福原みほ × チャーリー・リム 海を
越えたコラボレーションで描く愛と拓
く新境地

福原みほがシンガポールのシンガーソングライター・チャーリー・リムとコラボレーションを果たし、ステイホームで練り上げていった新曲「Ashes」が、10月27日にリリースされた。コラボの出発点は新型コロナウィルスによるパンデミック以前のこと。だが、その後の世界情勢や人々の暮らしが変化していく中で歌詞やアレンジを固め、大きな愛を歌うラブソングとして完成していったというこの曲は、クールさとあたたかさが同居したチルなサウンド感など、彼女の近作とはまた違った手触りで輝きを放つナンバーに仕上がっている。今回は、日本とシンガポールをリモートでつなぎ、両者の出会いから制作時のことを振り返りながら、音楽家としていま向き合うこと、考えていることまで、じっくりと語り合う。
──今回コラボレーションされた新曲「Ashes」の出発点として、出会いの部分から振り返っていただけますか。
チャーリー:2017年だったかと思うんですけど、みほさんの旦那さんから、あるフェスに招待されて。そのとき空き部屋にステイさせていただいたのが縁です。みほさんの犬のスパーキーの面倒を見たりして、一気に仲良くなりました。その翌年に2人がスパーキーを連れてシンガポールに遊びに来たとき、長くステイするはずだったのが急に戻ることになったんですけど、そのときも僕がスパーキーの面倒を見てました(笑)。
福原:元々はうちの主人がシンガポールと行ったり来たりしながら音楽の仕事をしていく中で「チャーリーっていう素晴らしいアーティストがいる」って紹介されて、初めて彼のアルバムを聴いて。本当にすごくオーガニックで、アジアのジョン・メイヤーだと思ったんですけど、シンガポールにも興味がわいたし、チャーリーのライブ映像とかも観てより好きになって。その後会うタイミングがあってライブにも触れてさらに好きになっていきました。
チャーリー:とても光栄です。
福原:いや、本当に(笑)。
チャーリー:みほさんのことは、最初はアニメの曲だった「LET IT OUT」を聴いて知って、そのあとに彼女の色んな曲に触れたんですけど、ゴスペルやR&Bに影響されていて本当にびっくりしたし、彼女の音楽性に惚れてしまいました。
──ゴスペルやR&Bというワードが出ましたが、チャーリーさんのルーツの中にもそういった要素はあるんですか。
チャーリー:そうでもないんですけど、大学の頃にジャズを学んでいて。それと僕は15歳でオーストラリアのメルボルンに引っ越したので、その頃から多様な音楽に触れることができたんです。ジェームス・ブラウンやレイ・チャールズ、ビル・ウィザーズのようなオールドスクール・ミュージックをよく聴くようになって、それ以外にもエリカ・バドゥ、ディアンジェロといった90’ s以降のネオ・ソウルなんかも大好きで。そういった音楽を主に聴きながら、バンドもやってましたね。
──過去にはTENDREと2マンライブをしていたり、WONKとの対談記事が出ているのも拝見しました。日本の音楽シーンともこれまで接点があった中で、どんな印象を持っていました?
チャーリー:TENDREやWONKとはまだ音楽的なコラボレーションはできていないんですが、日本の音楽はすごく多様性がありますよね。ソウルやR&Bに影響されたアーティストも何組か知っていて、中でも、今は活動してないかもしれないんですが、urbというバンドにすごく興味を持って、アルバム『bru』を聴いてます。あとは東京スカパラダイスオーケストラ、SOIL & "PIMP" SESSIONSなんかも好きです。
福原みほ
──日本の音楽シーンの多様さでいうと、福原さんはデビュー当初はいわゆるJ-POPシーンの真ん中を行く音楽性で、その後よりルーツを掘り下げていくような表現や活動スタイルにシフトしていった印象があります。そのどちらも体験した視点では、日本のシーンをどのように見ていますか。
福原:わたしは活動が10年、インディーズからだと15年になるんですけど、どメジャーのポップスから始まって、そこから自分のルーツであるソウルミュージックとかを表現するアルバムを出したりしていく中で、音楽業界全体が「売れない売れない」「やばいやばい」みたいになっていく、様変わりも近くで見ていて。いままであったプロモーションの仕方では通用しなくなったぶん、アーティストが自分たちで発信していくツールも増えたので、自分らしさとか本当に好きなことをやるような状態に移ってきていてますよね。いまは本当にその人のアーティストパワーやアイデンティティ、キャラが強いとか、アトラクティヴな人が目立ちやすい時代になってきているのかなと思います。
──今回のコラボレーションもまさに、アーティストパワーやアイデンティティ、独自性も兼ね備えたものですが、一緒に楽曲を作ろうという段階まではどう進んでいったんですか。
福原:わたしは一方的にファンだったので、出会ってすぐ「一緒にやりたいんだけど」ってずっと言ってたんです(笑)。ただ、アルバムを出してツアーを回ったり忙しい日々が続いていたから、なかなかライティングする時間もなくて。わたしたちが今年1月にシンガポールに行くときに「1日もらえないかな?」って聞いたら「じゃあ作ろう」と。ようやく腰を据えてやれることになったので、そこから進んでいきました。
チャーリー:とてもチルなセッションでしたね。みほさんがマフィンを出してくれたり、リラックスした雰囲気でした。はじめは何かイメージや方向性があって始めたわけではなくて、僕がギターを弾き始めたところにみほさんが歌を乗せてくれて「それいいじゃん」ってどんどん発展していく感じでした。
──それが今回の「Ashes」。
福原:そうなんです。彼がチューニングしてちょっと弾いたその音色とコード進行が素晴らしくて、「もうそれでいいじゃん!」みたいな。こういう曲調をやろうとか、テンポがどうとかはなく、雰囲気でそのまま。もう彼の世界がそこにあったので、わたしがそこに入っていったんですけど。気づいたらそんなに時間もかからずに、その日にラフのデモを作り上げていた感じですね。
チャーリー・リム
──その後、世界的に新型コロナウィルスの影響が出始めましたが、ギリギリセーフというか。
福原:そうですね。
チャーリー:その後、6ヶ月ロンドンにステイする予定だったんですけど、すぐに戻ってくることになりました。ロックダウンになったことでオーストラリアの家族にも会えないし、その間に亡くなった叔父にも会えなくて。そういった心の動きも今回の曲にはかなり反映されたと思います。最初はラブソングみたいな形で進んでいたんですけど、最後の方にはもっともっと深いものになりました。
──そうやって歌詞やサウンドアレンジ面を詰めていったのはいつ頃だったんですか。
福原:いつだったっけ。6月くらいですかね?
チャーリー:そのくらいかな。みほさんがデモの段階で歌っていた言葉を生かして、無いところを僕が埋める感じでした。……日本語は僕は書いてないですけど(笑)。
──でも歌は日本語でも歌っていて。
福原:そうなんですよね! すごいサプライズで「イエス!」みたいな。嬉しかったんですけど。
チャーリー:すごく緊張しました。僕の妻が日本語をしゃべれるのでチェックしてくれたのと、日本語のビギナークラスに通ったことがあるのでそれも少しは助けになったかなと。
──リモートでのやりとりをしていく中で、他に印象深かったことはありますか。
福原:チョック・ケロングというチャーリーのバンドのピアニストがいるんですけど、その方がこの曲のトラックを作ってくれて。彼とどういう風に進めていったのか、わたしが聞きたいです。
チャーリー:ケロングはとても楽に仕事できる人で、作るサウンドもオーガニックで、複雑なものを作るよりもセンスとか感覚に合わせてやっていく方なので、僕は彼にほんのちょっと指示をしながらも、基本的には原型をキープしながら作業していきました。最初のデモが出てきたときにバッキングボーカルのハーモニーの部分がめちゃくちゃ良かったので、そこを残すというのはもう決めていて、みほさんの声をそのまま乗せました。
福原:最初はもっとアンビエントな感じだったんですね、アレンジが。だからちょっとこれだと暗すぎるって言って。やっぱりラブソングだなとは思ったので、ちょっとダークさとかコールドさもありながらも、あんまりアンビエントになりすぎない形で、もともと2人で作ったときのデモに近づけた方が良いかなっていう話はしました。
チャーリー:そうですね。その後、すごくダイナミックな感じになって拡大されたので、そこは良かったです。
──実際、ある種のクールさとあたたかさが同居した質感があります。それでも福原さんの普段の音楽よりはだいぶクール寄りで新境地といった印象も持ちましたが。
福原:ふふふ、そうですね。以前、わたしの2ndアルバムでsleepy.abっていう北海道のバンドとコラボしたときも、そのダークさがあって。今回気づいたんですけど、チャーリーもsleepyの成山剛くんもどちらもトム・ヨークにものすごく影響を受けているアーティストなんですよね。好きなサウンドが似ているので、やっぱりアレンジしたときにそういうアンビエントさや冷たさだったりが入ってくるんですけど、わたし自身の声ってすごくあったかい。で、チャーリーの声もあったかいので、それがどちらも混合している感じになったのかなと思います。面白いです、これがコラボレーションだなと。
福原みほ
──お2人とも普段はソロのシンガーソングライターでもあって。こうして別の方と一緒にやること自体に醍醐味、面白さもあると思います。
チャーリー:やっぱり一人でやっているとどうしても煮詰まってしまったり、考えすぎちゃうことも多いんですけど、それはあまりよろしくないなと。コラボレーションすることでぶつかることも含め、いろんな意見があるし、それでリフレッシュされる感覚があって。あとは特にみほさんは明るくて元気なアーティストなので、そういう元気をもらうこともあります。
福原:わたしはいろんなジャンルの音楽が好きだし、リスナーとしても聴いていて、リスペクトするアーティストに対しては、この人と自分がどこでチャンネリングしようかというのをいつも考えているので。今回みたいにナチュラルにできるときもあれば、ものすごく計画的にやらなくちゃいけないような緊張感のある現場もあるし、いろんなコラボレーションがありますけど、でも最終的にそこにあるのは、その人が持っているアイデンティティと人間性だと思うので、人間観察としてもすごく面白いなと思っています。
チャーリー:本当にそうですね。ただ曲を書いてって頼まれることも多いんですけど、今回みほさんとは友達という関係から始まっているので、そこはすごく良かったです。
──実際に曲を作り上げてみて、間も無くリリースタイミングを迎えますが、あらためてそれぞれの中でどんな意味を持った曲になりましたか?
チャーリー:すごくピュアで正直な気持ちになってます。聴いた人にもそういうふうに感じてほしい。何かを証明したいとかいうことではなく、ただ静けさとピースな雰囲気を感じて、心が洗われる気持ちになってほしいなと思います。
福原:わたしは今年一番の作品……って一曲しか出してないんですけど(笑)。「Ashes」っていうタイトル自体はちょっとこう、意味深な感じはあるんですけど、死の中にある幸せを感じるというか、亡くなった人たちと自分たちが同じ宇宙の中にいることを感じられる曲かなと思います。あとはこのパンデミックの中で、今までだとスタジオに行ってレコーディングをするという作業をしていたのが、今回は本当に一人でやらなくちゃいけなくて、お家でレコーディングもやってみて。ミックスでこれだけちゃんとした世界観ができるんだとか、いろんな新しい学びもありましたし、何回も何回も自分でも聴く曲です。
チャーリー:音声データのやり取りとかも含めてすごく勉強になりましたよね。
──この曲のリリース後、福原さんは年明けにライブも控えてます。
福原:チャーリーとの曲以外にもこのパンデミックの中で作っていた曲が溜まってきているので、その中から一曲、ツアーのタイトルになっている「Sun On My Wings」っていう曲をツアーに向けて出せたらいいなと思っていて。この状況下で人々の混沌としている気持ちをこうパッと何か問いかけられるような、メッセージのある曲にしたので、それをもって来年良いスタートを切れたらいいなと思っています。
チャーリー・リム
──ライブを行うことについて、いまシンガポールではどんな状況なんでしょうか。
チャーリー:いまはロックダウンの状態からフェーズ2に移行していて、フェーズ3になればようやく小さなイベントができるようになるかなと。それでも50人くらいの規模になるかなという感じです。
──なるほど。そうなるとなかなか具体的な予定などは立てづらいかもしれませんが、チャーリーさんのいま計画していることや予定していることがあればそれもお聞きしたいです。
チャーリー:ロンドンでのサウンドエンジニアリングなどの音楽の勉強の途中なので、できれば行って再開したいと思ってますが、いまはコロナでそれが難しくなってしまって。いまできることは曲を書いたり、それから年末から来年にかけてコラボレーションの話もいくつか来ているので、それは楽しみです。ただ、いまはやっぱり洞穴にこもって自分のやるべきことをやるかな、といった感じです。
──活動の形態など様々な変化が起きた今、あらためて音楽家として思う表現したいことや成し遂げたいこと
としては。
チャーリー:歳をとるにつれて大きな野望はだんだん薄れてきてしまうものなんですけど、いまはやっぱり曲を書いたりツアーをしたりしたいです。たくさんのオーディエンスの方とまた分かち合いたいですね。
福原:わたしもそうですね。夏のツアーをキャンセルしてしまって、配信とかも今年は色々やってきたんですけど、やっぱりファンの人たちとライブで会いたいなと。リアルのエネルギーの交換みたいなものはライブでしかないと思うので、そういう日常が早く戻ればいいなと思いつつ、まだ先になりそうなので。いまできること、自分がいま書けるメッセージとか歌えること、発信できることをどんどん……あの、忘れちゃいますよね。田舎に住んで母親をやっていると、音楽家だということを忘れちゃう(笑)。毎日、自分はアーティストなんだよって自分に言い聞かせて、できることを探していきたいです。
──いつか、ライブでの共演も観てみたいです。
福原:そうですね、ぜひ。
チャーリー:また日本にも行きたい。みほさんもシンガポールに来てライブをしたり、それが一番ですよね。そのときのためにバンドも準備もしてあるので!
福原:おお! 彼のバンドのベーシストがすごいんですよ、一緒にやってみたいな。
──最後に、チャーリーさんから日本のファンへ、福原さんからは「Ashes」のリスナーへ向けてメッセージをお願いします。
チャーリー:まず、厳しい時代ですけど、ぜひこの曲を聴いてもらいたいです。そして絶対に僕は日本に行きたいので、そのときはみほさん、よろしくお願いします。
福原:もちろん。メッセージ、難しいですけど……今年はこのパンデミックでわたしも何回も落ち込んだし、行き詰まっている人とか仕事をなくした人、家族や好きな人をなくした方もたくさんいると思うので、この曲を聴いてその人たちのメモリーをもう一度自分の中にアップデートして、頑張って進んでいってほしいなと思います。

取材・文=風間大洋

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