる。そのくらいエネルギーがないと立ち向かえない世界だからだと思います。生きている人たちがものすごくエネルギーを持っているので」
松岡依都美
 松岡は最後にこうやって結んだ。
 「久しぶりに文学座に戻ってきて、先輩がいて後輩がいて、いろいろアドバイスしあったり、相談しながら芝居をつくっていくと、やっぱりホームだなという温かさを感じます。ウイズ・コロナな状況もありますが、絶対に観ていただきたい作品です。心を疲弊することが多い日常の中で、演劇はものすごく力を持っていると私は信じているし、この作品でたくさん笑って泣いて、心軽やかになってほしいというのがとても正直な想いです。
 『二十四の瞳』ですか? 祐子さんは演出者として意識していないとおっしゃってましたよ(笑)」
 政治に翻弄されながらも、国境とは違う関係性の中で紡がれる島の暮らし、人びとの絆は果たしてどうなっていくのか……。なお、この公演は、イープラスのStreaming+を利用した配信もおこなわれる(下記公演情報欄参照)。
取材・文:いまいこういち

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