濱田めぐみ×海宝直人 旧知の仲の二
人が対談で語ったミュージカル『アリ
ージャンス〜忠誠〜』出演への覚悟

実話を元に、第二次世界大戦下のアメリカにおける日系人差別の歴史に焦点を当てたミュージカル『アリージャンス〜忠誠〜』が、2021年3月に東京国際フォーラム ホールCで日本初演を迎える(以降、名古屋・大阪公演あり)。
2015年には主演にレア・サロンガ、テリー・リアンら実力派俳優を迎えブロードウェイで上演され、アジア系ミュージカルの革新的な作品として話題を呼んだ。このブロードウェイ公演で演出を務めたスタフォード・アリマが、日本版の演出も手掛けるという。
日系人であることを理由に強制収容所に収容されたキムラ家の姿を通して、忠誠、アイデンティティ、そして普遍的な家族愛を描く本作。日系家族の姉と弟を演じる濱田めぐみと海宝直人の二人に、対談インタビューを行った。出演にあたっての率直な想いや、デリケートなテーマを扱うことの難しさを語る彼らからは、本作に対する確かな覚悟が感じられた。
「やりやすいを超えてドンピシャ」な二人
――お二人は最近ですと『レ・ミゼラブル』で共演されていますが、改めて今回ご一緒するカンパニーの仲間としてお互いの印象を教えてください。本作の姉弟役のように、二人でガッツリお芝居をされることはこれまであまりなかったですよね。
海宝:うん、全く関わってない(笑)。
濱田:『レ・ミゼラブル』では舞台袖で会うくらいだったからね。私にとって福井晶一くんが役者仲間として一番長いという話を度々していたんですが、直人というそれを上回る相手が出てきて。
濱田めぐみ
海宝:ははは(笑)。
濱田:私は彼が小さい頃から知っていて、もう25年くらいになるのかな。(今回の)キャスティングを聞いたときに直人だと知って、ちょっと「ふっ」てなっちゃったんです(笑)。『アリージャンス』の劇中の曲で「膝小僧擦りむいていつも走り回っていた弟」というような歌詞があるんですけど、もうそのまんまだったんですよ! 『ライオンキング』の立ち上げのとき、直人がヤングシンバで裸足でガーッと走って転んだり、共演者のおじちゃんと喧嘩したり(笑)。あ、もちろんお利口さんでしたよ。その頃からの付き合いなので、20年ぶりにガッツリ組むことになります。あまりにもちっちゃい頃の印象が強過ぎて変なストレスが何もないんですよ。お家でお茶でも飲んでるような感じ。その空気感で舞台に上がるので、家族的な雰囲気が出るという意味においては最強だと思います。泣き、笑い、いたずらと全部見てきたので、やりやすいを超えてドンピシャっていう。
海宝:本当にちっちゃいガキンチョの頃を知ってもらっているので、カッコつけようがないわけですよね。カッコつけたってしょうがない(笑)。そういう意味でもすごく嬉しいなって思います。変な言い方かもしれないけれど、その頃を知ってもらっているから遠慮なくぶつかっていけるというか。受け止めてくださるということもわかっているので、共演が決まったときは嬉しかったですね。
「日本で日本人の手によってやらなければいけない使命感」(濱田)
――『アリージャンス』への出演が決まったときのお気持ちを聞かせてください。
海宝:僕は作品の存在は知っていたんですが、観たことはなかったんです。お話をいただいていろいろ調べていく中で、段々とわかってきたところです。驚いたのは、自分は本当に何も知らなかったなということ。第二次世界大戦下で日系アメリカ人に起こったことを、何で知らなかったんだろうとびっくりしました。それに、この作品がアメリカで上演されたというのもすごいことだと思います。差別の歴史の話なので、アメリカ人にとってはあまり嬉しいお話ではないですよね。日本で上演するということにも、大きな意味があると思いました。
海宝直人
濱田:オファーをいただいたときは、正直この歴史上の事実が自分の中に情報としてなく、『アリージャンス』の企画書を見て初めて知ったんです。作品がブロードウェイで上演されていることは耳にしていましたが、詳しくは知りませんでした。自分が携わるかもしれないということで作品の内容に踏み入ったとき、テーマがあまりにもデリケートで……「ちょっと待ってください。もう少し自分の中で考えさせてください」と言ったんです。これまでにも差別を扱うデリケートな作品に出演してきましたが、『アリージャンス』はそれらとは似て非なるもの。日系人差別を描く作品を日本でやるということは非常に難しく、ハードルが高いように感じました。
あと、作品が持っているテーマ性。オファーを受けた当時の日本やアメリカの情勢は、特別なことはなくいつも通りの世界でした。そのとき、非常に迷ったんです。作品的にはすごくいいのですが、当時の日本でやることの意義が汲み取れなくて。もし舞台の神様がいるなら、なんでこの作品を私のところに持ってきたのかな、と。結果的にプロデューサーと何度かお話をさせてもらって、「やるからには本気でやります」とお受けしました。そして2020年、全く違う世界になったときに「自分とは何か、生きるとは何か」という作品のテーマにぶち当たったんです。このひらめきと、オファーを受けた瞬間がちょうど繋がって今に至ります。
――プロデューサーとお話をされて、出演しようと決めたのはなぜですか?
濱田:このテーマはあまり日本で扱われていないから。私は劇団四季在団中に戦争三部作に関わっていて、1945年あたりの戦争の歴史を勉強した土壌がありました。なので、『アリージャンス』は自分にとってはその四作目にあたるくらいの作品なんです。きっかけはわからないんですが、この作品を日本で日本人の手によってやらなければいけない使命感というか、ひらめきがあったんです。
海宝直人、濱田めぐみ
――海宝さんは、濱田さんがおっしゃったような迷いはありましたか?
海宝:非常に難しいなというのは僕も思いました。英語と日本語を織り交ぜた作品なので、文化の違い、例えば登場人物それぞれの日本語への親しみの違いなど、繊細に表現しなければならないところを日本人だけでどう作っていくんだろう、と。出演の決め手は演出のアリマさんの言葉でした。アリマさんは日本版を作るにあたって「日本で日本人が作るからこそできるオリジナル作品を共に作っていこう」という想いでいらっしゃると聞きました。だから、すごく大変だけれどチャレンジしがいのある、価値のある作品になるんじゃないかと。
「世界の一員という意識を見つめ直す、すごくいい機会になる作品」(海宝)
――日系人の人権を守るために徴兵反対の立場となるケイを演じる濱田さん、家族を守るためにアメリカに忠誠を誓い戦地へ赴くサミーを演じる海宝さん。それぞれ家族への愛をどう思い、どう演じたいですか?
濱田:ケイは日本人の精神性が強いというか、私の感覚ではアメリカナイズされていない、核家族の日本人の中で育った想いの方が強いと感じています。気質は楚々としていても頑固で自分の信念を曲げない人。弟のサミーくんはアメリカ兵として戦い、一方恋人のフランキーは家族を守るために自分の権利を主張するという真逆の立場。さらにお父さんとおじいちゃんの存在もあって、その中でケイ自身は自分というものの立ち位置がわからない状態で生きているんですよね。自分以外のもの全てに愛を配って、自分には何も残っていない状態で収容所にいると思うんです。母として自分の身を投げ出してでも人を救いたい、許してあげたいという想いでずっといたんじゃないかな。だから舞台では、そういう部分が役柄で見えてきたらいいなと考えています。
濱田めぐみ
海宝:サミーは自分が生まれたときに母を亡くしていて、日本のメンタリティみたいなものをほとんど持っていないキャラクターの日系二世の方だと思っています。とにかく彼にとって「男とはどうあるべきなのか」というのがすごく大きなテーマになっているように感じます。「What Makes a Man」というソロ曲の中に「国のために戦い忠誠を尽くすことが男なんだ」という歌詞があります。『ミス・サイゴン』でベトナム戦争時のアメリカ人のことを勉強したのですが、それに通ずるものがありました。サミーが家族を守るために戦うという想いを実感を持って理解できるよう、自分の中に腑に落としていく作業をかなり丁寧にやっていかなきゃなと思っています。彼を突き動かしているのは、家族への愛。しかもきっと、日系人そのものも彼に取っては家族だったと思うんです。歌詞の中で日本語だと翻訳的に入らないかもしれませんが、彼の主語は「We」なんです。「”僕たち”はヒーローになるんだ」と。そういうサミーの想いはすごく大事に表現していきたいと思っています。
――『アリージャンス』という作品において、何を一番大切にして取り組まれますか?
濱田:死ぬまでの間、何に忠誠を持ってあなたは生き抜くか。誰も彼も、それを貫き通して自分の人生を生ききるというものが今あるのかなって。それは私自身に対してもそう。ケイという役の生き様を通して観ていただき、お客様に届けられるものがあるとすれば、どれだけ時間をかけても睡眠時間を削っても、やる価値のある演目だと思います。
海宝:めぐさんとも話したんですが、日系と言っても一世の方、二世の方と様々。二世の中にもケイのように日本の精神文化を日本人の母から伝えられて持っている人もいれば、サミーのように母を早くに亡くして日本の影響を受けず、アメリカ人として育った日系人もいる。そういう繊細な部分は動きや身体の使い方も含め、すごく丁寧に積み重ねて構築していかないと、物語を組み立てていくのは難しいだろうなと。それは演出のアリマさんともお話ししていて思うところです。
あと、我々が日本で生きていて日本人ということを意識することって少ないですよね。僕も海外でお仕事をさせていただいたときに、初めて自分はアジア人で日本人だということを意識しました。日本で生きていると民族的な意識や世界の一員という意識がものすごく希薄になっているような気がするので、それを見つめ直すすごくいい機会になるんじゃないかな。そういう視点を大事に持って、この作品に臨まなければいけないなと思っています。
海宝直人
――2020年は多くの舞台作品が中止となり、様々な想いがあったかと思います。『アリージャンス』が上演されるのは2021年3月ということで、日本で劇場が閉ざされ始めたちょうど1年後になります。それを踏まえ、どんな想いで『アリージャンス』の舞台に立ちたいですか?
濱田:確かにそうですよねえ。やっぱりもう一度自分というものに立ち返るきっかけになると思います。決して大きな作品ではないかもしれませんが、直人も言ったように私もこの作品を通して世界に目が向いていったんですよ。「日本人だけど日本人じゃないってどういうこと?」って。世界の中での日本、日本人というものを客観的に理解しようと考えるわけです。これからの世界は何がどうなるかわからないじゃないですか。その状況でこの作品に触れる方々には、目を逸らさずに自分というものの立ち位置を見つめ直したり、今までの人生やルーツを振り返ったりするきっかけになるような気がしています。世界の中の日本というものにしっかり根付いていける第一歩になると成功かなって。そういう風にみんなの発想の転換になったらいいなあと思います。
海宝:本当にめぐさんがおっしゃるとおりだなと思います。今、世界の分断というすごく大きなテーマがありますよね。例えばコロナの影響で欧米でアジア人が差別を受けるというニュースもありましたが、それでも日本に住んでいるとあまり実感が湧かないところがあって。それはやっぱり痛みを伴わないから。しかも今は海外に行くことも難しいですし、余計に世界の分断が進んでいるように感じます。この状況下で『アリージャンス』を上演できることって、改めて大きいなと思います。分断と言われているけれども実感できない世の中、この作品を観ることで改めてそれを肌で感じてもらえたら。作品を追求して物語を深めていく中で得るものもたくさんあると思いますし、観ていただいたお客様にもいろんなことを感じてもらえたら嬉しいです。そういう意味でも、タイミング的に巡り合わせを感じる作品ですね。
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=中田智章

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