劇団唐ゼミ☆の『唐版 風の又三郎』
千穐楽カーテンコールに唐十郎が登場

2020年11月17日に開幕した劇団唐ゼミ☆の第30回特別公演『唐版 風の又三郎』(作:唐十郎 演出:中野敦之)が22日に千穐楽を迎え、そのカーテンコールには、唐ゼミ☆メンバーたちの恩師でもある唐十郎が登場し、客席を大いに沸かせた。同公演は新宿中央公園 水の広場に建てられた青いテントの特設劇場で、換気や収容人数の制限、検温、手指消毒などコロナ対策を万全におこないながら、全6回のステージを無事に全うした。
劇団唐ゼミ☆は、横浜国立大学教授を務めた唐(在任期間1997年~2005年)のゼミナールのメンバーによって2000年4月に発足。2001年1月に「唐ゼミ」の名で発表した第1回公演『24時53分「塔の下」行きは竹早町の駄菓子屋の前で待っている』(唐の処女作を唐自身で演出した)以来、劇団として今日に至るまで30回以上に及ぶ公演をおこなってきた。演出は第2回公演『腰巻きお仙義理人情いろはにほへと篇』以降は全作品を主宰の中野敦之が手掛けている。なお、2005年、唐が横浜国大教授を退任した際に、劇団名を現在の「唐ゼミ☆」に改めた。
今回上演した『唐版 風の又三郎』は唐の最高傑作と称せられる作品。初演は1974年、当時唐が主宰していた紅テント劇団「状況劇場」によって福岡・広島・大阪・京都、そして東京の夢の島と上野不忍池で巡演され、さらにはパレスチナに遠征しアラビア語による上演もおこなわれた(役者陣は、唐十郎、不破万作、田村泰二郎、十貫寺梅軒、根津甚八、李礼仙、大久保鷹、天竺五郎、小林薫、他)。1973年に起きた自衛隊機乗り逃げ事件と、宮沢賢治の童話「風の又三郎」、そしてギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーの物語をモチーフとして、さらにはシェイクスピアの「ヴェニスの商人」なども織り込んで、重層的に紡がれた、全3幕の迷宮的大作は、日本中で熱狂を巻き起こした。
そんな、まさに現代の「神話」的な傑作、「唐十郎関係者なら誰もが憧れてやまない作品」(中野)だからこそ、唐ゼミ☆は記念すべき第30回の節目にこの演目を選んだのだ。しかし事態は、コロナ禍に見舞われるという不運が重なってしまった。とはいえ、中野は言う。「テント芝居には外の救急車の音や犬の鳴き声などが不意に入ってくる。しかし、どんなトラブルをも演劇に取り込んで好転させることこそが、唐十郎イズム。現在の悪しき情勢も芸の力で変えていける」
そんな唐ゼミ☆の活動を今回、強力に後押ししたのが新宿区や歌舞伎町商店街だった。新宿は唐十郎と切っても切り離せない土地だ。戸山ハイツの灰かぐら劇場、新宿ピットイン、そして何よりも紅テント発祥の地である新宿花園神社。ただ、1969年には新宿中央公園で、許可が下りない中、機動隊に取り囲まれながら公演を強行し、唐らが逮捕されるという事件もあった。「当時の新宿は学生闘争などで荒れていたこともあり、公園を管理していた東京都によって使用が禁止されました。それで、あの事件が起きました。しかし時代は変わり、公園はいま新宿区の管轄になっています。その指定管理者の方々も僕らに対してとても協力的なんです」と中野は話す。「歌舞伎町やシアターモリエールというクラスタ発生も新宿でしたが、テントという風通しの良い場所で、唐十郎という新宿文化の象徴的な存在に薫陶を受けた僕らが興行を打つことで、そこから明るい兆しが見えてくるのであれば、ぜひ応援したい、と区側が言ってくれました」
かつて状況劇場による新宿中央公園事件が起きた場所の付近で、2020年7月に新施設「SHUKUNOVA]」がオープン
公園担当者も、最後の感動的スペクタクルのシーンに合わせて、噴水から放水するといった、演出面での協力を惜しまなかったそうだ。上演中にテントの真上を本物の飛行機がしばしば低空飛行でよぎっていくのも、劇のムードを高めることに大いに貢献していたが、これは単に、今春から羽田空港の飛行ルートが変更したことによるもの。しかし、そんな偶然さえも演劇が巧みに取り込んでいるかのように思えた。
青テントの上空を飛行機がよぎる (写真提供:劇団唐ゼミ☆)
一方、今回は唐ゼミ☆や唐演劇のファンからの経済支援も募り、多数の寄付が寄せられた。支援者の名は、テント劇場入り口脇の町内地図の中に記載されていた。
よく見ると、知ってる人の名前もチラホラ…
こうした各方面からの協力を得て、今回、極めて質の高い上演が実現した。すべての役者たちが膨大なセリフをスピーディーに発しつつも、高い熱量を維持しながら、変てこなキャラクターを生き生きと演じきった。その中のひとり、アクの強い「夜の男」という役をダイナミックに演じてみせた丸山正吾は報道陣への会見で「こういう(コロナ禍の)時期ではありましたが、ことのほか楽しくやらせていただきました。とくに、劇の最後でテントの後幕がバッと開くのは、唐さんが発明した最大の演出技法。こういう芝居はこれからもずっとやり続けるべきものだと思います」と鼻息荒く力説。「桃子」役を演じた鳳恵弥も「私たちは(唐演劇の)魂を受け継いでいるんだなと感じた」と感無量の表情で話した。
そして、なんといっても、「どっどどどうど、どどうどどど」で始まるオリジナルのテーマソング(作詞:唐十郎 作曲:安保由夫)を、ロックテイストをまぶした編曲で、郷愁たっぷりに聴かせたことは、オールドファンたちの涙腺を全開させたに違いない。
唐ゼミ☆『唐版 風の又三郎』舞台写真 (写真提供:劇団唐ゼミ☆)
唐は、2012年に頭部を強打したことによる後遺症もあり、カーテンコールでの発言はなかったが、その後、報道向けにおこなわれたフォトセッションにおいて、「長かったけど、よかったねー」と隣なりに立つ中野に告げていた。「長かった」の意味が、「ここに至る道のりが長かった」なのか、「上演時間が長かった」なのかは、定かでなかった。ただ、自身の代表作を、弟子が最良の形で上演してくれたことへの嬉しさがその表情に滲み出ていたことは確かだ。そして、劇団結成以来のメンバーで大学時代は唐十郎の教え子だった、禿恵(ヒロイン・エリカ役)は「唐さんにこの舞台を観てもらえたことは、私たちへの一番のプレゼントです」と報道陣に対して、はにかみながらも喜びの心情を吐露していた。
劇団主宰で、演出の中野はカーテンコールの挨拶の中で「唐十郎ゼミナールで教えを受けてから20年が経ち、ようやく憧れの作品を上演することができました。ただ、こういう(コロナ禍の)状況で、観ていただけなかった方も多数いらっしゃいますので、ぜひまたこの演目をもって、帰ってきたいと思います」と、再演の意志を高らかに表明した。早く、その日が来ることを心より望む。
唐十郎(中央)と『唐版 風の又三郎』出演者ら
取材・文=安藤光夫(SPICE編集部)

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