新国立劇場バレエ団2021/22シーズン
ラインアップ発表~ライト版『白鳥の
湖』ほか新制作、新プログラムなどの
“チャレンジ”も

2021年3月2日、新国立劇場では舞踊部門の2021/22シーズンラインアップ説明会を実施。吉田都舞踊芸術監督が登壇し、「就任6カ月とは思えないほど濃い日々を過ごしている」とこれまでの心境を語ったうえで、来シーズンの上演作品についての説明を行った。
演目はコロナ禍によりキャンセルとなった作品や新制作などを含めバレエ6演目計40公演、ダンス3演目に、毎夏恒例の「こどものためのバレエ公演」がラインアップ。加えてエデュケーショナルプログラムを新たに実施するといった試みも発表された。バレエ団のクオリティ向上やチャレンジ、レパートリーの充実、集客数増加に向けた取り組みなど、様々な方面からバレエ団の発展を見据えた、期待のラインアップとなっている。(文章中敬称略)

■コロナ禍のなかでも配信を通じ、世界とのつながりを感じる
吉田芸術監督は冒頭、「昨年(2020年)1月に新シーズンの説明会をした際は、世界がこのような状態になるとは夢にも思わなかった」と話し、コロナ禍による同年2月末からの公演キャンセルや、大原前監督が英国から帰国できなくなったことにふれながら「私の監督就任は、ダンサー達のモチベーションをどのように維持していくかというところからスタートした」と振り返る。芸術監督就任初年度となる2020/21シーズンも予定していたプログラムの変更を余儀なくされるなか、それでも「木下グループさんからダンサーやスタッフ達のPCR検査の申し出があるなど、様々なところから援助の手が差し伸べられた。また開幕演目となった『ドン・キホーテ』をはじめ、映像配信を通して日本全国だけでなく、世界とのつながりも感じることができ、応援の言葉に私たちもダンサー達も勇気づけられた。これからも質の高い舞台をつくり、安全対策に気を配りながら、舞台を楽しんでいただけるよう努めていきたい」と語った。

■開幕はピーター・ライト版『白鳥の湖』。くるみ割り人形を年末年始に12公演
こうしたなか、吉田芸術監督が来シーズンの開幕演目としたのは、昨年キャンセルとなってしまったピーター・ライト版『白鳥の湖』だ。「芸術監督就任初年度の開幕演目として予定していたが、ダンサー達と約1年を過ごしたことで、彼等は私がどのような表現を求めているかを少しずつ感じてくれている。そうしたうえでこの『白鳥の湖』に挑めることで、より深い作品づくりができるのではないか」と期待を語る。
続く『くるみ割り人形』はバレエ団初となる、12月から翌年1月まで年をまたいだ計12公演を上演する。「年末年始は家族で集まる機会なので、ぜひ家族連れで楽しんでいただきたい。エンタテインメントは人々が休んでいるときにエンタテインするのが仕事」と話す吉田芸術監督の“チャレンジ”といえよう。イーグリング版『くるみ割り人形』は現代的な要素も詰まった振付で、ダンサー達にとってはかなりハードな作品だといわれるが、「例えば“花のワルツ”も音楽にたくさんのステップが詰まっているため、スピーディーに激しく踊ってしまいがち。それをより優雅に、エレガントに踊ることができるよう、振付を変えることなくニュアンスをつけていければと思っている」と語った。
『くるみ割り人形』のチャレンジングな12公演に続き、ほどなく上演されるのが恒例となった「ニューイヤーバレエ」で、今回はアシュトン振付『夏の夜の夢』、バランシン振付『テーマとヴァリエーション』のダブルビルが組まれている。新制作となる『夏の夜の夢』は英国ロイヤルバレエ団から衣装を借りるほか、新型コロナウィルスの状況次第にはなるが、元英国ロイヤルバレエ団芸術監督であり、初演時にオベロンを演じたアンソニー・ダウエルが指導のため来日することになっているという。一方バランシン作品は新国立劇場バレエ団の十八番のひとつともいえる演目で、音楽を可視化するような踊りが特徴の一つ。「タイプの違った2作品を楽しめる公演になると思う」と吉田芸術監督は話す。
2月に上演される「吉田都セレクション」は「例えばシャンパンを片手に楽しむような、大人のバレエがコンセプト」で、フォーサイス振付『精確さによる目眩くスリル 』、ファン・マーネン振付『ファイヴ・タンゴ』、そしてプティ振付『こうもり』より「グラン・カフェ」の3作品がラインアップされている。新国立劇場バレエ団初登場となるフォーサイス作品は吉田芸術監督も踊っており、「高レベルな動きを要求されつつも、開放感が得られる演目。バレエの基礎は大切だが、それを崩すにはさらに高度な技術が必要になるので、ダンサーにとってもチャレンジになる作品」と述べた。
■初の試みとなるエデュケーショナルプログラム。こどもバレエ『竜宮』も再登場
2021/22シーズン初の試みとなるのが2月に設定されているエデュケーショナルプログラム「ようこそ『シンデレラ』のお城へ!」だ。これは5月に予定されているアシュトン振付『シンデレラ』を用いて、バレエを違った角度から紹介しようとするもので、「何もない舞台に大道具が運び込まれ、明かりがつき、舞台ができあがっていく過程を見てもらったり、仙女や男性の演じるお姉さん役にインタビューをしたりするなど、バレエを身近に感じてもらえるプログラムにしたい」と吉田芸術監督。このプログラムは『シンデレラ』の著作権を持つウェンディ・エリス・サムスの協力のもと構成される予定で、「こどもだけでなく大人も楽しめる内容になると思う。これを見て、5月の本公演も見たいと思っていただければ。またこのエデュケーショナルプログラムは今後も継続的に続けていきたい」と期待を込めて語った。
そしてシーズンを締めくくる演目に、ウィールドン振付『不思議の国のアリス』が登場する。2018年に初演し、大きな話題を呼んだ人気作で、2020年に再演を予定されていたが、これもまたコロナ禍の影響によりキャンセルとなったものだ。これら本公演に加え、毎夏恒例の「こどものためのバレエ劇場」には、2020年初演に好評を博した森山開次振付『竜宮』が再登場することとなっている。
■ダンスは3公演。DTFと森山開次『新版・NINJA』は中劇場で上演
ダンス公演は「Dance to the Future:2021 Selection」、小野寺修二・カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』、森山開次『新版・NINJA』がラインアップされている。
「Dance to the Future:2021 Selection」は新国立劇場バレエ団から振付家を育てようと、ビントレー元監督の発案のもと始められたもので、吉田芸術監督も「バレエ団にとって非常に重要な演目」と位置付ける。来シーズンは2020年3月にキャンセルとなり上演できなかった作品や、今後のショーイングによって選ばれた作品を上演する予定。さらに上島雪夫振付『ナット・キング・コール組曲』も同時再演となる。
小野寺修二・カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』は、これもまたコロナ禍によりキャンセルとなった演目。森山開次『新版・NINJA』は、過去に小劇場で上演されたものを中劇場に移してのお目見えとなる。
■ダンサーの環境改善や健康管理も。吉田芸術監督を中心とした来シーズンも注目
吉田芸術監督は昨年1月のラインアップ発表会の際に、課題の一つとして「ダンサーが収入面の心配をすることなく、バレエに集中して取り組める環境づくり」を挙げていたが、就任後半年を経て「小さいことかもしれないが、休憩室ができたり、廊下にカーペットを敷きそこでストレッチができるようになったりするなど、少しずつ変わってきている」と現状を語った。また来シーズンは本公演だけで40公演が組まれていることについては「ダンサーの収入増、観客増につなげることが目的」としたうえで、「そのためには質の良い舞台を上演しなければならない。例えば配信で興味を持ち、劇場に足を運んでくれたお客様が、しかしその1回に満足できなければ次はない。一つひとつの舞台が真剣勝負になる。お客様に戻ってきてもらえる舞台を常につくらなければ」と述べる。さらに「リハーサルも、例えば集中して1時間半で終えられるようメリハリをつけてもらっている」など、日々のレッスンの改善にもふれた。
加えて、ダンサーに対するケアの一環として現在取り組んでいるのが、怪我への対応だという。「これまでは個人任せだったが、バレエ団がしっかりと(ダンサーの状況を)把握し、管理することが大切。踊りながら直せる怪我なのか、早めに休んだ方がいい怪我なのかという見極めを素人判断で行うのではなく、バレエの動きがわかっている専門の医師にお願いしたいと思っており、今そうしたドクターを探してもらっている」と語った。
吉田都芸術監督の体制となって、最初の幕が開いた昨年10月、舞台で踊るダンサーらのモチベーションの高さや表現に対する意識の変化、舞台上から伝わるこれまでとは違った熱気を感じた観客は多かったことだろう。去る2月に上演された『眠れる森の美女』では、妖精たちなどに初役となる若手が多数起用されたことでファンにとっても楽しみが増し、吉田芸術監督も「皆とても頼もしく、うれしい発見も多かった。やはり舞台から学ぶことは多いので、できるだけ若手にチャレンジの機会を与えたい」とにこやかに話す。しかしながら、現在70名のダンサーで舞台を回すのは「カツカツの状態で、1人怪我人が出ただけでキャスト変更を余儀なくされる。理想としては90名規模の団員が必要」とも。まだまだ取り組むべき課題は多いであろうが、この会見の吉田芸術監督の言葉からは自身が築き上げてきた信念とキャリアを活かしつつ、芸術監督として劇場やバレエ界を取り巻く環境を俯瞰し、かつ同時にダンサー目線を持って一つひとつ、着実に歩を進めている様子がうかがえた。それを支えるスタッフや、ダンサーらが一丸となったバレエ団の来シーズンにも注目したい。
取材・=西原朋未​

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