小林私 "この日のライブを見たこと
を得意げに語れる日は、そう遠くない
だろう" 貴重な第一歩となった渋谷ク
アトロ公演をレポート


2021.02.28(Sun)@渋谷CLUB QUATTRO
この日、私は私を見た。2月28日、渋谷クラブクアトロにて行われた『小林私ワンマンライブ』。昼夜2部制で昼公演は弾き語り、夜公演はバンドセットで行われたこのライブ。バンドセットでの彼のライブを見終えて、僕はここから本格的に始まるシンガーソングライター・小林私の物語の貴重な第一歩を見届けられたことに喜びを感じていた。
小林私の名前を聞いたのは昨年末くらい。「生活」のMVを見て、「カッコいいなぁ!」と素直に思ったのが最初の印象。さらに話題になってたYoutubeのオリジナル曲やカバー曲の弾き語り動画を見て、今年1月にリリースされた1stアルバム『健康を患う』を聴いて、現役美大生であるなどプロフィールを知って。彼の人間性がだんだん見えてくると、私は私にすっかり惹かれていた。天性のメロディセンスと表現力豊かで存在感ある歌声、独特かつ巧みな表現で本心をさらけ出す嘘のない歌詞、表現者として健全なこじらせぶりや捻くれぶり、さらに若さやルックスの良さまで持ち合わせるという、嫉妬するほどの魅力と才能と可能性に溢れた小林私。ズバリ言って、私は私に惚れていた。そうしたら、次に思うことは「ライブが見たい」であるのは当然のこと。ちょっとこんな感覚久しぶりくらい、僕はこの日のワンマンを楽しみにしていた。
小林私
開演時間となり、サポートバンドの演奏する「風邪」のイントロをSE代わりにステージに飛び出した小林。緊張感や仰々しさも無く、飄々と登場する姿には拍子抜けな感じさえしたが。スタンドマイクに立って歌い始めると、力強く鳴るバンドサウンドに飲まれることなく、圧倒的な存在感を放つ小林のブルージーな歌声にすっかり心を奪われていた。「小林私です、サンキュー!」と短い挨拶を挟み、始まった曲は「HEALTHY」。イントロに合わせて両腕を上下しながらバンドサウンドを浴びて、楽しそうな笑顔を魅せる小林。「風邪」もそうだが真夜中の鬱屈した気持ちを言葉とメロディで消化した“真夜中ソング”たちが、ライブハウスの爆音で昇華されていく様は快感かつ痛快。後半のMCで「1ヶ月前に声をかけた」ことが判明したサポートメンバーのサウンドや演奏もアルバムのそれと比べるのは酷だが、生でしか出せない迫力や胸高ぶらせる高揚感をしっかり鳴らしていた。
小林私
小林私

MCでは「今日は8曲やります」と、早々にライブ内容をネタバレした小林。1曲目、2曲目を聴いた後なので、アルバム『健康を患う』の収録曲を順番にやるんだろうなというのも容易に想像出来てしまうが、実際にそうだから驚いてしまう(笑)。さらに「1時間半の持ち時間があるけど、曲だけだと30分で終わってしまう」ことを語り、「だから1時間喋らなきゃいけない。困ったもんですね」とボヤく小林。無理して喋らなきゃいけないことは無いんだけど、サービス精神なのか、予定調和が嫌なのか、思いつきの即興トークで時間を埋めた後、アコギを背負ってようやく演奏へ。仄暗い照明にミラーボールの光が煌めく中、悲しみや孤独や痛みを飲み干す「悲しみのレモンサワー」が会場の空気をガラリと変える。さらに色気と哀愁もある歌声でしっかり聴かせた「スープが冷めても」と続いて観客を楽曲世界にグッと惹き込んだと思いきや、再び始まる即興トーク(笑)。「曲に浸らせろよ!」とツッコミたくなるところだが、それも含めて小林の表現だから仕方ない。
小林私
MCで「ワンマンだから、何をやってもいいと思ってる」と冗談交じりに語ってたが、それはまんざら冗談じゃなくて。彼はいま、様々な挑戦や実験をしながら、既存のライブスタイルにとらわれない独自のライブスタイルを模索している最中なんだと思った。実際、高校生以来のバンド編成やピンボーカルはいまの彼にとって挑戦だったし、1時間半の持ち時間を8曲と即興トークで成立させようとするのも無謀な実験。そんな長時間MCが成立するのは、さだまさしくらいだよ!(笑) しかしそんな挑戦や実験に挑みながら、ライブを積み重ねて、自身の表現がより伝わる独自のライブスタイルを確立した時、きっと彼は他に類を見ないライブアーティストに成長してるはず。だって本来、既存のライブスタイルを壊す必要なんてないんだもん(笑)。本来、やる必要のないことをやって、独自のスタイルを確立出来たら、他にない面白いものが出来るに決まってる。
小林私
長いMCを経て演奏された「恵日」はアルバムで聴いて、絶対にライブ映えするだろうと楽しみにしてたロックナンバー。アコギを置いて再びマイクを握り、ヘヴィに鳴らされるロックサウンドに小林の男臭い歌声が映える。不安や痛みや苦しみを言葉の塊と吐き出すような、熱く悲痛な叫びがダイレクトに胸に響く。再びMCを挟んで「あと1時間、3曲で……?」と、誰もが「無茶だよ!」とツッコミたくなる呟きから即興トークが続き、続く「泪」に無理やり繋ぐ。寂しく諦観的な歌詞とは裏腹にシンプルなサウンドに乗せた小林のフロウが心地良い「泪」に続き、メンバー紹介を挟んで「共犯」が始まるとライブは早くも終盤戦。観客一人ひとりと共犯を画策するように近しいところから響く歌声で、観客との距離をグッと縮めたこの曲を歌い終えると、「30分巻きだけど、俺頑張ったよ!!」とここまでたどり着いた自身を褒め称え、ラストとなる「生活」を披露する。
こうして、“生活と別れ”をポップに軽快に歌う「生活」で大団円を迎えた小林私ワンマン。ライブが終われば、私も私も集まったお客さんそれぞれに明日があり、それぞれの生活が待ってる。だけど僕らはこの時間を間違いなく共有し、それぞれが彼の曲に様々な想いを馳せ、様々なことを感じて考えた。「生活」を聴きながら僕はそんなことを考え、それこそがライブという場の持つ力であり、ライブに来る意味じゃないか? と思った。いまはコロナ禍での制限もあって黙ってステージを観ることしか出来ないけど、感じることや考えることは出来る。そんな状況下で見た小林私のライブは、まだ未完成ではあったが僕に大きな気付きを与えてくれた。コロナの規制が明けた時、どんなライブを見せてくれるのだろう? ここから作り上げていくであろう、独自のライブスタイルはどんなものになるのだろう? バンドセットに慣れた頃、ボーカリストとしてどんな進化を見せてくれるだろう? ここから生まれてくる新曲たちは、どんなに素晴らしいだろう? シンガー・ソングライター、小林私の物語はまだ始まったばかりだけど。「あの日、私は私を見た」と、僕がこの日のライブを見たことを得意げに語れる日は、そう遠くないだろう。
取材・文=フジジュン 撮影=かわどう
小林私

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