サザンオールスターズの2本の配信ラ
イブが日本の音楽界に示したもの

サザンオールスターズが2020年に行った配信ライブは、6月25日と12月31日の横浜アリーナの2本。ここではサザンオールスターズがこの配信ライブによって、音楽界に示したものについて考察していきたい。この2本のステージに共通するのは「Keep Smilin'」というテーマが掲げられていたこと、メンバーとスタッフが総力を結集して、音楽の持っている力を最大限に機能させていたこと、そして配信ライブという新しい音楽表現の可能性を追求したことだろう。
サザンオールスターズにとって初の配信ライブとなった6月25日の『サザンオールスターズ 特別ライブ 2020 「Keep Smilin' ~皆さん、ありがとうございます!!~」』は、大きな感動とともに多くの驚きをもたらすものになった。配信ライブでここまでのことができるのか、こここまでやるのか。そんな配信ライブのイメージを覆すような演出が数多く施されていたからだ。メンバー、ミュージシャン、ダンサー、スタッフ、総勢400人が参加して、大規模なツアーさながらのセットを組み、工夫を凝らした演出がたくさんあるステージ。会場内に観客がいない状況を逆手にとって、客席のスペースを有効に活用した照明や演出も見事だった。医療従事者、エッセンシャルワーカー、ファン、ライブ関係者など、さまざまな人々への感謝を込めた配信ライブは、音楽の力の素晴らしさを再確認させるものでもあった。推定視聴者数は50万人超え。彼らはこの日のステージで確かな手ごたえを掴んだに違いない。
サザンオールスターズ  撮影=西槇太一
それから約半年後の大晦日に行われた『サザンオールスターズ ほぼほぼ年越しライブ 2020 「Keep Smilin' ~皆さん、お疲れ様でした!! 嵐を呼ぶマンピー!!~」』は、6月のステージで掴んだ手ごたえを土台として、さらに配信ライブの可能性を広げるものとなった。セットリストの大きな特徴となっていたのは、演奏で聴かせる曲が目立っていたこと。配信ライブであるにもかかわらず、いや、配信ライブだからこそ、ライブバンドとしてのサザンオールスターズの魅力をたっぷり満喫できるステージとなったのだ。
サザンオールスターズ  撮影=西槇太一
ジャムバンドのような自在な演奏の応酬、エモーショナルな歌声とプレイの数々。画面越しであっても、バンドの奏でる人間味あふれるグルーヴに体が揺れた。歌と演奏がダイレクトに届いてきたのは、画面越しにたくさんの観客がいることを察知しながらメンバーが演奏していたから、そしてバンドのメンバー同士やスタッフが“観客の代表者”でもあったからだろう。ライブの臨場感と完成度の高さとを両立する見事なステージだった。
サザンオールスターズ 撮影=関口佳代
2020年は誰もが同じ困難に直面し、不安や困惑や苦しみを感じた年となった。演奏する側と聴く側が同じ思いを胸に抱いていることによって、ライブというコミュニケーションがより深いものになっていると感じる瞬間がたくさんあった。困難な年の締めくくりという特殊なシチュエーションの中で、特別な輝きを放つ歌がたくさんあった。例えば、「東京VICTORY」。コロナ禍という困難を乗り越えて、ともに未来へ向けて進んでいこうという希望の歌として響いてきた。メンバーのみならず、会場内のスタッフがこぶしを挙げている光景に胸が熱くなった。きっと画面越しにもたくさんのこぶしが挙げられていたに違いない。
「Ya Ya(あの時代[とき]を忘れない)」も新たな表情が見えてきた歌のひとつ。過去のライブの客席の映像が映し出されたのだが、この配信ライブの歌と演奏からは、人が集ってライブを楽しむことのかけがえのなさまでが伝わってくるようだった。特殊な状況の中で違った表情を見せていく。これも音楽の素晴らしさのひとつだろう。
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一
昭和のお茶の間コント風の映像、最新の球状のLEDを駆使した映像や照明、フライングまで飛びだしたダンサーのパフォーマンス、全国各地のお祭りを再現したフィナーレでの盛り上がり、全国6か所で打ち上げられた花火などなど、印象的な場面がたくさんあった。笑ったり、盛り上がったり、感動したり。これらの演出が素晴らしかったのは、ひとりひとりの思いを結集して作り上げたライブであることがはっきり伝わってきたから。大掛かりであることよりも、手作りであることの尊さが際立っていたと思うのだ。
サザンオールスターズ 撮影=高田梓
2020年の春以降、多くのミュージシャンがそれぞれのやり方で、素晴らしい配信ライブをたくさん行ってきている。たったひとりで、自分の部屋から届けた演奏が大きな感動をもたらしてくれたというケースもたくさんある。サザンオールスターズがサザンオールスターズにしかできない配信ライブを行ったように、それぞれのミュージシャンがそれぞれにしかできないやり方で、素晴らしい配信ライブを行ってきている。コロナ禍が収束したとしても、おそらく配信ライブは新しい形態の音楽表現の一つとして存続していくだろう。コロナが多くのライブの場を奪ってしまったが、その楽しみのすべてが失われたわけではない。その明確な証しの一つがサザンオールスターズの配信ライブである。
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一
心おきなく通常のライブを楽しめる日がいつやってくるのか、コロナ禍がいつ収束するのかは不明だ。日本中のすべての人々が困難な状況に直面する状況は続いている。音楽では生活していけなくなったミュージシャン、ライブ関係者もいる。閉店せざるをえなくなったライブハウスもある。配信ライブが根本的な問題を解決する特効薬になるわけではない。しかし工夫することによって、事態を改善していくことは可能だろう。
サザンオールスターズの2本のステージが示したもっとも大きなことは、音楽の素晴らしさと人々が連帯することのかけがえのなさだと思うのだ。音楽は困難な時にこそ、輝きを増していく。どんな過酷な状況であっても、人々から音楽を奪うことはできない。どんなに苦しい日々の中であっても、笑顔をもたらしてくれるもの、それが音楽だ。サザンオールスターズの配信ライブに付けられた「Keep Smilin'」という言葉がすべてを物語っている。個々の笑顔のその先には、たくさんの笑顔が結集する未来が待っている。
取材・文=長谷川誠
サザンオールスターズ 撮影=西槇太一

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