高泉淳子インタビュー~レストランと
いう劇場で繰り広げる『ア・ラ・カル
ト』シリーズが初の無観客配信公演に
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2020年がこんな年になるなんて、昨年の今頃は少しも予想していなかった。クリスマスが迫る頃には、今年も色々あったけれどこうして劇場で『ア・ラ・カルト』が観られてよかったな、と、きっとしみじみしてるんだろう、そんな未来を漠然と思い描いていた。
自粛期間や緊急事態宣言を経て、演劇の舞台は再び少しずつ動き始めている。しかし感染拡大は未だ留まるところを知らず、その終わりは見えてこない。暦の進みが感染症の終息を待ってくれるはずはなく、先が見えない中でも12月の足音は確実に近づいてくる――。そんなある日、『ア・ラ・カルト』の公式YouTubeチャンネルに1本の動画が投稿された。「今年のア・ラ・カルトはどうなるのかしら」と心配する宇野千代子(高泉が『ア・ラ・カルト』で演じているキャラクター)によるつぶやきは、『ア・ラ・カルト』ファンの心をそのまま代弁していた。
その動画が公開された数日後に、今年の『ア・ラ・カルト』が『僕のフレンチ』として無観客オンライン生配信されることが正式に発表された。その決断に至るまでには、どのような経緯があったのだろうか。1989年の初演以来、様々な変遷を経ながらも今作を上演し続けてきた高泉淳子にその思いを聞いた。
(撮影:船橋陽馬)

■配信の決定には「心の整理をつけるまで時間がかかった」
――YouTube公式チャンネルで宇野千代子さんもおっしゃっていましたけれども、今年の『ア・ラ・カルト』の開催はやはり難しいだろうか、せめて配信公演だけでも行われないだろうか、とファンがソワソワしていたところ、今回の無観客オンライン生配信の情報が発表されました。
動画を撮影したのは9月初旬だったと思います。宇野さんが言っていることはあの頃の私の心境そのままです。「無観客オンライン生配信でいこう」ということは話し合っていてその方向で進んでいましたけれど、あのときはまだ「果たしてできるのかな」と、自分の中の切り替えがうまく出来ていなかった気がします。
去年はどうしても劇場が見つからず、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGで『僕のフレンチ~ア・ラ・カルト公認レストラン~』という番外公演として急遽やらせて頂きました。それもあって、今年は劇場でできるということをものすごく楽しみにしていたんですね。『ア・ラ・カルト』は私にとっていろんな意味があって、一年に一度メンバーが集合する場所でもあるんです。『ア・ラ・カルト』が近づいてくると打ち合わせとかで「久しぶり、元気だった?」ってみんなに会うことができるのが私の楽しみの一つ。なのに、去年は劇場公演ができなかったのでスタッフメンバーに会えなくて、自分の中でどこか穴が開いているような感覚が残ったままでした。今年はゲストの方々にも早めに依頼していて、本当に楽しみにしていた分、心の整理をつけるまで時間がかかりましたね。
それで、急遽、今年は去年と同じ会場で無観客オンライン生配信をやることになって。演出の吉澤(耕一)は当初『ア・ラ・カルト』をやりたいと言っていたんです。でもいざ台本を書き出してみると、昨年の『僕のフレンチ』は会場に合わせて、ライブ感を強調していていたけれど、劇場ではない場所で今年は『ア・ラ・カルト』をやるとなると、違和感というかどっちつかずの作品になってしまうような気がしたんですね。私の中で『ア・ラ・カルト』は、劇場という虚構の中だからこそ浮かび上がってくるレストランだと思っていて、やっぱり「舞台」なんですよね。『僕のフレンチ』はそうではなくて、ライブショーです。観客席のお客さんにこちらから声もかけられたり、ゲストの方のセリフではない生の声をお届けしたり、みんなが一緒に溶け込んでいく「ライブステージ」だったと思います。だから今回、どういう形でお届けするかをギリギリまで悩みました。

■高橋は「私を支えてくれるすごい力を持った人物」
――一観客としては、配信という形でも、「僕のフレンチ」の形式でも、公演をしてくださるということに正直嬉しいというかホッとしたような気持ちもありますが、高泉さんとしてはその決断に至るまでは様々な葛藤があったんですね。
私がいろんな表現の中で舞台・ライブを選んでいるというのは、生でお客さんと触れ合うことに重きを置いているからで、台本を書くときはお客様がいらっしゃる雰囲気を想像しながら書いているんです。特に『ア・ラ・カルト』は、無観客となるとやっぱり書き方を変えなきゃだめだな、と思いました。でもその悩みに関しては、自分でも不思議なんですけど、やっぱり高橋に助けられたな、っていうのがあります。
――高橋はレストラン「ア・ラ・カルト」の常連客という、『ア・ラ・カルト』の名物キャラクターですね。昨年の『僕のフレンチ』は『ア・ラ・カルト』が開催されないことを知った高橋が「じゃあ自分で店を開こう!」と有給休暇を取って、期間限定レストラン「僕のフレンチ」をオープンするというストーリーでした。
昨年は『ア・ラ・カルト』ができないなら番外編で何か作ってみたいな、というところからあれよあれよと構想が膨らんでいって、すごく楽しかったですよ。だから今年もギリギリまで悩んだけど、『僕のフレンチ』で行こう!と決めた瞬間に冒頭からペンが進みましたね。『ア・ラ・カルト』において高橋は脇役だけど、やっぱりずっとこの作品の主軸にいた人物なんだな、というのは今回改めて感じました。自分で書いているし、自分で演じている人物なんだけど、私が劇団「遊◉機械/ 全自動シアター」時代に山田のぼるというキャラクターに支えられたのと同じように、高橋も今の私を支えてくれるすごい原動力を持った人物なんですね。

■終わるはずだった『ア・ラ・カルト』が続いた理由とは
――高橋自身が「ア・ラ・カルト」を心から愛しているし必要としている人物である、ということは一つ大きいのではないでしょうか。
コロナ禍で時間ができたので、早稲田大学演劇研究会からの40年分の資料を全部整理して、早稲田大学演劇博物館に保存していただくことになったんです。それで過去の記録とかいろいろ見返していたんですが、『ア・ラ・カルト』は20周年の節目でメンバーの白井(晃)と陰山(泰)がやめると言ったので、そこで終わるはずだったんですよね。でもそのあと10年続いて2018年に30周年を迎えることができて。そうやって『ア・ラ・カルト』が残ったことを、私は不思議な偶然の流れだと思っていたんですね。でも劇団時代の資料を整理していて気が付いたんですけど、劇団では本公演の合間にシーズンオフシアターという公演ををやっていたんです。1回目のシーズンオフシアターは『気違い仲間のお茶の会』という、アリスのティーパーティーをライブっぽくやった作品でした。その次にやった本公演が『僕の時間の深呼吸』という劇団の代表作になった作品で、2回目のシーズンオフシアターは『涙なしで玉ねぎの皮をむく方法』という、これがきっかけで白井が会社を辞めて劇団一筋でやっていくことにしたという作品です。『ア・ラ・カルト』はシーズンオフシアターがきっかけとなって、1989年に生まれました。
過去の資料を見返しながら、劇団の代表作は本公演でやった『ラ・ヴィータ』とか『食卓の木の下で』とかいろいろあって、もちろん私はそういう作品も大好きなんだけど、劇団が解散したときに、白井は本公演のいわゆるストレートプレイの方に行って、私はシーズンオフシアターの方を選んだんだな、という気がすごくしました。芝居の劇作というのはやりがいのある分、生みの苦しみはつらいもので。でもシーズンオフシアターの本を書くのは苦じゃなくてむしろ楽しみで、それがあるからつらくても本公演の芝居の話を書くことに頑張れていた部分がありました。だから自分の中で「これだけは続けたい」という意思がちゃんとあったんだな、『ア・ラ・カルト』が残ったのは必然的だったんだな、というのが今回初めてわかりました。
――高泉さんご自身にとっても『ア・ラ・カルト』は大事というか必要なものなんですね。
もちろん、劇場で演劇の作品を作りたいという気持ちはありますよ。でもどっち取る? となったときに、やっぱり『ア・ラ・カルト』とか『僕のフレンチ』みたいなものを生み出したい、と思うんですよね。『ア・ラ・カルト』はいろいろあってもう無理なんじゃないかという時もあったけれども、一昨年すごくいい30周年を迎えられたこともあって、そこで吹っ切れて昨年は『僕のフレンチ』という“新作”を作ることができました。それと、『ア・ラ・カルト』を続けるのは経済的なことも大変だし、みんなの歳を考えると体力的にもすごくハードだけど、『僕のフレンチ』だったら、流儀を選ばない。そのときみんなが面白がれることをいかようにもできるし、場所を選ばず、地方公演もやれるんじゃないかな、と思いました。今年も思いがけず『僕のフレンチ』という作品に救われましたね。
――昨年も今年も『ア・ラ・カルト』にとって逆境だったのかもしれませんが、だからこそ新たな可能性の扉が開いたのかな、という感じはします。出演者ですが、今年もいつものバンドメンバーに、キャストもおなじみの山本光洋さん釆澤靖起さん、そしてゲストメンバーもレ・ロマネスクTOBIさん、春風亭昇太さん、ROLLYさんとすっかり常連の方々に加えて、昨年の『僕のフレンチ』で初参加だったダイアモンド☆ユカイさんがご出演されます。
カイさんは本当にあったかい方で、以前ラジオでご一緒したときに、昨年ユカイさんに朗読していただいたような「父と娘」のシチュエーションの台本を生放送で2人で読んだんです。そうしたらラストの方でユカイさんがお父さんの気持ちになって本当に泣いていて。そのときに役者には出せない味があってすごくいいなと思ったんです。

■テーブルのあるお店にはすごくドラマがある
――今回、劇場用ではなく配信用の台本を書く上でご苦労されたところはありましたか。
私もこれまでいくつか配信を見ましたけれど、お芝居をじっくり見るっていうのはなかなかきついものがあるな、と思いました。だからそういうことも踏まえて、途中で席を立ったりしても、食べながら、飲みながらでも、楽しめるような、それを重要視して書き換えました。
本来私としては、レストランを舞台にして書いてきたので、今回もコロナ禍のレストランの苦労とかを踏まえた話をじっくりと書きたかったんです。今年の私のテーマの一つとして、やっぱりひとりで食べるよりも誰かと食べている方が絶対にいい、というのがあります。誰かと一緒にご飯を食べるのはとっても幸せなことだし、たまに外食するというのはとても思い出に残りますし。私自身、幼い頃に家族で外食した記憶ってすごく楽しい思い出として残ってるんですよね。お祝い事とか何かの節目に、ちょっとおめかしして、外だからちょっと緊張しながら、家族みんなでそろってごはんを食べに行くという、そこにはすごくドラマがあるな、と思って『ア・ラ・カルト』のようにテーブルを囲む話を劇団時代からよく書いてきたんです。
コロナ禍で、外食するのもなかなか難しかったりするじゃないですか。だからこそ、誰かと一緒に食べるということは素敵な時間なんだということをもう一回思い返すときなのかな、という気もします。レストラン業界はすごく頑張っていますよ。そこにエールを送りたいという気持ちはものすごくありますね。あと、そうやって料理にこだわっている人たちに対するリスペクトの気持ちもあります。お芝居も形として残るものではなくてすぐに消えてしまうけれども、料理は食べたら一瞬で消えちゃうでしょ。一瞬に消えるものに対して人生かけているところが潔いし、そこが私は好きなんだなと思いますね。
――演劇にも非常に通じるところがありますね。毎年『ア・ラ・カルト』に足を運びたいと思うのは、やはりその場限りで消えてしまうからこそなのかもしれません。あと、また『ア・ラ・カルト』のあの人物に会いたい、と思う気持ちは、レストランの店員さんにまた会いたいな、と思う気持ちとも似ている気がします。
やっぱり劇場ですよね、レストランも。だからなんとしてでもそこの思いだけは配信で伝わったらいいな、と思っています。逆に言えばそこだけ伝わればいいかな、と。やっぱりお芝居も生を見に行きたいなと思ってもらいたいし、食事もどこかに食べに行きたいなと思ってもらえたらいいですよね。配信にもいいところはいっぱいあって、今まで見に来られなかった人たちも見られますから、全国の人に見てもらえたらいいなと思っています。
――今回の配信は新しいお客様と出会うチャンスともいえますね。『ア・ラ・カルト』ファンとしては、毎年どのゲストの回に行こうか悩ましいのですが、今回は配信なのでその気になれば全員の回が見られるというのは嬉しいです。ゲストによって全然公演の雰囲気が違いますから、見比べるという楽しみ方もできますね。
生配信で見られなくても、アーカイブが1週間残りますからぜひ全員の回を見てください(笑)。もしかしたら『僕のフレンチ』は配信にとても合うかもしれないという気がしています。だから今後『僕のフレンチ』をやるたびに同時に配信もしていくという可能性もあるのかな。そうすればなかなかうかがえない地域の方々にも見てもらえますから。
私は先日、ROLLYの生配信を実家で96歳の母と一緒に観たんです。母はROLLYを見たいという念願がかなってとても喜んでいました。私も気分が少し落ち込んでいた時期でしたが、とにかくカッコよくて素晴らしいパフォーマンスに勇気づけられました。ROLLYは今年30周年だったのに、ライブの予定も全部キャンセルになってしまって、自宅から配信をしていたんです。彼の人間の大きさと心の温かさを感じられて、すごい人だなと改めて思いました。
他のみんなもきっとそれぞれ、いろんなことがあっての今回の配信ですから、気をつけながらなんとか無事にできることを祈っています。
取材・文=久田絢子

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