小菅優「シリーズ最後にして最大のチ
ャレンジです」 『ピアノ・リサイタ
ル Four Elements Vol.4 Earth』イン
タビュー

2020年11月27日(金)東京オペラシティコンサートホール にて、若手ピアニストの一人、小菅優による『ピアノ・リサイタル Four Elements Vol.4 Earth』が開催される。オフィシャルより小菅へ公演の思いを聞いたインタビューが届いたので紹介する。

日本屈指の実力派ピアニスト、小菅優が行っている全4回のシリーズ『Four Elements』が、この11月に最終回を迎える。これは、「水・火・風・大地」の「四元素」をテーマにしたユニークなリサイタル。通常とはひと味違ったプログラミングが、興趣を誘っている。
2017年11月の「Water 水」、2018年9月の「Fire 火」、2019年11月の「Wind 風」に続く今回のテーマは「Earth 大地」。シリーズを締めくくる本公演に向けて、小菅に話を聞いた。
まずは、これまでの3回を振り返っての思いや公演の手応えを聞いてみよう。
「ベートーヴェンのソナタ全曲演奏に続く当シリーズでは、これまであまりプログラミングしてこなかった作品、自分にとってチャレンジングな作品に取り組むことを企図し、実際演奏して、自分に合っている作品、今後も取り上げていきたいレパートリーを見出すことができました。またテーマごとに弾くことで、作曲家同士の関係や当時の状況など、勉強になることが多々ありました。その意味でこのシリーズは“自分を発見する旅”だったと思っています」
特に印象的だったのは、前回の「Wind 風」だという。
「『風』は自分の中でも一番しっくりくるプログラムでした。バロックから近代まで時代を辿っていけましたし、フランス・バロックのクラヴサン曲も演奏して、ラモーの作品など改めて素晴らしいと思いました。それに300年前の曲と最近書かれた曲の相性が意外に良く、コントラストと共通点がある点に面白さを感じました。また昔から好きな作曲家だったヤナーチェクの『霧の中で』に挑戦し、チェコの新たな音楽世界に触れることができました。ただ、3回の中で最もチャレンジングだったのは、その前の『火』です。ともかくこれをテーマにしたピアノ曲が見つからない。さりとて唯一沢山ある『花火』と題した作品だけでは面白くない。そこでオーケストラ作品を入れて、『火の鳥』で大団円を迎える構成にしました。それにこのテーマでは、人間に暖かみをもたらす火と災いをもたらす火を表現する必要があるので、両方を考えたプログラミングに苦心しました」
彼女が「今後レパートリーにしていきたい」と語る作品もなかなか興味深い。
「先に話したラモーやヤナーチェクの作品。中でもヤナーチェクは本当に好きな作曲家なのに、今までほとんど弾いていませんでした。それからドビュッシー。実はピアノを始める前から一番好きだったのが『月の光』なんです。でも最初のリサイタルで『子どもの領分』を弾いた後、かなり遠ざかっていました。そこでこのシリーズに入れたのですが、弾いてみると『前奏曲集』の全曲を演奏したくなりました」
今回のテーマは「Earth 大地」。これには様々な意味が含まれている。
「『水』『火』『風』『大地』とくれば、『大地』が一番人間に近いでしょう。ですから人間そのものを追っていく、人間の歴史を語るようなプログラムにしたいと考えました。具体的には、大地にある『森』や『土』、そこに直結する『生』と『死』、さらには人の原点を形作る『故郷』とそれに関連した『さすらい』といった要素が含まれています。またこれまでは小品を並べたプログラムでしたが、今回はメインクラスの曲を複数含む内容になっています」
最初に決ったと話すのがシューベルトの「さすらい人」幻想曲。この曲は前半の核となる。
「人間を追っていこうと考えて、まずこれを決めました。私にとってシューベルトは特別な作曲家。中でも大好きな歌曲では、『さすらい人』が重要なテーマになっていて、それに関する歌が何曲も書かれています。『さすらい人』幻想曲の元になった歌曲(『さすらい人』D493)には、『太陽が冷たく感じる』『自分はどこへ行っても他所者でしかない』といった歌詞がありますが、そういう感覚は今の世の中で特にわかるような気がしますし、私自身、日本にいるとドイツを故郷に感じ、ドイツにいると自分は日本人だなと思ったりもします。シューベルトは、メッテルニヒに抑圧されていた社会の中で、フリーな人生を望み続けた人。『さすらい人』幻想曲にも、常に故郷を探しながらもがいているような孤独感や悲劇性が感じられます。それにシューベルトは31歳で亡くなっていますし、曲が書かれた1823年は病気になるなど苦境に陥っていた年。そうした葛藤の中で儚い美しさを見出し、終始同じ主題を用いながら人生のすべてを語り、ここまで完成度の高い作品を残している。私にとってこの曲は重要な課題であり、メインとなる存在です」
その前、すなわち1曲目には、ベートーヴェンの「バレエ『森の乙女』のロシア舞曲の主題による変奏曲」が置かれている。
「ベートーヴェンが25~6歳の時の作品で、今回は『森』のタイトルゆえに選びました。ヴラニツキというチェコの作曲家のバレエ『森の乙女』がウィーンで上演され、ベートーヴェンはそれを観てすぐに曲中のロシア舞曲を主題に用いたこの変奏曲を作曲しました。同曲では、イ長調の可憐で平穏な主題をもとに物凄く多彩な変奏が行われ、コーダもまた盛り沢山で素晴らしい。同じイ長調のチェロ・ソナタ第3番を思わせる部分もありますし、儚なさと強さや自然な美しさがすべて表現された音楽です」
後半は、ヤナーチェクのピアノ・ソナタ「1905年10月1日・街頭にて」で始まり、藤倉大の「Akiko’ s Diary」が続く。
「ヤナーチェクは愛国心が強くて、ハプスブルク家が支配していた時代に、自分がチェコ人だという意識を強く持っていました。このソナタは、1905年の暴動で殺されてしまった青年のために書いた作品。『予感』と『死』の2楽章で構成され、怒りを滲ませながらとても悲しい曲になっていますが、色彩的な美しさがあります。そうした無残な死という意味では、次の藤倉大さんの作品もそう。『Akiko’ s Diary』は、広島の原爆による放射能の余波で亡くなった明子という19歳の少女の日記を指していいます。この2曲は『生と死』に関する選曲で、『土に帰る』の意味も持っています。『土に帰る』のは本来自然なことなのに、人間が起こす戦争や残酷な行いで不自然な死がもたらされてしまう。それは『大地を汚す』ことでもあります。この2曲はそうした意味で取り上げたいと思いました」
「Akiko’ s Diary」には、さらに深い意味がある。
「これは今年書かれたピアノ協奏曲第4番のカデンツァの部分を抜き出した作品なんです。明子さんのピアノという被爆した楽器が広島にあり、私も6月に弾いてきました。彼女はアメリカで育った帰国子女で、ピアノもそこから持ち帰ったもの。それがアメリカから落とされた原爆の被害にあった。協奏曲の中では、カデンツァだけそのアップライトのピアノで弾く設定になっていて、初演も指定通りに行われました。今回は普通のピアノで弾きますが、明子さんのピアノは20世紀初頭の楽器で、高音がカタカタした独特の音がする。そこでこの曲にも高音が多用されています。しかも曲自体は純粋な少女の視点で描かれた美しい音楽で、心に突き刺さるものがあります」
そして最後はショパンのピアノ・ソナタ第3番。「大地」がテーマの公演には意外な選曲とも思えるが……。
「『大地』の中でも、『土』や『自分の場所』という意味において、『故郷』は重要なテーマになります。ショパンは故郷を離れて二度と戻れなかった。これは大事なテーマだと思いますし、ずっと戻れずに至った晩年の作品は特別な存在ではないでしょうか。この曲はノスタルジックかつポエティックでいながら力強い作品です。それに、今回は葛藤するような曲が並んでいますが、最終的にはショパンの希望が見える、光が射すようなロ長調のコーダで、シリーズを締めくくりたいと考えました」
なおこのシリーズは、別途ベルリンでCD録音も行われ、すでに「Water」「Fire」の2点がリリース済み。残る2回も続く予定だし、他の録音のニュースもある。
「『Wind』は今年9月に録音し、来年春に発売される予定。今回の『Earth』も来年の録音を計画しています。またブラームスのクラリネット・ソナタ2曲と歌曲、シューマンの幻想小曲集を吉田誠さんと共演したCDが、11月25日にソニーからリリースされます。あと、以前録音したベートーヴェンのソナタ全集からまとめた『三大ソナタ』のディスクが、12月9日にソニーのベストクラシック100というシリーズで出される予定です」
さらには「Four Elements」後のプロジェクトへの期待も膨らむ。
「ベートーヴェンの変奏曲に取り組みたいですし、ベートーヴェンのピアノが入る全作品の演奏も継続中なので、歌曲を少しずつやっていきたい。またシューマン&ブラームスのシリーズも頭にあって、中でもブラームスの晩年の小品はぜひ演奏したい。いずれにしてもドイツの古典派やロマン派が中心になりますね」
そして最後に、来る「Earth 大地」の全体像を今一度語ってもらおう。
「深い作品や熟した作品が次々に登場しますし、古典派からロマン派、近代あるいは国民楽派、現代まで色々な時代を網羅してもいます。またこれまでの3回は編曲物が結構入っていたのですが、最後はピアノの名作でまとめたかったので、プログラムはオリジナル曲ばかりです。さらには、メイン曲が多い濃厚な内容の上に、ほとんどが初めて弾く曲なので、自分としてはシリーズ最後にして最大のチャレンジでもあります。それに、葛藤しながらも最後に光が射すこのプログラムは、以前に決めていたとはいえ、コロナ禍を乗り越えようという希望が感じられる内容になっていると思います」
取材・文=柴田克彦

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