SPEEDが想像の遥か上を行く
グループであったことをデビュー作
『Starting Over』から思い出す

同世代からの圧倒的な支持

たが、しかし、ところが…である。多くの人がそこに眉を潜めたり、識者から咎めたりされることはほとんどなかった。前述の通り、「Body & Soul」は累計で60万枚のスマッシュヒット。2nd「STEADY」は最終的にミリオンを突破し、3rd「Go! Go! Heaven」では初めてチャート1位に輝く。みなさんご存知の通り、大衆からの圧倒的な支持を得たのである。いや、得たどころではない。1997年にリリースした5th「White Love」はダブルミリオンとなり、1998年の2ndアルバム『RISE』は出荷ベースでトリプルミリオンと、大ブレイクを遥かに上回って、完全に時代の寵児となる。とりわけ同世代の子供たちから圧倒的な支持を得た。個人的に印象に残っているのは彼女たちが主演した映画『アンドロメディア』のこと。映画は観ていないのでその内容がどうだったのかは知らないけれど、公開当時、盛んに放送されていたそのTVCMの中で、映画の感想を嗚咽交じりに語る小学生の女の子たちの姿が映っていた。今もよくある“大ヒット公開中!”などの煽り文句付きのアレである。泣きじゃくる子供を見て“そこまで感情移入させるものなのか!?”とかわりと驚いた記憶があるし、子供たちを巻き込むかたちでSPEEDが社会現象になっていることを否が応でも感じたところだ。

話をアルバム『Starting Over』に戻す。ここまで述べてきた初期SPEEDの歌詞の件──筆者はそれを図々しくも“イロモノ”に近いだとか何だとか指摘したわけだが、彼女たちを支持した同世代のファンたちは、そんなことは些末なことだと言わんばかりに、SPEEDに飛びついた。歌詞の深いところまでは分からないし、その内容が相応しいものかどうかなんて関係ない。ダンスと歌がカッコ良い。自分と同じくらいの齢の女の子たちがそれをやっていることにとにかくしびれる──。当時、小学生だったSPEEDファンに訊いてみたら、そのようなことを言っていたのでおそらくこんな感じで間違いはなかろう。言葉うんぬんではなく、ダンスと歌というフィジカルな特徴に直感的にビビッと来たのもローティーンならではだろうし、多感な時期の子供たちがSPEEDの活躍を自己肯定と結び付けたのかもしれない。

確かな歌唱力をしっかり露出

確かにアルバム『Starting Over』収録曲はどれも歌唱力が光るものばかりだ。アルバムを通して聴いてみて印象に残ったのは、ほぼ全編に彼女たち以外の声が多用されていること。しかも、それがかなりブラックミュージックの本格派と思しきシンガーを起用していることだ(クレジットを確認できなかったので誰かは分かりませんでしたが、名の通った人たちであるならば非礼をお詫びします)。M1「Walk This Way」の中盤では彼女たちのバックをしっかりと支えているし、M2「Body & Soul」ではイントロからハイトーンで楽曲を彩る。M6「サヨナラは雨の日....」のサビに重なるコーラスワークは洋楽的なアプローチで今聴いてもカッコ良い。

アルバムの後半になると、M7「Go! Go! Heaven」のアウトロ近くで聴こえてくるSPEEDのメンバーとの絡みはまだ控えめな感じではあるものの、M9「Kiwi Love」では(おそらく)外国人男性のラップがしっかり入ってきたり、M10「HAPPY TOGETHER」の間奏では(これもおそらく)外国人男性のコーラスが入っている上に、アウトロではその男性コーラスと迫力ある女性シンガーのソウルフルな歌声との絡みも聴けたりする。極めつけはM11「Starting Over」だろう。ゴスペル風のコーラスがほぼ全編にあしらわれており、《We're Starting Over》の箇所ではSPEEDメンバーの歌声が外部のコーラスと同等となっている。ほとんど溶け込んでいるようなかたちであって、ルックスがいいだけのグループではないことがダメ押しされているかのようでもある。

こうした外部のコーラスの多用は、メインヴォーカルのメロディーを引き立てることだけに留まらず、本格的なソウル、R&B──とは言わないまでも、その匂いを確実に楽曲に落とし込もうとした結果であったことが分かる。無論、当時の彼女たちの歌声がプロのミュージシャンに勝っているとは言わないけれども、決して見劣り(聴き劣り?)していないことは確か。そうでなかったなら、これほどまでに外部からの歌声を入れないであろう。つまり、本格派コーラスの多用はSPEEDが歌唱力で勝負するという決意の表れでもあったのだろう。特にアルバムの実質上のフィナーレであるM11「Starting Over」で前述したようなハーモニーを強調したということは、SPEEDは“イロモノ”なんかじゃなく、文字通り、“Starting Over=最初からやり直す”という決意表明だったのかもしれないと思ったりもした。そのM11「Starting Over」にはこんなフレーズがある。

《ひとりには慣れていたはずなのに/誰かそばに今日はいてほしくて/けどムナしさしか残らなくて/大切な人に気づいたよ》(M11「Starting Over」)。

スマッシュヒットに留まらず、ミリオンやチャート1位となると、《痛い事とか恐がらないで/もっと奥まで行こうよ いっしょに…》や、《成熟した果実のように/あふれ出してく 欲望に正直なだけ/満たされてたい!》の路線を続けることはもはやできなかった。今となってみれば急ブレーキというか180度の方向転換と思えるが、それだけ早い速度でSPEEDの社会現象化が進むという想像もしなかったことが起こったのだから仕方がない。スタッフ、関係者はそうするしかなかっただろうし、それが正解だった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Starting Over』1997年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Walk This Way
    • 2.Body & Soul
    • 3.Luv Vibration
    • 4.STEADY
    • 5.RAKUGAKI
    • 6.サヨナラは雨の日....
    • 7.Go! Go! Heaven(Album Version)
    • 8.I Remember
    • 9.Kiwi Love
    • 10.HAPPY TOGETHER
    • 11.Starting Over
    • 12.Starting Over(reprise)~Walk This Way
『Starting Over』('97)/SPEED

OKMusic編集部

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