デビュー年の最後に実現したプレミア
ムなワンマンライブでMaica_nの多様
な表現力を見た

Maica_n〜One 4 All

2020.12.4 ShowBoat
今年9月に二十歳になったばかりの子供と大人の境界線、ジェンダーレスに見えるルックスのイメージ通りの世界観。そしてオーセンティックなロック/ポップから、現行のR&Bにも通じるボーカリゼーション。東京での有観客初ワンマンでは彼女の多様性を音源以上にビビッドに感じ取ることができた。
会場であるShowBoatには椅子が置かれ、プレミアムなキャパシティでの開催。当然、Sold outである。観客の年齢層は幅広く、若い層ほど一人で参加している印象を受けた。
Maica_n
オープニングSEに乗って頼もしすぎるメンバー、草刈浩司(Gt)、根岸孝旨(Ba)、小田原豊(Dr)、友成好宏(Key)がステージイン、ビートが刻まれると、カウベルを叩きながらMaica_nも登場。「こんばんは、Maica_nです。今日は一緒にいい夜を作りましょう」と凛々しく言い放って、未発表曲の「Trio」をタフなアンサンブルに一歩も譲らないスモーキーかつ真っ直ぐな声で歌う。正面を向いて一点を見つめながら歌う姿と、間奏でメンバーと向き合ってアコギをカッティングする横顔だけでも印象が違う。すでに目が離せなくなっていることに気づいた。一転、ティーンエイジャーの女の子の心情がR&Bテイストのメロディラインに乗る「Hanakoさん」へ。そしてデビュー年にコロナ禍に見舞われつつ、今年中にワンマンライブを実現したことへの感謝をしっかりした口調で告げた。
Maica_n
ギターを持たず歌った「秘密」は、タイトル通り秘密にしておきたい気持ちの揺れが表現されたナンバー。インディーズ時代のEPの中でもその表現力の高さと描写のリアリティにハッとさせられたナンバーだが、ライブでも揺らぎがそのままフロウになったようなAメロから、展開が変わりこちらまで決断を迫れれるような<どうにかしなきゃ じゃあどうすれば>の臨場感には大いにドキドキさせられる。もう少しカジュアルなムードもありつつ、かたムードの違うラブソング「タバコと私」ではせつなさがじんわり染みる。
Maica_n
MCでは彼女の生真面目さが際立つのだが、それは彼女が初めて対面する人への当たり前の態度なんだろうと思う。単純な“手洗いソング”なんかじゃない「Love and Wash」の前に、「こんな窮屈な状況の中でも一人一人ができることをやって変えていくしかない。今日のライブのタイトルはご覧いただけましたか? 誰でもできること、簡単なことだけど、みんながやることが大切」という意味合いのことを話していた。ラグビー人気で多くの人が知るようになった“One For All”のマインドは今、誰もが実感するところだろう。自然とクラップが起こる。続いてMaica_nのアコギのストロークでスタートした「Missing angel(acoustic ver.)」。自分自身との戦いを思わせる連続性のあるサビを生で歌い切るのはなかなかの難易度だが、彼女の作るメロディラインが様々な時代やジャンルから自然に影響を受けていることがよく分かるラインでもあった。前半は小田原の思い切りタイトなビートから始まり、Maica_nと草刈のストロークとリフが確かな足取りを思わせる「Unchain」。ハード寄りのナンバーだが、声量というよりスモーキーかつ凛とした声とメロディでアイデンティティを立ち上がらせる彼女のスタイルをしっかり印象付けた。フルバンドで難しいバランスだと思うのだが、辣腕のメンバーならではの緩急だ。
Maica_n
換気休憩を挟んで、後半は赤いフルアコを携えて名曲「Baby it’ s you」のカバーを披露。シュレルズのオリジナルやビートルズで知られるこの曲のポップさとオールドロックの旨みをバンドで表現。面白いのは彼女の声で今のものになることだった。その後のMCで初めて根岸、小田原とデモ音源をRECした思い出の曲だそう。ピアノ伴奏メインで聴かせてくれた「メモ書き」。様々な世代が子供の立場だったり親の立場だったり、感情移入できる日常性にはファンも静かに聴き入っていた。とても素直な内容の曲だが、メモ書きでコミュニケーションする親子の距離感と感謝の思いは彼女の抑えたトーンの声でリアリティを増すように感じた。この曲がドキュメンタリー映画『弁当の日『めんどくさい』は幸せへの近道』のエンディングテーマとして書かれたことを勘案しても、これから先も一つ、普遍的な1曲として残っていくのではないだろうか。
Maica_n
その後、Maica_nは少し長めのMCで新しいアーティスト写真でイメージが変わったとか、メジャーにいくとこういうこともするんですかという意見をもらうけれど、発音しない自分のアーティストネームの“n”はニュートラルを意味し、「音楽もビジュアルも、ジャンルとか○○系とかにこだわらず、面白いと思ったことをやっていこうと思います」と語った。そこから新曲で少しプログレッシブなニュアンスのある「replica」を披露。常に新しい音楽性にチャレンジするスタンスをMCで飲み込めた上で聴くと、これからの音楽性の広がりがさらに楽しみになる。
「コロナ禍でデビューした今年はもうワンマンは無理なのかなと思ってたんですけど、今日、貴重な時間を皆さんと共有できて嬉しいです。今日は拍手ですけど、来年こそはみんなで騒げるライブをしたい」と、ピアノのイントロに誘われ、強力なバックライトに浮かび上がるシルエットで歌の世界に没入させてくれた「Unknown」、そしてモダンなセンスが溢れるグルーヴチューンでありつつ、爽快に走り出す感覚をもたらす「Flow」がラストナンバーに選ばれた。メジャーからマイナーのサビに、一瞬のブレイクを挟んで移行するクセになる展開もエレキのカッティングをキメながら乗りこなしていくMaica_nと支えるバンドのタイトな演奏も痛快だった。
Maica_n
あっという間の12曲に当然のように起こるアンコール。友成と再登場したMaica_nは作曲を始めた頃に作った「海風」を丁寧に、しかし感情過多になることなく歌う。海に行った日は眠れないと歌うこの曲を作った頃から、五感に引っかかる様々なものを自分の言葉で探り当ててきた作り手としてのオリジナリティを改めて知らされる場面だった。正真正銘のラストはこの12月6日から配信リリースが始まった新曲「Mind game」をライブアレンジで初披露。シンセでブラストラックス的なアレンジを施し、どこかパレードを想起させる曲調とアレンジだが、歌詞もゲームやスリリングな駆け引きを思わせて新鮮。テレビアニメ『デジモンアドベンチャー:』のEDテーマということで、今度は子供たちの耳に届く機会も増えることだろう。個人の感情に焦点を合わせるシンガーソングライター的なアウトプットも、テーマありきでソングライティングとアレンジにも関わっていける手腕も持ち合わせている彼女。冒頭で書いた多様性はMaica_nが20年代的な音楽家であることも裏打ちしている。静かにステージに集中せざるを得ないライブ事情ではあるが、彼女の本質を発見できたのではないかと思う。

文=石角友香 撮影=中村嘉昭

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