生きとし生けるものは美しい 平原綾
香主演、ミュージカル『ビューティフ
ル』ゲネプロレポート

「イッツ・トゥ・レート」「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」「ア・ナチュラル・ウーマン」といった名曲の数々で知られるアメリカの女性シンガー・ソングライター、キャロル・キング。彼女の手がけた楽曲及び同時代のヒット曲の数々でその人生を綴るブロードウェイ・ミュージカル『ビューティフル』が、帝国劇場にて3年ぶりに再演されている。平原綾香がキャロル・キングとして登場したゲネプロを観た(11月4日(水)13時半)。
平原綾香 写真提供/東宝演劇部
16歳のキャロルは、2学年飛び級してカレッジに通う早熟な少女。母ジニー(剣幸)の反対にもめげず、自作曲をプロデューサー、ドニー(武田真治)に売り込むことに成功する。同じカレッジに通うジェリー(伊礼彼方)と恋に落ち、二人で作詞作曲チームを組むことに。やがてキャロルは妊娠し、幼な妻として仕事と子育てに邁進する。二人のよきライバルは、バリー(中川晃教)とシンシア(ソニン)のコンビ。病気ノイローゼのバリーと時代の最先端を行くいい女のシンシアも恋に落ちるが、二人はなかなか結婚へと踏み出せない。ヒット曲を連発する四人だったが、いつしか時代は変わり、自作曲を歌う歌手たちが増えてきていた。郊外での落ち着いた生活を好むキャロルと、都会での刺激的な生活を求めるジェリー。時代に取り残されるとの焦燥感にも苛まれ、ジェリーは精神的に追いつめられるようになり……。
平原綾香 写真提供/東宝演劇部

(左から)ソニン、武田真治、中川晃教 写真提供/東宝演劇部
(左から)ソニン、平原綾香、中川晃教 写真提供/東宝演劇部
平原キャロルは、その最初の登場から、唯一無二の個性、ユニークさが光る。いかにもキャロル・キングらしい――見る人によっては“ダサい”かもしれない――服装の数々も、平原キャロルがまとうと、飾らず、率直なその個性の発露として、不思議と納得感がある。歌唱においては、「あ」の母音の発声に魅力がある――ときに、聴く者をふわっと包み込むような、ときにその凄みと迫力に背筋が伸びるような。劇中言及されるように、笑顔もキュート。ときおり流れる「アイ・フィール・ジ・アース・ムーブ」の歌詞さながら、地鳴りの伝わりのような感情の動きを感じさせるキャロルである。

(中央)平原綾香 写真提供/東宝演劇部

(右から)伊礼彼方、平原綾香 写真提供/東宝演劇部
ザ・ドリフターズ 写真提供/東宝演劇部
仕事場と郊外の家とを往復する落ち着いた生活の中でも音楽を生み出し続けられるキャロルの才覚は、確かに、絶えず刺激を受け続けないと時代に合うようなヒットソングの詞が書けない……と思うジェリーにとっては、驚異にも映るだろう。その意味で、平原が体現するキャロルは、いずれ独り立ちして生きていくことが予見され得る、才能故に突出してしまった一人の女性である。どちらかというと不器用、内省的、内向的で、音楽によってよりよく他者とつながれる人。そんな彼女が、他人のために曲を書くのではなく、自分の足で一人で立ち、シンガー・ソングライターとして歩む道を見出す姿は、清々しい希望に満ちている。

ジャネール・ウッズ&コーラス 写真提供/東宝演劇部
リトル・エヴァ&ダンサーズ 写真提供/東宝演劇部
だからこそ、「イッツ・トゥ・レート」「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」「ア・ナチュラル・ウーマン」「ビューティフル」と生の歌唱が続くくだりは、圧巻である。終わってしまった関係における手遅れ感を歌い上げる「イッツ・トゥ・レート」は、恋を失った経験のある人、関係を終わらせた経験のある人の心に、痛切に届くであろう一曲。友情を確かめ合って歌う「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」は、平原の歌い出しに中川バリーが声を重ねるとき、音と音による魂の交歓を感じ取ることができる。そこにさらにソニンシンシア、武田ドンと加わって、四人が織り成すハーモニーが耳福である。
(左から)伊礼彼方、武田真治 写真提供/東宝演劇部
(左から)中川晃教、ソニン 写真提供/東宝演劇部
「ア・ナチュラル・ウーマン」については、この曲を最初に歌ったソウル歌手の故アレサ・フランクリンが、歌詞にある、自分を“ナチュラル・ウーマン”と感じさせるところの”you”を「神」ととらえて歌唱していたというエピソードが忘れ難いのだが、平原キャロルの歌唱においても、歌い、音楽に生きるという、自らの使命をはっきりと認識したという意味において、大きな意味での「神」が意識されている。傷ついた魂が、音楽への、人生への、世界への内なる愛によって、再生されていく様――。
(左から)武田真治、平原綾香 写真提供/東宝演劇部

だからこそ、タイトルチューンである「ビューティフル」の迫力に満ちたパフォーマンスは、生きとし生けるものすべての美しさを歌う、神の恩寵をも示唆するものとなっている――そのとき、歌っている彼女自身、美しい。『ビューティフル』のタイトルが深く腑に落ちる瞬間である。

平原綾香 写真提供/東宝演劇部
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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