『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋
~』観劇レビュー「僕たちはまだ飢え
ている」

開幕を告げるナレーション

一瞬の間をおき劇場が割れんばかりの拍手に包まれるーー。
新作ショウ『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』は、本年1月10日、初日を待ち詫びていた大勢の観客の強い思いとともに走り出した。
本作が上演されているのはウォーターズ竹芝に新しく誕生したJR東日本四季劇場[春]。昨年10月オープンの四季劇場[秋]に続いての開場となる。ここでは新劇場で開幕した『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』のレビューを綴っていきたい。

『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』(撮影:荒井健)

全一幕、上演時間約90分の『The Bridge』で表現されるのは”劇団四季が歩んだ68年の歴史”。この新劇場で最初に声を発したのはベテラン・飯野おさみだ。女優として劇団四季に在籍していたこともある詩人・吉原幸子が、劇団創立メンバー10人を猫に喩えて詠んだ「ハングリー・キャッツ」の一節を朗読。そこから四季のさまざまな代表作が歌とダンスで紡がれていく。
「1場 劇団の原点」ではジロドゥ作『オンディーヌ』より「水の精の歌」が歌われ「2場 劇団は夢を創りだす」では赤川次郎原作のオリジナルミュージカル『夢から醒めた夢』や、新作『ロボット・イン・ザ・ガーデン』に加え、ディズニーミュージカルからピックアップされたナンバーが展開。『リトルマーメイド』では、こちらもベテラン・青山弥生がアリエルの「パート・オブ・ユア・ワールド」を歌うサプライズ(?)もあった。
今作にはこれまで四季が上演してきた『ソング&ダンス』シリーズとは違う大きな特徴がある。それは「作曲家別にコーナーを作るのではなく、”作品のテーマを歌で繋いでいく”」こと。
たとえば、『アプローズ』『クレイジー・フォー・ユー』『パリのアメリカ人』からの「ラストソングは私に」に共通するテーマは”劇場人”。2人の女優が喝采を求めて生きる『アプローズ』、砂漠の土地で素人たちがショーを上演しようと奮闘する『クレイジー・フォー・ユー』、ナチスが去った後のパリで舞台に夢を賭ける若者たちの姿を描く『パリのアメリカ人』、そして劇団四季が大劇場での公演を打つ転機ともなった『越路吹雪ドラマチックリサイタル』。このターンでは、劇場で生きる人々にスポットが当てられシーンが進んでいく。

『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』(撮影:荒井健)
また、昭和三部作『ミュージカル 異国の丘』『ミュージカル 南十字星』『ミュージカル 李香蘭』からの『ノートルダムの鐘』「いつか」に共通するのは”平和への祈り”だ。戦争や憎しみを乗り越え、この世界に平和が訪れるよう願う登場人物たちの真摯な声がどの曲からも伝わってくる。

さらに、ショーならではのお楽しみも満載。通常は女性歌唱曲である『ウィキッド』の「自由を求めて」を飯田達郎と笠松哲朗が歌ったり、『オペラ座の怪人』「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」を清水大星が情感たっぷりに歌い上げたり。”この俳優がこの役を演じたらどうなるんだろう”そんな想像力が膨らむ構成も非常に楽しい。
今回、クリエーションにもさまざまな挑戦が見て取れる。

『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』(撮影:荒井健)
演出を担当したのは荒木美保。『クレイジー・フォー・ユー』のテス役など、俳優として四季の舞台に立った経験があり、浅利慶太氏のアシスタントも務めてきた人物だ。今回の稽古中から本番にかけて、プレイヤーだった彼女のアドバイスやフォローに力をもらった俳優やダンサーも多いのではないか。ソーシャルディスタンスの関係で、通常よりギュっとした人数でのショーとなったが、それを感じさせない熱のあるステージだった。

構成・台本は高橋知伽江。本年6月より同じく四季劇場[春]にて上演予定のディズニーミュージカル『アナと雪の女王』や、現在上演中の『アラジン』等の訳詞も手掛ける。本作はこのコロナ禍での上演を鑑み、途中でナンバーの変更もあったそう。そのひとつが劇中で歌われた『美女と野獣』の「人間に戻りたい」だ。確かに、ポットや時計、カップに姿を変えられたキャラクターたちが元の自由な人間の姿に戻りたいと歌うさこの曲は、今の私たちにより強く響く。

『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』囲み取材
初日終演後は、劇団四季 代表取締役社長・吉田 智誉樹(ちよき)氏と荒木氏が登壇し、囲み取材が行われた。荒木氏によると、本作は感染症対策を行うため、出演者を2班に分けた上で、特にマスク着用と稽古場の換気を徹底したとのこと。また、劇団の歴史を辿るという意味から、さまざまな年齢、経験値の俳優をキャスティング。在団歴49年のベテラン・飯野おさみから、本作がほぼ初舞台となる若手まで、幅広い層の俳優たちを起用したそう。

吉田社長のコメントで特に興味深かったのは、社内に新たな試みを模索するチームを作り、闊達な意見交換をしているとの話。これまでなら実現できなかったことも、このコロナ禍を逆手に取り、攻めの方向に持っていこうとする劇団の姿勢が心強い。

劇団四季の100点カレー
そういう意味で、劇団四季が新たな一歩を踏み出したと感じたのが、上演舞台のライブ配信。新作ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』と本作とがオンラインで配信され、多くの視聴者から感動の声が寄せられている。
また、社内からのアイディアで、四季芸術センター内の食堂で俳優やスタッフたちに愛されている「100点カレー」を商品化し、一般販売したところ、SNSを中心に大きな話題となって瞬く間に完売。好評を受け、2月10日から『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』上演中のJR東日本四季劇場[春]売店にて再販売も決定した。ウェブショップでは2月15日12時から再販スタートの予定だ。値段は1個800円(税込み)と少々割高にも感じるが、大きな具材もしっかり入り、味は確か。なにより四季の俳優が愛する味を自宅で体験できるのはかなり面白い試みだと感じる。

日本にまだ「ミュージカル」という文化が根付いていなかった昭和の時代、やっと復興への道を歩み始めた東京で、10匹の”猫”たちは飢えた目をしてさまざまな作品を上演し続けた。その頃と今とを比べるのは少し違うかもしれないが、つらい日々の中で折れそうになる心を支えてくれるのが劇場であり、舞台の上で生きる俳優たちの姿なのは当時も今も変わらない。
東京公演はもうじき終幕を迎えるが、このカンパニーの旅はまだまだ続く。3月からの福岡公演、そして4月からの全国公演が控える中、劇団四季68年の歴史とさまざまな上演作品に今一度想いを馳せたいと思う。
(文中のキャストは筆者取材時のもの)
取材・文=上村由紀子(演劇ライター)

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