クレナズム・萌映が轟音の果てにつか
んだポップネス『eyes on you』を語
る――「痛みを知っている人に寄り添
えるように」

2018年に福岡を拠点に活動を開始以来、轟音の渦中に漂うはかない歌声と美しいメロディの総攻撃でシーンを侵食するクレナズムの音楽は、最新作となる3rdミニアルバム『eyes on you』で一気に進化を遂げた。乱反射するようにきらめくギターで幕を開け、バンドの持ち味であるシューゲイザーの範疇を軽やかに超えてみせる強靭なポップネスを備えた全6曲23分は、底知れぬ才能と可能性をフルドライブさせるかのように高らかに鳴り響いている。萌映(Vo.Gt)がその音楽的な目覚めから、メンバーとの出会いやルーツ、クレナズムの内部構造や『eyes on you』の制作秘話etcまで……福岡発シューゲイザー経由のポップミュージックの未来を語ってくれた。
萌映
●歌うのは苦手で、自分の声も嫌いだったんですよ●

――そもそも萌映さんが音楽を始めたキッカケとか、原体験は何だったんですか?
ドライブによく行く家族だったんですけど、そこで流れてたのが徳永英明さんとか、宇多田ヒカルさんで。でも、歌うのは苦手で、自分の声も嫌いだったんですよ。だから、中学校の合唱コンクールみたいな会でもボソボソ歌っていたんですけど、隣にいた女の子に「綺麗な声をしてるから、もうちょっと大きな声で歌ってみたら?」とふいに言われて……。思い返してみれば、あの何気ないひと言がキッカケだったなと思います。自分の声も、歌も、好きになれた瞬間だった。そこから、徳永英明さんのカバーアルバムに入っている曲の原曲を聴いてみたりして、だんだん広がっていった気がします。
――歌が抜群な人が名曲の数々を歌ってくれているから、日本歌謡史の重要なエキスが自ずと注入されて。
高校ではクラシックギターをメインにしたちょっと珍しい部活があったんですけど、課題曲を全部弾けたら軽音をやってもいいという謎のルールがあったんですよ(笑)。その課題曲をやり終えたときに先輩に誘われて、人前で歌うようになりました。合唱と違って1人で歌うから最初は緊張しましたけど、1人だから自由だなという解放感もありました。それが楽しかったので、今でも歌えてるのかなと思います。
――そして、大学で今のバンドメンバーと出会った。
大学でも軽音サークルで音楽を趣味として楽しんではいたんですけど、そもそも私はデザインを専攻していて、進学したのも将来はデザインの仕事をしたかったからなんですよ。でも、課題をこなしていくうちに、自分は向いてないのかなと思うようになってきて。進路に悩んでいた時期が、ちょうどサークルの引退時期だったんですよね。そのタイミングでまこと(Ba)から、「ちょっと話があるから」みたいに言われて……プロポーズでもされるのかと思ったらバンドの話だった(笑)。その時、まことに言われたひと言が、結構印象に残っていて。「(萌映には)普通の人生を歩んでほしくない」と(笑)。
――ハハハ!(笑) どの立ち位置からの目線やねんそれ(笑)。
だから私も「誰やねん!」とか思いながら話を聞いていたんですけど(笑)。でも、自分では思いもしなかったけど、他人から聴いて、それだけ魅力的に思う部分が自分の歌にはあったんだと気付かされたところもあったので、私にとってはすごく大事なひと言でしたね。
――思っていても口に出さないことなんて人生にたくさんありますけど、合唱のときに隣にいた子といい、メンバーといい、それを言葉にしてくれた人が周りにいたのは幸せですね。
幸せですね。私はどちらかと言うと自己肯定感が低い方なので(笑)。そこで「私にも存在価値があったんだ」とポジティブな気持ちになれましたし、本当にいいキッカケでした。

●轟音ギターを鳴らしつつも、メロディはめちゃくちゃポップ●
萌映

――バンドを結成してまだ2年半ほどですけど、ここまでの道のりを振り返ってどう思います?
ありがたいことに怒涛の日々でしたし、運もあるなと思いました。クレナズムを結成してすぐに『りんご音楽祭2018』のオーディションライブに出たんですけど、運試しみたいなところもあったのに受かっちゃったから。そこから気持ちが切り替わりましたね。
――1stミニアルバム『rest of the dusk』のダークネスから、2ndミニアルバム『In your fragrance』ではシューゲイザー云々じゃない領域にも手を伸ばし始め、今作『eyes on you』でさらにポップに突き抜けた感じがしますが、その変化を自分たちでも感じていますか?
1stはアンダーグラウンドで尖っていた部分もあったと思いますけど、もっといろんな人に聴いてもらいたい気持ちがどんどん増していって、今作ではかなりポップに振ったかなと思います。シューゲイザーは見つかりにくいジャンルだと思うので、自分たちが入口になってポップな面も見せつつ、そこから「シューゲイザーって何?」と逆に掘り下げていく人が増えたらいいなと思いますし。
――シューゲイザーのサウンド的な気持ちよさ、サビで爆発する轟音ギターの快感みたいなポイントは、ポップミュージックと共存できなくはないですもんね。
そこがクレナズムの強みだとも思っていて。轟音ギターを鳴らしつつも、メロディはめちゃくちゃポップなので。
――メンバー全員が柔軟なところが功を奏したんでしょうね。
結構みんなのルーツも違って、けんじろう(Gt)くんはシューゲイザーとかアンダーグラウンドなところなんですけど、しゅうた(Dr)くんは中田ヤスタカさんが好きだったり、まことはSCANDALさんも好きだし、本当にメンバーの趣味がバラバラなので、『eyes on you』ではそういうところも取り入れることができたんじゃないかと思いますね。

●チャレンジしてみて、バンドの可能性が広がった●
萌映

――「ひとり残らず睨みつけて」や「キミのいない世界」にはそのカラーが顕著に出ていますが、今作ではYOASOBIヨルシカらの存在で活況する、BPM速めの「ネットミュージック」のフレーバーを取り入れたということですが。
歌詞を分かりやすくするのは難しかった……でも、今回チャレンジしてみて、バンドの可能性が広がったなと思いますね。ネットミュージックは私たちが今までやってきた音楽とは違うけど、近しいところにいるなとも思ったので、そこに近付けることはできたんじゃないかと思います。あと、「ひとり残らず睨みつけて」の<君が飲み干す透明が~>というラップっぽいパートは初挑戦だったんですよね。メロディへの言葉の乗せ方も流れるような感じだったから、結構難しくて。私はどちらかと言うと後ノリの歌い方なので、ピッタリ乗せるのにちょっと時間がかかりましたね。
――ただ、言ってしまえば安易にムーブメントに乗っかれば、バンド自体乗っ取られるかもしれないわけで。どこを変えてどこを変えないのか、バンドとしての軸足を作業の中で改めて感じることもあったと思いますけど。
メロディとサウンドの絡み方、練ったコード進行とかはずっと軸にしているところで、歌詞の表現は分かりやすくなったと思いますが、クレナズムらしい繊細さは残せていると思います。
――萌映さんの声も、クレナズムがいろんなジャンルを飛び越えていける要素かもしれないなと思いました。
今回は曲によって意図的に歌い方も変えていて。最近はハロプロ(=ハロー!プロジェクト)を……モーニング娘。さんとかをよく聴いているんですよ。元々好きだったのもあったんですけど、最近、改めて聴いてみたら歌詞もすごく印象的に残るし。
――収録曲の中でも「キミのいない世界」は、歌い方としても表情のあるアプローチを特に考えたと。クレナズムはボーカル=作詞ではなく、メンバーがそれぞれ詞曲も書くので、純粋にシンガーとしての表現力を問われる場面も多々ありますね。
でも、それはいいことだと思っていて。やっぱり1人だと限界があるというか、全員でやることによっていろんな表現ができると思ってますし、この曲は主にまことが作詞をしてくれて、「まことってこんなにかわいい歌詞を書くんだ」という発見にもなりました(笑)。自分の曲だからこそ、本心で書いているからこそ、いろんな気持ちが混ざり過ぎて逆に迷走しちゃうことがあるので、私はメンバーが書いた歌詞の方が歌いやすいですね。「ここはこう歌って」とハッキリ伝えてくれるから。
――女性で歌詞に「僕」という一人称を使う人はたまにいますけど、萌映さんの歌詞は男女目線が混在しているのが独特だなと思いました。
それも実は結構意図的にやっていて、恋愛とかを意識して書くというよりは、誰にでもハマる、聴く人を選ばない歌詞を書くようにしています。例えば、「エピローグまで」の歌詞には<あなたが幸せの理由>というワードがあるんですけど、幸せの理由は人それぞれだから、それは人間に限らずペットであったり、何にでも当てはまるんじゃないかと思いますし。
――萌映さんが作詞に関して他に心掛けているところはあります?
痛みを知っている人に寄り添えるようにはしていますね。心の奥深い心情を大事にしているので、それがクレナズムのサウンドと合っているとも思いますし、自分自身が結構……自分で言うのも何ですけど繊細な人間だと思っているので(笑)。本当に歌詞にはすごく自分が出ていると思います。
――痛みを知る人だからこそ書ける言葉にたどり着いたのは、何かキッカケがあるんですか?
私は中学生の頃にお母さんを病気で亡くしているんですけど、それまでは何も考えずにトゲのある言葉を使ってきて……言霊って本当にあると思いますし、だんだんそういう言葉が怖くなってきて。そのキッカケは大きかったですね。
――そう考えたら、萌映さんも人生のいろんな出来事に導かれているというか、全てが今のクレナズムの音楽を構成する上で欠かせない要素になっていますね。

●1時間ぐらいで録り終わっちゃったんですよ●
萌映

――今作はコロナ禍によりリモートでの制作だったということですけど、ボーカルRECも自宅で、しかもお父さんの部屋で録ったという(笑)。
最初はリビングで試しにやってみたんですけど、モノがあんまりないから反響しちゃって。お父さんの部屋に移動してみたら、遠隔で作業してくれる方が「そこいいね!」と(笑)。
――本とかでいい感じに吸音されて(笑)。コロナ云々関係なく、歌は家で録るミュージシャンも最近は多いですからね。やっぱりリラックスできるのと、スタジオだと残り時間が気になったり、みんなが見ている中で何回も歌い直すのもプレッシャーなので。
本当にそうなんですよね。リモートで最初に録ったのが「ラテラルアーク」だったんですけど、家で歌ったからか1時間ぐらいで録り終わっちゃったんですよ。普段は2倍ぐらいかかるんですけど、家でもできるんだという発見もありましたし、これからも家でいいんじゃないかという気持ちもあります(笑)。
――「ラテラルアーク」は今作の中でもひときわ曲調も明るいし、ちょっとテイストの異なる切なくもポップな1曲ですね。
この曲はけんじろうくんが作詞作曲してくれたんですけど、イメージ的にはめちゃくちゃ晴れた日に洗濯しながら聴きたいなと思います(笑)。
――<責任が怖い 理由を知りたい>とか、さらっと入っている言葉の深層心理に共感させられます(笑)。ちなみに、「365」のMVは萌映さんが作ったんですよね?
そうですね、お父さんと一緒に(笑)。
――今作におけるお父さんの立ち回り、めちゃくちゃ重要!(笑)
ハハハ(笑)。お父さんは元々カメラが趣味で休日に写真を撮りに出かけたりもするんですけど、私もデザインをやっていたし、ちょうどしゅうたくんが「MVを作ってみない?」と提案してくれたのでやってみました。これも初挑戦でしたね。

●もっともっとみんなに見つかりたい●
萌映

――今年はクレナズムが音頭を取って、地元福岡のアーティストらと『Make With Music』というライブハウス支援のドネーションを立ち上げたり、いつもリハーサルで使っているMUSIC STUDIO BEBOPのクラウドファンディングもあったり、コロナ禍で音楽シーンは窮地の1年でしたけど、福岡発信で音楽をやる面白さとかやり甲斐はありますか?
福岡のバンドはジャンルに囚われずいろんな音楽をやっているアーティストが多いと思うし、私たちもそこにいるからのびのびとシューゲイザーができたのかなと思いますね。BEBOPも木のぬくもりがあってすごく居心地がいいスタジオですし、店長は同じ大学のデザイン専攻の大先輩で。だから、いろんなところでつながっていますね。神はサイコロを振らないも大学のガチの先輩だから、「地元からMステに出た!」みたいな(笑)。ただ、これまでは割と音楽の世界にどっぷりいたのに、コロナ禍になってアルバイトを中心に生活するようになると、こっちはこっちの世界で大変だったんだなと気付いて……。力になれるときになっておこうと思ってめちゃくちゃ働いていました(笑)。逆に言うと、自分の生活は音楽中心だったんだと気付けたし、この気持ちは決して忘れてはいけないなと思いました。これからも芯はブレずに、人の痛みに寄り添えるバンドでいたいし、もっともっとみんなに見つかりたいなと思いますね。
――今作のタイトルが『eyes on you』=ひと目惚れということで言えば、この6曲のうちどれか1曲でも見つかれば。
うんうん。これが入口になればいいなと思います。
――でも、萌映さんと話していると、ひと目惚れはしなさそうなイメージですね。
そう言えばしないですね(笑)。人間関係もどちらかと言えば狭く深くのタイプなので。でも、曲を聴いて「もうイントロから惹かれる〜!」みたいなことはめちゃくちゃあるので、『eyes on you』から過去作も掘り下げてもらって、もっとシューゲイザーというジャンルに触れてもらいたいし。これからのクレナズムも今以上に進化していくので、そこにもぜひ注目してほしいです!
萌映
取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=ハヤシマコ

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