Cymbalsの傑作
『Mr.Noone Special』から考えた、
ポスト渋谷系とは
(あるいはロックとは)何か?

さまざまな音楽へのオマージュ

M9「Highway Star,Speed Star」はアルバムの先行シングルとして発表された楽曲。“Highway Star”はDeep Purpleのあまりにも有名なナンバーからインスパイアされたものだという(ちなみに“Speed Star”は彼らが所属していたビクターエンタテインメントのレーベル名を拝借したものかと思ったら、Cymbalsはそのレーベルではなかったので、そこはあんまり関係ないかもしれない)。間奏の鍵盤にそのオマージュを感じるところではある。全体にリズムが食い気味なのは、まさにタイトル通り。ベースラインは本作中では最凶と思うほどにブイブイと鳴っているし、バンドサウンドも最凶の部類ではなかろうか。ただ、サビメロのキャッチーさはフリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴを彷彿させるところはあるし、《ダッシュボードの奥 投げこんだモーゼル》とか《目と目で笑い合う 鳴り出す非常ベル》とか、映画を思わせるワードセンスもそれらのアーティストの匂いを感じさせるところではあって、ここを指して“渋谷系”と言われるのも分からなくもない感じではある。また、[CDの帯には「誰一人として車の免許をもっていないシンバルズが放つ至高のドライヴ・ミュージック!(一般道を走る際には使用を控えてください)」]とあったとあり([]はWikipediaからの引用)、そのユーモアセンスも含めると、このバリバリにロックだけど文系臭が強い感じを説明するのには“渋谷系”という言葉な便利だったとは思う。

お次はシャッフルのポップチューン、M10「River Deep,Mountain High」。M9もそうだったし、言い忘れていたけれどM5もそうだったのだが、これもそうで、洋楽の名曲、名盤からのタイトルの拝借だ。13曲中3曲(M3「Intermission 1」、M8「Intermission 2」、そしてこの次のM12「(inside of me)」を除いても10曲中3曲)と決して多くはないので、意図的にタイトルを持って来たわけでもないだろう。意図的なら全曲でそれをやっていたような気もするし、もっと整合性があったようにも思う(M5がThe Lovin' Spoonful、M9がDeep Purple、M9がIke & Tina Turnerと、ジャンルがバラバラだ)。意識することなくこれらのタイトルが出てきたということで、それだけ彼らの周りには洋楽の名曲、名盤が普通にあったということなのだろう。そこは当時どこかのインタビューで沖井も認めていた。

で、さわやかさすら漂うM10のあと、スペイシーなシンセの音が鳴る短いインストM12「(inside of me)」を挟み、M13「Mr.Noone Special(リプライズ)」を迎える。M12「(inside of me)」はどうして「Intermission 3」とならなかったのだろうか…いうのも気になるところだが、やはり注目はM1の“リプライズ”で締め括られるという、アルバムの構成だろう。“リプライズ”そのものはポピュラーミュージックにおいては珍しいものではなく、そこだけを指して『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を引き合いに出すこともない事例であるかもしれないが、初回限定盤ではこれに続いて「Good-night」が始まるとなると、やはりThe Beatlesを意識したのでは、と思わざると得ない。『Sgt. Pepper's~』では「(Reprise)」の前が「Good Morning Good Morning」である。“考えすぎでしょ?”と笑われるかもしれないけれど、ここまで説明してきた、本作に散りばめられたオマージュからすると、あながち的外れでもないかも…という思いが拭えない。

さて、落ちや結論めいたものを見据えずに書き連ねてきたため、後半はサウンドや歌詞のことよりも、その容姿、スタイルにフォーカスが寄った感は否めないものの、強引に結び付けるならば、『Mr.Noone Special』はそうした“これはこうではないか?”や“これにはどういう意味があるのだろう?”といったことを考えさせるアルバムであるような気がする。本作収録曲は総じて歌メロがキャッチーであるし、土岐のヴォーカルには変な癖がないため、あまり聴き手を選ばない印象もあり、ポップで親しみやすいアルバムとは言える。決して特定の層にしか届かないような代物などではない。リズム隊が発散するグルーブ感は尋常ではなく、バンドサウンドが醸し出すものは十二分にロックだ。それも間違いない。ただ、だからと言って、ポップなロックなのかと言ったら、そこだけに留まらない奥行きが本作には備わっている。“Mr.Noone”なるコンセプトがそうであろう。親しみやすくポップだが、単純なそれではないと言ったらいいだろうか。 “ロックミュージックとは本来そういうものだろう?”と問われているような気もする。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Mr.Noone Special』2000年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Mr.Noone Special
    • 2.Low cost,Low price&High return
    • 3.Intermission 1
    • 4.All You Need Is WORD
    • 5.Do You Believe In Magic?
    • 6.LIAR・SADIST・COWARD
    • 7.Hey,Leader!
    • 8.Intermission 2
    • 9.Highway Star,Speed Star
    • 10.River Deep,Mountain High
    • 12.(inside of me)
    • 13.Mr.Noone Special(リプライズ)
『Mr.Noone Special』('00)/Cymbals

OKMusic編集部

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