(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

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【映画コラム】二律背反する思いを抱
かされる『すばらしき世界』

 佐木隆三のノンフィクション小説『身分帳』(受刑者の個人情報が記されている極秘資料)の設定を現代に置き換えて、西川美和の監督・脚本で映画化した『すばらしき世界』が2月11日から公開される。
 殺人罪で服役していた三上(役所広司)が13年ぶりに出所し、何とかまっとうに生きようと悪戦苦闘する。そんな三上に、作家志望の元テレビマン津乃田(仲野太賀)がすり寄ってくる。
 この映画のキャッチコピーは「この世界は生きづらくあたたかい」だが、個人と社会、三上の暴力と優しさ、あるいは前科者に対する世間の不寛容と善意といった、二律背反するものを描いている。どちらが正しいのかではなく、どちらも存在するということを提起している。
 何より『すばらしき世界』」というタイトル自体が反意的だ。三上の姿を通して、「本当にそうなのか?」と問い掛けられている感じもする。
 そして、津乃田、弁護士夫婦(橋爪功、梶芽衣子)、ケースワーカー(北村有起哉)、スーパーマーケットの店長(六角精児)、旧知の組長夫婦(白竜、キムラ緑子)が、三上に示す善意や優しさが、この映画の救いになるのだが、「なぜ、皆三上に魅かれるのか、放っておけないのか」の理由を深くは描いていない。
 それ故、もやもやさせられるところがあるが、それが三上の不思議な魅力や複雑さにつながるところもある。こちらも、決して三上に共感はできないのに、何故か憐憫の情が湧いてくるという、二律背反する思いを抱くことになる。そこが、同じく佐木の小説を映画化した『復讐するは我にあり』(79)の主人公・榎津(緒形拳)とは大きく違うところだ。
 そう感じさせるのは、観客の代弁者ともいうべき津乃田の存在が大きい。演じた仲野の好演もあり、津乃田の三上への感情や視点の変化を通して、三上の存在を際立たせることに成功している。
 さて、捨てられた母に一目会いたいとひたすら願う三上は、母に会いたい一心から刑務所を脱獄する『網走番外地』(65)の主人公・橘真一(高倉健)と似ていなくもない。古くは長谷川伸の『瞼の母』の番場の忠太郎もそうだが、極道男の純情を描くには、母親の存在を絡めることが多い。その点は、この映画も例外ではない。
 不遇な生い立ちを背負った一匹おおかみの元やくざ三上。複雑でコロコロと態度が変わるこの男を、役所は、表情やしぐさ、あるいは口跡を変化させながら見事に演じているが、仲野や六角が示した変化に富んだ演技とのコントラストもまた見事だった。彼らからこうした演技を引き出した西川監督の手腕も大いに認めたいと思う。(田中雄二)

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