作曲家・ピアニストの一柳慧、芸術総
監督就任20周年を記念した意欲的なプ
ロジェクト「Toshi 伝説」を21年に開
催~記者懇親会より注目ポイントをレ
ポート

半世紀以上にわたって、世界の現代音楽シーンを牽引してきた作曲家・ピアニストの一柳慧。現在、芸術総監督を務める神奈川県民ホール・神奈川県立音楽堂の就任20周年を記念して、本人の創作活動を俯瞰する意欲的なプロジェクトが2021年1月から3月にかけて開催される。
一柳が最も期待を寄せるという三人の音楽家とその仲間たちの手によって具現化する壮大なプロジェクトの概要を、記者懇親会のレポートとともにお伝えする。

1960年代年以降、内外の現代音楽界を刺激し続けてきた作曲家・ピアニストの一柳慧。氏の芸術総監督就任20周年を記念した意欲的なプロジェクト「Toshi 伝説」の概要が、12月9日(水)に神奈川県立音楽堂で開催された記者懇親会の場で明らかにされた。
当日の登壇者は、一柳本人の他にも、本プロジェクトへの出演が決定している指揮者の鈴木優人、ヴァイオリニストの成田達輝、三味線奏者の本條秀慈郎の各氏。ボストンとも中継を結び、音楽学者で、今回のプロジェクトでアドバイザリーを務める沼野雄司もオンラインで加わった。ブルーオーロラ サクソフォン・カルテット平野公崇、ピアニストで即興演奏家の河合拓始はコメント動画での参加となった。
一柳慧の一連の創作活動を多様な切り口で音響化する本企画。ヴァイオリン独奏付きのオーケストラ公演と、三部仕立てのマラソン形式の室内楽公演、そして、神奈川県民ホールのギャラリーを使用しての美術展✕音楽という三つの分類構成からなるものだ。1月17日(日)の美術展✕音楽の開催を皮切りに、2月13日(土)に神奈川県民ホールでオーケストラ公演、3月20日(土・祝)に県立音楽堂で室内楽公演が開催される。
まず、2月13日(土)に神奈川県民ホールで開催されるオーケストラ公演は、『共鳴空間(レゾナント スペース)』と題されており、一柳の数ある音楽作品の中でもライフワークとも言える管弦楽曲にスポットがあてられる。
一柳慧
「ビトゥイーン・スペース・アンド・タイム」、「循環する風景」(Vl独奏 成田達輝)、そして、2011年の東日本大震災の年に初演された「交響曲第8番 リヴェレーション 2011」という一柳のオーケストラ作品の代表作3曲がラインナップされている。
特に、「交響曲第8番 リヴェレーション 2011」は、 “人類への警告”、‟大自然の驚異”、そして、“鎮魂”と“再生・復興”が描かれており、一柳自身が現状を踏まえてラインアップしたであろうことからも、昨今のパンデミックの状況下において、どう響き合うかが大いに注目される。
3月20日(土・祝)に神奈川県立音楽堂で開催される3部仕立てのマラソン演奏会『エクストリーム LOVE』は、各回ともに約1時間・入替制・全席自由というかたちで行われ、「3つのキーワードに導かれた3つのコンサート」というコンセプトが掲げられている。
第一部の“Classical”というキーワードが与えられたセッションでは、天才少年一柳がNYにわたり、盟友と出会った日々を振り返る。「フレンズ―ヴァイオリンのための」(Vl独奏 成田達輝) を皮切りに、一柳との対話を通し、その“音楽の源流”をたどる。続いて、盟友の武満徹が一柳に捧げた「一柳慧のためのブルーオーロラ」を、同作品からインスパイアされたというサックス・アンサンブルのブルーオーロラ サクソフォン・カルテットが演奏。一連の流れを通して、一柳慧という存在を形成した様々な要素が感じ取れる構成になっている。
Traditional”というキーワードが与えられた第二部では、邦楽界の若手ホープをフィーチャー。日本の伝統楽器こそが、一柳の創作において隠れた核であることが明らかにされる。出演は三味線の本條秀慈郎率いるJ-TRAD ensemble-MAHOROBA。三味線、一七絃・二五絃箏や尺八、鳴物から形成される新しいスタイルの邦楽アンサンブルだ。‟日本独特の時間感覚”を創作において強く提唱し続けてきた一柳が、心からサポートする若い世代のアンサンブルに大きな期待が寄せられる。
“Experimental”と名付けられた第三部では、図形と指示書のみで書かれた「ピアノ音楽 第1~第7」の全曲連続演奏に、即興演奏のスペシャリスト、ピアニストの河合拓始が挑戦。“できるだけ速く大音量で、身体的、精神的に疲れ果てるまで演奏せよ”というような指示が与えられている伝説の大曲を、2012年に世界初の全曲演奏を踏破した河合が、再び、どのように挑むかが注目される。
ここで、今回のプロジェクトに参加する三人の演奏家が、それぞれに、同企画や一柳に対する思いを語った。まず、オーケストラ公演『共鳴空間(レゾナントスペース)』に指揮者として出演する鈴木優人。
鈴木優人(指揮者)
「一柳さんの作品は、すでに個展スタイルで演奏させて頂いていますが、今回、新たな交流が生まれることを大変楽しみにしています。光栄にも、コンサート冒頭で演奏するファンファーレの作曲もご依頼頂いており、一柳さんの個展にふさわしい作品を書きたいと思っています。一柳さんの譜面は大変緻密ですが、指示的に偶然性を重んじる箇所、自由に演奏していいんだよと思わせる箇所があり、ネジの固いところと、緩いところを見極めていくプロセスが大変興味深いです」と、バロックのスペシャリストとして、記譜法にも詳しい鈴木らしい発言。
続いて、マラソン演奏会の第二部に登場する三味線の本条秀慈郎。
本條秀慈郎(三味線奏者)
「一柳先生からは、いつも刺激と驚きを頂いています。日本の伝統楽器が世界に知られ、評価されるようになったのも先生の功績によるものですし、先日、カルテットの全曲演奏を聴かせて頂いて、時代ごとに区切られた演奏の過程を経て、つねに時代に向かって挑戦してきた先生の姿に感銘を受けました。私自身、そのような先生の作品が持つ無限な世界観を、芸術を超えた人間の営みとして捉え、水の流れの様に感じています。今回の演奏会の曲目は、そのような思いを表現する意味で、高橋悠治さんの作品『花筐〜水』から始まり、墨田川の流れをイメージした作品を通して、雫から大河へと移り行く水の流れを表していきたいと思います」と意気込みを述べた。
最後に、オーケストラ公演、マラソン演奏会第一部と二公演に出演する成田達輝。
成田達輝(ヴァイオリニスト)
「この場に居させて頂けることに心から感謝しています。昨年、僕自身、ライフワークになるだろうと感じている日本の作曲家の作品を紹介したいと、それぞれの作曲家の作品の流れを一直線上に並べて俯瞰することに集中してきました。しかし、今年はコロナ禍でその試みも途切れてしまいました。そんな中で、このような話を頂き、本当に嬉しいです。92年生まれなので、一柳先生の作品に取り組む姿勢を俯瞰的に語るのは、難しいと感じていますが、僕なりに、今までの演奏で得たことを、心を込めて、全力で出し切りたいと思っています」
対して、一柳が、“最も期待する演奏家たち“であり、自ら企画への出演を希望したというこの三人に向けて思いを語った。
コロナ禍において、医師から外出を控えるように言われた一柳は、そのような日々において、これからの音楽の在り方について改めて考えることが多くなったという。その思いの中で“一人では限界がある“ということを強く感じたそうだ。そこで、数々の演奏家たちの活動に触れ、知り、模索する日々の中で、一柳が描く理想の音楽活動の在り方を体現していたのがこの三人だったという。
一柳慧
「今の若い方々は、お話もうまいのですが、同時にとてもクールでもあります。彼らの様に他人の意見を聴きつつ、客観的に、冷静に話せるのは素晴らしいことです。音楽についても、実によく聴いて、演奏しているという印象を強く持っています。昨今の世界や、社会的状況を見ていると、どの国も分断や衝突があり、たとえ、いろいろな意見があっても、相手の意見を実践していくことが難しくなり、世界が一体化することがなくなってきています。この三人の演奏家には、そのような事とは全く違う世界があり、芸術家が取るべき新しい兆しが感じられるのです。彼らの音楽についての考え方や演奏の姿勢を感じることで、私自身、希望が湧いてくるのです」と、クラシック音楽の未来を、そして、今回のプロジェクトを担う三人にエールを送った。
ちなみに、オーケストラ公演とマラソン演奏会では、24歳以下の学生に対して「一柳シート」という0円のチケットが発売される。これは、指揮の鈴木が「一柳を知らない世代にももっと、氏のことを知って欲しい」という発言から実現したという。
そして、もう一つ。美術展✕音楽という括りでの企画も忘れてはならない。1月17日(日)には、神奈川県民ホールのギャラリーで、午後の二回、『大山エンリコイサム展「夜光雲」チェンバロと笙による音幻(おんげん)』が開催。ニューヨークを拠点に新作や著作の発表で注目を集める気鋭の作家、大山エンリコイサムの個展に合わせて、チェンバロ(流尾真衣)と笙(三浦礼美)の奏でる音楽が交錯する斬新な空間演出が具現化される。
視覚的感覚、聴覚的感覚が交じり合うことで表出される現象を“夜光雲“と題し、平面、立体、サウンドを駆使し、1300 平米の広大で特徴のある空間を活用した過去最大級のインスタレーションに合わせて、笙とチェンバロが奏でる音に興じる斬新な試みだ。
ここで、なぜ、この記念すべきプロジェクトのタイトルが「Toshi 伝説」というネーミングになったのかが語られた。「Toshi 伝説」 とは、いわば、半世紀にわたって世界の現代音楽シーンにおける“伝説的な存在”として、数々の都市伝説を生みだした一柳へのオマージュと、本人の名前をかけた言葉遊びだ。
アドバイザリーの沼野氏によると、NY、東京、ベルリンなど大都市を背景に数多くの創作を生みだしてきた一柳の世界観と、つねに若々しくポップな人と成り、芸術家としての一柳の存在やあり方が、この“都市”という言葉に集約されているのだという。しかも、その精神をさらに巧みに象徴的に表現したのが“Toshi“というアルファベット表記だ。そもそも、このような、ある種のおふざけ的なネーミングを冠しているのも、この企画自体をプレイグランドにして、「みんなで遊んでしまおう」という主催者側の思いがあるのだという。
ところで、一柳と切っても切り離せないのが、実は音楽だけではなく、卓球だという。ピアニストのミケランジェリの卓球好きは伝説となっているが、一柳もまたそれに近いようだ。
かつて、金沢21世紀美術館の依頼によって、一柳は球が行き交うごとに不思議な音色が増幅される仕掛けの特殊な卓球台を出品し、大きな話題を呼んだ。今回は、それがさらにバージョンアップして登場。『エクストリーム LOVE』の幕間に体感できるという。日常の生活に音楽が結びついているという一柳の音楽に対しての思いや世界観が体感できるに違いない。
実は今回のプロジェクトのポスターにも、卓球&ピアノを両手にしている一柳のイラストイメージがメインに採用されており、まさに、これぞ、ポップでお茶目な“Toshi”にふさわしい、遊び心満載の一枚なのだ(トップ写真中央にあるポスター参照)。
ちなみに、日本サックス界のスター、平野公崇&ブルーオーロラ サクソフォン・カルテットは、3枚の画と一枚の指示書のみという一柳に捧げられた武満作品の演奏にあたり、「既存の意識にとらわれず、その時の精神状態に左右されるままに即興したい」とのコメントを。
未曽有のピアノの大曲を連続演奏する即興ピアニストの河合拓始は、「9年ぶりの再演なので、前回と違ったかたちのものになるように鋭意準備中」とのコメントを寄せるなど、本番中に予期せぬ事態の発生も予想され……、まだまだ興味は尽きない。
21年は、ぜひとも、都市伝説、いや、「Toshi 伝説」の世界にじっくり浸ってみてはいかがだろうか。
取材・文=朝岡久美子

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