鬼太鼓座にインタビュー 世界の憂鬱
を吹き飛ばせ!~映像作品『鬼太鼓座
、大地を駆ける!!』配信スタート

佐渡で結成されたプロの創作和太鼓集団「鬼太鼓座」による映像作品『鬼太鼓座、大地を駆ける!!』が、2021年2月10日(水)からイープラス「Streaming+」で配信が開始された。これまでの舞台を記録した作品とは違い、富士山の麓や比叡山、上賀茂神社で撮影されたという新作。作品の魅力を、座員の吉洋(※)(よし ひろ)と、木下直人(きのした なおと)に聞いた。

※吉は「土」の下に「口」
富士山の麓など「場の力」を借りて
ーーまずは、今回の映像作品を実際に撮影された感想を教えてください。
吉:今まで私たちが演奏したことのない場所で、演奏したことが一番記憶に残りました。これまでいろいろな場所で演奏を重ねてきていますが、今回は、富士山の麓・朝霧高原など、初めての場所で演奏しました。撮影当日の天候は、1日は晴れ、1日は雪。作品としては、非常にいいものができたんじゃないかなと思います。やる方は大変でしたが(笑)。
木下:朝霧高原以外に、京都の上賀茂神社と比叡山で撮影しました。終始寒さとの戦いでした。厳しい状況で、できる限りのことをする。私たちは、普段からとにかく厳しい中で生活をしっかりと行っているので、そこが試されているかなという実感がありました。
木下直人
ーー今回は、なぜ映像作品を作られようと思ったのでしょうか?
吉:私たちのコンサートで、音響や音作りを主にやってくれている梶野泰範さんという方からのお話がきっかけでした。今のこういう社会情勢の中で、ライブで演奏していくことが非常に難しい。何か新たな試みをやってみよう。それが、もともとのきっかけでした。確か去年の10月、11月ぐらいに話が出たと思います。
ーーコロナの影響が背景にあるんですね。
吉:その影響は大きいですね。
ーー鬼太鼓座の演奏を映像にする時に、どういうところを工夫されたのでしょう。
吉:私たちはこれまでもDVDという形で、撮影をしたことがあります。それは主にライブを記録した映像作品として作ってきたのですが、今回の場合は、舞台の上でやる演奏は最初から想定されておらず、タイトルにもありますが、大地の中で演奏して、走るということが大きなテーマだったので、今までの記録映像とは全く異なる内容でした。
吉洋
ーーそもそも「大地を駆ける」というテーマはどのように誕生したのですか?
吉:今このタイミングで、鬼太鼓座が、世の中に対して何を発信するべきなんだろうか。話し合いを重ねていくなかで、やはり、これしかないよねというところで、このテーマと内容へ、必然的に集約していきました。
ーー必然的に……。それはどういうことですか?
吉:この作品はさまざまな方たちが関わっていて、いろいろと議論を交わしてきたので、それを私が代表してまとめて説明するのは難しいのですが……個人の考えとしては、とても悩みました。今このタイミングで、何を発信するべきなのかと。今回、比叡山、富士山、そして上賀茂神社という3つの場所で撮影をしましたが、それぞれが日本人にとって特別な信仰の場所なんです。そういった場所で演奏をすることで、音が自分自身の想像を超える力を持つのではないかと思いました。宗教的な「信仰」とは異なるもっとネイティブな行為として、何かを信じている人間が表現を通じて人に発信をする。「信じる」というのが、僕はキーワードだと思って。
こんなことをして、何になるんだろう。太鼓というのは生で伝わる楽器だから、映像にしたところで本当の良さは伝わらない。そういうことは当たり前のように、誰もが考えることなんですが、でもライブができない中で、最終的には私たちの演奏が、見る人・聞く人に伝わるということを信じるしかない。そう思いました。
例えば、アスリートが、オリンピックが開催されるかどうか分からないのに、練習を重ねていく。それも、その先があると信じるしかない。仮にオリンピックが開催されなくとも、信じて、やる。それと僕は重なると思っています。ただ「太鼓叩いているね」というだけではなく、私たちの生き方や考え方が伝わると信じよう、と。
そのためには、信じるという信仰の場所として、ずっと昔から歴史を重ねてきた場所の力を借りよう。場の力を信じて、その中でやらせてもらう。私たちの演奏を披露しようとか、いいものをやろうというよりも、ある意味、場に任せてしまう。そこに立った時にどう感じるか、どんな音がするか。悶絶しながら数日間を過ごした結果でした。
(左から)吉洋、木下直人
ーー「信じる」というキーワードが出てきました。太鼓は神事にも使われますし、テーマとしては「祈り」なのかなと思っていたのですが、もっと積極的な意味を込めた「信じる」ということなのですね。
吉:鬼太鼓座には「祈り」という曲があるのですが、祈りというのはある意味、大きなスケールの希望だと思います。それに対して、信じるというのは至って個人的なもの。「自分の思いが誰かに伝わったらいいな」ではなくて、伝わること自体をより能動的に確信をもって信じきる。そんな気持ちでした。
ーー改めて、鬼太鼓座についてうかがいたいです。なぜ木下さんは鬼太鼓座に入座されたのですか?
木下:私は入座して9年目になります。太鼓との出会いは、高校時代でした。当時、プロの世界に憧れていたものの、敷居の高さを感じて、なかなか挑戦できなかった。大学に進学して、アメリカに1年半留学して、農業を勉強したんです。その時に出会った人々に「人生は一度しかないから、とにかくやりたいことがあるならやった方がいいよ」ということを言われ続けて。それで「自分がやりたいと思ったことに挑戦して、悔いのないように生きよう」と考えが変わったんです。アメリカからかえってすぐ、鬼太鼓座の入座を決めました。
ーー実際に生活などはどうですか。毎朝10キロのランニングをするなど、非常に厳しいイメージがあるのですが。
木下:そもそも鬼太鼓座も好きなんですけど、太鼓自体もすごい好きで。他のプロの団体もたくさん見た中で、鬼太鼓座だけは唯一形容できないというか、とにかくすごかった。技術がどうこうではなくて、どうしたらこうなるんだろうと、圧倒されたんです。『ざ・鬼太鼓座』という映画があるんですけど、その映画を見ても、生活の厳しさは当然のものだと思って入座したので、それほどつらいというわけではないんです。
もちろん厳しい部分もありますが、人として成長させてくれる環境です。最初の頃は、たくさんの決まりがあるので、大変だなという思いはありましたが、そんな窮屈という感じはないんですよ。「これだよな、鬼太鼓座は!」と(笑)。
実際に、生活を毎日繰り返していくと、厳しい生活というよりかは、正しい生活といった感覚に近いです。時間や社会のルールに縛られると疎かになってしまうところを、しっかりと生きましょうというような。今まで生きてきた“普通の世界”をそぎ落として、そぎ落として、鬼太鼓座が持っている表現に近づいていく。生活が舞台に直結しますから。無理して厳しさやストイックさを表現しているというよりかは、正しい生活の延長に舞台がそのまま出ていると思っています。
(左から)吉洋、木下直人
ーー鬼太鼓座の魅力は何だと思いますか?
吉:自分で考える、自分の魅力みたいなものですか。それは、難しいですね(笑)。答えになっているかどうか自信がないのですが、太鼓という楽器を演奏する時は、何か具体的なテーマやメッセージ、言葉や考えを極力持たずにやるべきだと私は思っています。
太鼓、特に大太鼓という楽器を演奏すると感じることなのですが、そこに自分と楽器があったときに、圧倒的に楽器に頼る部分が多いんです。自分がこういう演奏をしてやろうと狙って、演奏の結果になるというよりは、とにかくその楽器を必死に打ち続けたその結果、演奏が出来上がる。それが鬼太鼓座の演奏の仕方には共通してあると思います。
吉洋
ですから、魅力という言葉に限ってみると、それを見た方がどう感じたかというのは、私たちが狙ってできないことなんです。私たちがもっと文章を書く能力があったら、小説で表現するかもしれないですが、残念ながら太鼓しか表現できる能力がないので。私たちが全部だしきって、思い切り太鼓と向き合った結果、どういう風にそれが相手に伝わるのか。どういう風な魅力をそれを見た人が感じるか。それは、実はやっている本人たちには分からない部分なんです。
音についても、大きな太鼓の目の前で演奏している時、もちろんその太鼓の音は聞こえているんですが、客席にいるお客様はそこから20~30メートル離れているところで聞くわけです。そうすると、太鼓の目の前の音と客席で聞く音は全く違う。実は客席で聞いている音の方が、いい音だったりするらしいんです。ですので、私たちがお客様に届く音を想像して、何かをコントロールして、ベストで魅力的なものを発信するというのが非常にしにくい楽器なんです。そこの部分は受け取った方に委ねるしかない。
「太鼓の音が力を持っている」など、いろんな評価をいただくのですが、それはあくまで見た方々がそういう風に感じて表現してくださっている内容で。私自身が狙ってやっていることではないんです。だから、自信をもって、述べられる魅力ってなんなんだろう……そう思ってしまいました。
ーーお話をうかがって、きっと太鼓と向き合い続けたからこその演奏なのだと思いました。
吉:鬼太鼓座は50年以上の歴史があって、私自身が演奏しているのは、そのほんの一時期だけ、今だけなんです。その前の先輩たちが、繰り返し繰り返し重ねてきたものに乗っかって、今たまたまやっている。このあとまた違う人たちがそれを重ねていく。演奏の内容をとっても、自分で何かを作り出したこととか生み出したものは、本当にわずかな部分で、ほとんどは鬼太鼓座今までの先輩たちがやってきたもの。そのまま私たちが受け継いでいるんです。自分の力というよりは、座の歴史であり、座の積み重ねてきたもの。そこに鬼太鼓座の演奏の魅力が一番出てくるんじゃないかなと思います。
ーー最後に配信を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!
木下:今回の作品の中で、場は重要なポイントだと思います。富士山の麓、比叡山、上賀茂神社という場所において、音響のプロで、私たちが信頼している梶野さんが音をしっかりと録って。生の舞台とは違った作品として仕上がっていると思います。自分で言うのもおかしいですけど、私たち座員が一生懸命生きるという力強いメッセージを感じて欲しいので、ぜひ幅広い方に見ていただきたいです。
木下直人
吉:「世界の憂鬱を吹き飛ばす!」というキャッチフレーズを今回の作品では使っています。私たち自身が、今、こういう社会の状況の中で、悩んで苦しんでいる人たちに、何かの答えを提示できるとは思っていないです。ただ私たちも同じようにすごく悩んで、すごく苦しんでいているし、一緒に考えて、一緒にこの時代を生きていく。そういうメッセージを感じてほしいなと思いました。私が何かの答えやメッセージをはっきりと届けるというよりは、同じ時代で今生きている人たち、全ての人に見てもらって、ネガティブでもポジティブでも、とにかく何かを感じて、心が動いてもらえればそれでもう私は十分成功だと思っています。
取材・文=五月女菜穂

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