黒木渚 コロナ禍の2020年に何を思い
、考えていたのかーー音楽と映像で魅
せた濃密な60分、初の配信ライブをレ
ポート

黒木渚 Online Live 2020「ダ・カーポ

2020.12.26
黒木渚が、12月26日に『黒木渚 Online Live 2020「ダ・カーポ」』を開催した。
2020年の黒木渚は、1〜2月に行なわれたアルバム『檸檬の棘』を掲げたツアーを完遂し、ここからまた新たなフェーズへ入っていくと思われたのだが、その後、世の中の状況が一変。しかし、初の楽曲提供&プロデュースに、動画配信やファンコミュニティの開設といったオンライン上でのアクションはもちろん、小説家としてもエッセイの寄稿や小説『本性』の文庫版発売と、コロナ禍においても精力的に活動を続けてきた。そんな中、12月9日にはデジタルシングル「ダ・カーポ」を発表。“ダ・カーポ”とは「最初に戻って演奏する」という意味の音楽記号(反復記号)のこと。自分の嫌いなところを直したい、変わりたいと思いながらも、結局変われずに堂々巡りをしている葛藤を、変拍子を組み込んだ曲展開や疾走感溢れる熱量の高いサウンドで描いた楽曲になっている。
そんな快作の世界観を基にしたのが、今回レポートする『黒木渚 Online Live 2020「ダ・カーポ」』だ。なお、この日の模様は2021年1月3日(日)23:59までイープラス Streaming+にてアーカイブ配信中。この原稿は、当日の内容を記述したネタバレありのレポートになっているため、未視聴の方は、必ずそちらを先にご覧ください。内容に触れないように概要だけをお伝えしておくと、『Online Live 2020「ダ・カーポ」』は「配信ライブ」というフォーマットだからこそできる映像表現を大いに活かしたものになっていて、彼女がコロナ禍の2020年に何を思い、考えていたのか、それらが濃密に凝縮された60分間だった。
黒木渚
黒木渚
開演直前から聴こえ始めていたメトロノームが鳴り止んだ。ピントのぼやけた不思議な映像と、どこか物悲しさのあるSEが流れる中、黒木の声が聴こえてくる。「いつになったら外へ出られるのだろう」「退屈な日々に変化が欲しい」「平凡な人生に奇跡が欲しい」「何度願っても巻き戻されて進めない」──。多くの人が抱えている想いを代弁するような言葉が告げられた後、ライブハウスのステージと思しき場所が映し出された。神佐澄人が奏でる鍵盤と、井手上誠が爪弾くアコースティックギターの音色が響く中、ノースリーブの黒いドレスを身にまとった黒木が、「檸檬の棘」を歌い始める。この日の演奏はギター、キーボード、そして歌というシンプルな編成。音数は少ないながらも、黒木の歌であり、そこに綴られた言葉が実に生々しく迫ってくる。曲を終えると、丸い白熱電球が灯り「エジソン」へ。原曲よりもテンポを落とし、言葉のひとつひとつを丁寧に届けていく。また、黒木の姿を見上げる形で捉えている画角は、まるでライブハウスの最前列で彼女のステージを観ているような感覚をおぼえた。
黒木渚
場面が暗転すると、大量のおもちゃが並べられたテーブルが映し出された。再びメトロノームの音と黒木の声が聴こえてくる。「大人になるってどういうこと? 今夜、世界中の子供たちにとっておきの秘密を教えてあげましょう。本当は、この世界に大人なんてひとりもいない」──。そして、そんな「大きな子供たち」は、社会の中でそれぞれの役割を演じながら、それぞれの物語を追いかけていると告げると、舞台が一転。先ほどまでのシンプルなステージとは打って変わって、シックかつラグジュアリーな部屋に移り変わっていた。スタンド型のシャンデリアや、テーブルにはバラの花でデコレーションされた食器類が並び、黒木も白を基調にしたかわいらしい衣装にチェンジしている。そんな中、黒木が歌い出したのは「ピカソ」。軽やかに弾む演奏に合わせて、身体を軽く左右に揺らしながら歌っていたのだが、突如、黒木が作・絵を手掛けた『ネオももたろう』という紙芝居が始まった。あらすじとしては、“桃から生まれた”という出生や、“桃太郎”というキラキラネームなど、実は自身の生い立ちにコンプレックスを持ち、やり場のない思いを抱え続けていた桃太郎が、ゆがみまくった正義感を掲げて鬼退治に向かうというもの。ユーモラスな設定や展開ながらも、「どうして鬼だというだけで、悪だと決めつけるんだ!」という鬼の涙の訴えなど、なんとも風刺が効いている。
黒木渚
陽性なサウンドも相まって、軽やかな雰囲気になっていたのだが、突然、大量に重ねられた様々な声が飛び出す。「どうか私を解放して」──その一言をきっかけにエレキギターが怪しげなリフを弾き始めた。続く曲は「クマリ」。黒木が椅子に腰をかけて歌う中、激しく明滅する照明と、狂気的なまでに音を歪ずませたエレキギターが絡み合い、なんともサイケデリックな空間を演出していく。そんなハードな展開から、新曲「ダ・カーポ」へ。すばやくスイッチングされる映像が、疾走する歌と演奏のスピード感をより高めていく。そして、曲の最後に〈ダ・カーポ〉と黒木が発すると、映像が凄まじいスピードで逆再生し始め、再び、薄暗いライブハウスのステージに立つ黒いドレス姿の黒木の姿が映し出された。つまり、1曲目の状況までダ・カーポしたということ。つい先ほどまでのことが、まるですべて夢だったかのように。

黒木渚

そして、カメラに向かって黒木はゆっくりと話し始める。「2020年、春。世界は暗転してしまいました」。どこにも行けず、会いたい人にも会えず、ただただ息の詰まる生活を強いられたことで、「孤独をこじらせて破裂しそうになっている人」や「無差別に悪意をぶちまけている人」がリアルやオンラインにも溢れかえり、今もなお混沌としている現在。そんな状況に対して、「しかし、忘れてはいませんか?」と、黒木は続ける。「私たち人間は、元から孤独な存在です」と。「私たちは、ひとりぼっちだからこそ、それぞれの孤独を持ち寄って、優しい空間を作ることができます。それはオンラインでも同じことです」。そして、彼女がこのコロナ禍において思い続けていたであろうことを話し出した。
黒木「音楽家である私には、病気を治すことはできません。けれど、病んだ心を癒すために、毎日作り続けてきました。堂々巡りの生活は、私たちの心を殺します。だけど、この状況に踊らされてはいけません。私たちは、自らの意思で踊るのです。力強く、そして誰よりも美しく」
黒木渚
大きく息を吸いこむと、黒木は「カルデラ」を歌い出した。自身の心にある〈毒〉であり〈針〉であり〈闇〉を吐き出しながらも、こんな私だとしても付いてきてくれた人を幸せにしたいという、いわば表現者としての意思や覚悟を刻んだような曲だ。静かな始まりから後半ではテンポをグっと上げ、力強く歌を届けていく。また、「カルデラ」は、1stミニ・アルバム『黒キ渚』に収録されている曲でもある。この曲を歌っているとき、画面に赤みの強いセピア色のエフェクトがかかっていたのだが、それは、その意思や覚悟は決して最近芽生えたものではなく、自分が昔から常に思い続けていることだというメッセージのようにも思えた。
黒木渚
色を取り戻したステージに、軽やかに弾む鍵盤の音色が飛び込んできた。「深刻なときにこそ、ひとつまみのユーモアを!」と、「ふざけんな世界、ふざけろよ」へ。世の中に蔓延る不条理や理不尽を笑い飛ばすようなこの曲は、今、こんな世の中だからこそ、より強い輝きを放つ。チャットのタイムラインには、ユーザーが書き込んだ〈チクショーチクショーふざけんな〉という歌詞の一節が、勢いよく流れていった。拳をあげたり、手拍子をしたりと、楽しそうに歌っていた黒木は「日頃の鬱憤は晴らせたかな!?」と満面の笑みで語りかけ、ラストナンバーとして「骨」を披露。「また外の世界で、生身の私たちで会えるその日まで、どうかみなさん、元気で過ごしていてください」と、まばゆい光に包まれる中、淀みないまっすぐな想いを歌に乗せ、ライブはエンディングを迎えた。
まるで映画を観ているような展開でありながらも、臨場感あふれる生々しい歌であり音を届けてくれた黒木渚。それは、まぎれもなくオンラインライブだからこそできる表現だったと思う。確かに今は、あの頃のような空間を味わうのは難しいのかもしれない。しかし、そんな状況下でも「病んだ心を癒すために、毎日作り続けてきた」と、黒木は話していた。コロナ禍で経験した様々な出来事を通して、黒木渚という芸術家がどんなものを生み出していくのか。楽しみに待っていたい。

文=山口哲生

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